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第九章 交易と情報収集

9ー15 海龍との会合 その一

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 翌日俺とアムールは、連れだって屋敷を出た。
 俺が運転する馬なし馬車で領都の郊外まで出た。

 助手席に座ったアムールがぶつぶつ言う。

「このようなモノでは海龍のところまでは行けぬだろうし、仮に行けても遅い。
 リューマの話では、うまくすれば今日中に帰れるという話だったが、この速さでは到底無理ではないか?
 儂が飛べば少なくとも昼過ぎには到着できるぞ。」

「いやいや、アムールが黒龍になった途端に大騒ぎになるからやめてくれ。
 それに俺をどうやって運ぶつもりだ。
 アムールの手に握られて運ばれるってのは流石に勘弁してもらいたいぞ。
 俺の選んだ方法なら行き来だけならすぐにもできるんだ。」

「ム、・・・・。
 リューマがそれほど言うなら引き下がるが・・・。
 ちゃんと行けるのだろうな?」

「あぁ、海龍のいるクルップ大陸には拠点があるからそこまでなら簡単に行ける。」

 アルバンド大陸の南東方に位置するクルップ大陸は、多分ユーラシア大陸程度の大きさはあるんだが、ホブランドの五つの大陸の中では一番小さい大陸なんだ。
 以前に説明したかどうか、このホブランド世界は地球と異なって480日が一年であり、公転軌道が地球よりもかなり大きい。

 そうして、直径は地球の2倍近くあるんだ。
 それでいて重力は地球とほぼ同じという理屈が良くわからんけれど、まぁ、とにかくホブランドは地球に比べると4倍近い表面積を持っているということだ。

 だからユーラシア大陸と同程度かそれより大きな大陸がごろごろしていても何ら不思議はない。
 因みに以前飛空艇で移動する際に計測したら、クルップ大陸の栄えている獣人の王国アデルバラードの王都まではおよそ1万ケール(約1万5千キロ)もあった。

 この距離は地球では東京からペルー辺りまでの距離に相当するから、時速千キロのボーイングで飛んでも15時間はかかるなぁ。
 俺は飛空艇で成層圏をICBM並みの速度で飛んだから二時間ほどで到着できたけれど、ホブランド世界が地球よりもかなり大きな世界というのがわかるだろう。

 そうして、アムールが如何に速いとは言っても飛空艇の速度にはかなわないはずなんだが、昼過ぎには到着って・・・。
 アムールも相当早いんだな。

 マッハ3か4ぐらいは出そうな感じだぜ。
 そんなので高いところを飛ばれたら、普通の人間は酸素欠乏かもしくは低体温症状で死ぬぞ。

 まぁ、俺は結界を張れば何とかなるかもしれんが、できれば遠慮したい。
 人気のない場所で馬なし馬車を降りて、馬車を収容、次いであらかじめ選定したクルップ大陸の某場所にアムールを連れて遷移した。

 流石にアムールは驚いていた。
 アムールに転移のスキルは無いようだ。

 だから何も知らずに、一瞬で目の前の景色が変われば普通は驚くよな。
 次いで、俺は、海龍を監視しているδデルタ592号と連絡を取り、その指揮下にあるδデルタ592―01号の潜伏する場所へ、亜空間に収容していた飛空艇を使って移動した。

 δデルタ592号もδデルタ592―01号もディアトラゾ空間(百分の一秒遅れの亜空間)の中にいるから外部からは見えない。
 因みに、アムールには何となく違和感があるようだが、それが何なのかはわからなかったようだ。

 飛空艇で移動するのもディアトラゾ空間を使っているから、他者に気づかれる心配はない。
 そんなこんなで姿を隠した飛空艇で俺たちはクルップ大陸西岸のサンゴ礁の礁湖にいる。

 周辺を二重のサンゴ礁が取り巻いており、普通の船では簡単には近づけない場所のようだ。
 δデルタ592―01号の話ではここ一か月ほどの間に、海龍に動きはないそうで、礁湖の浅い湖底でじっとしているようだ。

 俺とアムールはサンゴ礁の標高の低い島に着陸した飛空艇の中で、相談をした。
 アムールは、とにかく一度海龍と話がしたいようだ。

 海龍がイフリスの欠片に影響されているのは確かのようだ。
 俺の目から見ても湖底にいる海龍から赤黒いオーラが放たれているのがわかる。

 これまで対峙したイフリスの欠片と比べて二番目の大きさのような気がするが、安心はできない。
 下手をするとアムールまで取り込まれる恐れがあるからだ。

 俺がその点を強調してアムールに自重するように言ったのだが、あいにくとアムールは引き下がらなかった。
 まぁ、アムールにしてみれば、種は違うとはいっても同じように時を重ねた同族に対する思いれは深いのだろう。

 嫁sや子供たちが同じような状況になったなら、俺とて二の足は踏む。
 危険な場合には、躊躇なく海龍を始末すると言って俺はアムールを送り出した。

 アムールは、サンゴ礁の砂浜に立つと、変身を解いて黒龍になった。
 それから湖底にいるであろう海龍に念話で呼び掛けた。

 この念話は俺にも聞こえる。

『我は黒龍。
 海龍よ。
 久しいのぉ。』

 すぐに返事があった。

『ほう、黒龍か・・・。
 久しいな。
 何か用か?
 今の我は、昔のようにお主とじゃれあいのようないさかいはできぬぞ。』

『ふむ、妙なオーラをお主から感じるが、・・・。
 病か?』

『病ではないが、似たようなものだな。
 よこしまな何かが我に取り付いて、徐々に我の意識をむしばもうとしている。
 今はまだ何とか拮抗しているが、徐々に押し込まれて浸食されつつある。
 三年もせずに我は取り込まれることになろう・・・・。
 そうだ。
 黒龍よ。
 我を殺してはくれまいか。
 このままでは我の分身を作ることもできぬ。
 我がよこしまなものに取り付かれ、海の秩序を失うのが嫌なのだ。
 今の我ならばお主に殺せよう。』

『海龍よ。
 久しぶりに会うた我に酷い願いをするものだな。
 喧嘩はできても、我に同族殺しはできぬぞ。
 ただ、我にはできぬが、知り合いに頼めば或いはその者がお主の願いをかなえてくれるかもしれぬ。
 が、その前に、ほかに方法はないのか?
 そのよこしまなものを取り除く方法が。』

『無いだろうな。
 我にとって生命線ともいえる角が浸食されておる。
 見てみよ。』

 礁湖が波立ち中央部が盛り上がって海龍の頭部が湖面から浮かび上がった。
 それに伴って数メートルの大波が砂浜を襲うが、元の姿になった黒龍にとっては何ほどのこともない。

 むしろ俺のほうが慌てて飛空艇を10mほど上昇させた。
 飛空艇自体は防水構造だから、濡れても何ということもないが、流されそうな気がするからな。

 目の前の海龍については、オーラを通して海龍の全体像が俺には見えるんだが、その姿は概ね中華風の龍だな。
 足が四本で、かなり昔の映画に出てきたマンダという怪獣が一番良く似ているかもしれない。

 神社仏閣の天井画にあるような黒雲や稲光は無いが、まぁ、日本や中国で見られる龍と思って間違いはなさそうだ。
 但し、龍にあるはずの二本の触角ならぬ角がなく、その代わり一本の比較的短い角が額にある。

 これがもっと長ければとでも呼べるのだろうけれど、体長が100mほどもあるのに角はわずかに2mほどとかなり短い。
 体表は綺麗なエメラルド色の鱗で覆われているが、その角だけは、先端部から三分の二ほども赤黒い色を呈している。

 おそらくはこの角がイフリスの欠片の取り付いた場所なのだろう。

『もう5年ほど前になるか・・・。
 我が気づいたときには、我の角の先端が赤黒く変色していた。
 先ほども言うたが、この角はわれの生命線の一つ。
 この角が周囲から魔素を取り込み、わしの活動力となる。
 この機能を失えば我は死ぬしかない。
 従ってその先端といっても切り取ることもできなんだ。
 変色しても魔素の取り込みには支障がなかったのだが放置していたら、この赤黒いものが徐々に角を侵食し始め、同時に我の意思に干渉し始めたのだ。
 抗せずば、我の守る海は荒廃していただろう。
 それ以来、我とよこしまなモノとのせめぎあいが日々続いている。
 この角がすべてよこしまなモノに変わった時には我の意識は失われているだろう。
 だから、海の秩序を守るためにもその前に我を殺してほしい。』

『むむむ、・・・。
 リューマよ。
 海龍を殺す以外の何か良い手立ては無いか?』

『アムール、・・・。
 無茶を言っても困るぜ。』

『うん?
 何だ?
 妙な意識があるようじゃな?
 黒龍よ。
 誰だ。
 それにアムールとはお主のことか?』

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 4月29日、距離系を間違えてしまいましたので、それを訂正するとともに、一部字句修正を行いました。
   
   By サクラ近衛将監

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