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第四章 日米戦争

4ー9 太平洋艦隊の出撃

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 私は、山岸多聞丸、1892年(明治25年)8月17日生まれの50歳、海兵40期・海大24期の海軍少将だ。
 1941年10月に、秘密機動部隊である第一航空機動艦隊(一航機いっこうき)の司令官を命じられた。

 一航機は、当初は六航艦と呼ばれておったが、二隻目の超大型航空母艦が竣工してからは「航艦」ではなく航空機動艦隊の意味合いで、「航機」と呼称されるようになったもので、最新鋭の超大型航空母艦「若狭わかさ」、その護衛軽巡である「八代やつしろ」、「宗谷そうや」、「勝浦かつうら」、「笠戸かさど」の四隻、更に護衛潜水艦であるイー500型潜水艦501号から508号までの8隻からなる機動部隊である。
 必要とあれば若狭以下全艦が40ノット以上で移動できる高速部隊なのだ。

 因みに一航艦(第一航空艦隊)や二航艦(第二航空艦隊)は、空母二隻を中核とした艦隊で編成されておるんで、これを指揮する司令官は中将以上の階級の者を当てておるんじゃが、一航機の場合は空母一隻に護衛艦が4隻に潜水艦が8隻という特殊な編成であり、将兵の数もかなり少な目なので少将の儂が任命されたらしい。
 尤も、内緒で司令長官の山元さんに教えてもらったが、中道造船所で製造した艦については、吉崎社長が色々と画策して人事にも配慮しているらしい。

 そう言えば、この一航機司令官に着任する半年ほど前に、海軍省から調査票が出回っておったな。
 戦術や戦略に関する意見を問うものであったが、どうもあれは吉崎社長の画策で、あの調査の回答により回答者の心理分析その他を行い、司令官等重要人物の配置についてなにがしかの申し入れを為したらしい。

 それがどこまで採用されたかは知らぬが、少なくとも若狭以下の新型航空母艦の指揮官はいずれも吉崎社長の「し」でほぼ決まったらしい。
 格から言えば一航艦よりも一航機の方が下になるんだが、実際の戦闘遂行能力については間違いなく一航機が上になる。

 単純に言って一航機だけで連合艦隊の主力を葬り去れるだろう。
 その意味で、山元長官からは「くれぐれも力の使いどころをあやまたないように」との指示があった。

 いずれ赤城や加賀などは、大幅に改造されるか、それとも廃棄処分になるだろう。
 空母飛龍と比べるとこの若狭は雲泥の差があるし、護衛艦群も極めて優秀だ。

 儂も着任時点で教えられたこの性能については驚愕きょうがくしたものだ。
 ドンガメと揶揄やゆされていた潜水艦が高速戦艦の金剛などよりもはるかに早く移動できるのだから、水上艦を追いかけて、追い越し、待ち受け攻撃ができることになる。

 水中速力で44ノット超は流石に早すぎる。
 しかも短魚雷48本を搭載しており、水上艦や潜水艦相手ではおそらく敵無しだろうと思うのだ。

 何しろ水深500mから雷撃ができるのだ。
 儂の知っているイ号は、最大安全潜航深度が80mから90mと聞いている。

 無理をすれば120mぐらいまでは行けるとは聞いているが、かなり危険な賭けになるらしい。
 それがどう間違ったものか、何故に500mもの大深度に潜れるのかが儂にはよくわからん。

 潜水艦が魚雷を発射するのは潜望鏡を上げて狙いすまして発射するモノと思っていたが、このイ―500番台の潜水艦は、潜望鏡で狙いをつけるのではなく、音だけで位置を測定し撃つのだそうだ。
 しかもこの魚雷が追尾魚雷だそうで、狙った獲物に必ず当たる代物だ。

 余程の邪魔が入らない限りは百発百中なのだから狙われた方は避けようがない。
 しかも、直径61サンチの93式酸素魚雷の三倍ほどの破壊力を持っておるらしい。

 一応の説明では、100番の爆弾と同じ程度の爆発力が有るという話だ。
 訓練は何度もやったが、弾頭無しの模擬弾が確かに標的艦に当たりよる。

 標的艦は無人で航走する艦じゃが、こいつの推進軸を狙って魚雷がすっ飛んで行く。
 因みに、エンジンを止めても魚雷が音波を出してそれまでの目標に向かって追尾するから、どうあがいても逃げられん。

 魚雷の速度が55ノットなんで、それ以上の速度で突っ走れば或いは逃げられるかもしれんが、そんな快速軍艦はおらんじゃろう。
 魚雷の航続距離12kmというのも長いな。

 93式魚雷も1万mの射程を持っておるが、長ければよいというものではない。
 従来の魚雷はまっすぐにしか進まんから、実のところ射程が長いほど当たる確率は低くなるんじゃ。

 護衛軽巡の方は排水量が7千トン弱と小さいが、図体はでかいぞ。
 全長182 m、最大幅、21.0 m、深さ12.0 m、吃水 5.6 mじゃ。

 重巡の「青葉」、「衣笠」が新造時で

 基準排水量: 8,300t 
 全長:    185.17m
 全幅:    15.83m 
 吃水:    5.71m だったものが、

 1940年の改装後には

 基準排水量: 9,000t
 全長:    185.17m
 全幅:    17.558m
 吃水:    5.66m

と変化しておるのに比べ、全長でやや短めながら全幅が約4mも大きく、吃水はほぼ同じ程度になっておる。
 おそらく内容積ではあまり変わらんのに排水量が2000トンも少ないというのは全体に軽いからじゃろう。

 外からの見た目で言うと大した兵装は付いていない。
 5インチ砲一門、40ミリ単装機関砲二門、20ミリ多銃身機関砲が四門だけじゃ。

 特に20ミリ機関砲は砲座も無いから普通の構造物との見分けがつかんぐらいじゃな。
 この装備だけで言うと在来の駆逐艦の方が余程強力な兵装を持っておるように見えるわいな。

 じゃが、こいつは見えないところにどえらい秘密兵器を隠し持っておった。
 前部甲板に72個もの隠し孔があって、そこから噴進弾が飛び出るようになっておるんじゃ。

 対艦噴進弾が12基、対艦・潜水艦用魚雷が24基、対空噴進弾が36基(×2回戦分)を装備しておる。
 いずれも撃てば必ず当たる誘導弾という代物だから、軽巡四艦で、水上艦48隻、潜水艦若しくは水上艦96隻、航空機288機に対して被害を与えることができる。

 大型戦闘艦を一撃で葬れるかどうかは別として、対艦噴進弾では射程は約160キロなので向こうの砲弾が届く前に攻撃を加えることができるらしい。
 そのための索敵能力も桁外れじゃ。

 「若狭」搭載の早期警戒機や無人偵察機とのリンクにより、広範囲の策敵が機動部隊内で同時に認識可能になるようだ。
 若狭でも中央情報管制室に入ると、偵察機、警戒機、潜水艦、軽巡が収集した情報全てが統合されて確認できる仕組みになっている。

 いざ戦闘が始まったなら、この中央情報管制室から全ての指示命令も可能になる。
 勿論、いくら優秀だからと言って全ての戦闘情報を把握できるわけでは無いから、それなりの分業は為されるが、少なくとも大枠の指令ができることになる。

 儂が就任して以来、小笠原諸島の南方海域で行ってきた訓練はその確認のための訓練じゃった。
 面白いのはシミュレーションと言って仮想の戦場で陸海空全ての訓練ができることじゃ。

 実際に航空機を飛ばさずに飛行訓練を行い、爆撃訓練もできる。
 勿論、実機訓練も必要ではあるんじゃが、実機訓練は全員でやればそれなりに燃料も銃弾等も消耗する。

 が、仮想の戦場ならば、無制限に訓練が可能なのだ。
 これの良いところは実際に飛行機を飛ばさずに飛行訓練ができることであり、暇さえあればパイロットの仲間同士で模擬戦闘訓練をしておるな。

 従って、飛行時間が千時間に満たない者でも仮想戦場での訓練時間を含めると三千時間を超える様な猛者も結構存在することになる。
 この経験が実戦で役立てられることを願うばかりだな。

 そうして秘密裏に訓練を続けること半年余り、ついに出動命令が下った。
 米国が、我が帝国に対して宣戦布告をしてきたのだ。

 日本時間で1942年9月10日午前2時、我が国と米国は戦争状態に入った。
 取り敢えずの一機艦の任務は、小笠原周辺海域の哨戒であり、潜水艦狩りをメインとした。

 そうして10月末には、ウェーク島近海での後方支援に当たることになったが、いよいよ一機艦も本番か?


 ◇◇◇◇ 米軍視点 ◇◇◇◇

 太平洋方面の司令官であるキンメル大将の承認により、オレンジプランMkⅡが発動された。
 元々の計画では、フィリピンの米軍が自力で耐えている間に発動する計画であり、島伝いに西進して、日本を封鎖する作戦だったのだが、生憎とその最初の部分が失われて、足がかりが無くなってしまったのだ。

 これから西進するにしても、徐々に島々を基地化して行かねばならないというある意味で鷹揚な計画ではあったが、後背地の生産力に勝る米国ならではの物量で圧倒できると考えた末の戦略だった。
 米国は仮に日本が攻めて来るにしても精々ハワイまでと考えて居たから、ハワイ周辺の要塞化だけで取り敢えずは満足していたのである。

 しかしながら、日本を打ち負かすとなればそれなりに陣地を獲得し、要塞化を進めて行かねばならない。
 豪州、ニュージーランド、仏領ニューカレドニア、英領フィジーなどが同盟国として参戦してくれればそれらの領地等を足場や補給地として太平洋を西進することも可能だったのが、生憎とそれら全部が中立国の立場を取っているので、正面切っての軍事支援は得られないのだ。

 その上で、現実問題として日本が第一次大戦で獲得したトラック諸島がその西進に立ち塞がっているので、まずはそれを撃破することから始めなければならなかった。
 そのプランの最初がウェーク島の奪還であった。

 生憎とウェーク島の現状がどうなっているのかは全く不明なのだ。
 偵察機であれ、爆撃機であれ、そしてまた潜水艦であれ、出撃したモノはいずれも帰還しては来なかったのだ。

 その限界がウェーク島から概ね100海里から200海里の間にある。
 その範囲内に近づくと、消息を絶つのだった。

 敢えて遠回りして、北あるいは南からも潜水艦を接近させたが、それでも消息を絶っているのだった。
 大規模な対潜水艦部隊がウェーク島若しくはその周辺に存在するモノと太平洋艦隊司令部では推測していた。

 日本軍の主力空母4隻はトラック諸島に、またそれに準ずると思われる軽空母2隻は国内にいるらしいことが判明しており、それ以外の小型空母4隻が代わる代わる千島とアリューシャン方面に存在していることが飛行艇による哨戒で確認されている。
 但し、米国の潜水艦は、概ね東経160度線付近から西へは進出できていない。

 開戦劈頭へきとうに31隻もの潜水艦を沈められ(消息を絶っている状況)、なおかつ、ウェーク島周辺でもすでに6隻の潜水艦が消息を絶っているので、実のところ太平洋北部での哨戒は非常に希薄になっている状態なのだ。
 特に太平洋北部については、冬場には荒れるので潜水艦と雖も航行には不自由を来たすのだ。
 
 そんな中で採れる作戦は左程多くは無い。
 空母6隻を三群にわけ、ウェーク島の北東海域を中心に三方向から索敵しながらウェーク島に接近する。
 
 接敵すれば攻撃できるように特に軽空母には戦闘機だけを搭載している。
 仮に敵艦隊が存在すれば大型空母三隻に搭載している爆撃機と雷撃機の出番である。
 
 戦闘機は軽空母にはF4Fを、大型空母にはこの6月から生産が始まったF6Fが搭載されている。
 爆撃機はSBD ドーントレス、雷撃機はTBFアベンジャーである。

 ウェーク島の飛行場の大きさからみて、駐留する航空機は多くても精々150機程度、それ以上は補給を含めて長期滞在が難しいモノと分析している。
 尤も、ウェーク島が占拠されて1か月余り、日本軍がウェーク島の飛行場を拡大し要塞化していれば別なのだが、戦前の情報では日本軍に左程の基地建設能力は無い筈なのである。

 仮に150機の航空機が存在するとしても、最初に圧倒的な戦闘機数でスィープしてしまえば制空権は奪える。
 制空権さえ奪ってしまえば、残りは戦艦群の艦砲射撃で十分に制圧できると踏んでいた。

 ハワイに駐留する総力に近い大型空母3隻、軽空母3隻、戦艦6隻、巡洋艦6隻、駆逐艦18隻の戦闘部隊が、海兵隊2000名を乗せた輸送艦6隻と共に真珠湾を出港したのは1942年(昭和17年)11月10日午前10時(ハワイ時間)のことだった。

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