上 下
10 / 49
2.ご褒美はキス?

しおりを挟む

やっぱり感じ悪いあの人!

別にあなたに可愛いなんて思われたいわけじゃない。

美山さん達とあんなにベタベタしちゃってさ。

そりゃ酔った女の子達は可愛いでしょうよ。

実際本当に酔ってるかなんて怪しいけど、甘えてこられて悪い気なんてしないでしょ。

にこにこ可愛く笑いながら会話して、ちゃんと男の人を立ててあげて。

足早に離れて少しだけ後ろを振り返ると、キヨを抱えた天野さんの周りは美山さん達女性社員と、彼女たちと二次会に行きたい男性社員で囲まれていた。

ふと、こちらを見た美山さんと目が合う。

勝ち誇ったように微笑んだ彼女を見て、すぐに前を向いて歩き出した。


きっと……ただのスキンシップ。

あのキスを特別なことに感じたのは私だけ。

頭を振って、足を駅に向けて動かし始める。

褒めるって“頑張ったな”って優しく笑ってくれたり、頭をぽんぽんしたり、そういうのをしてくれるのかと思った。

役に立ったというのなら、松本さんやキヨが言ってくれたように、これからも補佐を頼んでくれたら、なんて期待もしてた。

でもその期待ももう終わり。月曜日には庶務課に戻る。

触れるだけのキス。押し当てられた唇はずっと外にいたのに思いのほかあたたかくて……。

生まれてはじめてのキスだった。

なのに嫌悪感がない自分にビックリした。それどころか、もっと……。

「蜂谷!」

慌ただしく近付いてくる足音。

呼ぶ声が誰のものかなんて、振り返らなくてもわかる。

あの人といると自分が自分でなくなりそう。

からかわれて嫌だったはずなのに、いつの間にか天野さんを気にしてる自分が信じられない。

庶務に戻りたいとずっと思ってたはずなのに、彼の近くにいたいと思い始めてる自分が怖い。

この気持ちに気付いていはいけない。

自分を呼ぶ声も、ドキドキうるさい胸の鼓動も聞こえないふりをして駆け出した。

それなのに……。

運動不足が祟ったのか、あっという間に追いつかれてしまう。息が切れて、暗闇に響くのは私の荒い息遣いだけ。

掴まれた手首が熱い。

「……っはぁ、二度も逃がすかっつーの」

一度目はきっと屋上のことを言っているんだろう。

自分から近付いていったくせに、私はあの日どうしたらいいのかわからずに突き飛ばして無心で階段を駆け降りたんだ。
あの時も喉の奥が焼けるように痛かった。

「なんで追ってくるんですか」
「お前が逃げるからだろ」

だって、どうしたらいいのかわからない。

この人の本心を知るのが怖い。

「主役が二次会いなくてどうするんですか」
「いい、松本達に任せてきた」
「キヨ、すごい酔ってましたけど」
「あれも誰かがなんとかするだろ」
「美山さんたちも、待ってるんじゃないですか」
「どうかな」
「……お持ち帰り、出来そうでしたよ?」

あー……。なに言ってんだろう、私。最低だ。

「していいのか?」

なんで私に聞くのよ。

眉間に皺を寄せながら真っ直ぐに私を見つめる大きな瞳に心の中まで覗かれそうで、その瞳を正面から見つめ返すことなんか出来ない。

美山さんの勝ち誇った笑顔が頭にちらつく。

「お持ち帰りでも味見でも好きにしたらいいじゃないですか」
「蜂谷」

なだめるような優しげな声で自分の名前を呼ばれて無性にイライラする。

そんな風に呼ばないで欲しい。苛立ちから思いの外冷たい声が自分の喉から発せられる。

「テーブルのはしっこに居心地悪そうに座って仏頂面でカシオレ飲んでた私よりよっぽど可愛い子がたくさんいましたよ」
「っはは。可愛く思えてきた、なんか」
「……はい?」
「顔だけじゃなく、その意地っ張りな態度」

何を言っているのかイマイチ理解できずに顔を顰めていると、クスッと笑う天野さんが私の頬に手を伸ばしてきた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

鳴宮鶉子
恋愛
Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は一途に私に恋をする~ after story

けいこ
恋愛
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は一途に私に恋をする~ のafter storyになります😃 よろしければぜひ、本編を読んで頂いた後にご覧下さい🌸🌸

憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~

けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。 私は密かに先生に「憧れ」ていた。 でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。 そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。 久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。 まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。 しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて… ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆… 様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。 『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』 「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。 気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて… ねえ、この出会いに何か意味はあるの? 本当に…「奇跡」なの? それとも… 晴月グループ LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長 晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳 × LUNA BLUホテル東京ベイ ウエディングプランナー 優木 里桜(ゆうき りお) 25歳 うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。

推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜

湊未来
恋愛
「同じファンとして、推し活に協力してくれ!」 「はっ?」 突然呼び出された社長室。総務課の地味メガネこと『清瀬穂花(きよせほのか)』は、困惑していた。今朝落とした自分のマスコットを握りしめ、頭を下げる美丈夫『一色颯真(いっしきそうま)』からの突然の申し出に。 しかも、彼は穂花の分身『Vチューバー花音』のコアなファンだった。 モデル顔負けのイケメン社長がヲタクで、自分のファン!? 素性がバレる訳にはいかない。絶対に…… 自分の分身であるVチューバーを推すファンに、推し活指南しなければならなくなった地味メガネOLと、並々ならぬ愛を『推し』に注ぐイケメンヲタク社長とのハートフルラブコメディ。 果たして、イケメンヲタク社長は無事に『推し』を手に入れる事が出来るのか。

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

処理中です...