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30・執事、落とし込む。

04暗殺計画。

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「……ふふっ、あっはっはっ! ははっ! ……ふふふっ、あー……可笑おかしい」

 俺の答えを聞いたリリィは突然笑い出して。

「何を勘違かんちがいしてるのよ、気に入らないわね」

 冷たく、こおりつくように、そう続けた。

かしてるとアビゲイル・バセット殺すわよ」

 リリィがそれを言い終わると同時に、ナイフを首にえる。

「あらあら私を殺しても無駄でしょ、そんなことで私の命令がとどこおるように私は組織を作っていない。組織の規模きぼを考えなさい?」

 全く恐れることもなく、リリィは淡々たんたんべる。

「ならおまえは俺の技量も考えろよ。おまえを殺して刺客しきゃくも殺す、何人来ようが全員殺す、一人残らず殺すだけだ」

 俺は負けずにおどしをかける。

 だが。

「ああ、でしょうね。でもそれじゃあ愛しのお嬢様は守れない。私が死のうが何人死のうがアビゲイル・バセットは必ず殺す」

 全くもっておくすることなくリリィは。

「私たちはね、ウィーバー、プロなんだよ。そいつを忘れるな」

 光の無いひとみをうっすら細めて、笑みを浮かべてそう言った。

 その笑みに俺はこおりつく。

 勝ち負けとかそういう段階の話ではない。
 この女が俺に話しかけてきた時点で、いやこの女が俺たちを知った時点で、この話は終わっているのだ。

 組織の規模きぼうたがいの余地よちはない、情報網じょうほうもうやその正確性を見れば明らかだ。それにこの女のイカレっぷりを見ればその恐ろしさも明らかである。

 そしてこのイカれた女のいう通り、そんな大組織からアビィを守るすべは俺にはない。

 リングストン公爵を狙撃したあの女くらいの手練てだれが複数人いたら、俺はアビィを守りきることは出来ないだろう。

 選択肢はすでに、いや、初めから無い。

「………………、何故なぜ、そこまでして魔王を止めたいんだ」

 俺はリリィの首筋くびすじからナイフを外しながら問う。

愚問ぐもんね、気に入らないからに決まってるでしょう」

 あきれたように、リリィは答える。

「私たちが必死こいて調整してきたところを、横からかっさらうカタチでひっくり返そうだなんて気に入らないでしょ。魔王だかなんだか知らないけど調子乗りすぎ」

 そう言いながら、厨房の出入口へとリリィは優雅ゆうがに歩き。

「まあ嘘だけど、本当はこの国の未来の為に正義感で動いてるのよ」

 振り向いて、舌を出し、邪悪じゃあくな笑顔であからさまな嘘をつく。

「じゃあ、よしなに」

 そう言ってくるりと回り、邪悪じゃあく権化ごんげは出入口から姿を消した。

「…………っ、いや、待て!」

 呆気あっけにとられて反応が遅れた俺はあわてて、追いかけるように調理場から廊下へ出る。

 しかし、すでに侍女の格好をした大陸をべる悪の組織のボスは、煙のように姿を消していた。

 逃がした。
 いや、らえたところでどうにもならない。
 これはってくれたのだ、見逃みのがされたのは俺の方だ。

 安堵あんどで身体から緊張がける。
 同時に滝のような汗をかいていることに気づき、震えが走る。

 怖かった、どんな達人や暗殺者より。

 ポットが沸騰ふっとうし、暴れているのに気づいて火を止める。

「マリシュカ・ネビル……か」

 俺は悪との邂逅かいこうを受け、三百年ぶりに暗殺計画をめぐらせながら標的の名前を落とし込んだ。
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