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2・使用人、間違える。

01ナイン。

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 おれ、ナイン・ウィーバーはバセット伯爵家につかえる使用人である。

 ……なんてどうどうと言ってはみたが今日から使用人として仕えるわけで、俺はまだ初出勤前のため一秒足りとも仕えてはいないのだ。

 ようけいやくしょも出勤時に記入をするとのことなので、初出勤の為にバセット伯爵邸に向かっている今この現在、はたして俺は使用人を名乗っていものなのかもあやしい。

 とはいえ何者なのかといえばそう答える他ないのも事実である。

 いやしかし、まさかお貴族様に仕える使用人になるなんて思ってもみなかった。

 ゆうふくな家庭ではなかったがひんこんってほどじゃあないくらいの一般的な平民の家に生まれ育った俺は、読み書きや計算が出来たので十五になる前には家を出て木材加工所にて雑務をすいこうしてきたのだが。

 昨今の文明開化のあおりを受けた急激な技術発展により木造建築や造船や馬車などの需要が減り人員をさくげんするとのことで、俺は木材加工所をクビになった。

 そこに関して別にろんはない。職人ではなく雑務人員をけずり、さらに俺のように若くて読み書き計算が出来るなら再就職もようであろうというはんだんにかなっている。仕方がない。

 どうりょうたちの中には解雇通知に不満をつのらせて所長にこうにした者たちもいたが、俺はどうにもドライというか職務上の決定に対して感情的になることがない。

 職務をまっとうする、指令をかんすいする。
 それが俺の仕事に対する姿せいであり、価値観だ。

 再就職は需要の高まっている鉱山での採掘か機械工場での労働か、その辺りでの募集の中で最も給料の良さげなものを探していたのだがそんな中に一つ気になる募集を見つけた。

 使用人求む。
 職務内容、給仕、納品、雑務。
 募集要項、十八才以上で読み書きと計算が出来て力仕事も行える者。

 

 貴族なんてものに全くえんもない二十余年生きてきたが流石お貴族様だ。給料面も相場より良く、募集要項をこれ以上なく満たしていたので応募してみることにした。

 そこから侍女長による面接や面談を終えて、採用通知が届き本日みょうちょうより俺は使用人として働き出す運びとなった。

「……ここか」

 採用通知に同封されていた地図を頼りにバセット伯爵邸にたどり着く。
 空はややしらむ夜明け前、やや早く着いてしまったが遅れるよりは良いだろう。

 しかし大きな建物だ、流石お貴族様。
 庭も広いな、まずは侍女長に会わなくてはならないのだが見つけられるだろうか。
 まあ……中に入ってから誰かしらに聞けば問題はないだろう。

 これまた大きな門を開き、バセット伯爵邸敷地内へと入る。

 すると門の目の前に女が立っていた。

 女、いや少女か? ボロが過ぎる服をまとい、留まるところを知らないきたなさであるところを見るに不法侵入者か?

 いや流石に小娘一人で貴族の屋敷へ盗みに入るのは現実的じゃあない、今の時代でも下手したらきょっけいモノだ。まだ霊的なものだという方が現実的である。

 おそらく使用人なのだろう、ボロが過ぎて小汚いのは大掃除でもしていたのだろう。流石お貴族様に仕える使用人、働き者だ。

 丁度良い、とりあえずこの働き者に侍女長へと繋いでもらおう。

「おはよう。俺はナイン・ウィーバー、今日から使用人として働くことになっている。侍女長はどこにいる?」

 お疲れのところ悪いが、さくっと自己紹介をませて侍女長のどころを問う。

「……わ、私はバセット伯爵家の次女、アビゲイル・バセット、です」

 息もえに小娘、いやお嬢様はそう名乗った。

「……お嬢様でしたか。大変失礼いたしました」

 そくに謝罪して態度を改める。

 この小汚い小娘が貴族令嬢ということをもっとうたがっても良いのかもしれないが、貴族の|身身分をかたるのは重罪だ。それもまた考えにくいのなら募集要項よろしく疑問を持たないに限る。

 むしろどれだけボロが過ぎて小汚かろうが、平民の小娘と貴族令嬢を間違える俺が悪いのだ。

 そんなことを考えていると。

「た、たす、け、助けてください、私は今、おわお、追われ、て……、います! このままだと殺され、る……」 

 なんて、お嬢様はなにやらぶっそうなことをおっしゃられる。
 追われてる? 殺される? なんだバセット家は襲撃でも受けているのか?

「見つけたぞ! 捕らえろ‼」

 屋敷の方から六人ほどの男がせいを上げて走ってくる。
 捕らえるとは言っているが、なるほど確かにそれなりの殺意を感じる。

「…………助けて」

 男たちを観察していると、お嬢様は俺の目を見て再びそう命じた。

「かしこまりました。お嬢様」

 命じられたのなら拒否権はない、俺は今日から使用人なのだ。
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