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31・怪人、巻き込まれる。
03慣れた。
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「ではまずお二人でマリシュカから勇者の剣を取り返して、魔王を討伐するのですか?」
諸々の話を聞いた姐さんが尋ねる。
姐さんは頭がおかしくはあるが、頭が悪いわけじゃないので話を飲み込めたようだ。
「いや、勇者の剣で暴走状態にある人間を止めるのは僕たちでも不可能だ。僕が前に何度か暴走した時は探求者マリクが力技で叩き伏せて止めたけど、僕たちに真似出来るものじゃない。竜と人の混血で力の探求をし続けて星を動かすに至った。この星最強のマリク・ノア無しで女神の力で動くあの子を止めることは出来ないよ。それに勇者の剣が唯一魔王を殺せるという特性上、魔王も手が出せない」
ダグラスは繋がった右手を閉じたり開いたりしながらつらつらと一個も理解できない与太を語る。
「研究者と探求者の娘である魔女なら何とかできるかもしれないが……、頼るつもりはないし頼らせるつもりもない」
「むすっ、え、娘⁉ え、産んだのか! シェリーが⁉」
スペアシェリーの言葉にダグラスは驚愕する。
つーかうるせえな、夜中だぞ。
上の階では旦那様も奥様もグロリア嬢も寝てるんだぞ?
「産んではいないが……、まあ本当に本当の奥の手だ。あの子は魔女だから自分の為だけにしか動かない。研究者と探求者はそうやってあの子を育てたからね」
「とんだわがまま娘じゃねえか」
がちゃがちゃと無駄話に花を咲かせる。
他所でやってくんねえかな。
「ではウォールは私が血祭りに上げるとして、魔王や竜の女王はあなた方がどうにかするということになるのでしょうか」
僕の考えはお構い無しに姐さんは話を続ける。
「ああ、というか僕らだけでやるしかない……、でも確実に戦力不足だ。魔王と竜の女王を相手に剣無しの僕とそのスペアシェリーの二人じゃあかなり厳しいけど……」
ダグラスは絨毯に寝そべりながら答える。
いやこいつ、何処までくつろいでやがるんだ。絨毯に寝転ぶなんてグロリア嬢ですら三ヶ月前に卒業したんだぞ。いい加減にしろ。
「まあ勝率は低いがゼロじゃあない。私は研究者と違って相討ちが出来る、魔王は封印が出来る私がなんとかして竜の女王は元々竜狩りの民だったダグラスが相手をするのであれば――」
「いや、それは無理だ。わかっているだろう、僕は勇者になった時に受けた神託から逃れられない。魔王を殺すことが僕の最優先事項だ。剣を失っても尚、一目魔王を見ただけで殺意が抑えきれない。理屈では君の意見が正しいと理解出来ているけれど、全くもって従う気になれない」
スペアシェリーの話に被せるように身体を起こしながらダグラスは語る。
いやしかしマジにこいつらの話一個もわからねえ、なんなんだ? 何を大真面目にこんな与太話を他所様の応接間でとぐろを巻いて語り合ってんだこいつら。
「だが今のおまえでは百歩譲って善戦できたとしても殺すことは出来ないだろう。おまえが女神に思考を書き換えられていることもわかっているし、私にもそれを上書きすることは出来ないが、これを飲み込めないと結局魔王は討てないのだ。魔王を討つという最優先事項の為に飲み込め」
「飲めない、女神から与えられた神託は『勇者が魔王を討つ』だ。君の話は正しいのだろうけど、今僕は君が僕の神託を邪魔しようとしているように感じ出してしまっている。僕が間違っていることはわかっている。それでも止められないんだよ」
スペアシェリーとダグラスがなにやら口論を始める。
「戦力不足は明確だろう、マリクはいないんだ。おまえも少しは変われ」
「いやだったら! もう一人、探すとか出来ないのか? 現代の猛者とかいないのかよ。そこのキャロラインも相当使うんだぞ、いるだろ! 探しゃあ!」
いや、だから、声がデカいんだ――。
と、思ったその時。
「……んん~……、なんの騒ぎですの……?」
眠そうな目を擦りながら、応接間の扉を開いてグロリア嬢がそう言った。
僕は最速でグロリア嬢の前へと動き。
「大変申し訳ございません、何もございませんのでお気になさらずに。さあベッドに戻りましょう」
視界を遮るように目の前でそう言って、眠くてふにゃふにゃとしているグロリア嬢を抱きかえて部屋まで運んでベッドに寝かせる。
危なかった、グロリア嬢があの大たわけな三人を見たら好奇心で目が冴えてしまう。
そしたら生活リズムが乱れて変な時間に眠くなってしまうだろう。
それに、こんな眠い状態で階段を降りて転んだら大変なことになる。
クーロフォード家のお嬢様に怪我を負わせるところだったんだぞ?
僕は静かにグロリア嬢の部屋を出て、一目散に応接間に向かい扉を開ける。
「やめなさいアーチボ――」
姐さんの言葉を聞き終わる前に、僕はダグラスをぶん殴る。
「うわっ、びっくりした! どうしたの」
僕の拳を顔面で受けて、何事も無かったようにダグラスは返す。
僕も気にせずに二打三打と顔面を打ち抜いて行くが、ダグラスはものともしない。
なるほど、こいつ発勁の達人だ。
姐さんの八極拳に触れてかじった程度だが、俺の拳が当たるのに合わせて内側から勁で弾いている。
ほぼ自動で脊髄反射で行っている。
なるほど、姐さんに舐めた口きくだけのことはある。
だが、慣れた。
諸々の話を聞いた姐さんが尋ねる。
姐さんは頭がおかしくはあるが、頭が悪いわけじゃないので話を飲み込めたようだ。
「いや、勇者の剣で暴走状態にある人間を止めるのは僕たちでも不可能だ。僕が前に何度か暴走した時は探求者マリクが力技で叩き伏せて止めたけど、僕たちに真似出来るものじゃない。竜と人の混血で力の探求をし続けて星を動かすに至った。この星最強のマリク・ノア無しで女神の力で動くあの子を止めることは出来ないよ。それに勇者の剣が唯一魔王を殺せるという特性上、魔王も手が出せない」
ダグラスは繋がった右手を閉じたり開いたりしながらつらつらと一個も理解できない与太を語る。
「研究者と探求者の娘である魔女なら何とかできるかもしれないが……、頼るつもりはないし頼らせるつもりもない」
「むすっ、え、娘⁉ え、産んだのか! シェリーが⁉」
スペアシェリーの言葉にダグラスは驚愕する。
つーかうるせえな、夜中だぞ。
上の階では旦那様も奥様もグロリア嬢も寝てるんだぞ?
「産んではいないが……、まあ本当に本当の奥の手だ。あの子は魔女だから自分の為だけにしか動かない。研究者と探求者はそうやってあの子を育てたからね」
「とんだわがまま娘じゃねえか」
がちゃがちゃと無駄話に花を咲かせる。
他所でやってくんねえかな。
「ではウォールは私が血祭りに上げるとして、魔王や竜の女王はあなた方がどうにかするということになるのでしょうか」
僕の考えはお構い無しに姐さんは話を続ける。
「ああ、というか僕らだけでやるしかない……、でも確実に戦力不足だ。魔王と竜の女王を相手に剣無しの僕とそのスペアシェリーの二人じゃあかなり厳しいけど……」
ダグラスは絨毯に寝そべりながら答える。
いやこいつ、何処までくつろいでやがるんだ。絨毯に寝転ぶなんてグロリア嬢ですら三ヶ月前に卒業したんだぞ。いい加減にしろ。
「まあ勝率は低いがゼロじゃあない。私は研究者と違って相討ちが出来る、魔王は封印が出来る私がなんとかして竜の女王は元々竜狩りの民だったダグラスが相手をするのであれば――」
「いや、それは無理だ。わかっているだろう、僕は勇者になった時に受けた神託から逃れられない。魔王を殺すことが僕の最優先事項だ。剣を失っても尚、一目魔王を見ただけで殺意が抑えきれない。理屈では君の意見が正しいと理解出来ているけれど、全くもって従う気になれない」
スペアシェリーの話に被せるように身体を起こしながらダグラスは語る。
いやしかしマジにこいつらの話一個もわからねえ、なんなんだ? 何を大真面目にこんな与太話を他所様の応接間でとぐろを巻いて語り合ってんだこいつら。
「だが今のおまえでは百歩譲って善戦できたとしても殺すことは出来ないだろう。おまえが女神に思考を書き換えられていることもわかっているし、私にもそれを上書きすることは出来ないが、これを飲み込めないと結局魔王は討てないのだ。魔王を討つという最優先事項の為に飲み込め」
「飲めない、女神から与えられた神託は『勇者が魔王を討つ』だ。君の話は正しいのだろうけど、今僕は君が僕の神託を邪魔しようとしているように感じ出してしまっている。僕が間違っていることはわかっている。それでも止められないんだよ」
スペアシェリーとダグラスがなにやら口論を始める。
「戦力不足は明確だろう、マリクはいないんだ。おまえも少しは変われ」
「いやだったら! もう一人、探すとか出来ないのか? 現代の猛者とかいないのかよ。そこのキャロラインも相当使うんだぞ、いるだろ! 探しゃあ!」
いや、だから、声がデカいんだ――。
と、思ったその時。
「……んん~……、なんの騒ぎですの……?」
眠そうな目を擦りながら、応接間の扉を開いてグロリア嬢がそう言った。
僕は最速でグロリア嬢の前へと動き。
「大変申し訳ございません、何もございませんのでお気になさらずに。さあベッドに戻りましょう」
視界を遮るように目の前でそう言って、眠くてふにゃふにゃとしているグロリア嬢を抱きかえて部屋まで運んでベッドに寝かせる。
危なかった、グロリア嬢があの大たわけな三人を見たら好奇心で目が冴えてしまう。
そしたら生活リズムが乱れて変な時間に眠くなってしまうだろう。
それに、こんな眠い状態で階段を降りて転んだら大変なことになる。
クーロフォード家のお嬢様に怪我を負わせるところだったんだぞ?
僕は静かにグロリア嬢の部屋を出て、一目散に応接間に向かい扉を開ける。
「やめなさいアーチボ――」
姐さんの言葉を聞き終わる前に、僕はダグラスをぶん殴る。
「うわっ、びっくりした! どうしたの」
僕の拳を顔面で受けて、何事も無かったようにダグラスは返す。
僕も気にせずに二打三打と顔面を打ち抜いて行くが、ダグラスはものともしない。
なるほど、こいつ発勁の達人だ。
姐さんの八極拳に触れてかじった程度だが、俺の拳が当たるのに合わせて内側から勁で弾いている。
ほぼ自動で脊髄反射で行っている。
なるほど、姐さんに舐めた口きくだけのことはある。
だが、慣れた。
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