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6・執事、怪人に襲われる。
02難しい。
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掌打も蹴りも肘も当てたが有効打足りえない、まるで岩を叩いたようだ。
相手はどんどん回転と精度を上げて、俺のガードやフットワークの先を叩く。
強すぎる、頑強な身体にこの当て勘は凄まじい。
これ以上は難しい。
無理かもしれない。
こいつを殺さずに止めることは、難しすぎる。
俺はお嬢様に、この学園での殺人を禁止されているので実行していないがもう十五回はこいつを殺せている。
あ、ほら今十六回目だ。
こいつを殺すのは、容易い。
どれだけ強かろうと死なない人間がいない以上、俺が殺せない理由はない。
まあ俺は快楽殺人をするような変態でもなければ、全ての物事の解決に自ら暗殺を選ぶことをしない。
というか今の俺は暗殺者ですらない、殺し方を心得ているだけの執事だ。普通に法を守って殺しなんてことはしないのだ。
ただまあ命令とあらば、殺すだけだ。
俺は命令に忠実なだけ、つまり逆も然り。
殺すなと言われれば、殺せないのが俺の仕事だ。
だが同時に、自身の生命の危機に対しては命令を破る許可も与えられている。
このまま俺がこいつに殺されてしまうと判断すれば、こいつを抑える為に一番簡単な方法を取ることが出来るのだろうが。
こいつは俺を殺す気はない、多分最初に言ってた通り俺をお粥しか食べれない程度に再起不能にするのが目的なのだろう。
それは生命の危機といえるのだろうか。
殺すつもりのない人間を殺めるのは人としてどうなのだろうか。
これでも俺は人間のつもりだ。
一般的な職で給金を貰い、たまのお酒と美味い飯を楽しみにして、愚か者に怒り、美しいものに喜び、失敗に悲しむ。
立派な人間のつもりだ。
大義名分がなければ、人は人を殺せない。
義がない殺人は畜生と同じであり、感情のない行動は人形と同じだ。
そんなことを殴られ続けながら朦朧とする意識で考えている。もう二、三発で俺の意識は完全に刈り取られるだろう。
そうなれば終わりだ。
職務上の怪我なので恐らく労災は降りるはずだ。
まあ、いつかはお粥も好きになるだろう。
「私は幸せになりたいだけなのよ」
と、頭の中でお嬢様の言葉が過ぎる。
幸せになりたい、か。
まあもういいんじゃないか、あの畜生一家への報復も済んだし学園にも通えている。
自由を謳歌出来ているだろう。
勝手に幸せにでもなんでもなってくれ。
「だから、協力してよね。共犯者さん」
と、頭の中でお嬢様が不敵に笑う。
協力って、もう十分にしただろう。
一人でも侍女長をボコボコにして、俺と伯爵を騙して、姉と夫人の服を燃やし尽くせる活力があるなら一人でもどうにでもなるだろう。
俺の仕事はここまでだ。
わけのわからん怪人なんて輩に顔を潰されて、終了だ。
……………………いや?
待て、俺が居なくなったらお嬢様はどうやって暮らしていくんだ?
お嬢様は一人では風呂にも入れないほどに、生活能力が皆無なのだ。
それで幸せになれるのか?
誰がお嬢様の頭を洗うんだ?
そうだ、従うだけで何が人間だ。
俺は誰かを守ることで人間になったんだろうが。
守るために守らない、ああやべえ何考えてんのか自分でもわからない。
兎に角。
「……っ!」
俺は上着からナイフを抜いて怪人の肩に突き立てたが、殺気が伝わってしまい距離を置かれる。
「ぶ、ばぁ――あ、はー! はあ! おえっ……、でめ、…………もう、いい、殺す……っ!」
鼻と口から血が溢れ出して上手く喋れないが、俺は怪人にそう宣言をした。
相手はどんどん回転と精度を上げて、俺のガードやフットワークの先を叩く。
強すぎる、頑強な身体にこの当て勘は凄まじい。
これ以上は難しい。
無理かもしれない。
こいつを殺さずに止めることは、難しすぎる。
俺はお嬢様に、この学園での殺人を禁止されているので実行していないがもう十五回はこいつを殺せている。
あ、ほら今十六回目だ。
こいつを殺すのは、容易い。
どれだけ強かろうと死なない人間がいない以上、俺が殺せない理由はない。
まあ俺は快楽殺人をするような変態でもなければ、全ての物事の解決に自ら暗殺を選ぶことをしない。
というか今の俺は暗殺者ですらない、殺し方を心得ているだけの執事だ。普通に法を守って殺しなんてことはしないのだ。
ただまあ命令とあらば、殺すだけだ。
俺は命令に忠実なだけ、つまり逆も然り。
殺すなと言われれば、殺せないのが俺の仕事だ。
だが同時に、自身の生命の危機に対しては命令を破る許可も与えられている。
このまま俺がこいつに殺されてしまうと判断すれば、こいつを抑える為に一番簡単な方法を取ることが出来るのだろうが。
こいつは俺を殺す気はない、多分最初に言ってた通り俺をお粥しか食べれない程度に再起不能にするのが目的なのだろう。
それは生命の危機といえるのだろうか。
殺すつもりのない人間を殺めるのは人としてどうなのだろうか。
これでも俺は人間のつもりだ。
一般的な職で給金を貰い、たまのお酒と美味い飯を楽しみにして、愚か者に怒り、美しいものに喜び、失敗に悲しむ。
立派な人間のつもりだ。
大義名分がなければ、人は人を殺せない。
義がない殺人は畜生と同じであり、感情のない行動は人形と同じだ。
そんなことを殴られ続けながら朦朧とする意識で考えている。もう二、三発で俺の意識は完全に刈り取られるだろう。
そうなれば終わりだ。
職務上の怪我なので恐らく労災は降りるはずだ。
まあ、いつかはお粥も好きになるだろう。
「私は幸せになりたいだけなのよ」
と、頭の中でお嬢様の言葉が過ぎる。
幸せになりたい、か。
まあもういいんじゃないか、あの畜生一家への報復も済んだし学園にも通えている。
自由を謳歌出来ているだろう。
勝手に幸せにでもなんでもなってくれ。
「だから、協力してよね。共犯者さん」
と、頭の中でお嬢様が不敵に笑う。
協力って、もう十分にしただろう。
一人でも侍女長をボコボコにして、俺と伯爵を騙して、姉と夫人の服を燃やし尽くせる活力があるなら一人でもどうにでもなるだろう。
俺の仕事はここまでだ。
わけのわからん怪人なんて輩に顔を潰されて、終了だ。
……………………いや?
待て、俺が居なくなったらお嬢様はどうやって暮らしていくんだ?
お嬢様は一人では風呂にも入れないほどに、生活能力が皆無なのだ。
それで幸せになれるのか?
誰がお嬢様の頭を洗うんだ?
そうだ、従うだけで何が人間だ。
俺は誰かを守ることで人間になったんだろうが。
守るために守らない、ああやべえ何考えてんのか自分でもわからない。
兎に角。
「……っ!」
俺は上着からナイフを抜いて怪人の肩に突き立てたが、殺気が伝わってしまい距離を置かれる。
「ぶ、ばぁ――あ、はー! はあ! おえっ……、でめ、…………もう、いい、殺す……っ!」
鼻と口から血が溢れ出して上手く喋れないが、俺は怪人にそう宣言をした。
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