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37・お嬢様、説き伏せる。

07最悪の事態。

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 それと同時に盾を持ったシェル・バルカードとバルカード侯爵が射線上しゃせんじょうに割って入る。

 さらにアンナ夫人がエンデスヘルツ公爵へと剣を向けようとしたところで。

「サンディッ!」
「はい!」

 エンデスヘルツ公爵が補佐としてれてきていた少女を呼ぶと。

「来てっ! ――――っ!」

 少女がそう叫ぶと同時。

 まずナインが私の襟首えりくびつかんで、後ろに下げ。

 天井が切りくずされ。
 アンナ夫人が吹き飛んで、壁に激突し。
 瓦礫がれき土煙つちけむりの中から。

「アハハハハハハハ! こんにちぃ――――――…………はっ! 来たよ! マリシュカちゃんが! 姉さんに呼ばれたから! アハハ! こんにちは!」

 強弱きょうじゃくが不安定な声量で、支離滅裂しりめつれつに、机の真ん中で飛び跳ねるように、大きなひとみを異常なほどかがやかせて、巨大な刀剣とうけんを軽々ひらひらと持って。

 突然現れたその少女は、そう名乗った。
 
 理解が追いつかない。
 これは、違う。
 キャロライン嬢やアンナ夫人やナインとも違う。

 無秩序むちつじょで、ただただ理不尽な……。

 なんて考えていたところで、壁にぶつかったアンナ夫人が凄まじい速さでマリシュカへと向かった。

 私では目に追えない速さで次々と斬撃をり出すが、マリシュカは片手で易々やすやすと全ての斬撃をさばく。

「わあ! 凄いね! でも、やっぱ凄くない!」

 マリシュカがそう言ったと同時に、アンナ夫人の剣が弾かれた。

 その様子を見ていた王妃様が。

「勇者ダグラスを呼びなさい! 緊急事態です!」

 と、城の人間に声を上げたが。

「勇者は来ませんよ王妃、もう始まっているのですから」

 エンデスヘルツ公爵は不敵ふてきな笑みでそう言った。

 すると、外から爆発音が何度もひびき渡る。
 一体何が――。

「……貴様、魔王と手をむすんだなぁッ! エンデスヘルツ‼」

 王妃様が声を荒げる。

 魔王と手を結んだ……?
 完全に失念しつねんしていたその可能性に、私の頭は真っ白になる。
 だとしたら、こうなったら、この話はどう転ぶ? 

 考えがまとまらない。

「魔王の目的は王族と主要貴族の打倒だとう、この国の現体制の破壊。……どうにも私の理念りねん一致いっちしてね、民には被害ひがいを出さずそれを成すことが出来るのなら手をむすばない理由はない」

 エンデスヘルツ公爵は静かに説明する。

 うっわ確かにその通りだ。
 完全に魔王と武装決起ぶそうけっきを別の問題として、分けてしまっていた。

 だけど、一体どうやって……?
 魔王の狙いの中にはエンデスヘルツ公爵自身もふくまれているはずなのに。

「現在、魔王軍は勇者パーティと交戦中だ。つまり、この場でマリシュカを止められる者は、いないのだ」

 エンデスヘルツ公爵は丁寧に今の状況を語る。

何故なぜ……、そうやってあなた方は暴力に…………いえ、もう仕方ありませんね」

 王妃様は苦悩くのうすえに続けて。

「……ナンバーシリィーズッ! 集結せよッ‼」

 声高々たかだかに、号令ごうれいを発した。

 すると煙のように突然、王妃様の目の前に四人の男性が膝を着いて現れた。

「あ……いっけね、すみません」

 四人のうち一人があわてて立ち上がり、私の前に戻る。え、いやナイン何やってんの……?

「標的はマリシュカ・ネビル。総員そういんで行け!」

 王妃様はそう言って、マリシュカを指さすと四人、いや三人の男が消え。

 金属音がひびき渡る。

 マリシュカへ四方から同時に振り下ろされた様々な武器を、マリシュカは大きな刀剣とうけん器用きように受けた。

「んんんんんン~? うーん、空っぽだね! 君たち! 中身あげる!」

 マリシュカがそう言うと、大きな刀剣とうけんから甲高かんだか怪音波かいおんぱひびき渡る。

 あまりの不快感ふかいかんに耳をふさぐ。
 気持ち悪い、声が、無理矢理脳みそをこじ開けられるような。
 戻してしまいそうな気持ち悪さのあまり、膝を着いてしまう。

 数秒の後に音が止み、顔を上げる。

「じゃっ…………じゃああぁぁ~んっ!」

 マリシュカがそう言うと、王妃様が呼び出した三人の男たちはマリシュカと寸分すんぶんたがわず同じポーズを取る。

「ナンバーシリーズ、何を……」

「無~理~! もうこの子たちは空っぽじゃないよ! 勇者の剣が中身を入れちゃった! 残念! !」

 マリシュカが三人の男たちと組体操のように連携れんけいの取れたポーズで、そう返すやいなや。

「全員即刻そっこく逃げろ‼ 最悪の事態じたいだ!」

 まさかの大声を張り上げてそう言ったのは、ナインだった。

 こいつ、なんかこの状況に対して理解が早い。
 何か知って……、待って、隠し事ってまさかこの事態じたいからんでいるの?

「逃げられるわけなかろう、終わらせよう。……サンディ」

 静かにエンデスヘルツ公爵が、補佐の少女にそう言うと。

「わかりました。マリシュ――」

 サンディという少女がマリシュカへ声をけようとした、その時。

「どっぉああああああああぁぁぁあああああああ――――っ⁉」

 

「……痛っ……くはねえけど……。無茶苦茶だ、あの馬鹿人形女……、よろいがすげえからって人をぶん投げるか普通……? 僕は普通の人間なんだぞ……」

 突如とつじょ現れた人影はぶつくさとつぶやく。

 全身がよろいというか……、何かアニメのアクションヒーローのような見た目で顔も仮面でおおわれている。

 というかこの声……、聞き覚えがある……?

「あ? マーク様と……アビィ嬢に馬鹿ウィーバーか⁉ なんでこんなところにいんだ!」

 そう言って仮面を外したのは。
 グロリアの忠実な執事、暴力マスクの怪人こと、アーチボルト・エドワードさんだった。

 状況がつかめない、理解が追いつかない。
 怒涛どとうの展開の連続で情報が足りていない。

 でも一つわかる。

 この会談は失敗に終わり、魔王軍との戦いが始まっていることが。

 さあ、考えなくては。
 私が幸せになるにはどう立回るかを。 
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