72 / 205
第五章 こいつは大事(オオゴト)なのかな?
5-7 アリス~リサへ
しおりを挟む
俺は、アリスの蘇生に関して、アリスとしっかりと相談した。
俺が繰り返した予備実験を含めて、蘇生の可能性と危険性の全てを打ち明け、その上で彼女の意向を確認したんだ。
全てを聞いた後、アリスは、魂の消滅も覚悟の上で復活にかけたいと俺に言い切った。
アリスがそう言うなら俺にはそれ以上何も言うことはない。
俺ができることをやるだけだ。
但し、仮に蘇生に成功した時にどうするか、アリスの立ち位置を決めておかねばならない。
アリスは、5年以上も前に死んでいる身の上だ。
今更生き返りましたと言って世の中で通用するわけがない。
仮に通用したならしたで、後が問題だ。
アリスを生き返らせた俺は、神の使徒か、それとも悪魔だ。
どっちにしたって教会勢力が黙ってはいまい。
俺もアリスも、平穏な生活は到底おくれないだろう。
アリスの存在を知っているのは、俺とアリス以外では、フレゴルドの屋敷で雇った執事トレバロンとメイドのラーナとイオライアの三人、それに王都別邸のメイド長フレデリカの四人だけだ。
アリスの親父さんの知り合いの男性が、アリスの死体を確認しているし、フレゴルドに古くからいる人は、アリスが死んだことを知っている筈だ。
その後、幽霊屋敷となって誰も入れなくなった事実があるにしても、アリスの死を無かったことにはできないだろう。
ましてや死んだ時の年齢そのままのアリスの姿で蘇ったなら、どうやっても説明がつかない。
神の理や世界の条理はともかく、教会の教えでは、いや真っ当な教えにもそもそも無いのじゃないかと思うのだが、死人を蘇らすことは犯してはならない禁忌なのだ。
さもなければ教会が唱えるであろう「人の生死は神が司る」が否定され、神の存在そのものが疑われかねない。
アリスの希望は聞いた。
どんな形にしろ、俺のお嫁さんになりたいんだと・・・。
まぁ、伯爵の立場なら町娘を側室にできないわけじゃないな。
但し、その場合でも何某かの出自は必要だ。
但し、この世界じゃ、戸籍なんてものは殆ど無いに等しい。
あれば俺のシンガポール国籍みたいにでっちあげるのは簡単なのだが・・・。
むしろ無いだけに、ごまかすのが難しい部分もある。
この世界では、どこそこの鍛冶屋のアルフレッドの娘だとか、パン屋のカブスの息子だとかで通用している。
まぁ、集落単位での事実上の子供の認知だな。
結婚だって教会で正式に上げる者も居れば、事実婚だって存在する。
どんな形にしろ、生まれてきた子はそうした夫婦の子供だ。
貴族の場合は、状況により認知と言う手続きを経ないと子供とは認められない場合もあるけれどね。
一応大枠の頭数だけは国またはそれぞれの領地で把握している。
さもなくば、人頭税が取れないからな。
とは言いながらも、僻地などの人口は左程きっちりと把握できている訳では無いようだ。
地球でも途上国になればなるほどそうした状況に陥りやすい。
例えば、中国(中華人民共和国)では戸籍の無い者が存在しているらしい。
一人っ子政策の影響で、生まれてきた二人目を戸籍に入れられずに、戸籍外のまま育てちゃった者がいるということだ。
アリスの場合は、フレゴルドの商人ハイル・エーベンリッヒの娘アリスだったわけだが、それはもう使えない。
日本の江戸時代みたいに町や村の教会が過去帳や人別帳でも作っていれば、それに潜り込ませることも出来そうだが、それも地域によってはバラバラで確固たる制度は無いようだ。
止むを得ないのでアリスの過去をでっちあげることにした。
教会に付属する孤児院に寄生することにしたのである。
俺の領都であるヴォアールランド郊外にある小さな教会に孤児院が併設されていたんだが、これが10年程前から機能していなかった。
原因は、教会の司祭が病死し、孤児たちを世話していた修道女も老齢のために面倒が見られなくなって、どちらかと言うと自然消滅に近い形で孤児院が閉鎖されたのだ。
その当時の記録はあり、閉鎖された時の孤児たちの行き場所も明記されていた。
それを丹念に追って行くと、当時収容されていた孤児達全員がこの10年の間に死んでいた。
死因は様々だったが、その多くは貧困のために食えなくなったのが主因であった。
正直言って、一人ぐらいは生きているんじゃないかと疑ったのだが、名簿に残されていた者は、一昨年までに全て死亡、若しくは死亡扱いになっていた。
死亡扱いと言うのは、冒険者になってクエストを受けたが、未達成のまま消息不明となっている者を言う。
まぁ、九分九厘死んでいるわなぁ。
で、その残っていた10年ほど前の孤児院の名簿に細工をした。
俺のインベントリの中で複製をし、同時に書体をコピーしたら、当時のインクそのままに記録が作成できたのだ。
「アリス」改め、「リサ」の名で登録し、二歳で孤児院からヴォアールランドの南部にあるセグレ村の農民に貰われたことにした。
因みに、当該セグレ村は、2年前に魔物の群れに襲撃されてほぼ全滅した村であるが、たまたま、当時10歳のリサは当時養父の義兄であるカーレス・ボーレンに連れられて別の場所に居たために助かったということにする。
その後、一月前にそのカーレス・ボーレン叔父が病気で亡くなり、その遺産を受け継いでセグレ村近傍のグレービアに住んでいたリサが、たまたまヴォアールランドを訪ねた際に、俺と知り合ったことにするのである。
従って、当座リサはグレービアに俺が建てる元カ―レス・ボーレン名義(現在はリサ・ボーレン名義)の別邸(中古物件に似せた新築の建物)に住むことになる。
執事及びメイドは、ヴォアールランドの口入屋(奴隷商)で雇うことにするが、その経費は養父カーレスの遺産(実際は俺の隠し財産)から支払われることにした。
アリスは蘇生しても成人するまで(生物学的年齢から言えばあと三年ほど)は俺の側室にはなれない。
それらの手筈を整えてから、アリスの蘇生を試みることにしたのだが、肝心なことをアリスに言い忘れていた。
アリスの骨から培養液の中で身体を復元させるのに、結構な時間がかかるのである。
外で俺が待つ時間は精々二分か三分程度なのだが、時間を進めた亜空間内部の実時間でなら最低でも半年ほどかかるのだ。
そうしてその間、何時復活するかわからないから幽体のアリスは、その傍らに居なければならない。
これは随分と退屈な話になるはずだ。
アリスは、パソコンが有れば大丈夫と言っているが、アリスに預けっぱなしになっている*PadPro(元の世界に行けるようになってから新型機も購入したけどな)に関しては、電池が流石に半年は持たないぞ。
これまではソーラーパネルで時折充電していたから保っていたけれど、さて、俺のインベントリに入れた亜空間の中でどうやって充電する?
するとアリスが言った。
「じゃ、できるかどうかやってみるから、私を亜空間に入れてみて。」
そう言ってチャチャッとソーラパネルと*PadProを手に持って待機している。
俺が亜空間を作るとすぐにその中に入って行った。
中で何をしているかと言うと、多分、光魔法を使いながらソーラーパネルで充電ができるかどうかを試しているんだろう。
半日ほど経ってからアリスが出てきて言った。
「リューマの亜空間は、魔素が一杯あるから、光魔法を目一杯使っても私の魔力が減らない。
ちゃんとソーラパネルで充電できたから、これが有れば大丈夫。
それに、リューマがフレゴルドの屋敷に現れるまでは、五年もの間、私は地下室から動けなかったんだよ。
それを思えば、半年や其処ら、何のことは無いよ。」
そんな訳で俺の心配は杞憂に終わった。
で、いよいよ覚悟を決めて、アリスの蘇生を始めることになったわけだ。
結果から言おう。
あっさりとアリスが復活しちゃったよ。
満面の笑顔でアリスが亜空間から出てきて、俺に飛びつくように抱き着いて来たもんだ。
正直生身のアリスに抱き着かれたのは初めてのことだったな。
見た目、幽体と同じ身体つきのアリスだったが、唯一衣服のことを忘れていた。
今までの動物実験ではモルモットになった動物たちが衣服をまとっているはずもない。
だからこそ、完全に失念していたのだが・・・。
で、俺はいま幼女と言うには育ち過ぎたマッパの少女に抱き着かれているわけだ。
俺はパニくりかけたのだが、幸い俺の工房の中だったから他人目は無く、慌ててインベントリに入っていた大きなバスタオルをアリスの身体に巻き付けさせた。
生憎と俺の持ち物の中には12歳の少女用の衣服なんてものは無い。
止むを得ず、アリスには再度亜空間の中に入ってもらった。
それからフレゴルドの屋敷に飛び、元アリスの部屋をこそっと探したところ、何とか着られそうな下着やらワンピースやらを見つけ、それに取り敢えず着替えてもらった。
ついでにアリスが色々見繕って衣類を亜空間に取り込み、アリスを連れて俺の工房へ転移したが、その間管理人の夫婦には気づかれていない。
当面、アリスの姿は、執事のトレバロン、ラーナ、イオライアの三人以外には見せられないな。
あ、メイド長のフレデリカもいたな。
フレデリカの場合は、アリスのエクトプラズムに反応していたわけだが、生体に戻ったアリスをどう感ずるのかはわからない。
まぁ、気づかれた時に考えよう。
フレデリカは、俺の秘密を外に漏らすようなエルフじゃない。
全ての準備が整うまでは、屋敷の者にも紹介はしないことにした。
但し、面倒は続く。
蘇ったアリスは生身なのだ。
当然に飲み食いもすれば、出るものも出る。
これまでは幽体だったから無縁のものだったが、蘇生と同時に肉体の全ての欲求も始まったのだ。
早急にアリスの生活できる家を手当てしなければならなくなったのである。
それから一連の手配をするとともに、工房に三日籠った。
俺の亜空間の中で丸ごと一軒の家を建てるためだ。
まぁ、さほど難しくはなかったな。
余所者が目にすることを考えると、あまり最新の装備を備えるわけには行かなかったが、フレゴルドにあった幽霊屋敷程度の設備は整えた。
工房にあるバス・トイレを見て、これも備え付けてほしいとアリス改めリサが言うので、やむなくつけてやった。
但し、兼ねてからの懸案だった水道を使わずに魔石で動く魔道具使用の温水便座付きトイレを造ってやった。
ビジネスホテルのバスルーム構造で、バスとトイレが一緒についているタイプ。
こいつは魔力を感知してお湯を入れるタイプの魔道具を利用しているからアリスが準備しなければ水風呂にしかならない。
リサ専用で、リサの寝室に取り付ける。
いずれ売り出すことも考えているが、リサの家の執事やメイド、来客が使うトイレは取り敢えず従来型のままだ。
俺がヴォアールランドに転移し、夜の間にグレービアの高台の森を伐採し、地面をならし、その家を据え置いた。
周囲に高い塀を設け、井戸を掘り、手押しポンプを据え付けてやれば水は台所等で簡単に使える。
取付道路は、舗装なんかするわけには行かないが、まぁ馬車程度が通れる道を、村の広場から街道に通じる道に派生して作っておいた。
セグレ村近傍の集落グレービア村は、30数軒しかない小さな農村だが、俺が闇魔法を駆使して、ほんのちょっと執事候補、メイド候補及び住民の記憶をいじった。
『リサの屋敷は、グレービア村に20年ほど前からあるもので、カーレス・ボーレンのものだったが、カーレスが一月前に亡くなり、姪であるリサが遺産を引き継ぎ、執事一名、メイド二名と共に生活している。』
関係者の意識は、そう変わったのである。
ヴォアールランドにある徴税控えにも、当然それらしき記録が残っているのである。
一応対外的な誤魔化しは何とか出来たのだが、残る問題は、嫁sの問題だな。
少なくともこれまでの経緯からして、正室のコレットには何とか納得してもらわないとアリス改めリサを側室にはできないぞ。
執事とメイドは、予定通りヴォアールランドの口入屋(奴隷商)でリサが直接面談し、雇用を決め、馬車を購入して四人で屋敷へ乗り込んだ。
俺は一切表に出ていないが、未成年のリサ一人ではちょっと問題なので、契約の際にはヴォアールランド在住の者(闇魔法で意志を操っている)に一時的な保護者としてついて貰った。
心配だったから、俺もその奉公人たちの為人は確認している。
うん、問題なかったヨ。
で、俺は全ての手配を終えてから、山の神二人の説得に当たったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<参考>
「山の神」: 口やかましい妻の呼称の一つ
俺が繰り返した予備実験を含めて、蘇生の可能性と危険性の全てを打ち明け、その上で彼女の意向を確認したんだ。
全てを聞いた後、アリスは、魂の消滅も覚悟の上で復活にかけたいと俺に言い切った。
アリスがそう言うなら俺にはそれ以上何も言うことはない。
俺ができることをやるだけだ。
但し、仮に蘇生に成功した時にどうするか、アリスの立ち位置を決めておかねばならない。
アリスは、5年以上も前に死んでいる身の上だ。
今更生き返りましたと言って世の中で通用するわけがない。
仮に通用したならしたで、後が問題だ。
アリスを生き返らせた俺は、神の使徒か、それとも悪魔だ。
どっちにしたって教会勢力が黙ってはいまい。
俺もアリスも、平穏な生活は到底おくれないだろう。
アリスの存在を知っているのは、俺とアリス以外では、フレゴルドの屋敷で雇った執事トレバロンとメイドのラーナとイオライアの三人、それに王都別邸のメイド長フレデリカの四人だけだ。
アリスの親父さんの知り合いの男性が、アリスの死体を確認しているし、フレゴルドに古くからいる人は、アリスが死んだことを知っている筈だ。
その後、幽霊屋敷となって誰も入れなくなった事実があるにしても、アリスの死を無かったことにはできないだろう。
ましてや死んだ時の年齢そのままのアリスの姿で蘇ったなら、どうやっても説明がつかない。
神の理や世界の条理はともかく、教会の教えでは、いや真っ当な教えにもそもそも無いのじゃないかと思うのだが、死人を蘇らすことは犯してはならない禁忌なのだ。
さもなければ教会が唱えるであろう「人の生死は神が司る」が否定され、神の存在そのものが疑われかねない。
アリスの希望は聞いた。
どんな形にしろ、俺のお嫁さんになりたいんだと・・・。
まぁ、伯爵の立場なら町娘を側室にできないわけじゃないな。
但し、その場合でも何某かの出自は必要だ。
但し、この世界じゃ、戸籍なんてものは殆ど無いに等しい。
あれば俺のシンガポール国籍みたいにでっちあげるのは簡単なのだが・・・。
むしろ無いだけに、ごまかすのが難しい部分もある。
この世界では、どこそこの鍛冶屋のアルフレッドの娘だとか、パン屋のカブスの息子だとかで通用している。
まぁ、集落単位での事実上の子供の認知だな。
結婚だって教会で正式に上げる者も居れば、事実婚だって存在する。
どんな形にしろ、生まれてきた子はそうした夫婦の子供だ。
貴族の場合は、状況により認知と言う手続きを経ないと子供とは認められない場合もあるけれどね。
一応大枠の頭数だけは国またはそれぞれの領地で把握している。
さもなくば、人頭税が取れないからな。
とは言いながらも、僻地などの人口は左程きっちりと把握できている訳では無いようだ。
地球でも途上国になればなるほどそうした状況に陥りやすい。
例えば、中国(中華人民共和国)では戸籍の無い者が存在しているらしい。
一人っ子政策の影響で、生まれてきた二人目を戸籍に入れられずに、戸籍外のまま育てちゃった者がいるということだ。
アリスの場合は、フレゴルドの商人ハイル・エーベンリッヒの娘アリスだったわけだが、それはもう使えない。
日本の江戸時代みたいに町や村の教会が過去帳や人別帳でも作っていれば、それに潜り込ませることも出来そうだが、それも地域によってはバラバラで確固たる制度は無いようだ。
止むを得ないのでアリスの過去をでっちあげることにした。
教会に付属する孤児院に寄生することにしたのである。
俺の領都であるヴォアールランド郊外にある小さな教会に孤児院が併設されていたんだが、これが10年程前から機能していなかった。
原因は、教会の司祭が病死し、孤児たちを世話していた修道女も老齢のために面倒が見られなくなって、どちらかと言うと自然消滅に近い形で孤児院が閉鎖されたのだ。
その当時の記録はあり、閉鎖された時の孤児たちの行き場所も明記されていた。
それを丹念に追って行くと、当時収容されていた孤児達全員がこの10年の間に死んでいた。
死因は様々だったが、その多くは貧困のために食えなくなったのが主因であった。
正直言って、一人ぐらいは生きているんじゃないかと疑ったのだが、名簿に残されていた者は、一昨年までに全て死亡、若しくは死亡扱いになっていた。
死亡扱いと言うのは、冒険者になってクエストを受けたが、未達成のまま消息不明となっている者を言う。
まぁ、九分九厘死んでいるわなぁ。
で、その残っていた10年ほど前の孤児院の名簿に細工をした。
俺のインベントリの中で複製をし、同時に書体をコピーしたら、当時のインクそのままに記録が作成できたのだ。
「アリス」改め、「リサ」の名で登録し、二歳で孤児院からヴォアールランドの南部にあるセグレ村の農民に貰われたことにした。
因みに、当該セグレ村は、2年前に魔物の群れに襲撃されてほぼ全滅した村であるが、たまたま、当時10歳のリサは当時養父の義兄であるカーレス・ボーレンに連れられて別の場所に居たために助かったということにする。
その後、一月前にそのカーレス・ボーレン叔父が病気で亡くなり、その遺産を受け継いでセグレ村近傍のグレービアに住んでいたリサが、たまたまヴォアールランドを訪ねた際に、俺と知り合ったことにするのである。
従って、当座リサはグレービアに俺が建てる元カ―レス・ボーレン名義(現在はリサ・ボーレン名義)の別邸(中古物件に似せた新築の建物)に住むことになる。
執事及びメイドは、ヴォアールランドの口入屋(奴隷商)で雇うことにするが、その経費は養父カーレスの遺産(実際は俺の隠し財産)から支払われることにした。
アリスは蘇生しても成人するまで(生物学的年齢から言えばあと三年ほど)は俺の側室にはなれない。
それらの手筈を整えてから、アリスの蘇生を試みることにしたのだが、肝心なことをアリスに言い忘れていた。
アリスの骨から培養液の中で身体を復元させるのに、結構な時間がかかるのである。
外で俺が待つ時間は精々二分か三分程度なのだが、時間を進めた亜空間内部の実時間でなら最低でも半年ほどかかるのだ。
そうしてその間、何時復活するかわからないから幽体のアリスは、その傍らに居なければならない。
これは随分と退屈な話になるはずだ。
アリスは、パソコンが有れば大丈夫と言っているが、アリスに預けっぱなしになっている*PadPro(元の世界に行けるようになってから新型機も購入したけどな)に関しては、電池が流石に半年は持たないぞ。
これまではソーラーパネルで時折充電していたから保っていたけれど、さて、俺のインベントリに入れた亜空間の中でどうやって充電する?
するとアリスが言った。
「じゃ、できるかどうかやってみるから、私を亜空間に入れてみて。」
そう言ってチャチャッとソーラパネルと*PadProを手に持って待機している。
俺が亜空間を作るとすぐにその中に入って行った。
中で何をしているかと言うと、多分、光魔法を使いながらソーラーパネルで充電ができるかどうかを試しているんだろう。
半日ほど経ってからアリスが出てきて言った。
「リューマの亜空間は、魔素が一杯あるから、光魔法を目一杯使っても私の魔力が減らない。
ちゃんとソーラパネルで充電できたから、これが有れば大丈夫。
それに、リューマがフレゴルドの屋敷に現れるまでは、五年もの間、私は地下室から動けなかったんだよ。
それを思えば、半年や其処ら、何のことは無いよ。」
そんな訳で俺の心配は杞憂に終わった。
で、いよいよ覚悟を決めて、アリスの蘇生を始めることになったわけだ。
結果から言おう。
あっさりとアリスが復活しちゃったよ。
満面の笑顔でアリスが亜空間から出てきて、俺に飛びつくように抱き着いて来たもんだ。
正直生身のアリスに抱き着かれたのは初めてのことだったな。
見た目、幽体と同じ身体つきのアリスだったが、唯一衣服のことを忘れていた。
今までの動物実験ではモルモットになった動物たちが衣服をまとっているはずもない。
だからこそ、完全に失念していたのだが・・・。
で、俺はいま幼女と言うには育ち過ぎたマッパの少女に抱き着かれているわけだ。
俺はパニくりかけたのだが、幸い俺の工房の中だったから他人目は無く、慌ててインベントリに入っていた大きなバスタオルをアリスの身体に巻き付けさせた。
生憎と俺の持ち物の中には12歳の少女用の衣服なんてものは無い。
止むを得ず、アリスには再度亜空間の中に入ってもらった。
それからフレゴルドの屋敷に飛び、元アリスの部屋をこそっと探したところ、何とか着られそうな下着やらワンピースやらを見つけ、それに取り敢えず着替えてもらった。
ついでにアリスが色々見繕って衣類を亜空間に取り込み、アリスを連れて俺の工房へ転移したが、その間管理人の夫婦には気づかれていない。
当面、アリスの姿は、執事のトレバロン、ラーナ、イオライアの三人以外には見せられないな。
あ、メイド長のフレデリカもいたな。
フレデリカの場合は、アリスのエクトプラズムに反応していたわけだが、生体に戻ったアリスをどう感ずるのかはわからない。
まぁ、気づかれた時に考えよう。
フレデリカは、俺の秘密を外に漏らすようなエルフじゃない。
全ての準備が整うまでは、屋敷の者にも紹介はしないことにした。
但し、面倒は続く。
蘇ったアリスは生身なのだ。
当然に飲み食いもすれば、出るものも出る。
これまでは幽体だったから無縁のものだったが、蘇生と同時に肉体の全ての欲求も始まったのだ。
早急にアリスの生活できる家を手当てしなければならなくなったのである。
それから一連の手配をするとともに、工房に三日籠った。
俺の亜空間の中で丸ごと一軒の家を建てるためだ。
まぁ、さほど難しくはなかったな。
余所者が目にすることを考えると、あまり最新の装備を備えるわけには行かなかったが、フレゴルドにあった幽霊屋敷程度の設備は整えた。
工房にあるバス・トイレを見て、これも備え付けてほしいとアリス改めリサが言うので、やむなくつけてやった。
但し、兼ねてからの懸案だった水道を使わずに魔石で動く魔道具使用の温水便座付きトイレを造ってやった。
ビジネスホテルのバスルーム構造で、バスとトイレが一緒についているタイプ。
こいつは魔力を感知してお湯を入れるタイプの魔道具を利用しているからアリスが準備しなければ水風呂にしかならない。
リサ専用で、リサの寝室に取り付ける。
いずれ売り出すことも考えているが、リサの家の執事やメイド、来客が使うトイレは取り敢えず従来型のままだ。
俺がヴォアールランドに転移し、夜の間にグレービアの高台の森を伐採し、地面をならし、その家を据え置いた。
周囲に高い塀を設け、井戸を掘り、手押しポンプを据え付けてやれば水は台所等で簡単に使える。
取付道路は、舗装なんかするわけには行かないが、まぁ馬車程度が通れる道を、村の広場から街道に通じる道に派生して作っておいた。
セグレ村近傍の集落グレービア村は、30数軒しかない小さな農村だが、俺が闇魔法を駆使して、ほんのちょっと執事候補、メイド候補及び住民の記憶をいじった。
『リサの屋敷は、グレービア村に20年ほど前からあるもので、カーレス・ボーレンのものだったが、カーレスが一月前に亡くなり、姪であるリサが遺産を引き継ぎ、執事一名、メイド二名と共に生活している。』
関係者の意識は、そう変わったのである。
ヴォアールランドにある徴税控えにも、当然それらしき記録が残っているのである。
一応対外的な誤魔化しは何とか出来たのだが、残る問題は、嫁sの問題だな。
少なくともこれまでの経緯からして、正室のコレットには何とか納得してもらわないとアリス改めリサを側室にはできないぞ。
執事とメイドは、予定通りヴォアールランドの口入屋(奴隷商)でリサが直接面談し、雇用を決め、馬車を購入して四人で屋敷へ乗り込んだ。
俺は一切表に出ていないが、未成年のリサ一人ではちょっと問題なので、契約の際にはヴォアールランド在住の者(闇魔法で意志を操っている)に一時的な保護者としてついて貰った。
心配だったから、俺もその奉公人たちの為人は確認している。
うん、問題なかったヨ。
で、俺は全ての手配を終えてから、山の神二人の説得に当たったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<参考>
「山の神」: 口やかましい妻の呼称の一つ
22
お気に入りに追加
794
あなたにおすすめの小説
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~
夢幻の翼
ファンタジー
典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。
男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。
それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。
一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。
持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる