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第十一章 ファンデンダルク侯爵

11ー8 警告

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 俺も色々とやることがあるので結構忙しいのだが、ガランディア帝国から差し向けて来る刺客を放置しておくわけにも行かない。
 闇組織オーレブレオンにたっぷりと金を使わせてから始末することも考えたが、どうせ奴らも前金以上の金は使わないだろうし、金を使うにしてもファンデンダルク家には一切入って来ない金になるだろう。

 おそらくは、その大半を大陸間の輸送費に使い、また、アジトにするであろうオルテンシュタイン帝国で消費される可能性が高い。
 それに正直な話、敵対勢力に俺の支配領域にまで土足で踏み込んでもらいたくはない。

 なので、速攻で始末をつけるとともに二度とそんな気を起こさせないよう責任者に警告?脅し?を与えることに決めた。
 第一に、闇組織オーレブレオンが放った刺客の始末だな。

 刺客と言うよりはアジトをオルテンシュタインに作るための先遣要員二名だがな。
 両名とも、闇組織オーレブレオンの幹部であるダミルカスからの指示を受けて、ガランティア帝国のファミル商会の交易船に乗り込んでオルテンシュタイン西部の交易港ルアンドに向かっている最中だ。

 現地時間の真夜中に西エオール海を東に向けて航行中のガランディア交易船の船室で、オーレブレオンの男二人の首を撥ねて始末させた。
 首をなくした胴体は残っているから翌朝にはこの交易船内で大騒ぎが起きるだろうが、それは放置しておく。

 内部からしっかりとカギのかかった密室で首なし死体があるというミステリーなんだが、仮に名探偵がいても犯人の特定は難しいだろうな。
 俺は男たちに張り付けたδ型ゴーレムに指示をしただけでその場には居なかった。

 δ型ゴーレムは百分の一秒遅れのディアトラゾ空間から、一瞬の間に顕現し、刃物を使って二人を殺害したんだ。
 首は、一旦亜空間に収納させたので、亜空間回廊を通じて現在は俺の手元にある。

 そいつを凍らせて、インベントリに保管し、翌日の夜には指示を為したダミルカスの元へと向かう。
 ダミルカスも首を撥ねることに決まっているんだが、今後のためにも、闇組織オーレブレオンには相応の警告を与えておく必要がある。

 そのために交易船の中で殺害した男二人の首が必要だった。
 俺の目の前には首を失ったダミルカスの死体があり、そのすぐ傍らには、俺の闇魔法でぐっすりと寝ている女がいた。

 ダミルカスの馴染みの娼婦のようだが明日にはこの女が気づいて騒いでくれるだろう。
 そのベッドのわき机には、交易船で殺した男の首二つを並べておく。

 同時に首だけになっている片方の男の口にはオーレブレオン宛の書簡をくわえさせてある。
 『ジェスタ王国に今後一切関わるな』という警告の文言である。

 この警告を聞かない場合は、闇組織オーレブレオンに相応の災いがもたらされ、場合によっては闇組織一つが完全に消え去ることになるだろう。
 その監視のために新たに30体を超えるδ型ゴーレムも配置したのだが、やれやれ、面倒なことだ。

 次いで、宰相補佐アーレンシュタインの自宅へ侵入、妻と寝ているアーレンシュタインの首を撥ねた。
 妻の方は闇魔法でぐっすりと寝ているから翌朝までは目が覚めないはずだ。

 こちらも朝になれば大騒ぎになるのだろうな。
 その次は、宰相ツァイネルの屋敷だ。

 ツァイネルも妻と一緒に寝ていたが、用事のあるのはツァイネルだけで、女の方に用事は無い。
 いびきをかいて寝ているツァイネルにびんたを張って強制的に目を覚まさせ、目の前に鋭い刃物を突き付けてやれば騒ぐことも無い。

 ツァイネル宰相は、武闘派ではないということは事前に確認している。
 因みに蝋燭の灯りをつけているので室内はほのかに明るいのだが、俺は黒尽くめの衣装で目だけ出している格好だから、人相はわからないはずだ。

 宰相が声を発した。

「貴様何者だ。
 何の目的があってここに侵入した。」

 少し大きめの声でしゃべっているのは、屋敷にいる者へ聞こえるようにとせめてもの抵抗だろう。

「ふん、誰でも良いだろう。
 お前さんに名乗る名は持っていない。
 ガランディア宰相のツァイネル殿にジェスタ国のファンデンダルク卿から警告の伝言が有るのでわざわざ届けにやって来たんだぜ。」

 宰相は、内心驚愕しながらもとぼけて見せた。

「ジェスタ国のファンデンダルク卿?
 一体何の話だ。」

「ファンデンダルク卿からは、既に一度警告が発せられている。
 ジェスタ国の交易船に手を出すなとね。
 だがその警告に更なる上乗せをするそうだ。
 ジェスタ国に関して一切の手出し無用。
 仮に手を出せば、お前さんの首が物理的に跳ぶことになる。
 無論、お前さんの一族郎党も後を追うことになるかも知れないし、お前さんが忠義を尽くしている皇帝一家にも大いなる災いが降りかかることになるやも知れぬ。
 因みに、傍から見てお前さんが指示したものか別の者が指示したものかはわからずとも、ガランディア帝国の関わりがあると知れた時には報復されると思え。
 これが二度目の警告であって三度目は無いそうだ。」

「そんな無茶な・・・。」

「警告は伝えたぜ。
 あ、後、土産がある。
 そこのテーブルの上に置いてある木箱の中だ。
 一応冷凍してあるが、溶けると匂うし、汚れるかもしれないから、早めに処分することをお勧めする。
 一つはお前さんが良く知る人物のだ。
 もう一つはお前さんが直接会ったことが無いのかもしれんが、まぁ、関わりのある人物のだ。
 もう一つ、この屋敷の者は警護の者を含めて全員が良く寝ている。
 少なくとも隣の奥さんと同様、半時ほどは目を覚まさないだろう。
 だから、自分で始末をつけろよ。
 じゃぁな。」

 怪しげな風体ふうていの男は、悠然とツァイネルの部屋から去っていった。

 ◇◇◇◇

 ツァイネル宰相は、余りの出来事でしばし呆然としていたが、不審者に言われたことを思い出した。
 テーブルの上に置いてある土産物とやらを確認せねばなるまい。

 宰相は魔道具の灯りをつけ、蝋燭の灯りは消した。
 蝋燭は今どき流行らないが、庶民の間では安価だから未だに需要がある。

 だが火事の危険性があるものを我が屋敷で使うなどもってのほかだ。
 テーブルの上の木箱はかなり大きなものが二つである。

 やがて匂う?
 今のところ臭いは無いな。

 一旦手で持ち上げてみると思いのほか重たい代物だ。
 恐る恐る蓋を開けてみると、仕掛けがあったのか一気に箱がばらけた。

 そこに鎮座していたのは、人の首?
 しかも、奇妙にいびつに見えるが、補佐のアーレンシュタインのそれに違いなかった。

 まさかそんなものが出て来るとは思いもかけなかったツァイネルは「ギャァ~っ」とわめき、思わず後退った。
 そして不審者の言葉を思い出した。

 半刻ほどは誰も起きて来ないのだ。
 止むを得ず、観念してもう一つの箱も蓋を開けてみた。

 やはり男の首だった。
 だが、生憎とツァイネルの記憶には無い男だった。

 だが、アーレンシュタインがらみの男で、ジェスタ王国就中ファンデンダルク卿に関わるものと言えば・・・。
 おそらくは、闇組織オーレブレオンの者で、アーレンシュタインと接触していた者なのであろう。

 だが、アーレンシュタインに指示したのはわずかに十日ばかり前のこと。
 それが如何にすれば遠く別大陸に居るはずのファンデンダルク侯爵の知るところになるのだ?

 それに、世の中の常識を覆すほど奴の諜報組織は優秀なのか?
 宰相の邸宅は皇都の中でも貴族街の奥まった位置にあり、滅多なことでは素性の知れぬものなどは入れぬ場所だ。

 そもそも貴族街そのものが大きな城壁で囲まれており内部に入るには四か所の門をくぐらねばならぬ。
 当然のことながら門衛が不審者など通すはずもない。

 おまけに貴族街を近衛師団の予備隊が夜中でも巡回警邏しており、不審者が自由に動けるはずも無いのだ。
 その中をかいくぐって来た先ほどの者は余程の腕達者であって、やろうと思えば儂の首などいつでも取れるという脅しを兼ねているのだろう。

 それにしても、この一件、もう少し掘り下げておかねば後々帝国に災いをもたらすことになるやもしれない。
 ツァイネルはまんじりともせずに眠れぬ一夜を明かした。

 夜明けになって、宰相の依頼により近衛師団が秘密裏に調査に動き、アーレンシュタインの屋敷の惨劇が判明した。
 今一つ闇組織のオーレブレオンの件については、次席の宰相補佐であるマルデスが秘密裏に動いてオーレブレオンと接触、オーレブレオンにも謎の者が動いていたことが判明した。

 少なくともオーレブレオンの幹部一名が首を撥ねられ殺害され、更にはオルテンシュタインに送り出したはずの工作員二名の首が、当該幹部の首なし死体のそばにあったことが判明した。
 後に宰相宅に届けられた首を内々で確認させたところ、オーレブレオンの幹部ダミルカスであることが判明したのであった。

 この時点に及んで、ツァイネルはジェスタ王国には決して関わるまいと心に決め、同時に各方面へジェスタ王国とは決して関わらないよう指示を出したのである。
 この後、ガランディア帝国はジェスタ王国との関与を避け、ジェスタ王国との国交が正常化したのはツァイネル宰相が死してから30年後のことであった。

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