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35・執事、会談を聞く。
02聖女パンチ。
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「シェーン……公爵位を持つこの私に対する若さ故の不躾は許そう。しかしこのエンデスヘルツにそれだけ宣うのだから答えたまえ。誰が、いつ、何処で、何を使ってゴールドマンを狙ったというのだ? 証拠と立証を持って論理的に説明してみせろ。出来ないのであれば口を開くな。子供が自由に発言できる場でないことを理解しろ」
圧倒的な威圧感を放ちながら、低く柔らかな余裕のある口調でエンデスヘルツ公爵が返す。
なるほど、これがキャロライン嬢の父親か。
プレッシャーの出し方が似ている、端的に言えばおっかない。
「ぐ、この、なにをぬけぬけと……、サウスメルバ郊外の山から高速の飛行物体が三つ家に向かって飛んできたという証言がいくつも上がっている! それに該当する兵器の開発を発展派が行っているという話も届いているんだ! 民主化を進めるために武装決起の準備を進めていることなど周知のことだ! その為にゴールドマンを狙ったのだろう! 他に誰がいるというのだ!」
シェーン・ゴールドマンは立ち上がって興奮した様子でエンデスヘルツ公爵へと捲し立てる。
無理もない。ほんの数日前に家が吹き飛ばされて家族を殺されているのだ、平常心を保てるわけがない。
「……だから魔王だろう、聖女もそう言っている。実際数週間前から我々にも魔王軍とやらの話は届いていた、私も屋敷を消し飛ばされているし、そこのリングストンも襲撃を受けている。それに君の論は稚拙だ、確かに我々は兵器開発を行っているがそれを使用した証拠にはならないだろ。君は殺人事件に使われた包丁を作った鍛冶屋を糾弾するのか? 少し黙れ」
淡々と答えるエンデスヘルツ公爵に続くように。
「シェーン・ゴールドマン、心中お察ししますが落ち着きなさい。まだ話は前提の段階です。確かに発展派は武装決起を目論んでいますがこの国はもうそれどころじゃないのです。魔王軍の進撃に対しての対策をとるためにも、この国をもう一段階進めるためにも、話し合いで解決と方針を決めなくてはならないのです。物事の解決に暴力や糾弾ではなく、許容と志しの高さで乗り越えられなくては――」
「何を馬鹿なことを……、教会に閉じこもった何も知らないお飾り人形が、偉そうにたらたらと……」
シェーン・ゴールドマンが聖女に被せるように言った言葉で、第二王子とリングストン公爵とステイモス侯爵と俺が、同時に反応する。
教会派や婚約者でもないが、やはり前世の習慣とは恐ろしい。聖女を馬鹿にされて腹が立ってしまった。
当の聖女は変わらず涼しい顔で気に止めてもいないし、気を落ち着かせるとシェーン・ゴールドマンは続けて。
「アンジェラ、君からも言ってやってくれ、その聖じょ……っ⁉」
何か言おうとしたのだろうが、鼻血を吹き出し、椅子から転げ落ちた。
なんてこともない。
聖女が凄まじい速さでシェーン・ゴールドマンの鼻っ柱を打ち抜いたのだ。
素晴らしい右ストレートだった。
殺気も予備動作もなく、可動域から生まれる力の流れを余すことなく拳に乗せた。踏み込みから全ての動作が美しいほどにそのまま拳に繋がっていた。芸術の域だ、見蕩れてしまった。
その場にいるバルカード一家や俺も含めて、誰一人として反応できなかった。
聖女パンチ。
大昔、ウェンディよりもずっと前の聖女であるローラ・ロックハートが啓示を受け、その拳により王族の不正を正したことから現在に至るまで聖女のみに継承される技だ。
これはこの国の法律上、合法である。
聖女が神からの啓示により、その力を行使することは法的にも認められている。
聖女はそもそも神の啓示以外で行動を起こさない、故にこの場で今の行為を咎められる人間はいない。
「いやなにやってんのよジュリアナ!」
「いやいやいや話し合いじゃないのか⁉ 暴力や糾弾ではなく!」
聖女と並んで座っていたアンジェラ・ステイモス侯爵令嬢と聖女の婚約者である第二王子ジャレット・メルバリアが聖女に駆け寄る。
「申し訳ございません、頭の悪い婚約破棄で傷つけた癖にアンジェラに気安い態度が腹に立ったので殴ってしまいまし……、いえ神の啓示です。故に合法です、合法パンチです」
悪びれる様子もなく、少し砕けたように、聖女ジュリアナ・ロックハートは返した。
圧倒的な威圧感を放ちながら、低く柔らかな余裕のある口調でエンデスヘルツ公爵が返す。
なるほど、これがキャロライン嬢の父親か。
プレッシャーの出し方が似ている、端的に言えばおっかない。
「ぐ、この、なにをぬけぬけと……、サウスメルバ郊外の山から高速の飛行物体が三つ家に向かって飛んできたという証言がいくつも上がっている! それに該当する兵器の開発を発展派が行っているという話も届いているんだ! 民主化を進めるために武装決起の準備を進めていることなど周知のことだ! その為にゴールドマンを狙ったのだろう! 他に誰がいるというのだ!」
シェーン・ゴールドマンは立ち上がって興奮した様子でエンデスヘルツ公爵へと捲し立てる。
無理もない。ほんの数日前に家が吹き飛ばされて家族を殺されているのだ、平常心を保てるわけがない。
「……だから魔王だろう、聖女もそう言っている。実際数週間前から我々にも魔王軍とやらの話は届いていた、私も屋敷を消し飛ばされているし、そこのリングストンも襲撃を受けている。それに君の論は稚拙だ、確かに我々は兵器開発を行っているがそれを使用した証拠にはならないだろ。君は殺人事件に使われた包丁を作った鍛冶屋を糾弾するのか? 少し黙れ」
淡々と答えるエンデスヘルツ公爵に続くように。
「シェーン・ゴールドマン、心中お察ししますが落ち着きなさい。まだ話は前提の段階です。確かに発展派は武装決起を目論んでいますがこの国はもうそれどころじゃないのです。魔王軍の進撃に対しての対策をとるためにも、この国をもう一段階進めるためにも、話し合いで解決と方針を決めなくてはならないのです。物事の解決に暴力や糾弾ではなく、許容と志しの高さで乗り越えられなくては――」
「何を馬鹿なことを……、教会に閉じこもった何も知らないお飾り人形が、偉そうにたらたらと……」
シェーン・ゴールドマンが聖女に被せるように言った言葉で、第二王子とリングストン公爵とステイモス侯爵と俺が、同時に反応する。
教会派や婚約者でもないが、やはり前世の習慣とは恐ろしい。聖女を馬鹿にされて腹が立ってしまった。
当の聖女は変わらず涼しい顔で気に止めてもいないし、気を落ち着かせるとシェーン・ゴールドマンは続けて。
「アンジェラ、君からも言ってやってくれ、その聖じょ……っ⁉」
何か言おうとしたのだろうが、鼻血を吹き出し、椅子から転げ落ちた。
なんてこともない。
聖女が凄まじい速さでシェーン・ゴールドマンの鼻っ柱を打ち抜いたのだ。
素晴らしい右ストレートだった。
殺気も予備動作もなく、可動域から生まれる力の流れを余すことなく拳に乗せた。踏み込みから全ての動作が美しいほどにそのまま拳に繋がっていた。芸術の域だ、見蕩れてしまった。
その場にいるバルカード一家や俺も含めて、誰一人として反応できなかった。
聖女パンチ。
大昔、ウェンディよりもずっと前の聖女であるローラ・ロックハートが啓示を受け、その拳により王族の不正を正したことから現在に至るまで聖女のみに継承される技だ。
これはこの国の法律上、合法である。
聖女が神からの啓示により、その力を行使することは法的にも認められている。
聖女はそもそも神の啓示以外で行動を起こさない、故にこの場で今の行為を咎められる人間はいない。
「いやなにやってんのよジュリアナ!」
「いやいやいや話し合いじゃないのか⁉ 暴力や糾弾ではなく!」
聖女と並んで座っていたアンジェラ・ステイモス侯爵令嬢と聖女の婚約者である第二王子ジャレット・メルバリアが聖女に駆け寄る。
「申し訳ございません、頭の悪い婚約破棄で傷つけた癖にアンジェラに気安い態度が腹に立ったので殴ってしまいまし……、いえ神の啓示です。故に合法です、合法パンチです」
悪びれる様子もなく、少し砕けたように、聖女ジュリアナ・ロックハートは返した。
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