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4.イライラの正体
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しおりを挟む長身の二人が並んで立っている姿はまるでモデルのようで、企画部の面々だけでなく、隣の開発部や商品部の人たちまでも視線を送っているのがわかる。
それに気付かない二人ではないだろうに、全く気にしないまま話を続けている。
「天野君の奢りだよね?」
「誰がそんなこと言った?」
「え? 紅林お帰りなさいのランチでしょ?」
「天野さんゴチになりまーす」
「おい相田、お前は便乗して何言ってんだよ」
「松本は? あの子も誘っていこうよ」
「松本さんは午後イチ打ち合わせなんで、向こうで食べるってさっき出ていきましたよ」
一緒にランチを取るのが当たり前といった様子で、わいわいフロアを出ていく三人。
ただボーっとそれを見ていると振り返った天野さんに呼ばれる。
「蜂谷早く来い、置いてくぞ」
「……はい」
「意地悪な言い方だなー。行こう蜂谷さん、天野君が奢ってくれるって」
「おい!」
結局四人で外に出るはめになり、近くの居酒屋がランチを始めたらしいのでそこに入った。
パンプスを脱いで掘りごたつの座敷に上がる。天野さんの隣には紅林さんが座り、私はキヨと並んでぺたんこな座布団に腰をおろした。
「懐かしいな、あんま変わってないね」
紅林さんは翔さんの二期上の先輩で常に企画部では優秀。店舗統括部の頃から一緒で翔さんの教育係だったそう。
運ばれてきた食事に手を付けながら昔話を楽しむ二人と、それを楽しそうに聞くキヨ。
……だから来たくなかったのに。
翔さんは昔は要領が悪く仕事が出来なかったとか、上司に頓珍漢な意見をして教育係の紅林さんと二人揃って常務室に呼ばれたことがあるとか。
そんなの聞きたくなんてないのに。
胸の奥がモヤモヤして食欲がなくなっていく。全く食べる気が起きなくて早々に箸を置いた。
「もう食べないの? もしかして具合悪い?」
本当に心配そうに声を掛けてくれる紅林さんはきっとすごくいい先輩なんだろう。
周りの同僚に慕われていたのが知り合って半日しか経っていない私でもわかるほど。
関西支社でも立ち上げメンバーとして活躍してて、後輩に気遣いも出来て、おまけに美人。きっとすごい人。
「ちゃんと食えよ。午後から会議だぞ」
「ハッチー、大丈夫?」
どうしてだろう。今すごく天野さんの顔が見たくない。
胸の中がぐるぐるしてて、真っ黒な何かに飲み込まれてしまいそう。
チラッと横を見ると、話を聞きながら箸は動いていたようで、キヨのお膳はほとんど料理が残っていない。
「キヨ……悪いけど、ちょっと付き合って」
「ん、いいよ」
「蜂谷」
「すみません、先に社に戻ります」
極力天野さんの顔を見ないようにして、その場を立つ。
もうここに居たくない。
苦しくて気持ち悪くて、どうしてかわからないけど涙が出そうで、必死に唇を噛みしめる。
「大丈夫?」
「はい、すみません」
「行こう、ハッチー」
心配して声を掛けてくれる紅林さんの顔すら見られない。
こんなの社会人失格だ。わかってるのに顔を上げられなくて、キヨに甘えて頭を彼の肩に寄っかからせてもらう。
天野さんの鋭い視線が刺さるのがわかる。
なんなの、どうしろっていうの?
私の知らない懐かしい話でもしてればいいじゃない。
社内のくだらない噂もこれで払拭出来るかもしれない。
最近では私が天野さんを誘惑してアシスタントに収まっているだとか、総務部長に色目を使って融通してもらったなんてバカみたいな話も聞こえてきた。
そんなくだらない話も、紅林さんの登場で霞んでしまえばいい。
天野さんには他の女の子になんか目が向かないくらい素敵な彼女がいるんだって。
きっと翔さんに振られた子だって、紅林さんを知ったら納得する。勝てっこないって納得せざるを得ない。
ランチを取った居酒屋から会社への帰り道。キヨには悪いと思いながらもひとことも話さずに歩いてきた。
午後の会議を終えて議事録をまとめた私は、天野さんではなく企画部の課長に許可を取って定時にそそくさと会社を出た。
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