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第二章 それぞれの出会い
2-12 アリス ~超能力 その三(ワームホール)
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目覚めはいつもと変わらず、いや、いつもより快適で気分爽快だったかもしれない。
着替えをしている最中に、マイクを呼んでみた。
昨日の感触がマイクを覚えており、さほど苦労もせずにマイクと接触できた。
『マイク、おはよう。』
すぐに返事が返ってきた。
『おはよう。
アリス。
気分は上々かな?』
『あら、本当に簡単につながっちゃったわ。
気分は上々よ。
朝食で会いましょう。』
『うん、じゃぁ、後で。』
マイクとはいつも7時7分にレ・ビスタの前で待ち合わせている。
今日までは昼食と夕食も、いつものレストランだが、明日以降は、一日おきに別のレストランで食事をすることで約束をしている。
但し、正装の晩餐会は必ず出席するようにしている。
そのための欠食表も既に記載していた。
レストランはラドレーヌ風、カリアスレ風など全部で12店ある。
それらを順繰りに試すだけで少なくとも12日かかる。
昼食と夕食を置き換えると24日掛かることになるだろう。
いつものように朝食を食べながら、楽しくおしゃべりをした。
毎度のことだが、マイクの博学振りには驚かされる。
私が専攻していた有機化学についても専門用語は間違いなく知っている。
マイクの話だと、ディラ生の口頭試問には全ての学部の修士課程修了程度の知識まで試されたそうである。
本来、ディラ生は大学卒業程度の知識でよい筈なのだが、修士課程は無論のこと最新の論文にまで目を通しておかないと答えられないような質問が出たという。
大学側が難関度のレベルを上げるためにそうしているらしい。
ハーパー学園大学部では過去に受験した者すらいない筈である。
今日は気象学について、教えてもらった。
驚いたことに通常の会話をしながら、マイクがテレパスで話しかけてきた。
最初は自分でも慌てたものの、すぐにそれにも慣れてしまい。
全く違う話を会話とテレパシーで交わしているのだから、我ながら感心してしまう。
最後に、マイクが気象学の専門書数冊分の知識を投げてよこした時にはびっくりした。
そうしてなぜかすんなりと受け入れてしまった自分の頭にも二度びっくりである。
どういうわけか、綺麗に整理されて頭に残っているのである。
朝食の後は、いつものように運動だがそれに一つメニューが加わった。
護身術である。
一日おきの音楽室詣での合間に、そのまま格闘術の練習場所に入り、それこそ手取り足取りで護身術を教えてもらった。
私は意外と身体が柔らかいからすぐに特殊な動きにも慣れた。
今のところは型だけだが、徐々に実践的な打撃なども訓練してくれるという。
例えば拳でヒトを打撃したりすれば、自分の拳も痛めてしまう。
普通そのために拳なども砂やサンドバッグで鍛えるのだそうだが、タコで拳がごつごつとしてしまうからそれを避けるためにテレキネシスを併用するのだそうだ。
そうしてテレキネシスが有る程度使えるようになるまでは、そうした打撃訓練もお預けなのだそうだ。
翌日の音楽室での重奏の際には、テレパス能力で楽譜を確認しながら初見で演奏する方法を教えてもらった。
譜面を読んで音を頭の中で組み立てるのだが、そこに合いの手のようにマイクが別の音を入れてくれる。
そうすると実際に演奏せずにその雰囲気がわかるのである。
そうして細かい部分への配慮が可能になる。
私の演奏レベルが確実に上がっていた。
夕食後にはテレキネシスの手ほどきを受けた。
小さな柔らかい球を動かせるようにする訓練である。
これは一人でも訓練はできるが余り無理をせずに、少しずつやるといいと言われた。
左程無理もしていないが、1週間後にはその球を自在に動かすことができるようになり、宙に浮かせることもできるようになったのである。
それから対象が徐々に大きく重いものに変わって行った。
アルタミル出発から23日目には重量80ムーロを超える居室の鉢植えを空中に浮かばせることができるようになっていた。
無論カスリンが居ない時の話である。
訓練次第では、自分の生身の力で鉢植えを持ちあげることも出来るかもしれないが、いくら腕力があっても結構難しいだろうことは予想がついた。
少なくとも今の自分の生身の筋肉にそれができるとは思えない。
それを割に簡単に浮かばせることが出来たのだから、大したものである。
昼食時にそのことをテレパシーで話すと、マイクが言った。
『じゃぁ、明日からはテレキネシスを手足に載せる訓練だね。
それが上手くできるようになったら、実践的な打撃訓練をしよう。
それで護身術の授業はおしまいだよ。』
その日午後3時にワームホールへの侵入が予定されていた。
◇◇◇◇ ワームホール ◇◇◇◇
ワームホールを抜けるとそこはもうメィビス星系の外縁に当たる。
其の10分前には、私はカスリンと共に居室の壁際の椅子に座り、シートレストを降ろして待機していた。
マイクからテレパシーで連絡が来た。
『間もなく、ワームホールに入るけれど、このままリンクしておこう。
滅多にできない経験ではあるけれど、驚かないようにね。』
『マイクと一緒なら、どんな時でも安心できるわ。』
船内放送がカウントダウンを始めた。
30秒前から始まったカウントダウンは1まで数えて止まった。
途端に全ての音が一斉に消えた。
居室内の僅かな機械音すら消えていた。
眼は見えるが、視線は動かない。
手足も全く微動だにしなかった。
マイクから予め聞いていたことだったが、流石にこの感触は言い難い恐怖でもあった。
身動き一つできない中で意識だけが動いている。
マイクとつながっていることだけが救いであった。
確かにそうでもなければ気が狂うかもしれない。
目覚めているのに身体が動かないというのは理由がわからないだけに恐ろしい。
その内に目の前に朧な光が出現した。
全くの無音の中で怪しげな光だけが明滅しつつ空間をゆっくりと蠢いている。
『マイク、目の前に何か見えるんだけれど、そこいらじゅうにいるみたい。
これは、何?』
『正直な所、僕にもわからない。
もしかすると、ワームホールの圧縮された時空の中に存在する生き物かも知れないね。
人為的なワープではそうした生き物と話ができることも確認されているけれど、ここはどちらかと言えば自然にできた空間のトンネルだからね、そうした生き物とは異なるかもしれないし、存在の時空そのものが異なるかもしれないから意思の疎通はでき無いようだ。
何となく、向こうはこちらを知覚しているような気はするけれど、違うかもしれない。』
人為的なワープなどとマイクが妙なことを言ったのだが、その時には気づかずに聞き流してしまった。
『これって、どれぐらい続くの?』
『残念ながら、時計も止まっているからね。
時間経過は不明だよ。
前回、メィビスからアルタミルに行くときに経験しただけなのだけれど、主観的時間で少なくとも1時間から2時間は続いたような気がする。』
『まぁ、そんなに長いの?
嫌だわ、生理現象が起きたら困っちゃうじゃないの。』
テレパスで笑い声が送られてきた。
『前にも説明したような気がするけれど、普通の人は一瞬の時間しか認識していないんだよ。
君の身体も同じ状態さ。
瞼が開いたままで、10分間もそのままなら、普通は眼が干せ乾びてしまう。
でも実際にはおそらく千分の一秒も掛かってはいないだろうね。
因みに僕の瞼は半分閉じた状態で止まっているよ。
半眼状態だよね。』
『じゃぁ、私たちの意識だけがほんの短い時間を延伸して知覚しているということなの?』
『多分、そう言うことだろう。
夢というのは人が寝ている状態で脳の内で再現しているものだけれど、実はものすごく短い時間の中で見ているものらしい。
そうして、その大半を目覚めた時には覚えてはいない。
稀に最後の夢の一部だけを覚えているのが人の語る夢でもある。
人の脳って結構能力を持っているんだよ。
物凄い速さで色々な知覚をし、判断をしている。
その複雑さは未だに人工知能を負かすのに十分な力をもっている。』
私はマイクと一緒に話を続けた。
多分そのお蔭で正気を保てたのじゃないかと思う。
居室の見える範囲は何も変わらない。
実際に有るものは位置も光の強さも変わらないが、その前後に見え隠れする異界の様子は徐々に変化して行った。
暗い雰囲気もあれば明るい雰囲気もある。
小さな光球が雪片に変わる場合もあれば、大きな人魂のように尾を引くこともある。
いずれにしろ異界の住民たちは動き回り、変化し続けてその存在を私達に知らせているようだった。
どのぐらいの時間が過ぎたのか本当に判らないが唐突に、それらが消えた。
そうして壁の時計が動き始め、視線が動かせた。
ついでに手のぬくもりと自分の鼓動が感じられた。
それから間もなく船内放送があった。
着替えをしている最中に、マイクを呼んでみた。
昨日の感触がマイクを覚えており、さほど苦労もせずにマイクと接触できた。
『マイク、おはよう。』
すぐに返事が返ってきた。
『おはよう。
アリス。
気分は上々かな?』
『あら、本当に簡単につながっちゃったわ。
気分は上々よ。
朝食で会いましょう。』
『うん、じゃぁ、後で。』
マイクとはいつも7時7分にレ・ビスタの前で待ち合わせている。
今日までは昼食と夕食も、いつものレストランだが、明日以降は、一日おきに別のレストランで食事をすることで約束をしている。
但し、正装の晩餐会は必ず出席するようにしている。
そのための欠食表も既に記載していた。
レストランはラドレーヌ風、カリアスレ風など全部で12店ある。
それらを順繰りに試すだけで少なくとも12日かかる。
昼食と夕食を置き換えると24日掛かることになるだろう。
いつものように朝食を食べながら、楽しくおしゃべりをした。
毎度のことだが、マイクの博学振りには驚かされる。
私が専攻していた有機化学についても専門用語は間違いなく知っている。
マイクの話だと、ディラ生の口頭試問には全ての学部の修士課程修了程度の知識まで試されたそうである。
本来、ディラ生は大学卒業程度の知識でよい筈なのだが、修士課程は無論のこと最新の論文にまで目を通しておかないと答えられないような質問が出たという。
大学側が難関度のレベルを上げるためにそうしているらしい。
ハーパー学園大学部では過去に受験した者すらいない筈である。
今日は気象学について、教えてもらった。
驚いたことに通常の会話をしながら、マイクがテレパスで話しかけてきた。
最初は自分でも慌てたものの、すぐにそれにも慣れてしまい。
全く違う話を会話とテレパシーで交わしているのだから、我ながら感心してしまう。
最後に、マイクが気象学の専門書数冊分の知識を投げてよこした時にはびっくりした。
そうしてなぜかすんなりと受け入れてしまった自分の頭にも二度びっくりである。
どういうわけか、綺麗に整理されて頭に残っているのである。
朝食の後は、いつものように運動だがそれに一つメニューが加わった。
護身術である。
一日おきの音楽室詣での合間に、そのまま格闘術の練習場所に入り、それこそ手取り足取りで護身術を教えてもらった。
私は意外と身体が柔らかいからすぐに特殊な動きにも慣れた。
今のところは型だけだが、徐々に実践的な打撃なども訓練してくれるという。
例えば拳でヒトを打撃したりすれば、自分の拳も痛めてしまう。
普通そのために拳なども砂やサンドバッグで鍛えるのだそうだが、タコで拳がごつごつとしてしまうからそれを避けるためにテレキネシスを併用するのだそうだ。
そうしてテレキネシスが有る程度使えるようになるまでは、そうした打撃訓練もお預けなのだそうだ。
翌日の音楽室での重奏の際には、テレパス能力で楽譜を確認しながら初見で演奏する方法を教えてもらった。
譜面を読んで音を頭の中で組み立てるのだが、そこに合いの手のようにマイクが別の音を入れてくれる。
そうすると実際に演奏せずにその雰囲気がわかるのである。
そうして細かい部分への配慮が可能になる。
私の演奏レベルが確実に上がっていた。
夕食後にはテレキネシスの手ほどきを受けた。
小さな柔らかい球を動かせるようにする訓練である。
これは一人でも訓練はできるが余り無理をせずに、少しずつやるといいと言われた。
左程無理もしていないが、1週間後にはその球を自在に動かすことができるようになり、宙に浮かせることもできるようになったのである。
それから対象が徐々に大きく重いものに変わって行った。
アルタミル出発から23日目には重量80ムーロを超える居室の鉢植えを空中に浮かばせることができるようになっていた。
無論カスリンが居ない時の話である。
訓練次第では、自分の生身の力で鉢植えを持ちあげることも出来るかもしれないが、いくら腕力があっても結構難しいだろうことは予想がついた。
少なくとも今の自分の生身の筋肉にそれができるとは思えない。
それを割に簡単に浮かばせることが出来たのだから、大したものである。
昼食時にそのことをテレパシーで話すと、マイクが言った。
『じゃぁ、明日からはテレキネシスを手足に載せる訓練だね。
それが上手くできるようになったら、実践的な打撃訓練をしよう。
それで護身術の授業はおしまいだよ。』
その日午後3時にワームホールへの侵入が予定されていた。
◇◇◇◇ ワームホール ◇◇◇◇
ワームホールを抜けるとそこはもうメィビス星系の外縁に当たる。
其の10分前には、私はカスリンと共に居室の壁際の椅子に座り、シートレストを降ろして待機していた。
マイクからテレパシーで連絡が来た。
『間もなく、ワームホールに入るけれど、このままリンクしておこう。
滅多にできない経験ではあるけれど、驚かないようにね。』
『マイクと一緒なら、どんな時でも安心できるわ。』
船内放送がカウントダウンを始めた。
30秒前から始まったカウントダウンは1まで数えて止まった。
途端に全ての音が一斉に消えた。
居室内の僅かな機械音すら消えていた。
眼は見えるが、視線は動かない。
手足も全く微動だにしなかった。
マイクから予め聞いていたことだったが、流石にこの感触は言い難い恐怖でもあった。
身動き一つできない中で意識だけが動いている。
マイクとつながっていることだけが救いであった。
確かにそうでもなければ気が狂うかもしれない。
目覚めているのに身体が動かないというのは理由がわからないだけに恐ろしい。
その内に目の前に朧な光が出現した。
全くの無音の中で怪しげな光だけが明滅しつつ空間をゆっくりと蠢いている。
『マイク、目の前に何か見えるんだけれど、そこいらじゅうにいるみたい。
これは、何?』
『正直な所、僕にもわからない。
もしかすると、ワームホールの圧縮された時空の中に存在する生き物かも知れないね。
人為的なワープではそうした生き物と話ができることも確認されているけれど、ここはどちらかと言えば自然にできた空間のトンネルだからね、そうした生き物とは異なるかもしれないし、存在の時空そのものが異なるかもしれないから意思の疎通はでき無いようだ。
何となく、向こうはこちらを知覚しているような気はするけれど、違うかもしれない。』
人為的なワープなどとマイクが妙なことを言ったのだが、その時には気づかずに聞き流してしまった。
『これって、どれぐらい続くの?』
『残念ながら、時計も止まっているからね。
時間経過は不明だよ。
前回、メィビスからアルタミルに行くときに経験しただけなのだけれど、主観的時間で少なくとも1時間から2時間は続いたような気がする。』
『まぁ、そんなに長いの?
嫌だわ、生理現象が起きたら困っちゃうじゃないの。』
テレパスで笑い声が送られてきた。
『前にも説明したような気がするけれど、普通の人は一瞬の時間しか認識していないんだよ。
君の身体も同じ状態さ。
瞼が開いたままで、10分間もそのままなら、普通は眼が干せ乾びてしまう。
でも実際にはおそらく千分の一秒も掛かってはいないだろうね。
因みに僕の瞼は半分閉じた状態で止まっているよ。
半眼状態だよね。』
『じゃぁ、私たちの意識だけがほんの短い時間を延伸して知覚しているということなの?』
『多分、そう言うことだろう。
夢というのは人が寝ている状態で脳の内で再現しているものだけれど、実はものすごく短い時間の中で見ているものらしい。
そうして、その大半を目覚めた時には覚えてはいない。
稀に最後の夢の一部だけを覚えているのが人の語る夢でもある。
人の脳って結構能力を持っているんだよ。
物凄い速さで色々な知覚をし、判断をしている。
その複雑さは未だに人工知能を負かすのに十分な力をもっている。』
私はマイクと一緒に話を続けた。
多分そのお蔭で正気を保てたのじゃないかと思う。
居室の見える範囲は何も変わらない。
実際に有るものは位置も光の強さも変わらないが、その前後に見え隠れする異界の様子は徐々に変化して行った。
暗い雰囲気もあれば明るい雰囲気もある。
小さな光球が雪片に変わる場合もあれば、大きな人魂のように尾を引くこともある。
いずれにしろ異界の住民たちは動き回り、変化し続けてその存在を私達に知らせているようだった。
どのぐらいの時間が過ぎたのか本当に判らないが唐突に、それらが消えた。
そうして壁の時計が動き始め、視線が動かせた。
ついでに手のぬくもりと自分の鼓動が感じられた。
それから間もなく船内放送があった。
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