上 下
23 / 240
6・執事、怪人に襲われる。

03なんだあれ!

しおりを挟む
 殴られすぎた。

 肋骨あばらぼねも何本かヒビが入っている、呼吸をする度に激痛が走る。

 ローキックをまれて脚も様子が違う、これじゃあフットワークで翻弄ほんろうは出来ないだろう。

 畜生、奥歯も無くなってる。
 本当におかゆしか食えなくなるじゃあねえか。

 さて、殺すと決めたが余裕はない。

 意識が朦朧もうろうとして、呼吸がしづらくて脳と身体に酸素が回らない脚も動かない。

 だがまあ、その程度ていどで余裕がないくらいで人を殺せなくなるようなことはない。

 ナイフを構えて、怪人を見据みすえる。

 怪人も俺の変化に気づき、やや警戒を強める。
 強めたところでナイフを振る。

 警戒を強めたという安心を狙った、こういう駆け引きは俺の方が一枚上手のようだ。

 ナイフで首を狙ったが、ややれて鎖骨辺りを斬りつける。

 振り抜いたところから太ももを刺す。

「痛……っ!」

 怪人は痛みを噛み殺しきれずに声を漏らす。

 こういう動きを止めるようなやり方は本意ではないが、こいつは勘が良すぎる。

 手をゆるめず斬りつける。
 硬くてが通らない、このままけずって出血で殺しきる。

 しかしこいつ、かなり斬っているが全然まない本当に怪人なのか……?

 だがあせらない、迷わない、躊躇ためらわない、完遂かんすいする。

 けずることを徹底して行う。

 と思わせたら首を真っ直ぐ狙っていく。

 のは読まれていたようでこれ以上なく、起死回生のカウンターを腹部に貰う。

「ぐっぶ……ッ!」

 明らかに、腕力だけではない威力のその打に胃の中にまってた鼻血などもろもろをき散らしながら吹き飛ぶ。

 ふっざけんな、これ発勁はっけいじゃないか。
 異国の武術で、八極拳はっきょくけんとかに用いられる技術だ。

 こんな暴力装置が、なんでこんな達人レベルの技を持ってんだ。
 身体中にけいが通り脳天から意識と一緒に突き抜ける。

 まずい、持っていかれる。

「ぐぶうううぼえばあああ――――――ッ!」

 歯を食いしばり、声と一緒に胃の中身を吹き出させて、何とか意識をたもつ。

 そうなれば、隙だらけだ。

 今の一撃必殺発勁はっけいの隙を狙って、ナイフを振る。

 どこでも良い、深く、刺され。
 命に、ねじ込め。

 怪人の人間離れした勘の良さと、俺のダメージによる動きの悪さでどうや頭や首には届かなかったが。

 左腕に突き刺さる。

「ぎい……っ! がああ‼」

 怪人は刺さったナイフを無理やり引き抜いて、転がるように距離を取る。

 追撃ついげきは無理だ、だが次の一撃で決まる。

 お互いにそれを確信し、目で牽制けんせいする。

「な、なにをしてるんですか! 貴方たち!」

 背後から女生徒の声がひびく。

 やってしまった、目の前の怪人に集中し過ぎて気配に気づけなかった。
 目撃者はまずい、こんな大立ち回りが知れ渡ったらお嬢様が七日で退学を食らってしまう。

 と、怪人も同じくそう思ったようだ。

 お互いに目を見つめて語る。

 ここまで殺し合い、お互い目を見るだけで言葉を交わすように意志の疎通が取れる。

 ここは一回トンズラぶっこく。
 俺と怪人の意見が、コンマ一秒の間に一致いっちする。

「あ! なんだあれ!」

 俺と怪人は同時にあらぬ方向を指さして叫ぶ。
 それに釣られて女生徒はあらぬ方向に顔を向ける。

 今だ。

 俺と怪人はアイコンタクトにより別々の方向に散る。

 何かもう最後ちょっと謎の友情さえ芽生めばえるという展開をみせたが、この殺し合いはこれにて終わりだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。

MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。 カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。  勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?  アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。 なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。 やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!! ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。 貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。 …あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?

死を願われた薄幸ハリボテ令嬢は逆行して溺愛される

葵 遥菜
恋愛
「死んでくれればいいのに」  十七歳になる年。リリアーヌ・ジェセニアは大好きだった婚約者クラウス・ベリサリオ公爵令息にそう言われて見捨てられた。そうしてたぶん一度目の人生を終えた。  だから、二度目のチャンスを与えられたと気づいた時、リリアーヌが真っ先に考えたのはクラウスのことだった。  今度こそ必ず、彼のことは好きにならない。  そして必ず病気に打ち勝つ方法を見つけ、愛し愛される存在を見つけて幸せに寿命をまっとうするのだ。二度と『死んでくれればいいのに』なんて言われない人生を歩むために。  突如として始まったやり直しの人生は、何もかもが順調だった。しかし、予定よりも早く死に向かう兆候が現れ始めてーー。  リリアーヌは死の運命から逃れることができるのか? そして愛し愛される人と結ばれることはできるのか?  そもそも、一体なぜ彼女は時を遡り、人生をやり直すことができたのだろうかーー?  わけあって薄幸のハリボテ令嬢となったリリアーヌが、逆行して幸せになるまでの物語です。

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

処理中です...