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第三章 新たなる展開

3-13 アリス ~特効薬の開発 その一(結晶体の抽出方法)

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 彼らが引き上げた後で、マイクが言った。

「あれだけの広い家は掃除するのも大変だからメイドと執事を雇おうと思うけれど、誰かあてがあるかい?」

「あてと言えばなくもないけれど、アルタミルの人だから、余り無理は言えない。
 アルタミルで母が雇っていたメイドなんだけれど、今は娘夫婦と暮らしている。
 確か62歳でもうお年だから、メィビスまで呼ぶのはちょっと無理かも。」

「うん、家族や住み慣れた地を離れるには少し年寄過ぎだね。
 じゃぁ、明日から候補者と会ってみるつもりだけれど一緒に行くかい。」

「ええ、いいわよ。
 どんな人?」

「実は前科者と言われる人だ。
 メィビスは犯罪者の刑罰に死刑が無いのだけれど、その代わりに流刑がある。
 本土とは隔絶した島に流刑にする。
 犯罪の軽重により流刑期間が変わるんだけれど、最長はこれまでのところ830年かな。
 恩赦、特赦で期間の短縮がなされるけれど、最大1割又は10年までの内いずれか短い方、恩赦、特赦が毎年続いても生きている間は先ず島を出られない。
 そうした重罪人ではなくても、流刑に処される人は結構いる。
 彼らは島帰りと称されて、戻ってもろくな定職には付けないことになる。
 一人は、ジェイムス・ブレンド、元メィビス宇宙海軍の海兵隊員でね。
 ある事情で過失致死の責任を問われて刑に服した。
 但し、本当は彼に責任が無いところで死亡事故が起きたのに、海兵隊の幹部がそれを許さず、見せしめのように彼が告訴された。
 本来は軍内部の事件だったから軍法会議で処分されるべきなのに、異例なことに一般の刑事事件として訴追された。
 しかも当時関わった将兵は全て星系外の災害救援任務に就かされて誰も彼を擁護する証人にはなれなかった。
 結果として彼は2年の流刑処分になり、三か月前に島から戻った。
 全ては彼の上司である幹部士官の責任の筈だったけれど、彼の父親が海軍の幹部将官でね。
 ある意味でねつ造した事件だった。
 だが、その幹部士官もその父親も彼が島に居る間に相次いで死亡してしまい、事件は闇から闇に葬られてしまった。
 彼は島から戻っても海兵隊には復帰できないし、まともな職にも有りつけないでいる。
 今は、道路工事などの人夫として日銭を稼いで暮らしている。
 二人目はカレン・スゥイフト。
 彼女は、15歳の時、同級生に強姦されそうになった友人を助けようと、襲った男を突き飛ばしたんだが、はずみで男は路肩のブロックに頭をぶつけて脳内出血のために死亡した。
 本来なら正当防衛で無罪になる筈なんだが、無能な弁護士がついてね。
 おまけに助けられたはずの友人が彼女を裏切って不利な証言をした。
 そのために重過失致死に問われて流刑5年の判決を受けた。
 本来は10年の求刑だったのだけれど、判事が最大限の情状酌量を認めて、5年に減刑された。
 彼女も三か月前に島から戻ったが、両親は病死、兄が一人いるんだが島帰りを受け入れると彼も周囲から疎外されるので、一切の関わりを拒否した。
 頼るべき身寄りがないまま、現在は掃除婦になって何とか日々食いつないでいる状態だ。
 もう一人は、元コック見習いのルーシー・ケンドリックス。
 彼女は幼い時に両親を亡くしたために、身寄りがない孤児のための施設で育った。
 一生懸命に努力して、働きながら料理人の学校に入り、何とか市内でも有名なレストランの厨房に職を得た。
 働き始めて三年だったが、腕が良くってチーフコックにも認められる腕前に育っていたんだけれど、料理人の世界は結構女性には厳しいんだ。
 兄弟子たちからは結構いじめられていたようだ。
 それでも我慢して勤めていたんだが、有る時、客に出した料理が食あたりを起こしてしまった。
 実はチーフコックもその料理で命を落とした。
 メィビス特産のフィルムランという魚は珍味で有名だけれど、専門の魚屋でも中々見分けがつきにくいコディルと言う毒のある魚を誤って料理に出してしまったんだ。
 彼女はその料理には一切手を出してはいないのだけれど、セカンドシェフ以下の兄弟子たちが口を揃えて彼女の責任だと証言して、彼女が重過失致死の刑を科された。
 彼女は5年の刑期を終えて、一か月前に島から帰って来たが、手に着いた料理人の世界はそれこそ島帰りには厳しい。
 コックとしての仕事は得られないから、彼女はお針子の仕事で何とか食いつないでいる。
 この三人はいずれも本来は罪を問われるべき人物じゃない。
 放置すればそれこそ身を持ち崩して犯罪人などに転落するかもしれないんでね。
 出来れば助けてあげたい。
 カレンはメイド、ルーシーはコック、ジェイムスは運転手兼執事として雇いたいと思っている。」

「マイクが、その人物が信用できると考えているならいいのじゃない。
 マイクが単なるお情けで雇うとは思えないもの。
 その人達って必死に谷底から這い上がろうと努力している人なんでしょう?」

「ああ、そのとおりだよ。
 普段は、滅多にしないけれど、彼らについては、思念を探らせてもらった。
 彼らは信用できる人物だ。」

「わかった。
 で、面談はいつ?」

「明日・・・の夕方かな。
 特にアポイントも取っていないからね。
 直談判だよ。」

「どんな服装で行けばいい?」

「そうだなぁ・・・。
 若奥様の格好かな?」

「若奥様?
 そりゃぁ、なりたいけれど・・・。
 無理よ。
 今のところ全くそんな実感がないんだから。」

「じゃぁ、恋人だな。
 僕は格子模様の茶系のジャケットで行くよ。」

「ふーん、じゃぁ、私もそれに合わせるのね?
 うーん、・・・・。
 カーキ色のビジネススーツで合せることにする。」

「ふぇー、そりゃぁまるで人事部のお姉さまだな。」

「いいんじゃない。
 人を雇う話なんだから、そんな場合には有能な人事部秘書が同行するものよ。」

「まぁ、服装の話は任せよう。
 ところで、ケルヴィスの話は?
 あっちの方も早めに進めた方がいい。
 何しろ人の命が掛かっている。」

「ハマセドリンの方は何とか目途が付いたから、後は混合結晶体からのC結晶体の抽出ね。
 マイクの実験室で、混合結晶体を230ケルビン度に冷やせるかしら。」

「うん、まぁ別に実験室で無くてもできるよ。」

「そう、じゃぁ後は音波発生器ね
 多分、毎秒1300から1500回ほどの周波数をそれなりの強度で照射すれば多分分解する。
 後はその破片をボナビアンにつけて沈殿状況を見る。
 でもボナビアンは特殊な溶剤だからどこにでも売っているというものではないわよ。」

「ボナビアンの再生は可能?」

「ええ、沈殿した結晶体をそれぞれ取り出せばボナビアンの上澄みは再利用可能よ。
 もともと結晶体を溶かすためではなく沈殿速度を利用するための液体だから、分離できれば何度でも可能。

「じゃぁ、円筒状の容器にそのボナビアンを入れて上から粉末を入れればいいわけか。」

「ええ、そうよ。
 結構粘性の高い液体だから沈降速度は遅いと思われる。
 多分3トランぐらいの透明な容器が有れば、沈殿状況を目で確認出来るわ。
 但しC結晶体は1ムーロの混合体から0.02ミーロ程しか取れないから、見えるかどうかわからないけれどね。
 それでそれを液体ごと凍結させてしまえば後はその部分だけを切り取って、何度か繰り返せば濃度は高められる。
 徐々に径の小さな容器に置き換えれば、シリンダー状の凍結したボナビアンを内部に含むC結晶体が得られる。
 それを常温にまで加熱して、元の微粉末にしてマット状の吸着剤につけるの。
 ボナビアンは吸着剤に吸収されてほぼ純粋なC結晶体が得られるはずよ。
 念のために二、三度純水で洗浄して乾かした方がより精度は上がる。」

「なるほど、じゃ、一度微粉末までの工程を試そうか。
 音波は、情報端末とステレオ音響装置で何とかなる。」

「あら結晶体は?」

「勿論、採掘場に行って採掘してくる。
 全体で1ムーロもあれば実験には十分だろう。
 ちょっととって来るよ。」

 そう言うとマイクの姿がパッと消えた。
 ものの三秒も経たないうちにマイクが戻ってきた。

 手には掘り出したばかりの結晶体の塊があった。
 マイクが情報端末を使って音波の微調整ができるように設定をしている間に、私は結晶体の内部構造を探り、同時に目で見える範囲の不純物を取り除いた。

 準備ができると、ミニキッチンに用意されているボールに結晶体の塊を入れた。
 マイクがその結晶体の温度を直に奪い、急速に230ケルビン度まで下げた。

 その上で音響装置のスピーカーの前におき、毎秒1000サイクルの音波を発生させた。
 それから3秒間隔で10サイクルずつ上げて行くと1320サイクルでピシッと音がして、結晶体が粉々に砕けた。
 微粉になってボールに収まっている。
 不純物もいくらか混じっているようだが、赤い色のC結晶体も混じっているのが肉眼で確認できた。

「うん、どうやらうまくいったようだね。
 後は工場でした方が良いだろうな。
 まずは冷凍庫が必要だね。
 流石に皆が見ている目の前で温度を下げるわけにはいかない。
 230ケルビン度の温度を保つ特注の冷蔵庫を発注しよう。
 それからステンレス製の長さ3トランの円柱状の容器を、径を替えて6種類ぐらいかな。
 こいつは底が外せる奴にすれば繰り返し使える。
 円柱容器ごと急速冷凍するには、液化窒素を使えばいいだろう。
 液の深さは精々0.5トランもあれば十分だ。
 容量は、うーん、0.2トラン四方の底面で0.4立米トランの容器で十分だな。
 材質は低温に強いステンレスだな。
 切るのはレーザーナイフがあれば十分。
 取り敢えずは、それでC結晶体の微粉末が作れる。
 で、それからは?」

「そうね、C結晶体を、板か何かに付着させてその上に例の原材料を流し込む。
 触媒反応でハマセドリンが混じった液ができるから、それを逆浸透膜でろ過することになる。
 多分、多数の板を、間隔を狭くして箱にぶら下げ、その中へ液体を通過させれば反応が起きると思うわ。
 あら、その後の逆浸透膜は適当な物があるかしら。」

「穴の径は?」

「ハマセドリンの有効成分と二つの不要物は5 -9トランあれば透過できるけれど、余裕をみて7 -9トランあれば他の不要物は濾過されないと思う。」

「ふーん、7 -9トランねぇ・・・。
 うん、トーセンディック社が開発した逆浸透膜が確か6.5 -9トランのはず、誤差は10%ほどあるけれど、それなら大丈夫じゃないか?」

「うーん、多分・・・。
 大丈夫とは思うけれど、確かなことは判らない。
 試してみないと・・・。」

「仕方がないね。
 暫くはコルナスのホテル住まいだな。
 それでも1週間もあれば何とか目途が付くだろう。
 取り敢えず、細かな仕様を作り上げて機材の発注をするよ。
 コルナスのザクセン製薬に送っておこう。
 ジルさんにもその旨連絡しておくよ。」

 その日と、翌日の午前中は機材発注のための仕様を作り上げるのに時間を費やした。
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