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第七章 二つの異世界の者の予期せざる会合

7-1 アリス ~マルスとの出会い

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 マスコミがコンドミニアムの周囲から引き揚げ、私達に来客が増えだしたのもこの頃である。
 マスコミの取り巻きに恐れをなしていた人がようやく来られるようになったと言うことかもしれないが、それにしても一度もあったことの無い人物が面会を求めるのが非常に増えだした。

 ジェイムスがかなりの時間を費やしてこれらの人物との応対に追われていた。
 端的に言えば向こうには用事があってもこちらには無い話がほとんどである。

 従って、ジェイムスが応対した96%の方にはお帰りを願っている。
 残り4%がそれなりの用件を持った人物で、マイクなり私なりが会ったほうが良いと判断された。

 例えば宇宙海軍所属の人物だったり、新しくできる会社の関係企業の人物で有ったりする。
 尤も、陽の明るい間は、私が家に残り、マイクが仮の事務所などに出かけている場合が多くなっていた。

 従って、新たな仕事の関係者では、ほとんどの場合は仮事務所で応対することが多い筈である。
 これらに交じって既知の人物が押しかけてくるのだが、中には左程の知り合いでもないのに結婚式の招待目当てでやってくる人物もいた。

 基本的に、そうした人々には会わずに帰ってもらっているが、これが中々に難しい。
 12月15日はマイクも私も独身最後の日であったが、普段と変わらぬ生活であった。

 私達は式の後にシェラヌートン・ホテルに宿泊し、翌日には旅行に出かけることにしている。
 使用人の三人は旅行中は休暇であるし、ハーマンとサラも空港までは私達の警護につき、その後でやはり旅行に出かけることになる。

 12月16日、午前中はさほどでもなかったが、午後からはスケジュールが詰まっていて私は大忙しであった。
 美容院で念入りに髪を結い上げ、化粧をし、家に戻って着替えをしてホテルに向かい、ダイアンとスタッフ3人が待ち構える一室で花嫁衣装に着替えたのである。

 午後5時半には全ての用意が整っていた。
 マイクの親族たちも団体でシェラヌートンにチェックインしていた。

 ホテルの従業員は美男美女の団体に随分と驚いていた様子である。
 子供も中に2割ほど含まれているが、大人の大部分が20代前半であり、一番の年寄が50歳前後というのも非常に珍しい。

 800人が収容できる大広間は流石に広かったが、あれからヘンリエッタとその家族を含めて少し招待客が増えて500人を超え、なおかつ75名のフルオーケストラが結構な広さを陣取ったので左程の余裕は無かった。
 彼らオーケストラは25名の組3班に分かれ、一組は会食を別室で取れるようにしていた。

 私とマイクは慣例に則って、ホテルに付属するミトラ神殿の祭司の面前で二人だけの誓いの儀式を行い、その後披露宴の会場に入った。
 マイクの腕に手をかけて、場内の照明が落とされている中を、スポットライトを浴びながらひな壇に向かった。

 あちらこちらから「綺麗ね」とか「素敵ね」という声を聞きながら緋毛氈の絨毯を歩むのもまんざらではなく、笑みが自然と出ていた。
 ひな壇に上がって、二人で皆に挨拶をし、宴が始まった。

 私達二人は、概ね10人ずつの円形テーブルに分けられた招待客に挨拶をするために巡回した。
 一人ずつお話をしていたのでは時間が無くなるので、テーブル一つについて精々一人か二人への挨拶に留め、残りの人へは会釈で済ませるしかない。

 それでも一回りするのに小1時間を要した。
 それが終わると無礼講であり、中央にしつらえた小ステージの上で色々な催しがなされた。

 スピーチあり、歌ありで様々な催しがなされたが、マイクの親族の子供たちの笛だけの演奏は素晴らしいものだった。
 宴会も終焉を迎え、招待客全員が婚姻の歌を合唱する中、私とマイクは退席した。

 私達が扉の前で振り向いて二人一緒にお辞儀をすると拍手が沸き起こり、様々に声もとんだ。
 中にはちょっと卑猥な掛け声も飛び出して笑いを誘った。

 私は一旦控室に入り、衣装を脱いで着替えをした後で、マイクの待つ部屋に向かった。
 衣装を片づけるのはカレンとルーシーに任せた。

 その夜、私とマイクはホテルのスィートルームで結ばれた。

 ◇◇◇◇

 翌日の朝の目覚めは少々遅かった。
 その日私達はトランク二つを持って、サンゴ礁の島オールバンド島に旅立った。

 ティワナ・ホテルのスィートルームに5泊6日の予定である。
 南洋の島オールバンド島は、赤道よりも北側にあるから季節としては冬なのだが、緯度が低く、暖流の影響で常夏の島でもある。

 クレアラス出発は12月17日午後2時であったが、経度の違いで6時間後に到着した時、現地時間では同じ17日の午後1時であった。
 熱帯の花が咲き誇る沿道を浮上車でホテルに向かい。

 その日は午後8時まで起きていた。
 時差になれるためには、そうした方が良いのだ。

 もっとも二人がベッドに入ったのは8時過ぎでも、セックスに励んだ性で実際に寝たのは12時近かった。
 翌朝6時半に起きて、二人で海岸の遊歩道をジョギングした。

 赤道に近い島の陽光は朝から日差しが強く、二人ともサングラスにこの島独特のサンバイザーが着いた麦藁帽を被っている。
 肌の露出している部分は丹念に日焼け止めローションを塗っていた。

 この時期のオールバンドの気温はほぼ303ケルビン度前後と一定している。
 偏西風の影響で実際の気温よりも涼しく感じられる。

 ジョギングの後で朝食を食べ、午前中はプライベートビーチで泳ぎを楽しんだ。
 フィン、マスク、シュノーケルをつけて浅瀬のサンゴ礁を泳いだのだが、海水の透明度は非常に高く30トランほどは優に見える。

 色鮮やかなサンゴに七色の熱帯魚が群れていた。
 この地域に棲むシロイルカが私達に挨拶に来た。

 色々とシロイルカと話していると中々に楽しいものである。
 無論テレパスだからできることである。

 シロイルカがコリデル語を話せるわけではない。
 彼らは人間に知られていない海底の洞窟や、とても珍しいサンゴの有り場所なども教えてくれた。

 午後は午睡をして夕刻にホテル街を散歩して土産物を捜した。
 少なくとも家人と親しい知り合い何人かには土産を持って帰らねばならないからである。

 無論自分たちの記念になるお土産もである。
 二日目は、クルーザー船を借りて最寄りの無人島へ行く、そこが目的地ではなく、マイクの故郷での結婚式に参列するためである。

 船は無人島の浜辺の沖で錨をおろして停泊させた。
 ここ数日の間に嵐が来る気配も無い。

 冬季のこの海域は非常に安定した気候なのである。
 マイクの故郷へテレポートして、そこで披露宴を挙げて再度船に戻るだけなのだが、これが結構疲れるものである。

 時間帯が異なる性で時差が生じる上に時間の進み方も違うからである。
 再度マイクの親族一同とお会いしてご挨拶をしなければならない。

 マイクの親族は128名だけではない。
 故郷の結婚式には300名余りも集まり、そのほとんどが初めてお会いする人ばかりであった。

 それらの人々とはテレパスで短い時間ながら言葉を交わし合う。
 全くマイクの一族は驚くべき人たちばかりだ。

 女神と呼ばれる人々にもお会いした。
 中でも一番の年寄は、ジュディスと呼ばれる女神だが、エドガルドさんのように人為的な延命措置を講じていないにもかかわらず158歳でありながら、私と変わらない20歳前後の容貌を持った不死族の一人である。

 死なないわけではないのだが人間の一生に比べると非常に長い年月を生きることができる神のような存在ではある。
 但し、万能ではないそうだ。

 彼女はエドガルドさんの子供の中では最長老であるが、女神の中では未だ結婚適齢期には入っていないのだそうだ。
 もう40年ぐらいしたなら結婚できるかもしれないわねとご自分で言っていた。

 マイクの故郷での披露宴が終わってホテルに戻ったのは三日目の朝方である。
 その日は、平行世界の仕組みに興味を持って色々な世界を覗いて見た。

 勿論マイクが傍にいる。
 色々と見ているうちに午前も遅い頃になって妙なものに気づいた。

 覗いた世界の一つは恐竜が闊歩する明らかに原初の世界であったが、もう一つ別の世界が重複しているのである。
 私には見えても、マイクにはその世界が見えないらしい。

 そこでマイクとリンクして更に分け入ると、別の異世界へのルートが見え始めた。
 そうした特殊なルートでかなり奥に入り込んだ先で田園風景が見えた。

 其処では私達と変わらない人々が日々の営みをしていた。
 少し異なるのは随分と昔の世界であることだ。

 海には帆船が浮かび、陸では馬車が走っている。
 騎士がいて彼らの武器は剣と弓矢が主であるようだ。

 メィビスもアルタミルも植民星なので、そんな時代は無いのだが、人類発祥の地デンサルで言うなれば2000年以上も昔の世界に相当するだろう。
 その世界をあちらこちらと覗いているうちにある意思にぶち当たった。

 とても大きなオーラを持つ人物である。
 その人物がテレパスで尋ねてきた。

『僕は、マルス。
 マルス・カルベックと申します。
 あなた方はどなたですか?』

『僕はマイク・ペンデルトン、一緒にいるのはアリス。
 彼女は僕の妻だ。』

『こんにちわ。
 あなた方は不意に現れたようですけれど、どちらから来られましたか?』

『うーん、説明はしにくいのだけれど、君の住んでいる世界とは別の世界から今覗いているところだ。』

『覗く?
 ああ、なるほど、・・・。
 小さな孔を通してこちらを見ていらっしゃるのですね。
 あなた方のような意思と会うのは初めての事です。』

『マルスと言ったね。
 もしかして、君は別の世界からこの世界にやって来たのではないかな?』

『ええ、もしかすると、そうかもしれません。
 ある時、ここに辿り着いたから、・・・。
 でもその前にどこにいたかはよくわからない。』

『なるほど・・・。
 僕の一族で、10年も前に行方不明になった幼子がいる。
 名前はマルス・エルフ・ブレディ。
 当時三歳になるかならないかの年頃だった。』

『じゃぁ、違うかもしれません。
 僕がこの世界で養父母に見つけられたのは、もう15年も前の事です。
 当時確かに三歳位ではありましたけれど・・・。』

『なるほど、年数が違うか・・・。
 でもね、異なる世界では異なる時間がままあるんだ。
 時がゆっくり流れる世界と早く流れる世界がね。
 今君の住んでいる世界が僕らの世界よりも時が速く流れる世界ならばそれぐらいの誤差はあり得るよ。』

『そうですか。
 では何かその行方不明になったマルスに特徴的なことはありますか?』

『いや、僕が子供の頃の話だからね。
 詳しい話は特段には聞いていない。
 ただ、マルスのご両親に聞いてみることはできるよ。
 今は、時差があるのですぐにはちょっと難しいかな。
 後で確認したうえで知らせよう。』

『はい、ではまたお話しできることを楽しみにしています。』

 彼はそう言って交信を切った。
 私たちはその世界の太陽の動きからおおよその時間を知った。

 その世界は概ねクレアラスの1.6から1.7倍の速さで1日が経過するようだ。
 正確に測るためには、機器を持ち込まなければならないが、そこまでの必要性はないと判断していた。

 私とマイクは、マルスのいる世界から現実へと戻った。
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