名探偵の条件

35気まずい

「凶器の入手経路はまだわかっていない。
製造メーカーに問い合わせたところ、凶器となったタイプの鉈（なた）は、誰でもホームセンターなどで手に入れられるものらしい。

大量に出回っているものなので、凶器の入手経路から犯人に近づくのは難しいだろうという事だ。

後、凶器には指紋が残されていなかった。
後から指紋をぬぐった形跡も特にないので、犯人は手袋をつけて犯行におよんだのだと思われる。

それと、鉈の刃と死体の傷口は一致していた。
被害者の腕を切断した凶器は、まず間違いなく現場に残されていた鉈だろう。

　後、凶器となった鉈は病院に備え付けられたものではなかった。もっとも、そんなものを備え付けている病院もあまりないだろうがね。
・・・凶器についての情報は、この程度だ。」


「ＯＫ！　凶器に関しては、今もらった情報で十分だよ。」
冬弥が笑みを浮かべる。

　
「じゃあ、次は・・・」
【ちゃらーら♪　ちゃららんららー♪】　

質問の声をさえぎるようにして、冬弥の携帯電話が鳴った。

(着メロが「森のくまさん」だとはね。
渋すぎだぞ冬弥・・・）

・・・いや、冬弥のことだ。
着メロを選ぶのを面倒くさがって、最初の設定のままにしているのに違いない。

冬弥は電話が誰からかかってきたのかを確認すると、少し待っていてくれと言い残し、病室から出て行った。


（気まずい・・・）

羽鳥刑事と二人きりで病室に取り残されてしまっても、僕は話しかける言葉がない。
羽鳥刑事から見たら、僕はただの不審人物のはずだ。

いや。・・・僕が『冬弥の仲間』と羽鳥刑事に思われているとしたら、最悪、すでに『敵』として認識されている可能性すらある。


（気まずい・・・）


幸いなことに、冬弥の用件はすぐに終わったようで、間もなく病室に戻ってきた。

冬弥は、目配せをして僕を呼んだ。