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27・お嬢様、魔王に会う。

03子離れ。

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 依然いぜんとして動きを止められたままのナイン、思考が追いつかない私とマーク様。

 この後の展開が、わけのわからないギリ世界観を守る魔王とわけのわからないサイエンス・フィクションの自動人形に完全ににぎられている。

 せめてナインが動ければ、この隙にとんずらこくのだけれど……。

「待て、スペアシェリー、聞け提案ていあんがある」

 臨戦態勢りんせんたいせいのスペアシェリーに対して魔王が落ち着いて語り始める。

「今回、俺の目的は世界の滅亡じゃあない。この国の現体制の破壊だ、そこにいるリングストン公爵をふくめた三公爵と主要貴族、王族を殺せればそれでいい」

 淡々と目的を伝え。



 と、提案ていあんべた。

「……おまえは二千年も封印されて頭が悪くなったのか? 私になんの得がある、今できることを何故なぜ待つ必要がある。答えはノーだ」

 スペアシェリーは無機質むきしつにその提案ていあん却下きゃっかした。

「得はあるぜ、俺はと言ったんだ。正直おまえとやり合っても全然勝ちの目があると思ってる。シェリー・ラスゴーランの造った人形相手に余裕とまでは言わねえが、おまえの言う通りふうじられたとしてもその時おまえは確実に粉々こなこまなになっている」

 魔王は却下きゃっかに対してさらに食い下がるように話し、続けて。

「俺が無抵抗むていこうに封印されれば、おまえは傷一つ無い状態で残り時間を有意義ゆういぎに過ごすことが出来る。悪くない話だと思うぜ」

 メリットを提示ていじする。

「だから、それがなんの利益りえきがあるんだ。私はシェリー・ラスゴーランではないのだぞ、そもそも自動人形の私に生存意欲は無――」

「嘘だ。良いね、実に俺好みだ」

 スペアシェリーの言葉を魔王が遮り。

「おまえ、研究者の知識と知恵と記憶だけでなく感情も引きいでいるだろ。

 不敵に、そうのたまう。

 しかし、その言葉に自動人形は動かない。

「俺が無抵抗むていこうに封印されれば、残りの時間を最愛の娘と優雅ゆうがに過ごすことが出来るんだ。おまえの可動かどう時間はどのくらいあるんだ? 十年? 五十年? あの魔女と協力すれば百年は持つのか? 良いねえ、家族愛ってやつか。悪をべる魔の王たるこの俺ですら美しい行動原理だと思うぜ、残務処理ざんむしょりの為に造った自動人形にすら受けがれる思い。いやー涙がちょちょ切れ――」

「嘘だな。白々しい、おまえに愛や道徳が理解出来るわけがないだろう」

 魔王の言葉にあきれるようにスペアシェリーが遮る。

「だがその通り、私は研究者の全てを引きいでいるがゆえにサムに対する母性や愛情をゆうしているのは事実だ、しかし」

 少し柔らかい表情で続けて。

子離こばなれは出来ているさ、研究者はあの子に伝えられるだけ教えられるだけ全てをたくした。もうあの子にしてやれることは何一つない、確かにいつまで経ってもあの子は可愛い、愛している。だが私はあの子を心配もしていなければ不安もない。だから私は私の役割をサムには魔女の役割を全うするだけなのさ」

 そう言い放った。

 ちなみに完全に私たちは空気である。
 いやマジに何の話?

「というかおまえサムに何か言われたな? 大方、私を壊せば消し飛ばすとでも言われたか。災難さいなよだったな、おまえは終わりだ」

 さらにスペアシェリーは不敵に魔王へとあおるように言い放つ。
 あれ、よくわからないけどこれ魔王の負けな流れ……? ならこの場はとりあえず逃れられる感じなのかしら……?

「あー……、めんどくせえ。やっぱ楽ってのは出来ねえもんだな……仕方ねえ」

 少しうなだれるように、魔王がつぶやく。

 そして。

「てめえをシャカって、魔女も殺すッ‼ 魔王を本気にさせたことを、一秒で後悔させてやる」

 怒鳴るようにそう言うと、魔王を中心に爆発するような突風が舞う。

 飛ばされないように身構みがまえた、瞬間。

 

 話の脈略みゃくりゃくを無視して、誰の意識にもない行動。

 無論、ナインによるものだ。

「おおおおおおおおおおおぉおおおぉおぉぉおらああああ――――――――ッ‼」

 そこから間髪かんはつを入れずに雄叫おたけびを上げながら、魔王の身体を切断して行く。

 粉々に、バラバラにきざまれた魔王は泥のようにくずれて落ちた。

「逃げるぞッ‼」

 そのまま凄まじい速さで、私とマーク様を抱えて走り出す。

 が。

「逃がすわけねえだろ、死ね」

 そう言いながらたった今くずれ落ちたはずの魔王が、何も無かったかのように五体満足で退路たいろふさぎ、右の手のひらから赤い光を放つ。

「させるわけないだろう」

 間髪かんはつ入れずにスペアシェリーが退路たいろふさいだ魔王に空気のかたまりのようなものをぶつけて吹き飛ばしながらそう言う。
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