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第六章 異変

6ー3 クロマルド王国への派遣

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 ハーイ、シルヴィです。
 クロマルド王国からの緊急派遣要請に応じて、魔晶石ギルドから特別チームが派遣されることになりました。

 例によって、ダンカンさんが班長で、それにシルヴィほか三名が加わってメインの戦闘第一斑を編成し、更にクレバインさんを班長とする一級採掘師5名からなる戦闘第二班が編成されて、二班10名が派遣されることになりました。
 このほかにも二級採掘師や事務局職員から構成される支援班5名が派遣されることになっています。

 派遣前に派遣要員が一堂に会して情報の共有を行い、同時に作戦等が協議されました。
 事務部長の説明によれば、今回の緊急派遣要請の目的は、第一に瘴気発生に伴い発生した魔物の討伐特にシーファ・ウーディの殲滅もしくは無力化、第二に可能ならば瘴気発生原因の特定並びに瘴気の除去となっているそうです。

 従って、今回の依頼は二つあるのですが、必ずしもパッケージになっているわけではありません。
 特に、第二の依頼の方は「可能ならば」という条件付きな上に、依頼料金がそもそも違うようです。

 魔晶石ギルドの事務局では、今回よりも小規模の瘴気発生の際の故事を調べ上げた上で、直近の瘴気の消滅に際しては、直接携わった兵士3千人以上もの人命が失われたことを根拠にして、事務局が算定した金額はクロマルド王国の年間国家予算の半分にも匹敵する金額になりました。
 勿論、成功報酬ですから、瘴気の発生原因の特定や瘴気の除去ができなかった場合は、滞在中の旅費や危険手当のみが支給され、報酬は出ません。

 それに『瘴気の発生原因の特定』と『瘴気の除去』はそもそも別の作業になるようです。
 事務局がいろいろ苦労して事前調査をしたところでは、瘴気の発生原因についてはほとんど情報がないそうです。

 これまで二百年ほどの間に3回の瘴気発生が記録にあるようですが、いずれも原因特定には至っておらず、原因不明のまま半年ほどで瘴気自体の自然消滅が報じられています。
 過去の事例では、瘴気の発生場所は三か所いずれも違った場所であり、瘴気発生中は発生個所周辺の生物に多大の影響を与え、いずれも魔物の発生が認められています。
 
 その多くは生物が特異体に変ずることであり、例えば、飛竜がより強力な毒飛竜や火飛竜に突然変異していたり、大トカゲが地竜に変じていたりします。
 特に百年近く前の二件目の事例では、元々魔獣の生息地であった黒い森パードレ・ナーグラと呼ばれる大森林地帯では、巨大な毒トレントが発生して、大森林の動植物に多大な被害を与え、瘴気が消滅した現在でも未だにそのトレントが奥地に生息していると噂されているようです。
 
 魔晶石ギルドでは、これまで瘴気発生個所への派遣はありませんでした。
 飛空船による派遣システムが構築されてから、わずかに40年足らずであり、前回の瘴気発生の際には魔晶石ギルドに対する派遣要請そのものが無かったのです。

 従って、瘴気に対する対抗策は魔晶石ギルドにもノウハウが全くない状態なのです。
 このため、事前折衝の段階では派遣要請の第二の目的については事務局が目的から落とすように色々と交渉をしたのですが、クロマルド王国の強い要望でダメもとでもいいから入れてくれと言われて残された契約条項のようです。

 事務部長からは、第二の目的達成については無理せずとも良いとの発言が特にありました。
 作戦計画の方は大した議論もありませんでした。

 シーファ・ウーディの最大脅威が視線にあることと、その射程距離がおよそ30尋から35尋にあること、更にはおよそ40尋の距離から放たれた弩弓ではシーファ・ウーディを傷つけるに至らなかった事実を踏まえて、シーファ・ウーディ討伐をできるのがおそらくはシルヴィ一人であると予想されることから、シルヴィがシーファ・ウーディの殲滅任務にあたることとされました。
 実際問題として、40尋以上もの遠距離から強力な魔物を討伐できるのは魔晶石ギルドでもシルヴィただ一人と認定されていたことからこれはやむを得ないことでした。

 そのために第一斑の班員は、シルヴィのガード役に徹することとされたのです。
 第二班も必要に応じてシルヴィのガード役になるのですが、それよりも優先すべきは露払いとして特異体に変じた魔物の討伐をメインとすることになりました。

 問題は、そうした魔物がどの程度発生しているのかが現時点では正確にわかっていないことです。
 何しろシーファ・ウーディの足が速く神出鬼没であちらこちらに出没するためにワルドレン峡谷周辺にそもそも近づけず、クロマルド王国では二重に張り巡らした防護柵の外側には迂闊に出られないので峡谷周辺の状況がよくわからないのです。

 そうして防護柵の北端及び南端は未だに防護柵が完成しておらず、急いでもまだ十日前後はかかりそうなのです。
 ワルドレン峡谷の西側は元々荒れ地であって隣国のアマレド公国との国境線である峻険な山岳地帯まで人が住んでいないために放置されているようです。

 いずれにしろ現地に行かないとわからない状況もあり、とりあえずは大まかな方針だけで現地に行って最終的な判断をすることになりました。
 出発は翌日の早朝になりました。

 ◇◇◇◇

 魔晶石ギルドの派遣チーム15名は、翌朝一番の通船でワイオブール公国の飛行場に向かい、特別機でクロマルド王国へと旅立ちました。
 クロマルド公国に到着したのは、盛夏下月25日の夕刻でした。

 クロマルド王国は南大陸の中央部にあって、魔晶石ギルドのある北大陸とは季節が逆になるのです。
 但し、緯度が低いこともあっていわゆる南半球の冬季でも比較的暖かい地域ではあるのです。

 その日は飛行場周辺の宿で一泊し、翌早朝に現地に向けて出発の予定でした。
 シルヴィは精霊や妖精にお願いして現地の情報収集をお願いしました。

 妖精たちの働きにより概ね状況が判明しました。
 第一にワルドレン峡谷のほぼ中央部にあたる峡谷東側中腹部にある洞窟から瘴気が発生していることがわかりました。

 洞窟内部に侵入することは通常の妖精では難しいので、大地の精霊ノームにその発生状況を確認してもらいました。
 その結果、瘴気は魔晶石にも似た魔素を多量に含む魔鉱石が、龍脈の変動によって輻射加熱され、そのガス成分が空中に漂っているものと判明しました。

 因みにこれまでに発生した三か所の瘴気発生の地域に比べると埋蔵する魔鉱石の量が多いことから見て、龍脈がそのまま動かない限りは今後数年にわたる瘴気の発生継続が予想されそうなのです。
 ノームに確かめたところ、魔鉱石の鉱床そのものをこの場所から転移させれば当面瘴気の発生は避けられるとのことでした。

 ですから、私のすべきことは鉱床のある洞窟に入って、鉱床ごとどこかに転移させることでしょうかねぇ?
 第二に、妖精さんたちの働きで魔物の分布が判明しました。

 取り敢えず、大きな脅威とみなされているシーファ・ウーディについては群れが三つ居ましたね。
 概ね15匹から20匹程度の群れを作っており、その一部は繁殖期に入っていて卵を温めています。

 そのほかに脅威となる魔物は五種類(場合により6種類)でしょうか。
 大トカゲが巨大化し、火を吐く地竜となったもの。

 元々巨大な蜘蛛であった魔物がさらに巨大化し、強固な甲殻を持つようになった毒を吐く蜘蛛。
 峡谷の峻険な斜面を住みかとしていた大猿の魔物が変異した怪力の大褐猿。

 峡谷を流れる河川に住んでいたワニが巨大化した魔物。
 ワイバーンが変異した毒飛竜と火吹き飛竜。

 このうち、地竜と大褐猿は第二班でも討伐できそうですが、そのほかはどうでしょうねぇ。
 退治できないわけではないのでしょうがかなりてこずると思います。

 蜘蛛の甲殻はかなり強固で魔法が余程強力でないと仕留められないと思います。
 ワニはかなり固い皮膚を持っていますので武器は通じませんし、水中に潜られると簡単には手が出ません。

 それにこのワニは本当にでかいんです。
 全長が40mを超えますから流石に普通の魔法攻撃では倒せそうにありません。

 ワイバーンの変異体は、空を飛びますので撃ち落とすのが難しく、余程強力な武器か魔法でないと討伐できないでしょう。
 余り私の能力を知られたくはないんですけれど、ある程度は知られても仕方がないでしょうかねぇ、

 そもそもダンカンさんやクレバインさんの意識の中では、私が規格外の娘ということになっているしぃ?
 うーん、どうしましょう。

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