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第十二章 異世界探訪

12-8 サルディア帝国とリューマ

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 ベレスタ沖の海戦でサルディア帝国海軍の派遣艦隊が敗北し、将兵全てが捕虜になった話は、すぐに周辺国に広がった。
 やがて、ベレスタからダロカス軍船43隻に溢れるほどのサルディア海軍将兵が乗り込んで出帆、サルディア帝国の軍港ル・アルボに向かったのを多くの商船が見かけ、その噂話が本当であったことを知った。

 将兵は放免されたものの防具等も奪われてほぼ丸腰であり、如何にも敗残兵という姿を晒していたからだ。
 当のサルディア帝国では当惑を隠せないが、104隻からなる大艦隊を出撃させ、しかもそのうち四隻は新兵器である大筒トーパを32門も搭載した新型艦なのであるから、当然に勝利を得るものと確信して送り出したにもかかわらず、まさかまさかの敗北、しかも、全艦がほとんどまともに戦うことなく降伏したとあってはサルディア帝国の面目が成り立たない。

 軍港ル・アルボに入港した42隻のダロカス軍船に乗る将兵から一応の弁明を聞いたうえで、デ・ラーブ型戦列艦を新兵器搭載のままベレスタの手に渡す結果となった艦長及びその参謀二人、さらに同様に戦わずしてダロカス型軍船72隻をベレスタに引き渡すことになってしまった各艦艦艦長は全員が斬首の刑に処された。
 自らも聞き取りに当たったバーランディル参謀総長は、各級指揮官が部下とその家族を思って降伏したことを止むを得ない仕儀と理解はしても、帝国軍の立法の定めから逃れるすべは無く、涙を呑んで部下たちを処断したのであった。

 一方でたった一隻の小型船でありながら、デ・ラーブ型戦列艦の大筒による集中砲火に耐え、なおかつ瞬く間にデ・ラーブ型戦列艦三隻を含む31隻もの軍艦を爆散せしめたということに驚愕を覚えたのだった。
 小型船を双眼鏡等でのぞいていた艦長や側近の乗組員の話では、小型船には大筒のような武器は何も搭載されていなかったというのである。

 それにもかかわらず、一瞬にして軍艦を跡形もなく破壊する何らかの兵器が有ったということなのだ。
 万が一にでもそうした船からなる艦隊が押し寄せてきた場合、帝国側には防ぐ術がないと思えるのだった。

 帝国お抱えの技術者たちに尋ねても首を傾げるばかりでその方法がわからなかった。
 そうして今一つの問題は、帝国の秘密兵器が少なくともベレスタには知られてしまったということだ。

 製造するにはそれなりの技術力を要するが、真似できないモノではなく、その一事をもって帝国の優位性が失われることになったのだ。
 恐らくベレスタでは嬉々として、あの大筒を入り江の崖に配置し、港を難攻不落の要塞に変えることになるだろう。

 それにしても、爆散した31隻以外にも、鹵獲されたまま戻ってこないデ・ラーブ型戦列艦1隻とダロカス型軍船30隻だけでも被害額は莫大なものになる。
 仮に宰相から予算をなんとかふんだくれることができたにしても、海軍を再建するのに10年はかかるやもしれない。

 皇帝陛下に事の次第をご報告申し上げるにしても、三長官と呼ばれる自分と海軍長官、更に海軍工廠長の首を掛けねばなるまいなとため息をついた。
 そうして、この後、サルディア帝国海軍は、ダーナ号と同じ二本マストの小型帆船を極端に恐れるようになるとともに、島嶼国家への侵攻を10年以上にわたって行わなくなったのである。

◇◇◇◇

 俺はリューマ。
 ベレスタ沖に現れた百隻を超える大艦隊がサルディア帝国海軍のモノということは、帝国の軍港ル・アルボを出港時からわかっていたことだった。

 いつもながらδ型ゴーレムは良い仕事をしてくれる。
 どうするかについて若干迷ったものの、取り敢えずのお得意さんを失うわけには行かないから、撃退することにした。

 いきなり殺戮するのもなんだから一応警告を与えたんだけれど、まぁ、頭の固い軍人さんは聞く耳は持たないよね。
 あちらは40尋以上もありそうな大型艦なのに、いきなり二枚帆の小型船ダーナ号を撃って来やがった。

 まぁ、サルディア海軍の砲術士官は中々上手だったと思うよ。
 風も無く、凪いでいた所為も有るけれど、一撃目から命中弾だったからねぇ。

 でも、結界というかバリアを張り巡らしているから、こっちは大邸宅ほどの大きさの隕石が天空から猛烈な速度でぶち当たっても何の被害も生じないはずだ。
 従って、新兵器だろうが何だろうが完璧に防いで見せたことになるな。

 そうして、向こうが発砲してきたということは、こちらの警告を無視したという明確な意思表示だから、遠慮はいらないよね。
 最後通告を与えてから順次攻撃して行った。

 方法は地球で入手したセムテックスとニトロ系有機化合物からなる粉塵爆薬だ。
 「セムテックス」は所謂プラスティック爆弾、「粉塵爆薬」というのはボンベに圧縮ガスと共に封入された気体混合物の爆発物だ。

 手榴弾のようにピンを外すと数秒後に内部の爆発性粉塵が周囲に噴き出る代物だ。
 手榴弾よりわずかに大きいモノなんだが、直径10m、高さが4m、厚さ1mほどの鉄筋コンクリート製トーチカを一発で破壊する爆発力を持っている。

 ガスのように噴出させたところに火種を放り込むか、別の火薬を爆発させると爆発するんだ。
 で、今回はセムテックスに時限信管をつけて、サルディアの軍艦の内部にプレゼント。

 1隻当たり、セムテックス1個、粉塵爆弾3個を空間転移で送り込んでやれば、すぐに船が爆散した。
 大勢の人が乗っているけれど、戦争なんだから人死にひとしにはやむを得ない。

 被害者には気の毒だけれど諦めてもらうしかないな。
 順次軍艦を爆散させ、逃げようとするものや抵抗して来るものから優先的に攻撃していたら、3割ほど減った時点で残った船全部が白旗を掲げて来た。

 マストに白く長い帯のような旗を掲げるのがこちらの世界の降伏の合図。
 数を数えたら73隻も残っていた。

 お前ら軍人だろう?
 もう少し根性見せたらどうかなとも思うが、まぁ、しょうがないか。

 何しろ攻撃方法が見えないまま次々に爆散して行く僚艦を見れば降伏しか手が無いと思うよね。
 俺が事前の最後通牒で「助かるには降伏しかない」とそう言ったし、相手の攻撃は全然効いていないんだし・・・・。

 まぁ、そんなわけで73隻の軍艦と8千名を超える捕虜を抱えたんだけれど、俺は単なる民間人。
 俺の手には余るから、港に残っていたガゼルに伝書鳩風ゴーレムで連絡を入れ、ベレスタの官憲というか軍人というか、港に出張っていた者に通報し、73隻の軍艦の武装解除と捕縛をお願いした。

 時間はかかったけれど、おっかなびっくりながら、ベレスタの官憲が白旗を掲げる帝国海軍の軍艦に乗り込み、武装解除を行っていったがそれだけで丸々一日かかったな。
 俺も二刻ぐらいの間に渡ってベレスタの守備隊隊長から尋問を受けた。

 言葉は丁寧だったけれど、内容は聞き取りじゃなくって尋問。
 しつこく聞かれたけれど、・・・。

 「放置すれば自分も船も危うくなるから戦った。」
 「魔法でやった。」
 「魔法の名称も効果も教えられない。」

の一点張りで尋問を切り抜けた。
 警備隊長はぶんむくれていたけれど、それで納得してもらうしかないよね。

 何しろ、俺はベレスタの英雄に祭り上げられていたらしいし・・・。
 丘の上からだと海戦の模様が良く見えたらしい。

 ダーナ号が砲撃を受けていたのも見えていたし、俺の警告やら最後通牒も拡声器でやっていたから陸まで届いていたらしい。
 その後で花火のように順次爆発して行く軍艦を見れば、誰がヒーローだったのかはみんなが知っていた。

 俺が武装解除に付き合って現場海域にとどまり、翌日の昼頃、港に戻った時は、それこそ市民が総出で桟橋にまで押しかけて来ていて、人混みの中で何人かが押されて海にはまるほどの騒ぎが起きたぐらいだった。
 まぁ、いずれにしろ俺は市民の称賛の声で迎えられたわけだな。

 何だかベレスタの執政政府の方で報奨を考えているようだったが、俺にはそんなことを悠長にやっている暇はない。
 他の城塞都市にも回らねばならないから、予定よりも二日遅れで俺はベレスタを出港したのだった。

 当然のことながら、半月後にベレスタを訪れれば、結局はつかまるよなぁ。
 まぁ、祝賀会ぐらいなら出席してやってもいいかと思っている。

 余りこっちの世界でも痕跡を残したくはないんだけれどね。
 最近、なんだか俺の魅力度が上がったようで、俺は特別なことはしていないんだが、女性が凄く振り向くようになっているんだ。

 俺としては、一生懸命認に認識疎外その他の魔法もかけているんだが、姿を現さざるを得ないこともある。
 そんな時に、うっとりした顔で見られるとこっちが困ってしまうよな。


 特に若い娘が目をハート型にして遠巻きで見ているのが多いんだが。
 偶には当たって砕けろみたいな感じでデートを申し込んでくるのも居るんだぜ。

 遊びと割り切れば、色々あんなことやこんなことをできなくもないが、僅かに残っている俺の良心が邪魔をするんだ。
 何せ、俺の嫁s達もそうだったが、若い子は15~6歳前後だから、高校生程度だよね。

 中には幼さを残した顔の娘も居るから、何となく小児性愛にはまりそうで困っているぜ。
 で、中高生向けのプレイボーイは務まらないと思うので専ら逃げ回っている有様だ。

 もっと年増なら俺の良心も傷まないんだが・・・。
 これは贅沢というものか?

 ウーン、そろそろ、限界かもな。
 それなりの錬金術師を見つけて、化粧品の作り方と魔道具を託して、この世界ともおさらばするか。

 この世界もウチの子供達だけで遊びに来るには環境が良くないのが明確だからな。

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