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第一章 プロローグ

1-1 幼女神?

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 俺は粟口あわぐち龍馬りょうま23歳、今年4月に大手商社に入ったばかりの社会人1年生だ。
 10月初旬、いつものように俺はスーツ姿にバックパックを背負っての通勤途上である。

 会社員ならば、スーツにビジネスバッグかアタッシュケースぐらいが普通だろうし、リュックを背負うにしても薄めのものを選ぶのだろうが、俺は大きめのバックパック(最大容量60ℓ)を背負っているので周囲の人には結構迷惑をかけているかもしれない。
 そんなふんわりとした心の負担もあって、できるだけラッシュ時は避けて早朝出勤と遅めの帰宅を心掛けている。

 遅めの帰宅は心掛けていると言うよりは、仕事の上でそうならざるを得なくなっていると言うのが実情だろう。
 別にブラック企業というわけではないが、諸先輩方の雰囲気にのまれて自然とそうなっている。

 尤も会社の内規で月に70時間以上の残業は禁止されている。
 まぁ、そんなこんなで週5日の勤務で日々3時間前後の残業は当たり前なのだ。

 俺が大き目のバックパックを使っている理由?
 勿論万が一のための用意だぜ。

 実は3年前の北海道胆振東部地震の際にたまたま大学の夏休み中で友人と二人で北海道の東部を旅行中だったのだ。
 忘れもしない2018年9月18日未明の地震だった。

 俺たち二人が泊まっていた帯広のシティホテルで震度3か4程度だったし、未明のことでもあり、元々鈍感な性質たちの俺達はぐっすり寝ていたから多少ゆらゆらしても気づかなかったのだが、午前6時半に目覚めた時には北海道内全域が停電になっていた。
 そうして日高山脈の西側で大きな地震があったようだと言う情報は流れても、テレビがダメだと詳細な情報が流れてこないのである。

 普通ならばホテルに届いている筈の新聞も無かったし、WiFiもホテルの有線LANも使えなかった。
 スマホや携帯も一応電源は入るもののアンテナのフラグが立っておらず、ある意味死んでいた。

 市内各所の中継装置が機能していないのだから無理もない。
 俺たちの世代はスマホやタブレットが無けりゃ、まぁほとんど何もできん。

 情報が途絶え、電気が無く、ついでに断水とくればこれはもう完璧に非常事態である。
 ホテルで用意できるはずの朝飯も、パンとジュースにミルクだけ、しかもその日の昼以降はホテル内のレストランも臨時休業の張り紙がしてあった。

 友人と二人で相談して北海道脱出を図ったが交通機関はほぼストップしていた。
 震災の場合は少なくとも三日程度は自力で生活することも考えなくてはならないので、先ずは手分けして携帯食料を三日分確保することにした。

 最寄りのコンビニから始めてスーパーも漁ってみたが、これが中々に難しいとわかった。
 早朝7時にして、コンビニの食料品は完売状態に近くほとんど品物がない状態だった。

 市内量販店のスーパーの前に並んで、開店と同時に押しかけたら、食料品が結構揃っていたものの生で食べられるものは開店から30分ほどで底をついた。
 それでも何とか三日分の食料を確保して、俺たち二人は帯広のホテルで延泊、そのまま待機、道路状況や電源復活状況を見て移動をすることに決めた。

 ホテルがロビーに用意してくれた電池タイプの短波ラジオの情報によれば北海道中央への交通ルートはほぼ絶たれているとみて良い。
 本来ならば道東を周遊してから21日午後、千歳からの便で東京に戻る予定だったのだが、電力不足や交通障害はやや長期化する見込みだったし、こうなればこれ以上の道東旅行は中断するほかなく、結局千歳行きは断念し、翌日20日には帯広空港からの便で何とか東京へ舞い戻った。

 結局、帯広での停電は1日だけで翌日には復旧していたのだが、地震当日のホテルの延泊はたまたま可能だった。
 前述のとおりレストランは開いていなかったし、飲用水道も使えなかったのだが、ホテルの非常用電源で所謂いわゆる井戸から汲み上げた地下水をトイレ用に使えたのでトイレの方は何とか通常通り使用できたのだ。

 仮にこの非常用水系が無かったならば、ホテルへの延泊はまずできなかっただろう。
 流す水が無くなればトイレが詰まってしまうからだ。

 これまでの各震災地域でトイレ事情が劣悪になったことはよく知られている。
 そんなこんなで北海道の被災者の皆さんには申し訳なかったが、俺たちはさっさと北海道を逃げ出したのである。

 それ以来、防災意識に目覚めたと言うか非常時の準備が大事だと思い至って、色々と準備をしている。
 俺のバックパックには、15インチ型S*rface-*ook、12.9インチ型*Pad Pro、カードリーダー、128GbマイクロSDカード50枚、折畳式ソーラーチャージャー、船舶用非常食料三日分(サイズ:10.5×4.8×12.5cm、重量:500g)×3、最新型ワンタッチ拡張テント、携帯用浄水器、清水350ml、折畳バケツ、折畳スコップ、スイスアーミーナイフ、雨着、アルミシート、ライト付き簡易発電防災ラジオ等々諸々の防災グッズ一式が入っている。

 アーミーナイフなんぞは銃刀法にはぎりぎりで何とか触れないけれど、軽犯罪法には抵触するかもしれないので絶対に人前では見せないようバックパックの底にプラスチック容器に収めて入れている。
 50枚のマイクロSDカードには、お気に入りの動画を始め、料理レシピから、歴史年表、最近出たばかりの電子版ユーノシア百科事典まで、色々なデータを各分冊でカードにため込んでいる。

 特にサバイバルの方法に関する資料が全体の3割を占めているのが特徴だ。
 例えば、ジビエ料理や鳥獣の解体の仕方まで詳細な図解入りの電子版説明書まである。

 これはネットが使えなくなった時の非常用のインテリジェント・サーバーでもあるのだ。
 取り敢えずこれだけあれば川か池の傍なら1週間は何とかサバイバルできるはずだ。
 他人(ひと)様から過剰と言われようと万が一に備えることは絶対に大事な事なのである。

 今日も日がな一日、千代田区大手町に事務所を構える本社で先輩諸兄からしごかれて、退社したのは午後10時半過ぎ。
 アパートのある千葉県市川市の行徳へは大手町から東西線で約20分、ドアツードアで会社からアパートまで1時間圏内は、まぁまぁ恵まれた環境と言えるだろう。

 アパートは築40年のボロアパートだが、大学時代から足掛け5年も借りているのでとっくの昔に「住めば都」状態になっている。
 六畳間二つ、2Kの間取りの狭い部屋だが、バストイレ付きで必要な家財道具はまぁまぁ揃っていると言えるだろう。

 俺は行徳駅で降り、最寄りのファミレスでいつもの遅い夕食を終えた。
 俺が清算のためにレジに向かう途中で、それは突然起きた。

 店内ほぼ中央の床を中心に半径4mほどの多重サークルが発生し、見慣れない文字がサークルの合間を埋め尽くしていた。
 その中心ではないが俺もその光のサークルの範囲に間違いなく入っていた。

 最初は薄い光だったが、すぐに眩しくて直視できないほどに光った途端、俺は別の場所に立っていることに気づいた。
 膝ほどまで隠す白い霧が床を覆っているために、床は見えないが足元の感触では平らなコンクリートか石板のようにも感じられる。

 周囲には何も見えない。
 天井も確認できず、ひたすら床を白い霧の海が視界の果てまで広がっているだけである。
ただ暗闇ではなく薄暗い状態で、何となく明け方のような曙光を感じている。

 今自分が置かれている状況もつかめず、どうしようかと迷っていると、背後から声をかけられた。
 今まで全く聞いたことのない言語の筈なのだが不思議なことに何故か理解できた。

「お主と会うのは初めてなのじゃ。
 お主の名を教えてくれるかな?」

 若い女というより子供の声である。
 振り返ると精々8歳ぐらいではないかと思われる小柄な幼女が立っていた。

 一体何処から現れたのか?
 さっき周囲を見渡した時には間違いなく居なかった筈だ。

 腰まで長い髪を伸ばし、頭にはティアラ、右手には背丈よりも長い杖を持っている。
 服装はイオニア式キトーンに似た衣装であり、足元は白い霧で見えない。

 金髪というよりプラチナブロンドの髪、瞳は多分ハシバミ色、目が大きく、鼻筋がとても整った所謂白人系美少女だが、残念なことに俺に幼女趣味はない。
 少なくともあと8年から10年経ってからでないと俺の好みには合わないだろう。

 それはともかく、何となくラノベ展開を思い出しながらも、今この場には小さい癖に何となく上から目線の幼女しか他には居ないのだから、彼女に頼るしかない。

「俺は粟口龍馬と言うんだが、此処は一体何処?」

「うーん、説明は難しいのじゃが・・・。
 お主が住んでいた世界とあちらの世界との狭間と言うのが一番近いかな?」

「へっ、・・・。
 あちらの世界って、もしかして俺、死んだの?」

「ン?
 いや、その“あの世”という意味のあちらの世界ではないのじゃ。
 お主のこれまで住んでいた世界とは別の世界なんじゃが、川下というか、常に流れが下に向かっておるからお主の世界には遡行そこうできないんじゃよ。
 だから、お主はあちらの世界へ行くしかないんじゃ。」

「何だよ、それは・・・。
 あの。
 ひょっとしてこれはテンプレの神様の世界っていうやつなの?」

「テンプレ?
 意味が分からぬが、・・・。
 まぁ、わらわはあちらの世界の神の一人ではあるな。」

「あの・・・。
 神様って言うなら、俺を元の世界に戻すこともできるんじゃないの?」

「さっきも言うたが、世界のことわりというか仕組みが下にしか流れぬでな。
 お主を元に戻すことはできんのじゃ。」

 俺はそれを聞いて無性に腹が立った。
 ラノベでは間違いなく神さんが関わって主人公を召喚するはず、なら、元の世界に帰らせることも不可能ではないはずだ。

「だって、俺をここに呼び出したのはあんたでしょうが?」

 勢い込んで文句を言ってみたが、予想外の返事が返ってきた。

「呼び出したと言うか、あちらの世界へ召喚しようとしたのは妾ではないぞえ。
 その召喚転移に干渉してここに顕現させたのは確かに妾じゃがの。
 放置すれば、お主があちらの世界で権力者にええように利用されるか抹殺されるかの行く末しか見えていなかったでのう。
 それに召喚に気づいたお主の世界の管理者からは、お主の面倒を見てくれとの申し送りも来ているでな。
 止むを得ず妾が動ける範囲で動いたわけじゃ。」

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 異世界召喚の変形モノとしての異世界紀行を描いてゆきたいと思っています。
 投稿は取り敢えず1週間に1度程度を考えています。
 この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
 
               By サクラ近衛このえ将監しょうげん
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