好きやから!

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Chapter.5 最終話

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「おめでとう!」
「ありがとう!」

屋上のど真ん中で、祐介と僕が握手をする。

「いやぁ、まさか、いちゃついてるリア充を見ると二人の間に割って入っては真顔で通り過ぎていた、あの慎之介が!」
「おい」
「自分までリア充になっちゃうとは」
「祐介、絶対嫌味こもってるやろ」
「アホか!俺がこんなめでたい時にそんなことすると思う?」
「うん」
「お、、、」

即答する僕にうろたえる祐介。

「祐介は、中村とさ、なんやっけ、、、彼氏の佐藤くんを何としても二人きりにさせまいと、一日中ストーカーしてるようなやつやから」
「み、見てたんか」

的確な説明をすると、彼が眉根を寄せる。

「俺たちは、、、過去に一体何をしてたんや」
「非リアの執念がどれだけかを初めて実感したわ」

僕たちは黙々とご飯を口に運ぶ。

「、、、」
「、、、」
「って、こんな話どうでもええねん!もう、古賀さんとヤッ」
「ラーラーラーラー!」

祐介の言葉を大ボリュームの歌で遮り、耳をふさぐ。
彼はけらけら笑う。

「でも、俺も会ってみたいかも。古賀さん」
「古賀さんは渡さへんで」
「アホ!違えーわ」

祐介はふっと、優しい笑顔を浮かべた。

「お前にふさわしいやつか確認してやろうって思ってな」
「、、、、ごめん、祐介の気持ちには答えられへん」
「だから、違えーわ!この恋愛脳!」

僕と祐介は、オレンジ色の空の下、河原をゆっくりと歩いた。
自転車の車輪の影が、地面の上でゆっくりと回る。。

「ほんまにええの?」
「うん、古賀さんに連絡したら、ぜひ来て欲しいって」
「へぇ」

今日は祐介も連れて、学校帰りに古賀さんの家に行くことになった。
雑談をしなら歩いていると、あっという間だ。

「ここ」
僕が路地の奥を指差すと、祐介が「ほお」と声を上げる。

「つまり古賀さんは毎日、お前をあの奥の暗闇に連れ込んで」
「だから!なんでそうなんねん!この変態脳!」
「お、やるか?幼稚恋愛脳!」
「ちょっと長くなってる!」

僕たちがギャーギャー言い合っていると、路地の奥から誰かが顔を出した。
古賀さんかと期待を込めて振り返ると、他の誰でもない、母ちゃんだった。

「あら、祐介ちゃん」
「あ、うす」

首に手を当てて照れ臭さそうに、ぺこりと頭を下げる祐介。

「母さんなんでここに?」

僕が聞くと母さんはニコニコ笑顔を浮かべながら、僕たちを路地の中へと誘導する。

「やっと予定が空いたから、ご挨拶に来たんよ。お父さんたちもいはるよー」
「えっ」

お父さんたちということは、まさか皐月も?
まずい!

僕は家の中へと駆け込んだ。

「さつ、、き、、?」

そう声をあげながら居間に入るが、想像していたような光景ではなかった。
彼女は昨日までのような鋭い視線ではなく、キラキラした瞳でずんずんと古賀さんに近寄っている。
その行動とは裏腹に、古賀さんはそれと同時に、一歩一歩後ずさっている。
顔には『恐怖』の二文字がはっきりと見えた。

「それで!それで!どうなのよ!」
「ちょ、なになになになに?!」
「一晩を共にしたと聞いたのだけれど、二人はもうすでにヤッ」
「うわああああ!なんで皆そればっかり!」

僕が慌てて止めに入ると、古賀さんはほっと胸をなでおろした。
そして、そそくさと僕のところへ駆け寄ってくる。

「慎之介くん、よかった」
「しん、、のすけ、くん?」
「は?」
「くぅ。いい!いいわ、、、ネタになるわね」

皐月がブツブツ囁いている姿に、古賀さんが身の危険を感じ取ったのか、腕をさする。

「まじで、皐月のやつなんばいいよっと?!」
「知らない方が、いいと思う」

「おう番長!」
「あ、幼馴染くん」

皐月と祐介は、互いに嬉しそうに笑い合うと肩を組んだ。

「おい、今お前の姉ちゃん、番長って呼ばれたぞ?」
「ああ。その件については出来るだけ関わらんようにしてるから」
「ほんと大人だな」

僕たちが二人の様子を観察していると、祐介の視線がこちらに向く。

「お、あんたが古賀さんスか」
「、、おう」

パツキンのピアスにうろたえる古賀さん。

「こいつのこと大切にしてやってください。傷つけたりしたら俺が許さねーんで」
「、、、まさか君もこいつのことを」
「だから、なんでそうなんねん!」

僕たちは全員で段ボールテーブルで夕ご飯を食べる。
いつもは僕たち二人きりの空間が、一気に賑やかになった。
僕の作ったご飯を全員が美味しそうに食べる姿。
料理、やっててよかった。

「古賀さん、ダンボール箱で飯って、、、ワイルドっスねー。師匠にしてください」
「師匠か、、、いい響きだ」
「新たなるライバル登場ってところね。慎之介、負けるんじゃないわよ」
「「「やめろ!」」」

もうすでに打ち解けている友人たち。
母と父は僕たちのそんな様子を、笑いながら眺めている。

「ちょっと古賀さん」
「はい?」
「慎之介、料理作る代わりに勉強を教えてもろてるて本当?」

母の言葉に古賀さんは「はい!」と楽しそうに答える。

「前は英語だけだったんですけど、今では数学も少々」

母は感心するように手を合わせる。

「じゃあ、今後は息子の受験勉強を見てもらおかしら」

その言葉に僕は、慌てて立ち上がる。

「あの!」

母が首を傾げてこちらを見上げる。
他のみんなの視線も僕に集まった。


僕は少し視線を下ろした。

「考えてたんだ。実はさ、僕、、、、料理、やってみたい」

全員が顔を見合わせる。

「正直どこの大学にも行く気は無かった。せやけど、料理の専門学校に行きたい。古賀さんにもっと英語鍛えてもらって、海外でも料理を作ってみたいんや」

覚悟を決めたように言う僕に、母は目を見開いた。

「いいな!料理!慎之介のご飯うまいやん」

最初に声をあげたのは祐介だった。
続いて姉ちゃんも肩を上下させながら「別にいいんじゃね」と言う。
母と父に恐る恐る視線を向けた。
二人は顔を見合わせている。

「やらせて見てもいいんじゃないか?才能は嘘をつかんしな」

そう言って微笑む父さんの言葉に、母さんは弱ったようにため息をつく。

「そうやね」

そしてフフッと笑った。

「うちから有名な料理人が出たら自慢ができるわ」

母の言葉にみんながクスクス笑う。

「やって見なさい。でも失敗したら、ちゃんと受験勉強して、大学に行くように!」
「わかってるよ。でも失敗せーへんから」

僕が言い切きると、もう一度全員が顔を見合わせる。

「その自信はいったいどこからくんねん。なあ番長」
「さあ?知らね」
「あんたら、なんか言わな死ぬ呪いにでもかかってんの?!」

二人の小言に思いっきり突っ込む僕。
すると、隣に座っていた古賀さんが「まあまあ」と僕をあやすように言う。

「応援してるからな。俺は慎之介君の味を良く知ってる」

前方から姉の声で「慎之介君の、、、味」とつぶやく声がしたが、聞かなかったことにする。

「慎之介君が料理人になったら、その料理を一番最初に食うのは俺やけんな!」

そう言いながらわしゃわしゃと髪を撫でまわす古賀さん。

僕はその感覚に、頬をピンク色に染めて笑う。

「うん。真っ先に古賀さんに食べてもらう。というか自分の店でも出したら、古賀さんを迎えに来るから」
僕が真剣な表情で言うと、古賀さんは顔を真っ赤に染めてうろたえる。

「お前が、、、嫁に来るんじゃなくて?」
「何言ってんねん。当たり前やろ?僕は男や」

そう言い張る僕を、古賀さんは圧倒されたように見つめた。

でも、やっぱり二人きりの世界は長くは持たない。
誰よりもはやく皐月が叫んだ。

「は?!あんたが攻めとか認めないわよ!、、、あ、いやでも年下低身長豹変攻めもなかなか」
「番長、開き直ったか。腐女子隠そうともしてへんやん」

すると、地獄耳な母も身を乗り出してくる。

「嫁?!婿?!なん?!」
「お、男っ、男っ?!」

僕たちを交互に凝視する父さんを差し置いて、前のめりしてくる母さん。

「式!式はどこでしはるの?!萌える!」
「ちょっと母さん!二人のタキシード姿想像させんといてよよ!萌え死にするやろ!」
「実の、、、息子がっ、、、神様ありがとう」
「母さん母さん!」
「なになに?」
「じゃ、じゃあ二人の右左は?!」
「「せーの」」
「慎之介×古賀さん」(皐月)
「古賀さん×慎之介」(母)
「「、、、、なんだとおおおお?!」

、、、知らなかった、、、母まであの人種だったとは。
できれば聞きたくなかった言い合いをする女子二人を横目に、父さんは僕たちをじっと見る。

「二人は、、、付き合っているのか?」

父の質問に僕たちは顔を見合わせる。

「まだです」
「まだ?」
「はい、慎之介君が高校を卒業してから、真剣な交際を始めようと思っています」

その言葉に、頬が熱くなる。
父さんは、僕のそんな表情をちらりと一瞥する。

「、、、男同士で恋愛するってことがどういうことかわかってるのか?いつひどい目を見るか、わからないぞ?」

きつい表情でそういう父。
その言葉に僕は視線を背ける。

「わかっています」
すると、隣に立つ古賀さんが凛とした声で言う。
まじめな表情で父さんに向き合う彼は別人のようだ。

「でも、僕は本気です。そんなことで負けたりしません」

そう言って、僕に微笑みかける古賀さん。
僕は力つよく頷いた。

「僕は本気で古賀さんが好きや。せやから、交際を認めてください!」
「お願いします」

二人そろって頭を下げる僕たちの姿を、父さんは目を見開いて眺めた。
すると、ふっと微笑む声が聞こえ、僕たちは恐る恐る視線を上げた。

「お前たちは、本当に互いのことが好きなんだな。まあ、いいだろう。でも少し考える時間をくれ」

そう言い残して、一人居間の外へと出て行く父さん。

「父さん!」

慌てて追いかけようとすると、古賀さんが僕の手首をつかんだ。

「まて。今は一人にしてあげよう。そんでじっくり俺たちのこと考えてもらおうぜ」

そう言ってほほ笑む彼に、僕は小さく頷いた。


「なんか良かね、これ。この家借りてよかったばい」

みんなを見渡しながら、しみじみという古賀さん。
僕はそんな彼の手をそっと握った。
古賀さんも握り返してくる。

「なんかさ、本当に、運命みたいやな」
「なんだ急に?」

そう言う僕を、見降ろしてくる彼に笑いかける。

「大学の近くに家がなかなか見つからへんくて、ここを仕方なく選んで来たのも、生活力がなくて倒れたことも、皐月と二人が元恋人同士やったのも、全部なきゃ今ここにいないから」

僕がぽつぽつと言葉を紡ぐと、古賀さんはははっと笑った。

「ったりまえだ。Every thing happens for a reason.何事にも起こる理由がある。そんな格言がある。俺はそれを信じて生きてんだ」
「初めて聞いたんやけど」
「俺は信じて生きてるって言ったんだ。だから言ってなくて当然」
「へぇ」
「な、なんだよその疑いのまなざしは」

僕がジトっとながめると、彼はバツが悪そうに視線をそらす。

「ははっ、冗談やで。今本当にそうなんやって実感してる。ねえ、古賀さん」
「んー?」

淡い笑みを浮かべて僕を見下ろす古賀さん。

「好きだよ。これから先も、この空間にいたい。古賀さんの隣に」

そういうと、僕の手を握る手に力がこもり、古賀さんが幸せそうに笑う。

「お、プロポーズか。気がはえぇな。そうだなぁ、どうしよっかなー」
「こ、古賀さん」
「冗談だよ。でもそうだな。これから先もこの空間にじゃなくて、変わってく空間の中でも一緒にいよう。な?こっちのが、かっけえだろ?」
「、、、、これから先も、変わってく空間でも」
「言い直さんでよかけん!てか、その古賀さん呼びもうやめようや。下の名前で呼んでよ」
「、、、、詩音さん?」

僕が言うと、古賀さんが急に黙り込む。
そして、勢いよく顔をそむけた。

「や、やっぱり、ジャックって呼んだほうが?」
「、、、いや、いいよ詩音で」
「あ、もしかして照れてるん?顔見たいんやけど」
「見んな!ここは俺のプライドが許さねえ!」


たがいに笑いあう僕たち。
古賀さん改め、詩音さんの言う通り、これから先もずっと一緒に。

友達に家族に、想い人。
みんなそばにいる。
こないだまで友人に『つまらなさそうな顔してる』なんて心配をさせて、『毎日暇』なんて思っていた自分はどこへ行ったのか。
詩音さんが京都にやってきて、僕も周りのみんなも少しずつ変わった。
楽しみができた。
やりたいことを見つけた。
初めての恋をした。
僕はみんなを見渡してしみじみと思う。

ああ、僕は今、幸せだ。

~THE END~
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みんなの感想(1件)

ナムラケイ
2019.11.02 ナムラケイ

方言男子、いいですね!
慎之介も古賀さんもめちゃくちゃ可愛いかったです。
素敵なお話をありがとうございました!

解除

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