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第十二章 異世界探訪

12ー22 十歳の子供たち その一

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 僕は、フェルディナンド・ファンデンダルク。
 この年明けに10歳になりました。

 ホブランドでの成人は15歳からなんだけれど、一応10歳になると冒険者ギルドにも登録できるようになるのです。
 10歳になると商業ギルドなんかへも登録は可能だけれど、冒険者ギルドと違って、そちらはあくまで見習いとしての登録なんですよ。

 もちろん、冒険者ギルドだって十歳児を本当に一人前として扱ってくれるわけじゃないんだけれど、登録していればクエストを一人でも受けられる場合があるし、その成果については見習い扱いじゃなくって成人と同様の扱いになるんです。
 でも商業ギルドの場合では、完全に成人が傍についていなければ何もできない仕組みになっているから、登録はできてもあくまでお手伝いの感覚なんですよね。

 ホブランドでは、成人も一つの節目なんだけれど、10歳も節目の一つになっているんです。
 そうして父上から許しが貰えることになっているので、10歳からはこの世界以外の異界の観察をし、その安全性が確認されれば短期間での訪問もできるようになるのです。

 尤も、観察の方には比較的制限が無いのだけれど、異界訪問については、行く先を明示した行動計画書を提出し、父上から最終的な許しを得なければ出かけられないんだ。
 理由はとても簡単なんですよ。

 おそらくだけれど、僕たち年長組については、僕らが行くことのできる世界ならば、そこで害されることはほとんどない筈なんだ。
 僕たち年長組は、領軍騎士団や魔法師団の猛者もさよりも実質的に強い力を持っている。

 だから父上が心配しているのは、正当防衛にしろ、緊急避難にしろ、むしろ僕らがやりすぎてしまうことを恐れているみたいなんです。
 例えば、僕一人でもラドレック程度の町ならば、左程時間を掛けずに殲滅できてしまう。

 このことは、ある意味でとても怖いことだと思うのです。
 年端も行かない子供が、条理を知らぬままに感情の赴くままに力を放出したならば、ジェスタ国でもかなり大きな町が消滅するかもしれないということなんです。

 父上は、僕たちを信用はしてくれているけれど、一方、異界で僕たちが直面する事態を全て予測し、掌握しているわけではないのです。
 いつ何時なんどき、予想外のことが起きるかわからないので、その懸念を拭い去るためにも、父上は異界の中でも訪問しても良い異界とそうでない異界とを明確に区別しているのです。

 このほかに、観察だけはしてもかまわない異界、観察さえもしてはならない異界も父上が指定するみたいです。
 父上が発見した時空間魔法の法則のようなものがあって、その理屈に則って僕らも同じようにすれば、あまり手間暇をかけずに狙った異界を覗き、あるいは訪問できるんだ。

10歳になった初春月の1日の夕食後、僕たち年長組は揃って父上の書斎に呼ばれました。
 僕(実母コレットの第一子)、アグネス(義母シレーヌ第一子)、サムエル(義母マリアの第一子)、ビアンカ(義母ケリーの第一子)、マクシミリアン(義母エリーゼの第一子)の五人が父上の子供では年長組なんだ。

 何しろ父上の子が、9人の妻に三人ずつ、全部で27人も居るからね。
 僕らの場合、兄弟姉妹っていうのはこれほど多いのが極当たり前のことと思っていたけれど、王侯貴族でも20人を超える子持ちは流石に稀なことらしい。

 でも兄弟が多いってのはとっても良いことなんだよ。
 いつでも身近に愛し、愛される存在が居るというのはとても幸せなことなんだ。

 互いに切磋琢磨し、助け合い、教え合って楽しく暮らしている。
 皆仲良く生きて行けるということが、とても大事なことなんだと最近わかってきた。

 たくさんの弟妹が居るとそりゃぁ面倒ごとも起きるよ。
 幼い頃は、僕らも弟妹の面倒を見るのが結構大変だった。

 何しろ僕らの兄弟姉妹は、全員が特大の魔力を保有する生まれながらの魔法師なんだ。
 だから極端な話、ろくに意識を持たないうちから魔法を使い始める子もいた。

 僕たちの母上達は、フレデリカ義母かあさんとリサ義母さん以外でも、魔法を使える人も居るのだけれど、とても限定的なんだ。
 だから自分たちよりも力量のある子供たちの魔法行使を制限することなんてできやしない。

 そういう仕事は、専ら父上とフレデリカ義母さんの役割で、たまにリサ義母さんが助っ人に入るくらいなんだ。
 だから、僕ら年長組がある程度周囲の事情がわかりだしてからは、僕たち年長組が弟妹である年少組を教え導くようにした。

 僕たちは念話ができるからね。
まぁ、この念話ができるのも父上からの教えがあってのことなんだけど・・・。

 いずれにしろ、弟や妹達が言葉を発する前から、念話で弟妹達に話しかけてきた。
 おかげで弟妹達もすっかり念話能力が身についていて、お母様達と普通に会話をしながら、念話で別の会話が僕たちなんかとできるようになっている。

 魔法についても僕らが知っていることは順次弟妹に教え込んでいる。
 その場合にも、父上の許可を一応取り付けてからにしているんだ。

 幼い頃は、情緒不安定な場合もあるから、余り危険な魔法を教えたりすると周囲の者が迷惑を被ったり、怪我をすることにもなりかねない。
 でも5歳を過ぎたら、ほぼ情緒も安定するようになったので、現在では僕たち兄弟姉妹に問題はほぼ無くなった・・・と、思っているよ。

 後は、年齢相応の知識の習得に合わせて、魔法などの特殊能力も徐々に追加している状態なんだ。
 もちろん、個人によって能力の発現や伸び方に違いがあり、光属性に天稟てんびんがある子や、火属性に天稟のある子など、兄弟姉妹により種々の差異があるんだよ。

 僕なんかは、時空属性と光属性に天稟があるけれど、ほかの属性がダメという訳じゃない。
 色々なことができるけれど、どちらかというと得意なのが時空魔法と光魔法というだけで、比較的不得手な土属性魔法でも、領軍魔法師団の土属性魔法師の数倍の発現能力があるみたい。

 だから、父上の言いつけで、余程のことが無い限り、他人前ひとまえでは魔法や固有能力を披露しないことになっているんだ。
 で、その父上が10歳以上の年長組を集めてのお話なんだけど、かねての約束通り、今日から異界の訪問が一部許されるようになったんだ。

 取り敢えず、異界の様子を知るために、これから体験ツアーで地球世界とブレバス世界、それにクインテス世界の三つに僕らを連れて行ってくれるみたいだ。
 出発の準備は、特に不要みたい。

 父上が行使する認識疎外の魔法と変容の魔法で向こうの世界に見合った服装に見せかけるらしいので準備が不要みたいなんだ。
 因みに地球世界とブレバス世界は僕らが単独で訪問しても良い異界じゃない。

 あくまで異界を訪ねる場合の注意事項を教えるために訪ねるようであり、父上が同伴しなければ訪問はできない。
 この二つの世界は観察をしても良い場所が一応選択されている。

 クインテス世界の場合は、単独で出かけても良いとお墨付きをもらったけれど、ホブランドでもクインテス世界でも僕らは単なる子供にしか過ぎないので、一応保護者同伴で無ければ許されない。
 保護者というのは父上が作った人造人間とでも言うべきアンドロイドだ。

 ゴーレムの場合は明らかにヒトではないように見える金属の塊だけれど、アンドロイドは人造肌に覆われていて一見して人間に見える。
 本来は人造物なんだから意思が無いように思うのだけれど、父上が作ったゴーレムもアンドロイドも何とはなしに人間臭さを感じさせる。

 父上の子供である僕たちにとっては幼い頃から周囲にいる知り合いなんだ。
 特に、アンドロイドは喜怒哀楽の表情を見せることができるからね。

 正直なところ、僕らも、どこまでが彼らの芝居なのかも区別がつかないんだ。
 でも確かに言えることは、彼らは父上や僕たちにとってもかけがえのない忠実な存在だ。

 今日も、父上と同伴ではあるけれど、5人のアンドロイドが一緒に同行することになっている。
 最初に行ったのは地球世界だった。

 転移直前に父上が教えてくれたけれど、父上は元々地球世界の人間だったんだって。
 それなのに、ホブランドの今は滅亡した国家が禁断の魔術を使って勇者召喚を実行した際にすぐそばにいた父上も巻き込まれてしまって、ホブランド世界に飛ばされてしまったようだ。

 巻き込まれたままで召喚されると、単なる巻き添えで何の能力もない父上が抹殺される未来しかなかったので、普段は地上世界に干渉しないホブランドの神様が父上を拾ってくれて、相応の能力と加護を与えて地上に送り出してくれたようだ。
 その時点では、当該神様にも地球世界に父上を戻す方法が無かったらしい。

 父上がホブランドに降り立ってからのことは、英雄伝説サーガのおとぎ話にもなっているから僕らも大枠のことは知っている。
 色々な紆余曲折もあって、父上と母上達とが結ばれ、僕らが生まれたわけだ。

 で、まだ母上たちとも結婚する前に、時空魔法による空間転移を試していて、本当に偶然に、神様でもできないという異界への転移もできてしまったようだ。
 その際に転移したのが父上の元居た世界の地球だったわけなんだ。

 ホブランドではわずかに数か月が経過しただけなのに、地球世界では数年が経過していて、異界同士の時間のずれをその時に初めて知ったのだそうだ。
 父上が召還される前に居た地球世界は21世紀前半だったけれど、僕らが訪問しようとしている今では23世紀に入っていた。

 だから父上の知っていた親しい人物はとうに亡くなっている。
 200年も経てば父上の兄弟の孫だって生きてはいないよね。

 父上の話では、父上の系譜につながる一族は健在のようだ。
 時折、その子孫たちがどうしているかを確認している様子だよ。

 初めて訪れた地球世界は、まぁ、見るものすべてが初ものだから五人ともきょろきょろしている。
 地球世界で訪れた場所は、父上の故国である「」ではなくって、「」という国だった。

 ホブランドに降り立った時に容姿が変わっていた父上もそうなんだけれど、アンドロイドを含めて僕達全員が典型的な日本人の容姿をしていないから、日本では目立ちすぎるので、白人社会の中では比較的治安のよいオーストラリアにツアー先を選んだようだ。
 此処の言語は英語という言葉のようだけれど、少しなまりがあるそうだ。

 父上から念話で英語の知識を送られて、一瞬の間に僕たちも英語族になったみたい。
 今いる場所は、オーストラリア大陸の西側にあるパースという町の中心街だ。

 Elizabeth Quayという水辺の近くの公園区画のようだけれど、もう五回以上も古い建造物を壊したりして再開発をしているらしく、とても新しい施設や街並みと遊歩道が広がっていた。

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