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オンリーワンになりたくて

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奈美が私のためを思って開いてくれた合コンだけど、私は申し訳ないほど身が入らなかった。

約束の十九時よりもかなり早く着いたため、近くのコーヒーショップで時間を潰してからレストランへ向かった。

私の格好を見るなり奈美が「お、いいじゃん。やる気じゃん」とうんうんと頷いていたけど、今の私は朝この服装を選んだ時のテンションと真逆で、なんならすっぽかしてしまおうかとすら思っていた。

さすがに幹事をしてくれた奈美に申し訳なさすぎて時間通りにレストランに来たものの、私は早くお開きになってくれと願いながら男性陣が取り分けてくれたピザを口に運んだ。

奈美が予約してくれたイタリアンレストランは、駅から五分ほど歩いたところにある隠れ家的お店で、一番奥まった半個室の席に通された。

店内は温かみのあるオレンジ色の照明で、二十名ほど座れる大きなカウンターテーブルの隣には観葉植物が置いてある。右奥の小さな段差を上った先に六人掛けのソファ席が二つ並び、さらに奥に扉はないものの壁で区切られた半個室が二部屋あった。

奈美と同じ会社『ソルシエール』に勤める私以外のメンバーは、さすがアパレル勤務というだけあってみんなオシャレ。

女性陣は奈美と同じくモード系の華さんと、小柄でフェミニン系の凛さん。

ふたりとも合コンになんて来なくても男性は選びたい放題だろうに、もしかしたら私のせいで奈美に捕まったのだろうかと思うと申し訳ない。

男性陣はみんなスーツだけど、夏だからジャケットは着てなくてネクタイもしていない。シャツの袖は捲られていて、クールビズが定着している。

女性が多い会社に勤めているからなのか、彼らの元々もっている素質なのか、女性への気遣いがさりげなくて嫌味がない。第一印象はみんな優しそうでイケメン。

そういえば彼は夏でもジャケットにネクタイまで締めていた。営業職だからだろうか。うっかり友藤さんのことを思い出してしまい、慌てて頭から小銭男を追い出す。

目の前に座っている岡部と自己紹介をした彼が「朱音ちゃん次何飲む?」と気遣ってくれる。

奈美以外は初対面の人ばかりなのでこの場で酔っ払うわけにはいかないと思いつつ、今日は何もかも忘れてお酒を飲んでしまいたい欲求に駆られた。

「じゃあ、杏露酒のロックを」
「それよく女の子飲んでるの見るけど美味い?」
「甘酸っぱいって感じです。普段はソーダで割ってますけど、ロックだとそこそこ度数もあるのでお酒好きな男性でもいけるかも」
「普段ソーダ割りなのに今日はロックなんだ?」

ニコッと笑うその目の奥に、分かりやすく誘うような色が見えた。なるほど、合コンで強めのお酒を敢えて頼んでいる私は恰好のカモに違いない。

あぁ、慣れてるんだな。

岡部さんとの会話で得たのは、そんな感想だけだった。

もしも、この一連の会話をしたのが友藤さんだったら。私は何を思ったんだろう。

合コンで酔った女の子をお持ち帰りし慣れているだろう彼に対し、きっと過剰なほど拒否反応を起こす。それを悟られまいと必死に軽蔑したような冷たい眼差しを向けて、私に関わってこないでと一線を引く。

そして頭の中に、自分が彼に惹かれてはいない証拠を並べ立てる。

だって最低最悪な初対面だった。誘われれば来る者拒まずのクズ男で、ランチ代だと軽々しくキスをしてくるようなチャラ男。

私が求めているのはその人の『唯一』になれるような恋愛。だから絶対にあんな人に惹かれるわけがない。

そうやっていつも意識してきた。

現場に来るたびに差し入れを持って挨拶に回る仕事熱心なところも、いつもさりげなく一番重い段ボールから片付けを手伝ってくれる優しさも、自分は食べないのにランチの時はいつもデザートセットを頼むところも。

ずっと見ない振りをしてきた。

なのに、あの日。私の元職場で醜い修羅場を演じそうになったあの時。あんな風に庇われたら、誰だって心が勝手に彼に引き寄せられてしまう。

そっちじゃない。その先にはボロボロになって泣く未来しかない。そうやって心の手綱をしっかり持って、なんとか堕ちてしまわないように耐えてきたというのに。

小指で突かれても堕ちる。自分ではそう思ってたけど、もうとっくに堕ちているのかもしれない。

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