134 / 240
35・執事、会談を聞く。
03エンデスヘルツが故に。
しおりを挟む
違う。
これは、彼女は、まるでただのティーンエイジャーの女子だ。
ムカつく奴が友達に気安くちょっかいを出そうとしたのに腹を立てて感情に任せて、引っ叩く。
この聖女は人間だ、人間として安寧を。
ああ駄目だ、涙が出る。
咄嗟に上を向く、こんなに嬉しいことはない。
凄まじい勢いで溢れ出る感情に、必死に蓋をしていると、一連の流れを見ていたアビィが不意に口を開く。
「……へえ、合法で殴れるんだ……。いいなあ、聖女」
その言葉で一気に涙が引っ込む。
気を引き締めろ、俺の主はこのプッツン女だ。
このヤバい女がこの厳かな会談でとんでもないことをしないように気を張っていないとならない。
惚れた弱みだ、本当に仕方がない。
殴られて気を失ったシェーン・ゴールドマンは城の侍女たちに治療の為に別室に運ばれていった。
「お騒がせして申し訳ございませんでした。しかし、これも悪法ですね。神の啓示とはいえ、個人の裁量で暴力の行使を許されるいわゆる特権のような法は撤廃した方が良いですね。決闘についても無くした方が良いでしょう、そういうことを決められて話し合える方々が集まっているのです。故にこれからしっかりと話し合いでこの国を安寧に導きましょう」
さらりと、あたかも今の出来事は反面教師として良くない例として実行したんですよ感を出しながら話を続けていく聖女。
「故にエンデスヘルツ公爵、貴方の胸中をお聞かせ頂きたいのです。この国をどう導きたいのか、この国に何が足りなく何が必要なのか、貴方がシェーン・ゴールドマンの言った通り武装決起を目論み兵器を製造するに至るほどの思いをこの場で我々にお聞かせください」
毅然とした態度で、単刀直入にエンデスヘルツ公爵へと切り込む。
「……凄いな、以前会った時とはまるで違う、エンデスヘルツである私は例え聖女だろうと変化や進化や発展は素直に喜ばしい」
聖女の言葉にエンデスヘルツ公爵は柔らかい口調でそう返し、続けて。
「故に、エンデスヘルツが故に、この国の停滞には憤りを感じざるを得ない。ここ数百年間この国は殆ど進歩していない。無能で怠惰な貴族たちだけが益を得る構造に甘え、有能で勤勉な平民がその才覚を発揮出来ずに一生を終えてしまう。勤勉に働き、国に民に貢献した人間が認められ爵位を得るという仕組みではあるが、平民の出から爵位を得た人間が今までの歴史の中にどれだけいた? 数百年の間に爵位を得た平民はほんの数人だ。殆どの貴族は貴族家に生まれて爵位を継ぐのではなく家柄だけで新たに爵位を得る。それらの貴族がこの国を良くしたことがあったのか? ここにいるワタナベ男爵や、鉱山のクーロフォード、剣聖バンフィールドなど、平民出身で爵位を得た貴族家は立派に国を発展させている。国を潤し人々を育て、守っている。現状の王族と貴族のみが国政を仕切り、富と教養を貪るこの現状に納得がいかないのだよ」
毅然と、堂々と、一切の迷いもなくそう語る。
確かにこの国は基本的に何かを取り纏める役割を担っているのは貴族だ。
街ごとの行政だったり、商業や農業や工業の組合、医療や福祉、金融機関、物流、貿易、様々の管理や決定権を貴族が有している。
大抵の地域はそれで上手く回っているとは思う。俺が前世で過ごした今はもうない国はもっと全体的に困窮していたし多分時代も悪くて社会主義な軍事国家として信仰の自由すら許されていなかったことを考えるとこの国はかなり豊かだ。
しかし、実際困窮している地域は存在する。あの馬鹿の怪人アーチやらを排出した劣悪な貧民街はところどころに存在する。
土地の貴族がヘボで、国庫で私欲を肥やすとこういった場所が生まれる。
あの怪人アーチからただでさえ足りない品性と教養を減らして、加虐性を強めたような人間が育つ温床となる。無能な貴族が増えれば、民の教養が下がる。
それらの因果関係には一理ある、一理あるのだが……。
その違和感を王妃が言葉にする。
「エンデスヘルツ、その主張は確かに一考の余地があると思います。しかし、その意見は民から出て初めて意味を持つものです。民が意見を束ねて政党としての権利を主張し、自主性を持って生まれた正論に対して土地の貴族家や各派閥の主要貴族、我々王族などが思考し行動をするのが道理なのです。民から不満の声が上がらない限りはいたずらに現環境に大きな変化を与えるのは早計です。それをしない民に自主性を持つほどの教養が足りていないというのが現実であり、現在の民にその変化を与えても混乱を産むだけでしょう」
エンデスヘルツ公爵の意見を冷静に王妃は否定をする。
そう、その通りなのだ。
エンデスヘルツ公爵の言うことは平民からでるべき意見だ。どれだけもっともらしいことを並べても国民がそれを望んでいなければ意味がないのである。
変化を望まないのであれば、現状維持を行うのがベストだ。王妃が言うこともまた道理である。
これは、彼女は、まるでただのティーンエイジャーの女子だ。
ムカつく奴が友達に気安くちょっかいを出そうとしたのに腹を立てて感情に任せて、引っ叩く。
この聖女は人間だ、人間として安寧を。
ああ駄目だ、涙が出る。
咄嗟に上を向く、こんなに嬉しいことはない。
凄まじい勢いで溢れ出る感情に、必死に蓋をしていると、一連の流れを見ていたアビィが不意に口を開く。
「……へえ、合法で殴れるんだ……。いいなあ、聖女」
その言葉で一気に涙が引っ込む。
気を引き締めろ、俺の主はこのプッツン女だ。
このヤバい女がこの厳かな会談でとんでもないことをしないように気を張っていないとならない。
惚れた弱みだ、本当に仕方がない。
殴られて気を失ったシェーン・ゴールドマンは城の侍女たちに治療の為に別室に運ばれていった。
「お騒がせして申し訳ございませんでした。しかし、これも悪法ですね。神の啓示とはいえ、個人の裁量で暴力の行使を許されるいわゆる特権のような法は撤廃した方が良いですね。決闘についても無くした方が良いでしょう、そういうことを決められて話し合える方々が集まっているのです。故にこれからしっかりと話し合いでこの国を安寧に導きましょう」
さらりと、あたかも今の出来事は反面教師として良くない例として実行したんですよ感を出しながら話を続けていく聖女。
「故にエンデスヘルツ公爵、貴方の胸中をお聞かせ頂きたいのです。この国をどう導きたいのか、この国に何が足りなく何が必要なのか、貴方がシェーン・ゴールドマンの言った通り武装決起を目論み兵器を製造するに至るほどの思いをこの場で我々にお聞かせください」
毅然とした態度で、単刀直入にエンデスヘルツ公爵へと切り込む。
「……凄いな、以前会った時とはまるで違う、エンデスヘルツである私は例え聖女だろうと変化や進化や発展は素直に喜ばしい」
聖女の言葉にエンデスヘルツ公爵は柔らかい口調でそう返し、続けて。
「故に、エンデスヘルツが故に、この国の停滞には憤りを感じざるを得ない。ここ数百年間この国は殆ど進歩していない。無能で怠惰な貴族たちだけが益を得る構造に甘え、有能で勤勉な平民がその才覚を発揮出来ずに一生を終えてしまう。勤勉に働き、国に民に貢献した人間が認められ爵位を得るという仕組みではあるが、平民の出から爵位を得た人間が今までの歴史の中にどれだけいた? 数百年の間に爵位を得た平民はほんの数人だ。殆どの貴族は貴族家に生まれて爵位を継ぐのではなく家柄だけで新たに爵位を得る。それらの貴族がこの国を良くしたことがあったのか? ここにいるワタナベ男爵や、鉱山のクーロフォード、剣聖バンフィールドなど、平民出身で爵位を得た貴族家は立派に国を発展させている。国を潤し人々を育て、守っている。現状の王族と貴族のみが国政を仕切り、富と教養を貪るこの現状に納得がいかないのだよ」
毅然と、堂々と、一切の迷いもなくそう語る。
確かにこの国は基本的に何かを取り纏める役割を担っているのは貴族だ。
街ごとの行政だったり、商業や農業や工業の組合、医療や福祉、金融機関、物流、貿易、様々の管理や決定権を貴族が有している。
大抵の地域はそれで上手く回っているとは思う。俺が前世で過ごした今はもうない国はもっと全体的に困窮していたし多分時代も悪くて社会主義な軍事国家として信仰の自由すら許されていなかったことを考えるとこの国はかなり豊かだ。
しかし、実際困窮している地域は存在する。あの馬鹿の怪人アーチやらを排出した劣悪な貧民街はところどころに存在する。
土地の貴族がヘボで、国庫で私欲を肥やすとこういった場所が生まれる。
あの怪人アーチからただでさえ足りない品性と教養を減らして、加虐性を強めたような人間が育つ温床となる。無能な貴族が増えれば、民の教養が下がる。
それらの因果関係には一理ある、一理あるのだが……。
その違和感を王妃が言葉にする。
「エンデスヘルツ、その主張は確かに一考の余地があると思います。しかし、その意見は民から出て初めて意味を持つものです。民が意見を束ねて政党としての権利を主張し、自主性を持って生まれた正論に対して土地の貴族家や各派閥の主要貴族、我々王族などが思考し行動をするのが道理なのです。民から不満の声が上がらない限りはいたずらに現環境に大きな変化を与えるのは早計です。それをしない民に自主性を持つほどの教養が足りていないというのが現実であり、現在の民にその変化を与えても混乱を産むだけでしょう」
エンデスヘルツ公爵の意見を冷静に王妃は否定をする。
そう、その通りなのだ。
エンデスヘルツ公爵の言うことは平民からでるべき意見だ。どれだけもっともらしいことを並べても国民がそれを望んでいなければ意味がないのである。
変化を望まないのであれば、現状維持を行うのがベストだ。王妃が言うこともまた道理である。
31
お気に入りに追加
1,558
あなたにおすすめの小説
幸せなのでお構いなく!
棗
恋愛
侯爵令嬢ロリーナ=カラーには愛する婚約者グレン=シュタインがいる。だが、彼が愛しているのは天使と呼ばれる儚く美しい王女。
初対面の時からグレンに嫌われているロリーナは、このまま愛の無い結婚をして不幸な生活を送るよりも、最後に思い出を貰って婚約解消をすることにした。
※なろうさんにも公開中
【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ
水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。
ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。
なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。
アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。
※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います
☆HOTランキング20位(2021.6.21)
感謝です*.*
HOTランキング5位(2021.6.22)
あなたが私を捨てた夏
豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。
幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。
ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。
──彼は今、恋に落ちたのです。
なろう様でも公開中です。
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる