22 / 45
女なめんな
4
しおりを挟む同期だからと営業でもない水瀬に自分から頼るなんて、きっと出来なかった。せいぜいお酒を飲みながら愚痴るだけ。
そうやってぐるぐる同じところをただ回ってるだけの私の思考を掬い上げて、進むべき方向を照らしてくれる。
水瀬がいつも、本当にいつも助けてくれる。
「……ジェットコースターとかゲーセンの部品作ってるところなんだけどね」
私はこの半年の生田化成とのやり取りを順を追って説明した。
真剣に聞いてくれる彼に力を貰って、一度デスクに戻ってプレゼン用の資料を持ってきてさらに詳しく内容を話す。
元々半年前までは同じ課で同じ仕事をしていただけあって、短い時間で理解してくれた。
すると私の話を聞いていた水瀬は腕を組んだまま考え込み、閃いたようにパッと私に向き直った。
「いける! 佐倉、この案件うちの部署も巻き込もう」
「えぇっ?」
言っている意味がわからずに聞き返すと、水瀬は既に道筋が見えたと勝ち気に微笑んだ。
「今俺が関わってるモデルタウンの案件、何の施設を入れるかで意見が割れてるんだ」
「あぁ、会議長引くって言ってたもんね」
「そこに生田化成と取引のあるアミューズメントパークを誘致しようと思う」
「あっ、なるほど!」
水瀬が言っているのはこうだ。
今水瀬が所属する首都圏プロジェクト室が推し進めている都市再開発のモデルタウン。マンションや病院、ホテルを建ててひとつの街を作る事業だ。
そこに誘致する施設で意見が纏まらず停滞しているところに、生田化成との取引があるアミューズメントパークを入れようというのだ。
今注目されているモデルタウンに入れるとなればアミューズメントパーク運営側も断らないだろうし、そこと契約している生田化成にも旨味は存分にある。
その対価として、生田化成の工場の移転を我が社が請け負うという筋書き。
お互いウィンウィンの関係というわけだ。
「いいと思う! めっちゃいいと思う!」
興奮して声が大きくなる私に嫌な顔ひとつしないで嬉しそうに笑ってくれる。
「うちの部署にも話通して合同のプロジェクトに出来るよう掛け合ってみる」
「水瀬……」
「佐倉。これはお前の案件だ」
大きく頷いてみせる。
もちろんだ。水瀬がくれたチャンスを、絶対に活かしてみせる。
「ありがとう、水瀬」
「あぁ」
「諦めたらそこで試合終了だもんね」
「まぁ、名言だよな」
「バスケがしたいです!」
「仕事してくれ」
私の様子に満足したように微笑んだ水瀬は、わしゃわしゃと頭を撫でると「じゃ、お互いの上司に報告だな」と会議室を出ていった。
くちゃくちゃになった髪を直しながら、赤くなっているであろう顔を抑えて、やっぱりパンダのお面が欲しいと切実に思った。
1
お気に入りに追加
313
あなたにおすすめの小説
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
前話
【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
やんちゃ系イケメンに執着されて他に彼氏作ったように思わせたらブチ切れられた
ノルジャン
恋愛
大学のキャンパス内でひらりと舞い落ちてきたプリント用紙を拾ってあげた。そこから成撮先輩の執着は始まった。「みうちゃんは俺の彼女だから」と言う先輩に毎回「違います」と切り返すみう。それでもしつこく絡んできて、もうこれ以上は我慢の限界だと、苦肉の策でみうは先輩と離れようとするのだが……?
先輩に些細なきっかけでなぜか激重感情押しつけられる女の子の話。ムーンライトノベルズからの転載。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました
桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて…
小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。
この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。
そして小さな治療院で働く普通の女性だ。
ただ普通ではなかったのは「性欲」
前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは…
その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。
こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。
もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。
特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる