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23・お嬢様、墓前に花を添える。

01一人。

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 私、アビゲイル・バセットことアビィは異世界に暮らした前世の記憶を持ち、バセット家にてしいたげられて育った。

 そんな境遇きょうぐうから、全てを踏み台にしても幸せになろうと決めて。

 執事のナイン・ウィーバーと二人で日々、幸せを目指していたが。

 

 私は今、一人お墓に花をえて、色々なことを思い返している。

 彼と出会ったあの日。
 ボロボロになって驚いたあの日。
 寝顔にくちびるを重ねてしまったあの時。
 色々なところに二人で出かけたり。
 そして、あの決闘。

 あの笑顔を。

 「……ナイン」

 私は教会の裏の霊園れいえんで、墓石ぼせききざまれた文字を優しくなぞりながら口に出す。

 あの決闘から一週間が経った。

 私はその後三日三晩を泣き続けた。
 あらためて私は感情をおさえるのが下手なんだと思い知らされた。

 でもどうしようもなかった。

 何を見ても、何を考えても、涙が止まらなかった。

 三日三晩が経ち、泣きらしてむくんだ顔が落ち着くまで待って。

 私はやっと、教会の霊園れいえんまでやってきたのだ。

 何故なぜかといえば感謝を伝える為だ。
 守ってくれてありがとう、と一言届けに来た。

 こんなことに意味があるのかわからないけど、伝わるのかはわからない。

 でも私は言わずにはいられない。

 故人こじんに届くかわからないけど、異世界転生や魔女のいる世界観なのだから届いてもおかしくはない。

 それを終えて、ナインの墓の前に花をえている。

 霊園れいえんの外れに、ポツンとさみしく置かれた墓石にせめてものいろどりをえてみた。

「…………さて」

 私は物思ものおもいにふけるのをやめて、気持ちを切り替えてその場を後にする。

 何がどうなろうとも私は生きていかなくてはならない、ここにずっと立ち止まるわけにはいかないのだ。

 私が霊園れいえんを出て、教会の前に戻ると。

「アビィ! もう大丈夫ですの?」

 グロリアが私の元へトテトテと駆け寄りながら声をかける。

 私が久しぶりに外に出るということで心配して来てくれたみんなと合流した。

「うん、もう大丈夫よ。ごめんね心配かけて」

 私はみんなに笑顔でこたえる。

「モーラが美味しいケーキ屋さんを知ってるみたいなの! これから一緒に行きましょう!」

「まあケーキって店開けるくらいの腕前なら大体美味しいと思うけど、ルーシィはどうする?」

「私はそんな甘いもん食わないけど、茶が美味くなるから行くよ。アーチさんがお茶入れてくれるんだろ」

 グロリア、モーラ、ルーシィの四人で女子トークに花を咲かせる。

 そこに。

「やあ、アビィ嬢を少しお借りしても良いかな?」

 と、教会から出てきたグロリアの婚約者であるマーク・リングストン公爵がさわやかに声をかける。

「ダメですわマーク様! 今日のアビィは真面目な話をしません! ケーキを食べるのですわ!」

「グロリアが食べたいだけでしょ、公爵なんだから真面目な話させてあげなさいよ」

「公爵は真面目な話すんのが仕事なんだから、真面目な話しかしないだろ」

「いや僕、ユーモアもあるつもりだよ……?」

 女子たちの勢いにされるマーク様は苦笑いでこたえる。

「いいですよマーク様、つまらない話をしましょう」

 私はそう答えて少し離れてマーク様と話をする。
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