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1・お嬢様、怒りを覚える。
03夜明け前。
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アビィの記憶がそうさせたのか、健康を手にした高田まりえの想いがそうさせたのか。
きっと両方だろう、私は今そのどちらでもあるのだから。
私は怒りのままに転がる椅子を持ち上げて侍女長の脚へと叩きつける。
今度は悲痛な声を上げ、制止を要求し、這って逃げようとしたり、私を罵ってきたが無視して叩き続けた。
やがて手足が折れて這うことも出来なくなり、泣きじゃくりながら命乞いを始めた。
「ごめんなさい……、ごめんなさい、今までのことを全て謝罪します、から、やめてくだ、さい……死にたくない、ごめんなさいごめんなさい」
いやうるせえ。
侍女長の言葉に私は素直にそう思い、答える。
「死なない死なない、手足が動かないくらいで落ち込まないでよ! もっと何も出来なくなっても十七年は生きられるんだから! 口から胃にチューブもいらないだろうし、それだけ喋れて顔も動くんだから大丈夫!」
笑顔で伝えて、さらに。
「だからまだ続けるね」
そう言って椅子を振り上げたところで、侍女長は粗相を起こして気を失った。
あらら。
まあもういいか、ある程度気は治まった……というか少し疲れた。
こんなに運動したことも初めてだし、やっぱり風邪を拗らせているときに無理するのは良くないみたいだ。
椅子を置いて、その椅子に座って少し休む。
そういえば散々振り回していたけれど、自分で椅子に座るのも初めてだ。
一息ついて、次はどうしようと思いを巡らせようとしたところで。
「なんの騒ぎだ!」
「な⁉ 侍女長⁉」
物音を聞きつけてぞろぞろと屋敷の使用人たちが台所へとやって来る。
そりゃそうだ。
中々の大立ち回りだったもの、そりゃ音や悲鳴が届いても仕方がない。
「おま、なんでおまえがここにいるんだ!」
「まさかおまえがやったのか!」
使用人たちはすぐに椅子に座る私に対してバスケ漫画の監督みたいなリアクションを見せる。
男性が複数人。
多分いくら健康でも私と椅子じゃあどうにもならない、きっと彼らは窓ガラスや侍女長より頑丈だろう。
なので私は椅子から立ち上がり、椅子を振り上げる。
そのまま例のごとく窓ガラスに叩きつけ割る。
突然の行動に使用人たちは驚いたようなのでその隙に割れた窓から外へと逃げる。
やや遅れて「おい待て!」だったり「捕まえろ!」と声が聞こえたがお構いなしで走り出す。
捕まったらきっと私はただじゃ済まないだろう、もしかすると本当に殺されてしまうかもしれない。
そもそも逃げ切ることも出来ないだろう、弱った私の体力も限界は近い。
捕まるのも時間の問題のでしかない。
でも、そんなことどうでもいい。
私は今、自分の足で走っている。
空が白む夜明け前の冷えた風を切って、私は駆けている。
自由に腕を振って、何度も足がもつれて転びそうになりながら、傍から見たら酷く不格好だとしてもこんなに素晴らしいことはない。
ああ、これはきっと夢なのだ。
私が、高田まりえが、人生の終わりに見ている夢のようなものなのかもしれない。
でも、それすらもどうでもいいほどに私の心はときめき続けている。
走ることが、自由に動く身体が、楽しい。
ガラスで引っ掻いて裂けたスカートが、走るのには丁度いい。
走り続けて脚が上がらなくなってきた頃、私は屋敷から様々に迂回して、屋敷の敷地から出るための門までたどり着く。
すると外から門が開かれ、そこには一人の男性の姿があった。
ああ、もうおしまいか。
私はこのまま捕まってしまう。
この夢も終わりなのだろう。
と、目を伏せたところで門に立つ彼は私に声をかけてきた。
「おはよう。俺はナイン・ウィーバー、今日から使用人として働くことになっている。侍女長はどこにいる?」
あれ、この人私を知らない……?
まだこの家の状況を、私に対する扱いを知らないのか。
だったらもしかすると、まだこの夢は終わらないかもしれない。
きっと両方だろう、私は今そのどちらでもあるのだから。
私は怒りのままに転がる椅子を持ち上げて侍女長の脚へと叩きつける。
今度は悲痛な声を上げ、制止を要求し、這って逃げようとしたり、私を罵ってきたが無視して叩き続けた。
やがて手足が折れて這うことも出来なくなり、泣きじゃくりながら命乞いを始めた。
「ごめんなさい……、ごめんなさい、今までのことを全て謝罪します、から、やめてくだ、さい……死にたくない、ごめんなさいごめんなさい」
いやうるせえ。
侍女長の言葉に私は素直にそう思い、答える。
「死なない死なない、手足が動かないくらいで落ち込まないでよ! もっと何も出来なくなっても十七年は生きられるんだから! 口から胃にチューブもいらないだろうし、それだけ喋れて顔も動くんだから大丈夫!」
笑顔で伝えて、さらに。
「だからまだ続けるね」
そう言って椅子を振り上げたところで、侍女長は粗相を起こして気を失った。
あらら。
まあもういいか、ある程度気は治まった……というか少し疲れた。
こんなに運動したことも初めてだし、やっぱり風邪を拗らせているときに無理するのは良くないみたいだ。
椅子を置いて、その椅子に座って少し休む。
そういえば散々振り回していたけれど、自分で椅子に座るのも初めてだ。
一息ついて、次はどうしようと思いを巡らせようとしたところで。
「なんの騒ぎだ!」
「な⁉ 侍女長⁉」
物音を聞きつけてぞろぞろと屋敷の使用人たちが台所へとやって来る。
そりゃそうだ。
中々の大立ち回りだったもの、そりゃ音や悲鳴が届いても仕方がない。
「おま、なんでおまえがここにいるんだ!」
「まさかおまえがやったのか!」
使用人たちはすぐに椅子に座る私に対してバスケ漫画の監督みたいなリアクションを見せる。
男性が複数人。
多分いくら健康でも私と椅子じゃあどうにもならない、きっと彼らは窓ガラスや侍女長より頑丈だろう。
なので私は椅子から立ち上がり、椅子を振り上げる。
そのまま例のごとく窓ガラスに叩きつけ割る。
突然の行動に使用人たちは驚いたようなのでその隙に割れた窓から外へと逃げる。
やや遅れて「おい待て!」だったり「捕まえろ!」と声が聞こえたがお構いなしで走り出す。
捕まったらきっと私はただじゃ済まないだろう、もしかすると本当に殺されてしまうかもしれない。
そもそも逃げ切ることも出来ないだろう、弱った私の体力も限界は近い。
捕まるのも時間の問題のでしかない。
でも、そんなことどうでもいい。
私は今、自分の足で走っている。
空が白む夜明け前の冷えた風を切って、私は駆けている。
自由に腕を振って、何度も足がもつれて転びそうになりながら、傍から見たら酷く不格好だとしてもこんなに素晴らしいことはない。
ああ、これはきっと夢なのだ。
私が、高田まりえが、人生の終わりに見ている夢のようなものなのかもしれない。
でも、それすらもどうでもいいほどに私の心はときめき続けている。
走ることが、自由に動く身体が、楽しい。
ガラスで引っ掻いて裂けたスカートが、走るのには丁度いい。
走り続けて脚が上がらなくなってきた頃、私は屋敷から様々に迂回して、屋敷の敷地から出るための門までたどり着く。
すると外から門が開かれ、そこには一人の男性の姿があった。
ああ、もうおしまいか。
私はこのまま捕まってしまう。
この夢も終わりなのだろう。
と、目を伏せたところで門に立つ彼は私に声をかけてきた。
「おはよう。俺はナイン・ウィーバー、今日から使用人として働くことになっている。侍女長はどこにいる?」
あれ、この人私を知らない……?
まだこの家の状況を、私に対する扱いを知らないのか。
だったらもしかすると、まだこの夢は終わらないかもしれない。
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