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第七章 面倒事の始まり

7ー10 ドラゴン襲来? その二

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 俺に付いていた騎士数名が武器を構えていたが、俺は敵対行動を避けろと明確に指示した。
 彼らで敵うはずもない超ボス級の魔物だ。

 下手に手を出されてはまずい。
 俺だって逃げ出したいところを我慢しているんだから、お前らは背後で控えてろよな。

 俺がそんなことを考えているのを知ってか、知らずか。
 ドラゴンが話しかけてきましたよ。

 いや、ドラゴンかどうかわからないけれど、声なき声で呼びかけて来るって目の前のドラゴンぐらいしかいないだろう。

〖小さき者よ、そなたが石の棲み処すみかを造りし者か?〗

 初めての経験だが、俺は、念を込めて答えた。

〖目の前にいる黒きドラゴンが、私に尋ねたのか?〗

〖左様、我の縄張りに近いところに突然大きな石造りの棲み処が現れたでのぉ。
 用心しながら様子を見ておったが、そのうちその石の棲み処を造りし者がその地を離れ、遠くに去って危険が無くなったと判断したが、やがてその石の棲み処に小さき者の仲間が住み着き始めた。
 或いは将来的に厄介事になるやも知れぬから、親玉でありそうな其方と話をつけに参った。〗 

〖失礼ながら、何故に私が親玉と?〗

〖石の棲み処を造りし時の魔力を覚えておる。
 其方の魔力に相違あるまい。〗

〖確かに私が、貴方が言う石の棲み処を造った。
 もし、仮にあなたの領域を犯していたのなら謝るが、以後如何様にすればよいのか教えて欲しい。〗

〖何、左程難しきことを言うつもりはないが、小さき者は繁殖が凄まじく、百年で数倍になるほど数が増える。
 その勢いで増えるとなれば、いずれ我の棲み処が侵され、やがて闘いになろう。
 我がその気になれば、そなたらをことごとく殲滅するのは容易きことなれど、いたずらに命を奪うのは我の本意ではない。
 従って、我は、予めそれぞれの縄張りを決めておいて、互いに不可侵とすべきかと思うが、其方の意見を聞こう。〗

〖私は、貴方の提案に賛成いたしたいと思うが、貴方の住む地域というか縄張りはどこになりましょうか?〗

 俺は、ベルゼルト魔境の上空にある定点監視衛星化の画像を元に、マップをドラゴンに思念で提示した。

〖ほう、中々、面白きことができるようじゃな。
 其方、名があろう。
 教えてはくれぬか?〗

〖私の名は、リューマと言う。
 人の世では面倒なしきたりがあり、公的な場の正式名称は、リューマ・アグティ・ヴィン・ファンデンダルクと称している。
 私を呼ぶにはリューマと呼んでいただければ結構。〗

〖なるほど、リューマとな。
 我には生憎と名が無い。
 じゃによって、其方が勝手に名付けても良いぞ。〗

〖名付けるとなると、面倒だけど、・・・。
 黒龍のイメージから言うと河なんだけれど・・・。
 アムールでも構わないかな?〗

〖我が河なのか?
 妙な発想をする奴だが、アムールと言うのはが良いな。
 それで構わぬ。〗

 俺は目の前のブラックドラゴンに「アムール」と名をつけちゃったわけだ。
 まぁ、向こうもそれでよいと言ってるから何も問題は無いだろう。

 で、改めてアムールのテリトリーを確認すると、シタデレンスタッドの略北北西方向200ケールを中心に半径150ケールほどの円内であることがわかった。
 逆に言えば、シタデレンスタッドの北端から西方ラインを引いた南側はアムールのテリトリーには全くかからないようだ。

 俺はマップの中でそのラインを示し、同時に海岸に港を造る予定があることを伝えた。
 その港ができた段階では、海上では船の往来が盛んになることが予想されるが、その点に支障はないかどうかを尋ねた。

 アムールは海域には興味が無い様で、陸上域に人間が侵入しない限りは特段の問題としないと答えた。
 問題は、俺の目の届く範囲での約束は守れるが、例えばアムールのテリトリーの東側及び北側に位置する国については、俺の指図も届かないし、仮に忠告したにしても無視される可能性が高いが、その方面はどうすればいいかと問うた。

 アムールはカラカラと笑いながら言った。

〖我が心配するのはお前の力だ。
 お前さえ納得して不可侵を守ってくれるならば、他の者は問題あるまい。
 其方の忠告に従わぬ者について我がその命を奪ったとしても、其方と争うことに成りはすまい。〗

〖ウン?
 アムールが望むのはヒト族たちとの不可侵協定ではないのか?〗

〖ヒト族たち?
 それに何の意味がある。
 力無き者と不可侵の約定を結ぶなぞ、愚の骨頂じゃ。
 力ある者と約定を結んでこそ意味がある。
 他の者の意向なんぞどうでもよいわ。
 我はそなたと約定を結ぶためにわざわざ出張ってきたのだぞ。〗

〖なるほど、了解しました。
 なれば話は簡単です。
 私もアムール殿の申し入れに賛成します。
 よって、私の造った城塞都市であるシタデレンスタッドの北端から概ね10ケールの地点から東西に引いた線の北側は、アムール殿のテリトリーとして尊重いたしましょう。
 その代わり、同ラインから南の領域と私が作った水路の東側については我らの領域として尊重ください。
 また、関連する問題で面倒事が生じたならいつでもご連絡を頂ければ、私がシタデレンスタッドなり、アムール殿の領域近くまで出向きます。〗

〖連絡か・・・。
 我の領域からでは、流石にここまでは念話は届かぬが、・・・。
 さて、どうするか?〗

〖なれば、こちらの魔道具をお使いくださらぬか?
 これなれば、遠方より私の元へ信号が送れます。
 本来はこれで会話を為すことができるのですが、アムール殿は人の言葉をお話しできますか?〗

〖これまで必要が無かったでな。
 覚えようともしなかったが、其方といつでも話せると言うなら、三日後までには覚えておこう。
 で、如何様にすれば、これで話ができるのじゃ?〗

 その後しばらく俺はアムールにセルフォンの使い方を教え、アムールはセルフォンを持って自分のテリトリーに戻って行った。
 ドラゴンにセルフォンのような小型機械を操作できるかって?

 アムールは魔力でセルフォンを操作できるんだ。
 別にでかい足の爪なんぞで小さなボタンやアイコンなんぞを動かしたりはせんぞ。

 こうしてドラゴン襲来事件は無事に片付いた。
 ところがその翌日には、俺とドラゴンがサシの勝負をして、ドラゴンが俺の実力を認めておとなしく帰って行ったというとんでもない噂があっという間に領民の間に広がった。

 こいつは拙いと思い、俺はすぐに王都へ出向き、宰相と国王へ詳細な報告を為した。
 そうでもしなければ噂が独り歩きする。

 だが、国王は笑って言った。

「ドラゴン、いやアムール殿であったか、其方の力を認めて不可侵の約定を結びに来たのであるから、ドラゴンがそなたの力を認めたというのは間違いでは無いな。
 まぁ別に無害であれば放置しておきなさい。
 それともまずいのか?」

「アムール殿は三日以内に人の言葉を覚えて来ると言っていました。
 それでもし噂を聞きつければ或いは気を悪くするやもしれませぬ。」

「なるほど、・・・。
 が、そのようなことで怒るようなドラゴンとも思えぬが・・・。
 まぁ、向こうから連絡が来たなら聞いてみると良い。
 きっと笑い話で済ませて呉れよう。
 真に実力のあるモノは些細なことには腹を立てぬものじゃ。
 じゃからこそ、わざわざ其方に逢いにきたのであろう?」

 国王は自分の事じゃないから割合と無責任な発言をする、
 宰相がそれに輪をかけた物言いをした。

「左様、中々にできぬことなれば、この際アムール殿と交友を温めておかれると宜しい。
 私もこの話を対外的に使わせていただきましょう。
 ドラゴンとタメを張れる者などそうそうはおりませぬからな。
 我が国にそのような剛の者が居るとわかれば、諸外国も我が国においそれとは手を出して来ますまい。」

 翌日にアムールからセルフォンで連絡がきた。
 普通に人族の言葉で会話が成立する。

 俺の方から噂話が独り歩きしていることと、アムールが気を悪くしてはいまいかと懸念していることを伝えた。

「何だ、リューマは意外と小心者か?
 我が姿を目の前に見ながら全く動じた雰囲気が無いから、余程の大物だと思っていたのだが・・・。
 我と其方の話の経緯は、両者が一番よく知っておるではないか。
 他愛もない他人の噂などに惑わされる我ではない。
 まぁ、そのことを気にかけてくれるそなたの心根が嬉しいがな。
 取り敢えず、其方とヒト族の会話ができるようだから、またこの次に話をしようぞ。
 ではさらばじゃ。」

 うん、国王が言ったようにまるで気にしていないな。
 アムールは身体もでっかいけれど、大物だよ。


 この噂話がオルテンシュタイン帝国に知れ渡った時、ハイレルン二世はジェスタ侵攻を完全に諦めたのである。


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 2021年8月27日より、新作を投稿しています。
 作品名は、「魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡」です。
 第14回ファンタジー小説大賞にノミネートしていますので、宜しければ是非ご一読の上、応援ください。

  By サクラ近衛将監

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