上 下
55 / 240
15・執事、怪人に教わる。

03プツン。

しおりを挟む
「な、ななんなのよあなた! 愚図ぐずくせに馬鹿にするんじゃないわよ!」

 顔を真っ赤にしてエミリーが憤慨ふんがいして突き飛ばそうとするのを、アビィはひらりとかわす。

 けられると思わずエミリーはいきおいに負けてふらつく。
 
「どうしたのですかお姉様? そんな顔を赤くしてふらついて熱があるのではないですか? どこか悪いところが……、ああ、頭ですか? 頭が悪いのでは、あ、失礼しました頭が痛いとか体調が悪いのではないですか?」

 余裕しゃくしゃくでアビィはさらにエミリーをあおる。

「いい加減になさい! この……馬鹿にして、そうやって、まだあなたは悪行あくぎょうを重ねるのですわね!」

 怒り心頭のエミリーはヒステリックに怒鳴りつける。

 次第に頭の悪い怒声に、注目が集まり始める。

「……あ、悪行あくぎょう? 何をおっしゃられているのですか? こんな楽しいおおやけの場で怒鳴り散らしているお姉様が誰かを指摘出来るほどの善性ぜんせいゆうしているとは……あ、失礼いたしました。こういった失言が悪行あくぎょうおっしゃりたいのですね。申し訳ございません、お姉様が人の失敗を許容きょようできない器の小さい人間だということを失念していました。気をつけますわ、そのうちに」

 全くひるまず、圧倒的に馬鹿にした態度でアビィはしらばっくれる。

「ふざけるのも……、いい加減にしなさい! あんたが私の服や化粧品を全て燃やした件よ‼ お気に入りのものや頂き物から、制服まであんたが燃やすからそろえ直すまで学園にも来れなかったのよ‼ 愚図ぐずの癖に、この私に、ふざけるんじゃないわよ‼」

 その態度を見てさらに苛烈にエミリーは怒鳴りつける。

 あー……、それかあ。

 確かにバセット家を出る際にアビィは夫人とエミリーの服を全て燃やしていた。
 それに対しての怒りを向けるためにこの場を狙ったのか……?

 

 こいつは今までアビィのことを虫のごとく、蹴る殴るは当たり前。
 大事に直して使っていたブラシや鏡を目の前で壊したり。
 どれだけ水が飲めるかとかめの中でおぼれさせたり。
 非道なあつかいをし続けていて。

 

 頭の中でプツンと、何かが切れる。
 こいつは最速で殺す。

 誰にも視認出来ない速度で、首を跳ねる。
 その首で契約違反を侵したバセット伯爵を殴り殺す。
 その死体の血で夫人を溺れ死にさせてやる。

 皆殺しだ。

「待て待て待て落ち着け、何する気だてめえは! 何があったか知らねえがこらえろ! おまえが動いても絶対に好転こうてんしねえんだよ! 今この場のことより明日のことを考えろ!」

 俺の怒気が伝わったのか、あわててアーチが制止してくる。

「アビィ嬢の為になる方を選べ、それがおめえの仕事だろ。常に主の最善になることをしろ、それが執事だ」

 俺の胸ぐらをつかにらみつけるように真摯しんしにアーチはそう付け加える。

「…………ふ――――――っ、……そうだな、すまない」

 俺は深く息を吐き、落ち着いてそう返す。

 確かに現実的に考えてこれだけ注目されていたら視認されずに殺すのは難しい。
 例え出来たとしても、バセット家を生かしているからこそアビィの今の生活は成り立っている。

 生かして脅してかし続けねばならない。
 殺すのは本当に本当の最終手段だ。

「……何のことを言っているのかわかりませんわ、お姉様。何故なぜ私がお姉様のお洋服や化粧品を燃やす必要があるのですか? 意味がわかりかねます……、お姉様は私に服を燃やされるような心当たりが何かあるのでしょうか?」

 俺がアーチとそんな話をしていると、アビィは完全にしらばっくれる体勢に入る。

 舌戦ぜっせんではアビィの方が何枚も上手だ、だけど。

「うるさあああい‼ こいつを捕らえなさい! れて帰って立場をわからせる必要があるわ!」

 エミリーの言葉に取り巻き達が執事らしき男たちに指示を出す。

 畜生、この場は連れ去られるしかない。
 道中であの男連中は皆殺しに……、いやあれはバセット家の執事じゃなくて取り巻きの執事でもあるのか。

 それを殺すのは他の貴族を敵に回すことになりかねない。

 思った以上にやっかいな状況だ。
 どちらにしてもこの後は尾行して、隙を狙うしかない。
 一度アビィを救い出せれば、バセット家に乗り込んでどうにでも出来る。

 こらえてくれアビィ、必ず助ける。

 そう俺が覚悟を決めたところで。

「やめるのですわ!」

 と、声を上げてアビィとエミリー一派いっぱの間に割って入る小柄こがらな影が一つ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何でも出来る親友がいつも隣にいるから俺は恋愛が出来ない

釧路太郎
青春
 俺の親友の鬼仏院右近は顔も良くて身長も高く実家も金持ちでおまけに性格も良い。  それに比べて俺は身長も普通で金もあるわけではなく、性格も良いとは言えない。  勉強も運動も何でも出来る鬼仏院右近は大学生になっても今までと変わらずモテているし、高校時代に比べても言い寄ってくる女の数は増えているのだ。  その言い寄ってくる女の中に俺が小学生の時からずっと好きな桜唯菜ちゃんもいるのだけれど、俺に気を使ってなのか鬼仏院右近は桜唯菜ちゃんとだけは付き合う事が無かったのだ。  鬼仏院右近と親友と言うだけで優しくしてくれる人も多くいるのだけれど、ちょっと話すだけで俺と距離をあける人間が多いのは俺の性格が悪いからだと鬼仏院右近はハッキリというのだ。そんな事を言う鬼仏院右近も性格が悪いと思うのだけれど、こいつは俺以外には優しく親切な態度を崩さない。  そんな中でもなぜか俺と話をしてくれる女性が二人いるのだけれど、鵜崎唯は重度の拗らせ女子でさすがの俺も付き合いを考えてしまうほどなのだ。だが、そんな鵜崎唯はおそらく世界で数少ない俺に好意を向けてくれている女性なのだ。俺はその気持ちに応えるつもりはないのだけれど、鵜崎唯以上に俺の事を好きになってくれる人なんていないという事は薄々感じてはいる。  俺と話をしてくれるもう一人の女性は髑髏沼愛華という女だ。こいつはなぜか俺が近くにいれば暴言を吐いてくるような女でそこまで嫌われるような事をしてしまったのかと反省してしまう事もあったのだけれど、その理由は誰が聞いても教えてくれることが無かった。  完璧超人の親友と俺の事を好きな拗らせ女子と俺の事を憎んでいる女性が近くにいるお陰で俺は恋愛が出来ないのだ。  恋愛が出来ないのは俺の性格に問題があるのではなく、こいつらがいつも近くにいるからなのだ。そう思うしかない。  俺に原因があるなんて思ってしまうと、今までの人生をすべて否定する事になってしまいかねないのだ。  いつか俺が唯菜ちゃんと付き合えるようになることを夢見ているのだが、大学生活も残りわずかとなっているし、来年からはいよいよ就職活動も始まってしまう。俺に残された時間は本当に残りわずかしかないのだ。 この作品は「小説家になろう」「ノベルアッププラス」「カクヨム」「ノベルピア」にも投稿しています。

あなたにはもう何も奪わせない

gacchi
恋愛
幼い時に誘拐されそうになった侯爵令嬢ジュリアは、知らない男の子に助けられた。 いつか会えたらお礼を言おうと思っていたが、学園に入る年になってもその男の子は見つからなかった。 もしかしたら伯爵令息ブリュノがそうかもしれないと思ったが、確認できないまま三学年になり仮婚約の儀式が始まる。 仮婚約の相手になったらブリュノに聞けるかもしれないと期待していたジュリアだが、その立場は伯爵令嬢のアマンダに奪われてしまう。 アマンダには初めて会った時から執着されていたが、まさか仮婚約まで奪われてしまうとは思わなかった。

無職のお姉ちゃんですが、美形の弟(血縁なし)が気になります【R18】

人面石発見器
恋愛
偶然が重なってお金もちになったわたしは、大学卒業後は東京でひとり暮らしの無職な引きこもりになりました。 引きこもってオタク生活を満喫していたわたしですが、10歳年下の弟(義母の連れ子、血縁なし)が東京の進学高校に合格して、わたしと同居(ふたり暮らし)することに!? 姉弟でふたり暮らしなんて、そんなに珍しくないでしょ? そう思うかもしれないけど、弟の碧(あお)くんは、わたしの好みど真ん中の美少年なんです。 それにやけにスキンシップが多くて、毎朝ほっぺにおはようのキスをくれるし、「お姉ちゃん、今日も可愛いね」とか、そういうこと当たり前にやったり言ったりするんです。 これってもしかして、脈ありなんですか? ※ラストに少しR18シーンあり。軽めですけど。 完結まで毎日午後10時位にアップします。 2023年、最初の投稿になります。 今年も自分のペースでなにか書いては、投稿していこうと思います。 今年はエロがないのにも挑戦してみたいです。

双子なのにこの格差ですか...(完結)

三雅
ファンタジー
二卵性であったため顔は似てないけど、姉のキキは何かと文句をつけられ不自由な生活を送っていた。家族は妹のルリを溺愛し甘やかしているため当てにならず、そんな生活に嫌気が差したキキが成人の15歳の誕生日を機に家を飛び出した。 仕事を与えてくれたのは優しいおばあさんで、どうやらかっこいいお孫さんがいるみたい... 苦労してきたキキが優しい人達に囲まれて幸せになるまでのお話です。 初投稿です。誤字脱字報告や、ここはこうした方がいいなどご意見、ご感想いただければ幸いです。

俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌
恋愛
学校からの帰宅途中、俺は、突如として現れた魔法陣によって、異世界へと召喚される。 ……なぜか、女の姿で。 魔王を討伐すると言い張る、男ども、プラス、一人の女。 何が何だか分からないままに脅されて、俺は、女の演技をしながら魔王討伐の旅に付き添い……魔王を討伐した直後、その場に置き去りにされるのだった。 片翼シリーズ第三弾。 今回の舞台は、ヴァイラン魔国です。 転性ものですよ~。 そして、この作品だけでも読めるようになっております。 それでは、どうぞ!

俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ
BL
【女神の愛の呪い】  この世界の根源となる物語の悪役を割り当てられたエドワードに、女神が与えた独自スキル。  鍛錬を怠らなければ人類最強になれる剣術・魔法の才、運命を改変するにあたって優位になりそうな前世の記憶を思い出すことができる能力が、生まれながらに備わっている。(ただし前世の記憶をどこまで思い出せるかは、女神の判断による)  しかし、どれほど強くなっても、どれだけ前世の記憶を駆使しても、アストルディア・セネバを倒すことはできない。  性別・種族を問わず孕ませられるが故に、獣人が人間から忌み嫌われている世界。  獣人国セネーバとの国境に位置する辺境伯領嫡男エドワードは、八歳のある日、自分が生きる世界が近親相姦好き暗黒腐女子の前世妹が書いたBL小説の世界だと思い出す。  このままでは自分は戦争に敗れて[回避したい未来その①]性奴隷化後に闇堕ち[回避したい未来その②]、実子の主人公(受け)に性的虐待を加えて暗殺者として育てた末[回避したい未来その③]、かつての友でもある獣人王アストルディア(攻)に殺される[回避したい未来その④]虐待悪役親父と化してしまう……!  悲惨な未来を回避しようと、なぜか備わっている【女神の愛の呪い】スキルを駆使して戦争回避のために奔走した結果、受けが生まれる前に原作攻め様の番になる話。 ※悪役転生 男性妊娠 獣人 幼少期からの領政チートが書きたくて始めた話 ※近親相姦は原作のみで本編には回避要素としてしか出てきません(ブラコンはいる) 

影の公爵令嬢の復讐譚 〜二度目の人生で全てを取り戻す〜」

 (笑)
恋愛
公爵家の令嬢シルヴィア・リンドバーグは、貴族社会の中で平民出身という偏見にさらされながらも、王子レオニードとの婚約を果たし、未来に希望を抱いていた。しかし、突然の婚約破棄により、彼女の夢は打ち砕かれる。絶望の中で、自分を裏切った人々に復讐を誓ったシルヴィアは、神秘的な力によって過去に戻るチャンスを得る。 再び若い姿になったシルヴィアは、過去の経験を活かして新たな人生を築く決意を固める。彼女は貴族社会の中でのし上がり、信頼できる仲間を見つけながら、正義と自身の未来を取り戻そうと奮闘する。復讐の道を超え、自らの希望を見つけるシルヴィアの新たな物語が始まる。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

処理中です...