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第七章 変革のために

7ー8 魔法師ギルドとの交渉 その二

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 十二神将を会談場所に出現させたことで、状況は一変しました。
 直ぐに副会長がその沈黙を破りました。

「ただ今のこの守護者の言葉に誤りが無ければ、あなた方は我らに害をなそうとしたということになるが、それに間違いはございませんか?」

 焦りながら、魔法師ギルド副会長のクレポルドフ・セイガルズが咄嗟とっさに抗弁した。

「これは異なことを申される。
 そこな御仁は、我らが魔法を発動しようとしたと申されるが、その痕跡がどこにあるのかお教え願いたい。
 証拠も無く我らに言いがかりをつけるなど無礼も甚だしい。
 このことは魔術師ギルドに対するあからさまな冒涜ぼうとくとらえるがそれでよろしいか?」

 若干、焦った魔晶石ギルドの副会長デーヴィッド・フロワースであったが、即座にクビラが反論する。

「予め申し上げておくが、この魔晶石ギルトの中で魔法を使おうとすれば、いかなる魔法であろうと敵対若しくは攻撃の意図ありと判断する。
 魔法師ギルドの副会長が証拠を見せよと言われたが、証拠はそこに居られる公都支部長がお持ちのはず。
 魔術師ギルド公都支部長殿、懐に入れた袱紗をお見せ頂けるかな?
 くれぐれも申し上げておくが、いかなる魔法も使ってはならない。
 懐から袱紗を出して、この卓の上に静かに置かれたい。」

 今度は、魔法師ギルドの副会長が大いに焦った。
 袱紗に描いた魔法陣は、発動したことにより消えたが痕跡は残っている筈なのだ。

 見る者が見れば魔法陣の再構築さえも可能なのだ。
 あの魔法陣だけは外部に見られてはならなかった。

 これまでの数多あまたの交渉において、常に魔法師ギルドが優位な立場で契約を交わせたのはひとえにあの魔法陣があったればこそなのであり、魔法師ギルドの特別な者以外に公開してはならない最重要の秘密であったのだ。
 
「待たれよ。
 我らは公式に魔法師ギルドを代表してここに訪れた。
 にもかかわらず、まるで犯罪者であるかの如き扱い、到底承服できない。
 我らはこれにて辞去いたす。」

 クビラが冷たく言う。

「ほう、足元が危うくなったら逃げると申されるか?
 だが、いみじくも貴方が言った通り、証拠があれば、あなた方の内少なくとも二人は重大な罪を犯そうとした犯罪者だ。
 魔法師ギルド副会長クレポルドフ・セイガルズ、其方は闇魔法を発動して、ここな魔晶石ギルド副会長デーヴィッド・フロワース殿と事務部長コードウェル殿に対して害をなそうとした罪がある。
 また、ワイオブルグ公都支部長イリヤン・ブラッセルズ、貴方はクレポルドフ・セイガルズ副会長に指示されて魔法陣の描かれた袱紗を持ち込み、クレポルドフ・セイガルズ副会長の罪に加担した罪だ。
 従って、このお二方については、このままお帰り願うわけには行かない。
 補佐として来られたグラシム・マリオス殿については、共謀の疑いもあるが、この場では何もされていないのでこのままお帰り頂いても結構だ。」

 そのグラシム・マリオス補佐が言った。

「恐れ入るが、ここな二人を置いて私が一人戻るわけには参らぬので、このまま、お二人に同行させて下さらぬか。
 それと、・・・。
 改めるまでも無く、そこな巨漢の方が申された通り、我が副会長は闇魔法を発動しようとした。
 だが、発動せずに終わった未遂であると思われる。
 そうして、我が副会長は決してお二方に害をなそうとしたわけではなく、我が方が優位に交渉が運べるように少しばかり誘導をしようとしただけなのです。」

 補佐がそう言うと、すかさずクビラが応じた。

「生憎と、それを確かめるすべは無いな。
 何となれば、そこな袱紗に描かれていた魔法陣は対象者を意のごとく扱い、その異常状態を本人に気づかせないという稀なもの。
 端的な話、死ねと言われればその場で自殺もいとわぬほど強力な魔法だ。
 それにマリオス殿は未遂と言ったが、未遂とは魔法が発動しない内を言う。
 魔法陣の魔法は既に発動した。
 故に、痕跡は残っているが、描かれた魔法陣は一応消えている。
 確認されるか?」

「いえ、その必要はありません。
 私も魔法陣の発動は確認しました。
 なれど、何故にその効果が及ぶ前に消滅したのかがわからない。」

 クビラが言った

「その辺はあなたが魔法師ギルドに戻られてから検討されれば宜しき事。
 さて、そこなお二方の有罪は確定だが、本題に戻りませぬか。
 貴方方は一体何をしにこの魔晶石ギルドへ参られたのだ?
 いたずらに害ある魔法を発動しようとしてここに来られたわけではあるまい。
 いずれにせよ、今回の闇魔法発動の一件は棚上げしておいて、デーヴィッド副会長殿、本来の交渉に入られてはいかがかな。
 我らは魔法を発動しようとした場合に対処できるよう、この場にてこのまま待機する。」

 その後の会談は、終始魔晶石ギルドの意向に沿って動いた。
 魔法師ギルドの方は受け答えはグラシム・マリオス補佐が主として答えていた。

 シルヴィの見るところ、グラシム・マリオス殿は正直に答えている。
 魔晶石ギルドに無断で侵入した男は、魔法師ギルド顧問のフェイエル・ドランという男であり、対外的に公表はされていないが位階としては、会長・副会長に次ぐ三番目の階級に属する者であるらしい。

 しかしながら、彼の行為そのものは魔法師ギルドの預かりすらぬ所業であると抗弁した。
 流石に魔法師ギルドが企んだとは口が裂けても言えないだろうが、そのことを知っているのは、この場ではクレポルドフ・セイガルズ副会長のみであった。

 但し、シルヴィは侵入者を捕らえた直後には、魔法師ギルド本部にインセクト・アイを設置し、同時に風の妖精エリアルに情報収集を依頼したので、会長・副会長及び魔法師ギルドの闇組織であるシェン・シェモスティの共謀であることを知っていた。
 彼らの狙いは、マジックバッグを収納できるマジックバッグの製法に関する情報であったようです。

 そのために、シルヴィ・デルトンなる一級採掘師を闇魔法で制圧し、魔法師ギルドに誘拐することを企てていたのです。
 残念ながら、事前の情報収集が甘く、シルヴィが魔法師としても超がつくほど優秀なことを知らなかったようです。

 対外的に無類の魔物退治を行ったことや治癒魔法を扱えることなどは知っていたようですが、転移魔法を封じたり、闇魔法を発動した直後に無効化することができるとは知らなかったようですね。
 この計画の遂行者がシェン・シェモスティの部隊長のフェイエル・ドランであり、通常この男が魔法師ギルドの表舞台に出て来ることは無く、後にクレポルドフ副会長が明かした顧問というのも便宜上作っていた仮の位階に過ぎないのです。

 シルヴィがチェックした魔法師ギルドでの密談は、会長、副会長、それにシェン・シェモスティの副部隊長の三人で交わされており、魔法師ギルドに有利な条件しか決められていないから、交渉をまとめるのは非常に難航したのです。
 十二神将の室外監視付きで、魔法師ギルドの三人が別室で密談を繰り返し、また魔法師ギルド本部との通信を数度にわたって行うなどして、半日かけてようやくまとめ上げた結果が、概ね魔晶石ギルドの意向が強く反映した結論でした。

 第一に、不法侵入を行った被疑者フェイエル・ドランは、魔法師ギルドの内部規則に基づき、禁固三年の刑に服すことを約して、魔晶石ギルドは魔法師ギルドへ、フェイエル・ドランの身柄を引き渡すこと。
 第二に、魔法師ギルドは当該フェイエル・ドランの昨年の年俸の十年分にあたる金額を魔晶石ギルドに慰謝料として支払うこと。

 第三に、今回の会談に際して闇魔法を行使しようとした事に関して魔晶石ギルドが不問に付す代わりに、魔法師ギルド副会長の年俸及びワイオブルグ公都支部長の年俸二年分を魔晶石ギルドに慰謝料として支払うこと。
 第四に、魔法師ギルド本部は公式文書をもって、魔晶石ギルトに対して今回の一連の件について謝罪すること。

 因みにクレポルドフ・セイガルズ副会長の年俸は大金貨換算で80枚、フェイエル・ドランの年俸は大金貨70枚、ワイオブルド公都支部長の年俸は50枚と明かしていた。
 きりがないので細かい追求はしていないけれど、副会長は大金貨87枚、ドランは79枚、公都支部長は58枚で、いずれも大金貨10枚以下を端数としてを切り捨てたようだが、それでもまぁ、比較的正直に数値を出した方でしょう。
 
 魔晶石ギルドの会長さんの年俸で大金貨50枚程度ですから、魔法師ギルドの報酬はかなり高いみたいだね。
 あくどい方法で儲けているのかも知れません。

 彼ら魔法師ギルドの連中は、時間が遅くなったのですけれど、特別便を手配して夜になってから公都に向けて出立して行きました。
 因みに糞便にまみれたドランについては、拘束を外した上で、シャワーで身ぎれいにしてから帰ってもらいました。

 あのままじゃ、通船への搭乗も断られそうでしたからね。
 流石に四日ほども飲み食いもさせていませんでしたから憔悴し切ってはいましたけれど、シルヴィの顔を見てすごく睨んでいましたから、精神的にはまだまだタフなようです。

 去り際に、ちょっとイケメンのグラシム・マリオスさんが、シルヴィ(私)に向かって目礼をして行きました。
 私がドランを捕まえ、拘束魔法をかけた者だと認識し、素直に力量を認めたものなのだと思います。

 魔法師ギルドの印象は最悪ですけれど、グラシム・マリオスさんはそれなりの評価を与えてよいと思います。
 彼が居なければ十日経っても交渉の進展は無かったでしょう。

 何しろ副会長のクレポルドフ・セイガルズが全権代表のはずなのに、彼は魔法師ギルドに圧倒的に有利な条件、つまりは、不法侵入に関わる事案についての問責不可、フェイエル・ドランの即時釈放、それに損害賠償等の不請求でしたから、折り合うわけが無いのです。
 その点、状況を知らないグラシム・マリオスさんが常識的な判断で、副会長を説得し、魔法師ギルド本部の会長とも通信機で連絡してまとめ上げてくれたからです。

 最終的には、ドランの最終処分(殺処分)と魔法師ギルドとの断交をも覚悟していましたけれど、幸いにしてそこは避けられたみたいです。
 しかしながら、一方で魔法師ギルドに不利な条件でまとめざるを得なかったグラシム・マリオスさんの立場はあまり宜しくないでしょうね。

 更に言えば、私の顔は覚えられてしまいましたから、魔法師ギルドの目の敵にされそうなので、外に出るときは十分注意しなければなりません。
 もう一つは、私の召喚した十二神将の六体の件ですね。

 半分お披露目したような状態ですから何も説明しないわけには行きません。
 魔法師ギルドには当然知らせませんが、魔晶石ギルド幹部には私が召喚した魔法剣士であると説明しています。

 少なくとも魔法師ギルドの者を抑え込める力量は持っている旨説明しています。
 すると幹部の一人が聞いてきました。

「仮に、飽くまで仮にだが、魔晶石ギルドの採掘師と君の将官騎士が戦った場合、勝つのはどちらになるかね?」

「そうですね。
 単純な話で良ければ、一級採掘師が全員でかかっても、召喚騎士一人に敗れるでしょう。
 それぐらいの戦力差があります。」

「そんなものを六体も召喚できるのか・・・・。」

 本当は六体ではなくって、十二体も居るのだけれど別に教える必要も無いので黙っておきました。

=====================

注): アスレオール世界での金銭価値
 シルヴィの父(魔石加工職人)の月収がおよそ金貨一枚(5万ヴィル≒20万円程度)、
 大金貨一枚(=金貨10枚)の価値はおよそ200万円程度
 大金貨10枚で2000万円程度
 大金貨100枚で2億円程度
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