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第四章 魔晶石採掘師シルヴィ

4-12 スタンピード攻防戦 その一

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 厳冬下月7日、五の時をわずかに過ぎた時刻です。
 前線部隊である北西ゲート班から連絡が入りました。
 
 因みに私が作った携帯型の通信機を前線部隊の2班、遊撃隊の4班、支援班の1班の各班長が持っています。
 指揮班は大ホールに在って、タブレット型の通信機二つで情報収集を行うとともに指揮を執っています。

 ギルド本部屋上にある望楼には監視班8名が登っており、同じく班長に携帯型の通信機を渡されています。
 正直なところ、こんなに早く私の通信機が表舞台に立つとは思っても居ませんでしたけれど、備えあれば憂いなし、従来ですと伝令が走り回っていた分がなくなったそうです。

 総指揮を執るのは会長で幹部の方々もその補佐で出張ってきているようです。
 こんなに人がすぐ集まれるというのも、実は、魔晶石ギルドって既婚者がものすごく少ないんです。

 約350名の会員の内、十数人が既婚者ですが、いずれも会員同士の結婚らしいのです。
 この方々は、一応、寮では無くって既婚者用の宿舎に入っていますけれど、この敷地内で子供さんは見かけたことがありません。

 不老化の影響かもしれませんが、妊娠率が異常に低いらしく、仮に妊娠しても出産するケースが無いのだそうです。
 少なくとも過去二百年間で既婚者は百組に満たない数しかいませんし、その中で妊娠したと判明したのはわずかに数組だけで、そのいずれも流産もしくは死産になっています。

 ホープランドの呪いとか言われているそうですけれど、間違いなくツアイス症候群が関係していると私は思っています。
 そんなわけでホープランドに複数の既婚者は居ますが、成人前の子供がいない特異な集落なんです。

 その集落に、今、緊張が走っています。
 一級採掘師と二級採掘師が中心となって一個班30名の前線部隊二つを作り、それ以外の採掘師で一個班25名前後の遊撃部隊四班を形成しています。

 私は遊撃班の第三班に所属し、班長は一級採掘師のモデラーティさん。
 正直な話、食堂等でお顔は見たことがありますけれど、一度も会話したことはありません。

 どちらかというとギルドの会員でも採掘師というのは一匹狼の部類ですからね。
 余り仲間と親しくならないようなんです。

 ダンカンさんみたいに気安く私に話しかけてくる人は物凄く希少価値があるみたいです。
 尤も、ダンカンさんも本当に気を許す相手は少ないようですけれどね。
 
 その点支援班は割合に社交的ですね。
 加工師はどちらかというとその中間でしょうか。

 そんなわけで、大ホールの四隅に班ごとに固まっている遊撃班ですけれど、ほとんど会話はありません。
 但し、遊撃三班には、三級採掘師のレオン・バスカルさんとクラウディア・シュバレンツさんが居ました。

 彼らは顔なじみなので気安く私に話しかけてきました。
 彼らもここにきて一年余りしか経っていないのです。

 だから7年前のスタンピードは経験していません。
 やっぱりちょっと不安なのでしょうね。

 特に大規模なスタンピードになるとギルドが受ける物理的被害もかなり大きいようなのです。
 レオンさんが言いました。

「俺らがギルドに入ってから初めてのスタンピードだぜ。
 シルヴィの同期生は未だ研修中だから支援班組だな。
 お前もその意味ではツイてないな。
 卒業していなければ本部内でのんびりできたのになぁ。
 遊撃班だと万が一の場合は西ゲートか北西ゲートの応援に行かされる可能性がある。
 狂暴化した魔物は怖いぜ。
 ベテランの一級採掘師でも単独討伐は難しいと聞いているからな。
 俺も詳しいことは知らねぇが、狂暴化している魔物のオーラが攻撃魔法を弾くこともあるんだそうだ。」

 クラウディアさんが尋ねるように口を出す。

「じゃぁ、私らの魔法じゃ退治は無理?」

「いや、まぁ、・・・・。
 無理じゃないかもしれないが、少なくとも複数の採掘師が共同して当たらなければ討伐は難しいみたいだな。
 だから、まぁ、応援で出張ったらリーダーの指揮に従って動くしかないよ。
 魔法攻撃もタイミングと相性があるからさぁ。
 てんでバラバラに勝手な攻撃していたんじゃ、効果も薄れるし、無駄になるかもしれない。」

 クラウディアさんが私に話を振ってきた。

「ところで、シルヴィは、これまで魔物との戦闘はしているの?」

「ええ、まぁ、それなりに、A区は余り遭遇しなかったけれど、B区は結構魔物との遭遇率が高いから・・・。」

「そう言えば、シルヴィは、B区で鉱床見つけたんだよね。
 私は最初にD区、次いで今はE区で探し回っているけれど、今のところ良い鉱床は見つかっていないの。
 まぁ、何とか借金が増えないギリギリ程度の採掘はできているけれど、とても返済までは無理だよね。
 魔物には三回に一度ぐらいは遭遇しているけれど、できるだけ戦闘は避けるようにしている。
 万が一にでも二度目があると魔力が持ちそうにないしね。
 シルヴィは一日に二匹の魔物と遭ったことは?」

「えーっと、ありますねぇ。
 多い時は三匹ぐらいも・・・。」

「三匹って、そんな危ないじゃん。
 良く逃げてこれたね。」

「あ、いや、普通に討伐できてます。
 私って、結構魔力多いので、魔力切れは滅多に無いみたいですから・・・。」

「魔力切れが無い?
 どういうこと?」

「あれ、クラウディアは知らなかったのかな。
 こいつはって呼ばれてるけど、『魔女』の意味合いは、研修中に初級の魔法ながら連続で千発も放っていることからついたんだぜ。
 『黒』の方は、例の4人の襲撃者の返り討ちからついているけどな。」

「あ、あの帰り道に襲撃されたっていうやつね。
 でも千発の魔法って・・・。
 それは知らなかったわ。
 なんか、とんでもない話よね。」

「おう、さすがに千発ってのはな。
 だから、こいつは周囲からは『規格外』って言われてるんだ。
 その意味では今日も期待していいんじゃないかな。
 多少の魔物ならシルヴィが撃退してくれそうだ。」

 そんなこんなで色々と話しているうちに通信が少し騒がしくなりました。
 北西のゲート付近にかなり大型の魔物が複数到達し、ゲート前で肉弾戦をしているらしいのです。

 第一班と第三班が応援に行くように指揮所から指示があったようです。
 リーダーのモデラーティさんの指示により一斉に班員が動き出しました。

 駆け足で大ホールから北西ゲートに向かいます。
 私は脳内センサーで周囲の状況を確認しつつ移動しています。

 北西ゲート前には12匹もの大型の魔物が迫っており、互いに闘いながらゲートや隔壁に近づいてきているのです。
 ゲートも隔壁も結界で防護はされていますが、大きな負荷がかかると魔晶石で造られた魔道具そのものが崩壊することがあります。

 文献で見る限り、10匹の大型魔物が同時に結界に向かってきた場合、結界自体が耐えきれなくなって崩壊することがあるそうです。
 因みに北西ゲート付近に居るのは、8匹までは地上の魔物ですが、それ以外の4匹は空を飛ぶ魔物の様です。

 魔物図鑑の情報で言うと空を飛んでるのはワイバーンとマグナ・ドレイクのようで、ワイバーン三匹とマグナ・ドレイク一匹が空を飛びながら戦っているようなのです。
 その余波が地上にも降り注いでいるところです。

 因みにワイバーンは超音波攻撃ですね。
 ゴジラに出てきたラドンの衝撃波のような攻撃みたいです。

 マグナ・ドレイクは、ドラゴンとしてはおなじみの炎のブレスです。
 空を飛びながら互いに攻撃し合っていますので、攻撃が大空に向かっているのならいいのですが、高いところから狙ってそれが外れれば地上に被害が及びます。

 その余波で地上の魔物たちもさらにヒートアップしますから、ゲートの外やその上空はまさしく怪獣大戦争そのものですね。
 今のところ結界はもっていますけれど、こんなのが長時間続くと結界が持たなくなります。

 特に結界はゲートと隔壁を覆うようにして半球状に形成されていますが、余り空中からの攻撃に耐えるようにはなっていないようです。
 余り多くは無いのですけれど、過去の統計においても、結界が崩壊したのは空飛ぶ魔物の攻撃があった場合に結構発生しているようです。

 確かに超音波による衝撃波とブレスによる攻撃はいずれも魔法と物理攻撃の合成技のようなものですから、破壊力も強いのでしょう。
 因みに、私は自前の結界で自衛の方は何とかなりますけれど、どうも他の採掘師の皆さんは個人的な結界魔法は難しいようです。

 それぞれの属性魔法を使って短期間であれば結界を張ることもできるらしいのですが、長くても四半時も経てば魔力の枯渇でぶっ倒れてしまうそうです。
 その意味では私の魔力はやはり多そうですね。

 私の場合、すでに魔力の数値は四桁も半ば近くまで行っていますので、最強魔道士クラスを超えているかも知れません。
 応援に駆けつけた私たちは、前線部隊第一班の支援というか交代要員な訳です。

 最前線の第一班は、ゲートや隔壁に接近する魔物相手に魔法を放って討伐したり、できるだけ近づけないようにしているのですが、魔力の枯渇が半数以上に及ぶと前線の維持ができなくなりますので交代要員が必要なわけです。
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