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第三章 魔晶石ギルドの研修

3-18 初めての魔境ハイキング その二

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 ダンカンさんに何か手伝うことが有ればと手話で申し出ましたが、必要ないと断られました。
 採掘場では声を出さないのが当たり前。

 ですから手話を覚えたのです。
 採掘師も加工師も手話は必要最低限の覚えなければならない知識なのです。

 私は、図書館で鑑定を使いながらすぐに覚えてしまいましたけれど、同期生は未だに四苦八苦しているみたいですね。
 手話って、色々とヴァリエーションがあるために、結構紛らわしいのです。 

 それはともかく、お日様が南中となりました。
 お昼になったので私は食事タイムです。

 マジックバックに入っているお弁当から手を付けますが、・・・・。
 うん、やっぱり、これは一食分にしても多いよね。

 私まだ研修生になり立てで、ツアイス症候群にかかってはいないから少食なんですよ。
 でもコックさん普段から大食漢に慣れているから、魔境に出る奴ならこれぐらい食えるだろうって、大量のお昼ご飯を二食分も寄越したんでしょう。

 ありゃぁ?。食事をしている最中に空から脅威がやって来ました。
 あれはワイバーンなんでしょうか?

 プテラノドンに似た飛行生物です。
 うん、図鑑でみたワイバーンなんでしょうけれど、色が少し違います。

 灰色の筈なんですが、少し赤黒いんです。
 あ、もしかして、これがワイバーンの変異種かもしれません。

 図鑑にも魔物により変異種が生まれることが有ると記載されていました。
 変異種は通常種に比べると能力的に強くてタフなのが多いとか。

 大きさは殆どが大きくなるようなんですが、稀に小型になってより強靭になる種もあるのだとか。
 ワイバーン、こちらに気付かなければいいのだけど・・・。

 そう思っていると気づかれちゃいました。
 というより私たちが乗って来た騎竜のパデルを狙っているようです。

 パデルめがけて滑空して行きます。
 食事の邪魔をした挙句に、私のアルスに危害を加えようなんてとんでもない奴です。

 すぐさま、私は光魔法のライトアロー(レーザービーム擬き)で迎撃、あっという間に頭を撃ち抜いて撃墜しましたよ。
 騎竜が襲われたら帰りの足が無いですからね。

 絶対に困ります。
 ダンカンさんの切り出し作業を待っている間は暇を持て余し気味なのです。

 だから、お小遣いになりそうなので、撃墜したワイバーンから魔石を取り除いておきました。
 アルスが、多分遠目にそれを見ていたのでしょうか、私が近くに行くと何故かすりすりして来ます。

 そんなところはとても可愛いですよね。
 自分が狙われたこと、私が助けたことを察知しているのかもしれません。
 

 ◇◇◇◇

 結局、採掘現場で二時間半ほど居ましたが、その間にダンカンさんが所定の作業を終えて、洞穴から出てきました。
 暗褐色の魔晶石をそれなりの大きさで採取できたようです。

 前回は嵐になりかけたので、早めに避難せざるを得なかったようですが、今回は天候も持ちそうです。
 左程急がずに帰る途中でも二度ほど魔物に遭遇しました。

 ダイホルンという四足歩行の大トカゲ様の恐竜と、ネオブルカンという大白猿ですね。
 どちらもお前がやってみろと言われて、私が退治しました。

 大トカゲはライトアローで頭部を熱線で貫通、大白猿はロックバレットをマシンガンの様に発射、ボコボコにして片付けました。
 どちらも左程の手間はかかりませんでしたネ。

 どっちかというと、見ていたダンカンさんが呆れていたかも知れません。
 でも何も言わなかったから、きっと無問題モーマンタイだよね。

 あ、そういえば、土魔法の攻撃魔法って無いものだという神話がまかり通っていたみたいだから、あるいは、それに呆れたかしら。
 別に、石礫イシツブテだってちゃんと攻撃できるんだから問題は無いですよね?

 討伐した魔物に関しては、魔石がもったいないのでダンカンさんに断って、魔石を採取させてもらいました。
 魔物の身体の方も持ち帰れば何かに利用できるらしいのですが、ダンカンさんの手前、私のインベントリは見せられませんから、魔石以外は放棄です。

 でも、ワイバーンにダイホルンそれにネオブルカンという魔物の魔石が取れましたから、公都の屋台で昼食を食べるぐらいの小遣いにはなるんじゃないかと思います。
 その意味では、行きに出会ったブエルボアの魔石も拾っておけば良かったですね。

 いずれにせよ、初めての魔境のハイキング(?)、魔物にも出会いましたが美味しいお昼を食べて、無事にギルドのピットまで戻ってまいりました。
 今日は、休みなんですけれどギルドのピットは最小限の人手で稼働しています。

 ダンカンさんが、暗褐色の魔晶石を預け、無事に梱包まで済んでやっと解放です。
 あ、私は魔石を持っていたんだっけ。

 支援班の人に聞いたら、魔石の取り扱いは、今日はしていないとのことでした。
 ですから明日にでも支援班の魔石等買取受付に提出すれば、査定の上で買い取ってくれるとのことでした。

 借りていたマジックバックを事務部に返却し、お弁当の空バスケットを食堂に返却して、ダンカンさんにお礼を言って別れましたが、実習って色々為になることが多いですね。
 それに一級採掘師の戦闘力も間近で見られましたし・・・。

 でも、あんなものなのかなぁ?
 言っちゃぁ悪いけど、しょぼくないですか。

 一発で仕留めたとは言いながらも、勢いで突っ込んで来られるのが止められないのはちょっと危険だよね。
 それに私ならもっと離れたところから魔法を撃つよ。

 その方が万が一の場合に二の手、三の手を撃てる。
 でもダンカンさん、二の手をすぐに撃てるかどうか。

 だから二匹目をどうするか迷ったのかも。
 それ以外の理由があるとすれば、魔晶石?

 そう言えば、魔晶石の近くでは余り魔法を使っちゃいけないんだっけか。
 でもその意味では魔法の威力が収束するライトアローを使ったのは正解かも。

 周囲にはほとんど影響を与えないから・・・・。
 あれ、ひょっとして、魔境では余り魔法を使っちゃいけないの?

 今度聞いてみなければなりませんね。
 魔法使えなければ、物理能力だけで対抗ってことになるけど、それはちょっと流石に無理ゲーでしょう。

 大トカゲにしろ、大きな猿にしろ、まともに力だけで対抗していたら絶対に負けそうだもん。
 ましてやワイバーンだのは、相手が空を飛んでるだけに力だけではそもそも対応しきれないでしょう。

 でも、本当にダンカンさん遠慮しながら魔法を使ってたのかな?
 むしろ魔力の残量を心配している様な気もしたし・・・・。

 そもそも採掘師は魔物討伐が目的ではないから、魔物と出会うのを極力避けるって習ったよね。
 その意味ではできるだけ戦闘を避けて、こそっと採掘して、こそっと戻ってくると言う泥棒さんみたいなほうがいいのかしらん。

 まぁ、安全かもしれないけれど、逃げ隠れしていたら、採取そのものができないような気がするね。
 今日だってダンカンさんが洞穴に入っている間に騎竜がワイバーンに襲われそうになったけれど、仮に騎竜が襲われて帰りの足が無くなった場合、おそらくは戻るのに最低でも二日ほどはかかりそうだ。

 ダンカンさん、その場合の食料はもっているのかなぁ。
 そんな風に考えると結構危ない橋を渡っているんだと言うことが良くわかる。

 本当にラノベの冒険者方式でパーティを組めるならそれが一番望ましいのだけれど、とうの昔にその方式を放棄したとなると復活はあり得ない。
 それならば自衛のために何ができるかだよね。

 騎竜にも防御手段が必要だなぁ。
 結界か若しくは魔道具のようなもの。

 例えば気配を消すだけでも魔物に襲われる危険は少なくなるだろうから・・・。
 アルスのためにも何か考えてやらなくちゃね。

 寮に戻って食堂へ夕食に行ったら、待ち構えていたように同期生全員に囲まれ、魔境の様子を聞かれました。
 そう言えば、昨日も夕食のときにダンカンさんに誘われたから、同期生全員が今日の私の動きを知っているんだった。

 具体的に行った場所は内緒にして、その日有ったことをみんなに話しました。
 魔物に出遭って倒したことがメインですね。

 ダンカンさんの能力や採掘での動きなんかは内緒にしておきました。
 同期生にはきちんと話せない理由を説明しています。

 採掘場所は採掘師の最も大事な秘密だから話せないことを予め言ってあります。
 それでも同期生の極一部の者(誰かとは言いません)は、私だけがその場所を教えて貰ってずるいと言っていましたね。

 だからと言って勝手に教えられるものじゃないんだからそんな意見は無視です。
 仮に、ダンカンさんが死んだり、怪我をして採掘師をやめたりした場合、私があの採掘場所を受け継ぐことになりますので、その時は私の判断で誰かに教えるかもしれないけれど、少なくとも私のことをずるいと言った誰かさんには絶対教えないようにします。

 私は結構ネクラだし、執念深いんですから。
 まぁ、冗談はさておいて、帰りがけにダンカンさんが「またな」と言っていたのが気になります。

 ひょっとして、また魔境に連れて行かれるのかな?
 そんな漠然とした不安を余所よそに、翌週から実習関係が結構多くなりました。

 採掘師の実働に応じた実習です。
 例えば騎竜に乗って早足で走る訓練とか、動く標的を狙って攻撃する訓練とか、魔晶石のクズ石を均等に切る訓練とか、調律の狂った魔晶石を最小限に加工して調整しなおす訓練とか、かなり実践的な訓練になっています。

 魔物を倒す際に魔法行使は控えるのかどうかを尋ねたところ、エリオットさんもリカルドさんも、魔物に出遭わないようできるだけ注意はするが、出会ってしまったならば、命あっての物種だから遠慮会釈なくぶちかますということだった。
 その際に採掘した魔晶石は影響しないのかと尋ねたところ、魔法を遮蔽する布(絶縁布)で覆った魔晶石をマジックバックに入れている間は、基本的に魔法の影響を受けないそうだ。

 また、切り出される前の魔晶石は、直接魔法攻撃を与えない限りは、魔法の影響を受けにくいそうです。
 危険なのは切り出し直後、そうしてピットでマジックバッグから取り出して、選別所へ運ぶまでの間、無論選別所で梱包されるまでの間も危険である。

 従って、採掘のための切り出し作業中以外ならば全く問題がなさそうだし、切り出し中であろうと命にかかわる危険の場合は魔法をバンバン使っても良いらしい。
 その代わり、切り出し中の魔晶石は使えなくなるかも知れないけれど、それは仕方がない話なのだ。

 うん、命大事にが一番だよね、


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