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第四章 新たなる棲み処

4-1 アリス ~新居 その一(会合を求める者達)

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 私(アリス)達がクレアラスに戻って6日目、内装と家具の配置が完了し、新居に住むことが可能になった。
 私とマイクはホテルを出て、新居に向かった。

 勿論、報道関係者には内緒である。
 トランクはホテルから別送してもらっていた。

 翌日には、ジェイムス、カレン、ルーシーが相次いで転居してきた。
 三人共に住み込みである。

 皆がペンションハウスの威容にまず驚き、若いマイクが大金持ちなのに驚いた。
 その日からマイクの屋敷にはメイド一人、女性コックが一人増えた。

 男性執事は今のところ研修中であり、朝家を出て夕方には帰宅する状況なので、余り活躍の場がないのだが、それでも家のあれこれを自ら進んで処理し始めていた。
 1か月半後には執事として十分働いてくれるに違いなかった。

 ◇◇◇◇

 そのころアリスとマイクの居所がわからずに苦慮していた者が4人もいた。
 一人は、ディリー・プラネット社の副社長エスター・バレンツ、彼は部下に命じて徹底的に追尾を命じたのであるが、ディリー・プラネットの情報網を駆使しても彼らの居所が掴めないのである。

 彼らは神出鬼没である。
 あちらこちらで話題を振りまいてくれるのだが、情報は全てが後追いであった。

 狙いを付けたホテルもどうやらチェックアウトしたようである。
 行く先についてはホテル側も一切明かさない。

 まぁそれがホテルの信頼の証であるから仕方がないのであるが、これがシェラヌートン以外のホテルで有ったならば何とか内部情報も得られたかもしれない。
 だがシェラヌートンはガードが堅いので有名なのである。

 コルナス支局からの情報で、ザクセン製薬の創業者が連絡先を知っているようだが、彼もまた個人情報に関しては一切明かそうとはしなかった。
 彼らがコルナスで泊まっていたホテルの連絡先は、シェラヌートンであり、そこから先が手繰たぐれないのである。

 同じく、ハイスクール吹奏楽会ヤノシア支部長のデルモンド・デッカーも彼らの連絡先が分からずに困っていた。
 何せこの業界では大御所とも言われているファルド・コーンウィスキーの提案である。

 無碍に扱えばとんでもないことになる。
 しかしながら、連絡先が分からないのではどうにもならないのである。

 同じくヤノシア地区社交ダンス支部長のマッカラム・タウンゼントも頭を抱えていた。
 ヤノシア地区大会への足掛かりとなるメィビス予選会の申し込み受け付けが間もなく始まるというのに彼ら二人の連絡先が全く不明なのである。

 ディリー・プラネットを始めとする報道ではしばしば名前が出るのだが、そこから先は一切がわからない。
 彼らが仮に応募しなければメィビスは勿論、ヤノシア地区にとっても大きな損失になる。

 彼らならばあるいは平和の祭典で長らくディフィビア連合から遠ざかっているペア優勝もあり得ると考えていた。
 ビルブレン共産同盟に優勝の座を奪われて以来この数回の平和の祭典で一度も優勝していないのである。

 これは歴史あるディフィビア連合の社交ダンス界にとっても大いなる恥辱なのである。
 何としても取り戻さなければならない栄誉であった。

 しかしながら、焦燥感のみ先走って、彼らの連絡先すらつかめない状態では如何ともしがたい。
 もう一人焦燥感に身を焦がしている者がいた。

 ダイアン・メズローである。
 彼女はキティホークでアリスに声をかけたものの、モデルになることは取り敢えず断られてしまった。

 そうしてアリスとマイクが一緒の場面を演奏で見て、更にはダンス会場でみて、彼ら二人を何とかものにできれば自らもさらに上に行けると確信した。
 だが彼らとはキティホークを出て以来一切連絡が取れなかった。

 メィビスに居ることは判っているが、何処に住んでいるかもわからない。
 メィビスでも一流と言われるノートン探偵社に依頼して行方を捜させてはいるものの、一向に情報が入らないのである。

 クレアラスを拠点にしているのはほぼ間違いが無いようだ。
 だが、5000万人もいる中から二人を探し出すのは至難の技である。

 住民登録では情報が得られない。
 かれこれ10年も前に住民登録の情報が漏れたことを契機に連続殺人事件が発生し、そのために政府は住民登録の情報は非公開とし、捜査機関でも通常の手続きでは情報が得られないようにしたのである。

 彼女が至近の目標としているモード・デ・ヴァリューは5年に一度、平和の祭典が行われる前年に同じ場所で開催される。
 今年はこのメィビスでしかも彼女が本拠地としているこのクレアラスで開催されるのである。
 宿願のローザ・パームスプリングに追いつき、追い越せるチャンスであるにもかかわらず、そのための材料が揃わないのである。

 既にデザインは決まっていた。
 マイクとアリスを念頭に描いて作り上げたデザインであり、これまでになく秀作だと思っている。

 だが、彼女が抱えているモデルでは役不足なのである。
 相応に着こなすことはできるだろうが、自分が描いた全体像とは似ても似つかないことになるのは判り切っていた。

 どうしてもあの二人に出てもらわねばまたしてもローザに勝てないことになる。
 そうなれば再度5年も待たねばならないのである。

 ダイアンはため息をついていた。

 ◇◇◇◇

 アリスがメィビスに到着した時は6月の初めであったが、今はもう7月に入りメィビスの夏場を迎えていた。
 メィビスの夏はアルタミルの夏に比べると左程暑くはない。

 どちらかというとカラッと晴れた清々しい気候なのである。
 一つにはメィビスの一番大きな大陸(?)の東岸周辺を暖流が流れているために、東岸に近い位置にあるクレアラスでは、海流の影響で夏場も冬場も気温差が余り大きくないのである。

 私とマイクは、報道陣に追いかけられることも無く、静かな生活を送り始めていた。
 マイクは新たな事業を始めようと考えていたし、私は私で修士課程で中途半端になった論文の完成を目指して試行錯誤していた。

 最近の日課は、毎朝二人で最寄りの公園をジョギングすることである。
 ルーシーが作ってくれた美味しい朝食を食べた後、スポーツウェアに着替えて、ダイム・パークの遊歩道を周回する。

 一周15セトランを二周して家に戻るのが日課である。
 最近はマイクのスピードにもついて行けるようになってきた。

 その日の周回も二周目の終わり頃、一度に珍事が起きた。
 車道の近くを走っていた時、一台の浮上車が急停止し、その背後を走っていた浮上車が危うくぶつかりそうになったのだ。

 次いで、その急停止した浮上車から一人の男が飛び出して走ってくる。
 そうして何故かその反対車線の浮上車も急停止するや、同じく男が一人浮上車を降りて、無謀にも車道を横断してくるのがわかった。

 それから続いてフリッターがまるでつんのめるように速度を落として前方に着地し、女性が一人、髪を振り乱して走ってくる。
 更にもう一台のフリッターが左前方に着地して男がこれまたすごい形相で走って来るのが確認できた。

「どうする。
 僕らが目当てみたいだけど逃げる?」

 その場で足踏みをしながらマイクが尋ねてきた。

「えぇ?
 何で、私たちなの?
 マスコミというわけじゃなさそうだけれど。
 それに、あっちから走って来る人。
 多分、ダイアン・メズローさんみたい・・・。」

 私も足踏みしながらそう答えた。

「ふーん、しょうがないな。
 じゃぁ、ここで待とう。」

 マイクは足踏みを止めたので私も足踏みを止めた。
 ほぼ四人が同時に着いて、同時に話し出した。

 みんな息が弾んでいてしどろもどろだから何を言っているのかさっぱりわからない。

「まぁまぁ、皆さん落ち着いて、あそこにベンチが有るからそこに座って話をしましょう。」

 マイクがそう言って四人を引き連れて50トランほど離れたベンチに4人の腰を降ろさせた。

「さて、この中ではお二人が顔見知りですかね。
 後のお二人は知らないから後回し。
 先ずはレディ・ファーストで、ダイアンさんからどうぞ。」

「ありがとう。
 あのね、あなた方二人をずっとずっと捜していたのよ。
 で、ここで偶然見かけた。
 ここで逃したらまた当分会えなくなる。
 だから必死で走ってきた。
 お蔭で気分が悪くなったわ。
 でもそんなことを言っていられないの。
 ねえ、マイクそれにアリス、一生のお願いだから聞いて。
 一度だけ、たった一度だけでいいから私のモデルをやって頂戴。」

「モデル・・・ですか?
 アリス、どうする?」

「うーん、・・・。
 一度だけということならやってもいいわ。
 ダイアンさんの一生のお願いじゃ断るわけにも行かないでしょう。」

「そう、・・・。
 じゃぁ、いいですよ。
 一度だけ貴方のモデルを勤めましょう。
 でも一度だけですよ。」

「ありがとう。
 ありがとう。
 恩にきます。
 でも色々と打ち合わせしなければならないわ。」

「わかりました。
 それはひとまずおいて、ダイアンさんは、ちょっとこのまま待っていてください。
 他の人の話も聞かないと。
 はい次は確か、・・。
 ディリー・プラネットの副社長のエスターさんでしたっけ。
 何の用事ですか?」

「いや、私も君たちの行方がさっぱり掴めないんで困っていたんだ。」

「何故でしょうか?
 僕ら二人の行方が分からなくてエスターさんが困ることはない筈ですけれど?」

「いや、その・・・、何というか。
 君らはメィビスでは知らぬ者が無いほど有名人なんだぜ。
 我が社はその動向を知らせる社会的義務を負っているんだ。」

「はい、そこまで。
 エスターさん、予め申し上げておきますが、僕たちはアイドルでもなければ、有名人になりたいとも思っていません。
 従って、マスコミ関係の方に追いかけられるのは困ります。
 仮に取材に見えられても一切応対は致しません。
 以上です。
 はい、では、どなたか知りませんが、次の方。」

 マイクはそう言って掌を差し向けた。

「儂は、ヤノシア地区社交ダンス協会支部長のマッカラム・タウンゼントというんじゃが、・・・。
 実は、何とかお二人にメィビス地区の社交ダンスコンテストに出場をしてもらいたいとお願いに参ったものじゃ。
 儂も、他の方同様、あなた方をずっと捜しておったんじゃ。
 来年は平和の祭典がこのメィビスで開催される。
 じゃが、20年前にビルブレン共産同盟にペアダンスの優勝をかっさらわれて以来、優勝の栄冠はこのディフィビア連合から離れておる。
 じゃが、キティホークでのお二人のダンスを見て以来、その20年来の望みがあることを感じたんじゃ。
 お二人ならばきっとディフィビア連合にかつての栄光を取り戻してくれるに違いないとそう信じておりますんじゃ。
 ただ、その希望もお二人に地区大会にエントリーしてもらわねばどうにもならん。
 私も一生のお願いじゃ。
 メィビスの地区大会、そうしてヤノシア地区の予選大会、更にディフィビア連合大会を経て、平和の祭典で栄冠を取り戻してはくださらんか。
 他の者では駄目でも、あなた方ならばきっとできる。
 ですから、どうか、どうかお願い申し上げる。」

 マイクは困った表情で、アリスに言った。

「アリス、どうする?」

「どうするったって、・・・。
 無視するわけにも行かないわねぇ。
 しょうがないから、詳しい話しを聞くだけ聞いたら。」

「うーん、しょうがないか。
 マッカラムさんもそのまま待っていてください。
 で、最後の方は?」

「儂は、ハイスクール吹奏楽会ヤノシア支部長をやっていますデルモンド・デッカーと申します。
 儂の話もマッカラムさんの話と同じようなものでしてな。
 平和の祭典には吹奏楽のハイスクール部門が御座います。
 あなた方お二人の指導でカインズ・ハイスクールの吹奏楽部は歴代にない好成績で優勝の栄冠を飾りました。
 儂は本来なればその日会場に居るべき責任者でしたが、生憎と風邪をこじらせて肺炎で入院していたためにその演奏には立ち会うことが出来ませなんだ。
 いずれにせよ、貴方がたお二人にご指導を仰げば、他の二位、三位のチームの力量も上がり、ひいては平和の祭典でディフィビア連合の活躍が期待できるのではないかと、・・・。
 浅はかな考えかとは存じますが、あなた方お二人に指導していただけるか否かで成績が左右されるのは間違いなく、何とか出場チームにご指導を願えんもんかと恥を忍んでお頼み申し上げに参った次第です。」

「うん、これも困った話だねぇ。
 カインズの生徒たちを短期間ながら指導したのは事実だし、他の生徒の指導を拒否したら依怙贔屓と言われそうだしねぇ。
 アリス、どうする?」

「しょうがないわねぇ。
 こんなに一度にお願いされても面倒見きれないと思うけれど、これも話を聞くだけ聞いてみたら?」

 マイクはため息をついた。

「何だか厄介事持ち込み所になってきたねぇ。
 僕らにも個人的な都合というものがあるんだけれどなぁ。
 あ、エスターさん、貴方に用事は有りません。
 ここから先は、マスコミもシャットアウトです。
 どうかお帰り下さい」

 エスターは目を剥いた。
 他の三人への対応に比べると如何にも冷たい。

 まるで差別である。

「冷たいですなぁ。
 同じ船に乗り合わせた仲じゃないですか、・・・。
 少しぐらいマスコミにサービスしてくれても・・・。」

「駄目です。
 マスコミの聞きたがり、知りたがりは度を超しています。
 これ以上付きまとうなら、警察に来てもらいますよ。」

 エスターはそこまで言われると取り付く島が無い。

「仕様が有りませんな。
 ではまたいずれどこかで。」

 エスターは、そう言いながらもしっかりとネタを掴んだことを感じていた。
 マイクとアリスは、次の機会に公の場に立つ機会がある可能性を耳にしたのだから、この時点で公開できれば特ダネなのだが、実際問題は確定していないので公開は難しい。

 確実になった時点でネタを出すしかない。

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もうしわけございません。
公開時間を間違ってしまいました。
0時公開の所を午後9時にしてしまいまして、急遽午前6時に変更しました。

 2020年10月26日
   By サクラ近衛将監
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