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29・居候、再会する。

03マリシュカ・ネビル。

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「なっ⁉ てめっ竜の――」

 男は驚きながらその光を両手で受け止める。

「サンディッ‼」

 その声と同時にキャロライン様に腕をつかまれ、キャロライン様にかかえられるように男の影に隠れる。

 男の両手からはあふれ出るように、勢いよく水が跳ねるように、

 飛び散った光は、煙草の火がちり紙をなんの抵抗ていこうもなく通り抜けるように、エンデスヘルツ公爵家のお屋敷をサクサクと消して行く。

「痛ぇぇえええええ――――――――ッ‼ うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」

 男は光を受け止めながら叫び、足の裏で蹴り飛ばすように勢いよく光を散らした。

 散った光が辺りを吹き飛ばし、粉塵ふんじんが舞う。

「あー……、くっそ……痛え……。しかも逃げられたし……、まあでも被害は最小限におさえたか」

 男は先程さきほどまで屋敷だった瓦礫がれきの山を見てそうつぶやく。

 大男と大美女はすでに姿を消していた。

 これで最小限……? こんな大惨事だいさんじを超える事態じたいが想定されるような状況だったのでしょうか……?

「……ふふっ、アハハハハハハハハハハハハハハ、ハッハハハハハハハァ――――――ッ‼」

 突然。

 もうこれで一段落というところで、闇夜を切りく高らかで狂気じみた少女の笑い声がひびき渡る。

 キャロライン様も謎の男も、反射的にその声の主の方を見る。

 ここまでの展開。
 大男の登場やキャロライン様の劣勢れっせい、謎の男の乱入に大きな美女の光。

 恥ずかしながらひとつ足りとも理解が追いつかない。
 この場にいる人間で最もにぶく、無知むちなのは私なのです。

 

 私もその声の主へと顔を向ける。

「こーんばん…………わっ! ハハハハ! 光ってたね!」

 明るく無邪気むじゃきに、瓦礫がれきの上から手を振りながら笑顔で挨拶をする声の主。

 異質いしつ

 この状況で突然現れ、馴れ馴れしく、愉快ゆかいに声をかけてきただけでなく。

 

「…………なんで………………、僕の……、勇者の剣を…………」

 それを見て謎の男がそうつぶやく。

「んんんー? あれ! 姉さんじゃない! 久しぶり!」

 現れた人物、、マリシュカ・ネビルは私を見つけてそう言った。

 マリシュカ・ネビル。

 ネビル子爵家に保管されていた刀剣とうけんを使い、超常的な怪奇現象のように私の結婚前夜パーティーで婚約者をふくめた一族を皆殺しにした狂気の殺人鬼であり私の実の妹です。

 現在、表向きは大量殺人に関わり国外追放されたということになっておりますが、実際はその超常的な力で逃亡中でした。

「……久しぶりね、マリシュカ」

 私はマリシュカにそう返す。

 ようやく私でも理解出来る状況がおとずれ、少し落ち着きを取り戻す。

 異常な非常事態ひじょうじたいではあるけれど、見知った顔というのはここまで人を安心させるのかと感心かんしんすらしてしまう。

「……えーっと、お嬢さん? その剣はかなりヤバい代物しろものなんだ。本来ほんらいであれば僕以外が使うことは出来ないはずなんだけど……」

 謎の男は驚きながらマリシュカに話しかける。

 あの刀剣とうけんについて知っている……? そういえば何者何でしょうかこの人は。

「え! あ! あなた勇者なのね! 剣から流れてきた記憶で知ってるよ! この剣は女神様が渡してあなたを勇者にしたんだよね。私もずっとずーっと剣からお前が勇者だって頭に直接ちょくせつ流れてくるんだけど、私は勇者じゃないし、でも敵は殺さなきゃって思うし、世界は救う気もないけど、敵は斬らなきゃならないでしょ? ハハハッ! こまっています助けてって思うけど、すっごい楽しいでしょ? どこまでが剣でどこからが私なの? でも幸せなの!」

 マリシュカは謎の男へまくし立てるように成立しているのか怪しい回答を述べた。

 あの日、パーティー会場を一つの大きな血溜ちだまりに変えたあの時よりも、

 でも、幸せそうでなによりですね。

「…………そうか。君は奇跡的に勇者に対する適性てきせいがあったみたいだけど、適応てきおうは出来ずに飲まれて思考や感情が暴走している状態なんだ。その剣はかなり修行をまないと人を勇者にはしてくれない、今ならまだ多分戻れると思うから僕に剣を渡してくれないか?」

 このままだと、本当に人に戻れなくなる。

 そうつけ加えて謎の男はマリシュカをさとす。

 へえ、あれ勇者の剣なんだ。なんで家にあったんだろ、なんて一周まわって落ち着いてしまった私はそんなことを考えていると。

「君のような娘にそんな武器は似合わな――」

「駄目えっ‼」

 私は謎の男の言葉にかぶせるように叫ぶ。

 が、しかし間に合わない。
 男の右腕がマリシュカにより斬り飛ばされる。
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