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15・執事、怪人に教わる。
03プツン。
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「な、ななんなのよあなた! 愚図の癖に馬鹿にするんじゃないわよ!」
顔を真っ赤にしてエミリーが憤慨して突き飛ばそうとするのを、アビィはひらりとかわす。
避けられると思わずエミリーは勢いに負けてふらつく。
「どうしたのですかお姉様? そんな顔を赤くしてふらついて熱があるのではないですか? どこか悪いところが……、ああ、頭ですか? 頭が悪いのでは、あ、失礼しました頭が痛いとか体調が悪いのではないですか?」
余裕しゃくしゃくでアビィはさらにエミリーを煽る。
「いい加減になさい! この……馬鹿にして、そうやって、まだあなたは悪行を重ねるのですわね!」
怒り心頭のエミリーはヒステリックに怒鳴りつける。
次第に頭の悪い怒声に、注目が集まり始める。
「……あ、悪行? 何を仰られているのですか? こんな楽しい公の場で怒鳴り散らしているお姉様が誰かを指摘出来るほどの善性を有しているとは……あ、失礼いたしました。こういった失言が悪行と仰りたいのですね。申し訳ございません、お姉様が人の失敗を許容できない器の小さい人間だということを失念していました。気をつけますわ、そのうちに」
全く怯まず、圧倒的に馬鹿にした態度でアビィはしらばっくれる。
「ふざけるのも……、いい加減にしなさい! あんたが私の服や化粧品を全て燃やした件よ‼ お気に入りのものや頂き物から、制服まであんたが燃やすから揃え直すまで学園にも来れなかったのよ‼ 愚図の癖に、この私に、ふざけるんじゃないわよ‼」
その態度を見てさらに苛烈にエミリーは怒鳴りつける。
あー……、それかあ。
確かにバセット家を出る際にアビィは夫人とエミリーの服を全て燃やしていた。
それに対しての怒りを向けるためにこの場を狙ったのか……?
いやこいつ、何故怒れるんだ?
こいつは今までアビィのことを虫の如く、蹴る殴るは当たり前。
大事に直して使っていたブラシや鏡を目の前で壊したり。
どれだけ水が飲めるかと瓶の中で溺れさせたり。
非道な扱いをし続けていて。
服を燃やされた程度で、ふざけるなだと?
頭の中でプツンと、何かが切れる。
こいつは最速で殺す。
誰にも視認出来ない速度で、首を跳ねる。
その首で契約違反を侵したバセット伯爵を殴り殺す。
その死体の血で夫人を溺れ死にさせてやる。
皆殺しだ。
「待て待て待て落ち着け、何する気だてめえは! 何があったか知らねえが堪えろ! おまえが動いても絶対に好転しねえんだよ! 今この場のことより明日のことを考えろ!」
俺の怒気が伝わったのか、慌ててアーチが制止してくる。
「アビィ嬢の為になる方を選べ、それがおめえの仕事だろ。常に主の最善になることをしろ、それが執事だ」
俺の胸ぐらを掴み睨みつけるように真摯にアーチはそう付け加える。
「…………ふ――――――っ、……そうだな、すまない」
俺は深く息を吐き、落ち着いてそう返す。
確かに現実的に考えてこれだけ注目されていたら視認されずに殺すのは難しい。
例え出来たとしても、バセット家を生かしているからこそアビィの今の生活は成り立っている。
生かして脅して活かし続けねばならない。
殺すのは本当に本当の最終手段だ。
「……何のことを言っているのかわかりませんわ、お姉様。何故私がお姉様のお洋服や化粧品を燃やす必要があるのですか? 意味がわかりかねます……、お姉様は私に服を燃やされるような心当たりが何かあるのでしょうか?」
俺がアーチとそんな話をしていると、アビィは完全にしらばっくれる体勢に入る。
舌戦ではアビィの方が何枚も上手だ、だけど。
「うるさあああい‼ こいつを捕らえなさい! 連れて帰って立場をわからせる必要があるわ!」
エミリーの言葉に取り巻き達が執事らしき男たちに指示を出す。
畜生、この場は連れ去られるしかない。
道中であの男連中は皆殺しに……、いやあれはバセット家の執事じゃなくて取り巻きの執事でもあるのか。
それを殺すのは他の貴族を敵に回すことになりかねない。
思った以上にやっかいな状況だ。
どちらにしてもこの後は尾行して、隙を狙うしかない。
一度アビィを救い出せれば、バセット家に乗り込んでどうにでも出来る。
堪えてくれアビィ、必ず助ける。
そう俺が覚悟を決めたところで。
「やめるのですわ!」
と、声を上げてアビィとエミリー一派の間に割って入る小柄な影が一つ。
顔を真っ赤にしてエミリーが憤慨して突き飛ばそうとするのを、アビィはひらりとかわす。
避けられると思わずエミリーは勢いに負けてふらつく。
「どうしたのですかお姉様? そんな顔を赤くしてふらついて熱があるのではないですか? どこか悪いところが……、ああ、頭ですか? 頭が悪いのでは、あ、失礼しました頭が痛いとか体調が悪いのではないですか?」
余裕しゃくしゃくでアビィはさらにエミリーを煽る。
「いい加減になさい! この……馬鹿にして、そうやって、まだあなたは悪行を重ねるのですわね!」
怒り心頭のエミリーはヒステリックに怒鳴りつける。
次第に頭の悪い怒声に、注目が集まり始める。
「……あ、悪行? 何を仰られているのですか? こんな楽しい公の場で怒鳴り散らしているお姉様が誰かを指摘出来るほどの善性を有しているとは……あ、失礼いたしました。こういった失言が悪行と仰りたいのですね。申し訳ございません、お姉様が人の失敗を許容できない器の小さい人間だということを失念していました。気をつけますわ、そのうちに」
全く怯まず、圧倒的に馬鹿にした態度でアビィはしらばっくれる。
「ふざけるのも……、いい加減にしなさい! あんたが私の服や化粧品を全て燃やした件よ‼ お気に入りのものや頂き物から、制服まであんたが燃やすから揃え直すまで学園にも来れなかったのよ‼ 愚図の癖に、この私に、ふざけるんじゃないわよ‼」
その態度を見てさらに苛烈にエミリーは怒鳴りつける。
あー……、それかあ。
確かにバセット家を出る際にアビィは夫人とエミリーの服を全て燃やしていた。
それに対しての怒りを向けるためにこの場を狙ったのか……?
いやこいつ、何故怒れるんだ?
こいつは今までアビィのことを虫の如く、蹴る殴るは当たり前。
大事に直して使っていたブラシや鏡を目の前で壊したり。
どれだけ水が飲めるかと瓶の中で溺れさせたり。
非道な扱いをし続けていて。
服を燃やされた程度で、ふざけるなだと?
頭の中でプツンと、何かが切れる。
こいつは最速で殺す。
誰にも視認出来ない速度で、首を跳ねる。
その首で契約違反を侵したバセット伯爵を殴り殺す。
その死体の血で夫人を溺れ死にさせてやる。
皆殺しだ。
「待て待て待て落ち着け、何する気だてめえは! 何があったか知らねえが堪えろ! おまえが動いても絶対に好転しねえんだよ! 今この場のことより明日のことを考えろ!」
俺の怒気が伝わったのか、慌ててアーチが制止してくる。
「アビィ嬢の為になる方を選べ、それがおめえの仕事だろ。常に主の最善になることをしろ、それが執事だ」
俺の胸ぐらを掴み睨みつけるように真摯にアーチはそう付け加える。
「…………ふ――――――っ、……そうだな、すまない」
俺は深く息を吐き、落ち着いてそう返す。
確かに現実的に考えてこれだけ注目されていたら視認されずに殺すのは難しい。
例え出来たとしても、バセット家を生かしているからこそアビィの今の生活は成り立っている。
生かして脅して活かし続けねばならない。
殺すのは本当に本当の最終手段だ。
「……何のことを言っているのかわかりませんわ、お姉様。何故私がお姉様のお洋服や化粧品を燃やす必要があるのですか? 意味がわかりかねます……、お姉様は私に服を燃やされるような心当たりが何かあるのでしょうか?」
俺がアーチとそんな話をしていると、アビィは完全にしらばっくれる体勢に入る。
舌戦ではアビィの方が何枚も上手だ、だけど。
「うるさあああい‼ こいつを捕らえなさい! 連れて帰って立場をわからせる必要があるわ!」
エミリーの言葉に取り巻き達が執事らしき男たちに指示を出す。
畜生、この場は連れ去られるしかない。
道中であの男連中は皆殺しに……、いやあれはバセット家の執事じゃなくて取り巻きの執事でもあるのか。
それを殺すのは他の貴族を敵に回すことになりかねない。
思った以上にやっかいな状況だ。
どちらにしてもこの後は尾行して、隙を狙うしかない。
一度アビィを救い出せれば、バセット家に乗り込んでどうにでも出来る。
堪えてくれアビィ、必ず助ける。
そう俺が覚悟を決めたところで。
「やめるのですわ!」
と、声を上げてアビィとエミリー一派の間に割って入る小柄な影が一つ。
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