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第三章 新たなる展開

3-14 ロシア革命への介入 その一

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 宏禎王が以前から気にかけていた歴史の転換点が今一つあります。
 それはロシア革命です(1917年11月)。

 ロシア革命の理念そのものは素晴らしいものですが、思想家の独占欲と対立が多くの非道な殺戮を生んだのも事実です。
 そうして共産主義と言う人類にとっても大きな社会実験が幕を開けることにより資本主義社会との対立が生まれ、第二次大戦の終焉とともに歪な二極構造を産み出します。

 冷戦と呼ばれる時代には一触即発で核戦争に突入する恐れが多分にありました。
 このパラレルワールドでもその危機を乗り切れるかどうかはわからないのです。

 宏禎王は、無益な核兵器の生産を止めさせ、いずれ生じるであろう二極対立の構図を防止したいと考えています。
 一極独裁は進歩がありません。
 二極対立は、危険です。

 危ういのは同じかもしれませんが多極構造による対立の方がにらみ合いにはいいのかもしれないと思っているのです。
 所謂三すくみですね。

 そうした状況に持っていけるかどうかはわからないのですが、いずれ中国が勃興して勢力を強めれば多極の一つになり得ますが、帝国はその版図に飲まれてはいけないのです。
 まして共産主義に染まった一党独裁政治は個人による独裁政治よりもたちが悪い。

 その意味でロシア革命は歴史の必然にしても、そこに冷徹で有能すぎるボリシェビキの連中は排除すべきではないかと考えました。
 ある意味で収束点を壊すことになってカオスが生まれる可能性もありますが、宏禎王は決断しました。

 第一次大戦の不利を挽回するためにドイツ帝国が裏で画策した陰謀の一つ、ボリシェビキ30名のフィンランドからのロシア潜入を阻止し、レーニンを含む指導者を皆殺しにします。
 そのために6体のゴーレムをステルス型の魔道飛空艇でフィンランド国境に送り込みました。

 あぁ、私(宏禎王)は、米国留学中でしたので表向きは全く関与していないことになっていますので念のため。

 フィンランドのVainikkala駅は、フィンランドとロシアを結ぶ線路の国境沿いの駅ですが、1917年4月3日レーニン達30人のボリシェビキを載せた貨物列車は、ドイツ軍の手引きによりその駅を出発して正に国境を越えようとしていました。
 既にフィンランド側の検問は通り過ぎ、列車はペトログラードに向かって走り始めているのです。

 4月とは言え北緯60度を超える内陸部は依然として極寒の地です。
 人が乗っていることを悟られないために暖房設備も無い貨車ですが、隙間風を抑え、熱い毛皮の防寒着を重ね着してウォッカを飲んでいれば、彼らは寒さに耐えられるのです。

 しかしながら思いもかけず走行中の貨車の扉が突然外から開かれ、ボリシェビキたちが驚いている間に黒ずくめの男二人が中に飛び込み、自動小銃を乱射しました。
 自動小銃はサイレンサーが施されていて大きな音は発しません。

 二丁の自動小銃のマガジンが空になるまで撃ち続けられた後、彼らは弾倉を手早く取り替え、血にまみれて倒れた男たちを改め始めます。
 少しでも息のある者にはその頭に二発の銃弾が撃ち込まれます。

 襲撃から10分後にはボリシェビキで生きている者は一人もいませんでした。
 任務を終えた彼らは無言で列車の外に身を投げます。

 斜面を雪まみれになって転がった二人はすぐに降下してきた半透明の魔導飛空艇に拾われ、魔導飛空艇は音もなく上昇してやがて雲の合間に消え去りました。
 こうしてドイツの画策したボリシェビキはロシア側の次の駅で死体となって発見されドイツ帝国がたくらんだ陰謀の一つは潰えましたが、ロシアのユリウス暦による10月革命は、指導者が定まらないまま成し遂げられました。

 宏禎王の企みは一つが達成されたのです。
 次いで宏禎王が迷っていたもう一つの懸案事項も実行することにしました。

 理由は二つ、可哀そうと言う情念が一つの大きな理由であり、今一つは膨大なロマノフ王朝の財産が勝手に欧州の銀行家に搾取されるのを防ぐためでした。
 ロマノフ王朝は国内に美術品を収集し、複数の離宮を造るなどかなりの財宝を国内に持っていましたが、それにもまして国内情勢が危うくなった時のために信用のおける文官に命じてスイス、オーストリア、英国、フランス、スペインなどいくつかの国の貸金庫に宝石を、更に多額の金額を隠し口座に保有していたのです。

 それら隠し口座の金や貸金庫の宝石は、持ち主若しくはその相続人から申し出がないまま一定の年限が過ぎると銀行の資産に組み入れられてしまうのです。
 隠し口座の契約条項にそのような条項の記載があり年限は30年とされました。

 無論、その期限前に本人若しくは相続人若しくはその代理人が銀行で所要の手続きを踏めば期限はそこからさらに30年延長される仕組みになっています。
 但し、代理人は「入金」はできても、口座からの現金引き落とし等はできないことになっています。

 ロマノフ王家一族が革命の後に囚われて監禁され、後に裁判なしに全員が銃殺されたことは歴史上の事実です。
 殺戮された一族には、13歳の皇子も17歳の皇女も居ました。

 ニコライ二世やアレクサンドラ皇后は、いい大人ですしロシア帝国を荒廃させた張本人でしょうから相応の責任はあるでしょう。
 しかしながら病弱(血友病)のアレクセイ皇子に責任があるとは思えません。

 ソヴィエトやボリシェビキの強引な手法は革命に付きまとう混乱のなせる業かも知れませんが、人として本来許されるべきことではないはずです。
 従って、監禁されたロマノフ王家の一族を助け出し、ゆかりのある英国王家に託そうかと考えているのです。

 そのために秘密裏にロンドンに忍びの者を放ちました。
 忍びの者と言うのは大袈裟ですが、宏禎王の作ったゴーレムのことです。

 時の英国王はジョージ五世ですが、その宰相デイヴィッド・ロイド・ジョージに打診したのです。
 ロシア皇帝一家を英国に亡命させたいが受け入れの可能性はあるかと。

 深夜覆面をしたままの賊にどこまで対応してくれるかなと思いましたが、ディヴィッド卿意外と乗り気でした。
 その後の彼の動向に注視していると翌早朝にバッキンガム宮殿を訪れ、ジョージ五世に面会し、即座にロマノフ家の亡命話を国王に上奏したのです。

 それを聞いて大いに国王が安堵したので、これは普段から何か救出の方法はないのかと宰相が国王に尋ねられていたのだと思い至りました。
 皇帝の亡命と言うのは英国にとってはいいプロパガンダになりますし、ボリシェビキやソヴィエトの思惑を外すいい機会になります。

 場合によってはシベリア方面で抵抗を続ける白ロシア軍の結束にもつながるかもしれません。
 どのみち英国政府は革命を起こした輩と当面手を組む気はありません。

 手があれば英国も救出に動いていたのでしょうけれど、今は正体のわからない謎の集団の行動に委ねるしかないのです。
 失敗したところで英国に傷はつきません。

 何れにしろ、ジョーカーという手札を握っておきたいディヴィッド宰相なのでした。
 で、話はとんとん拍子に決まり、忍びの者をつなぎとして、1918年2月下旬に救出作戦を決行、ロマノフ王家一行及びそれに同行する忠臣やメイド達などを救出して、英国バッキンガムシャーにあるワデスドンのワデスドンマナーの屋敷から噴水に至る前庭に秘密裏に運ぶこととして、決行の時期及び輸送の方法については全て現地の判断に任せることとしました。

 現場の判断って勿論宏禎王のことですよ。
 人数が多いし、余り先進の機材は使いたくないので、飛行船を使うことにしています。

 飛行船についてはかなり前から実用化が図られ、1911年の伊土戦争では、リビアの攻撃にイタリア軍の海軍飛行隊が爆弾攻撃を飛行船から行っています。
 使用する飛行船は勿論魔導飛行船で、全長75m、全幅19.5m、高さ17.4m、ガス嚢容積約9000立米、客室全長25m、乗員乗客最大60名、搭載荷重5トン、最大飛行速度150km,
 航続距離∞、飛行可能時間∞、最大高度8500m、迷彩色、夜襲行動可能装備装着とちょっとオタクな特別仕立ての飛行船です。
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