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夢の中なら言える
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「お父様にはもう許可を取ったのよ」
そう自慢気に話す姫、シルヴィアが優雅にゆっくりと紅茶を飲むのを見つめる。
「もちろん最初は渋っていたけど、私の意見を聞かずに勝手に父親同士で結婚を決めてしまうだなんて横暴だもの。しかも昨日突然『明日いらっしゃるから』だなんて伝えてきて。このくらいのワガママは許してくださって当然よ。なぜ顔も名前も知らない方と結婚しなくてはならないの?!」
室内の壁紙は薄いピンク色。家具は全て白で揃えられており、大きなベッドにはレースの天蓋がかけられている。
天井には大小3つのシャンデリアが吊るしてあってキラキラ光を放っている、いかにもお姫様のお部屋。
梨沙が座っているソファも真っ白で、猫足だけが金色で装飾されている。
作戦会議と称してシルヴィアの部屋へ連れてこられた梨沙は、彼女がティーカップを置き、興奮気味に話すのを静かに聞いていた。
「パーティーは明日の昼食会からスタートして5日間。リサは私のふりをしてドレスを着て、この城にやってきた花婿候補である王子様のお相手をするの。その間、私はリサのメイド服を着て、少し離れたところからその様子を観察するわ」
本当に絵本のとおりに話が進んでいく。
「私の顔を知らない王子様は、ドレスを着てシルヴィアと名乗るリサを私だと思って、きっとみんなの前では優しく甘い言葉をかけるでしょう。でも2人きりになった途端、必要以上に横柄な態度をとるような人だったら? メイド服を着た侍女に対する態度が乱暴だったりしたら? そんな人なら絶対結婚なんてしないわ!」
シルヴィアの言うことはもっともだと思う。
いくら公爵家の姫だからといって、裏表のあるような見ず知らずの王子を花婿に迎えるのは嫌だろうと理解できる。
「明日の朝から5日間、リサには私と入れ替わってもらうから仕事はいいわ。家令のフィリップにも伝えてあるから心配しなくて大丈夫よ」
仕事をしなくていいと言われても、自分の仕事はシルヴィアの側にいて彼女に尽くすことだ。彼女は身の回りの世話をほぼリサに全て任せていた。部屋の水差しの交換や着替えひとつとってもリサがいなければ立ち往かないだろう。
そう考えて、はたと梨沙は気付く。
夢のわりに"リサ=レスピリア"の生活ぶりに詳しい自分。なんだかひとつの身体にふたつの人間が住んでいるようでおかしな感じだった。
今夢を見ているのは"日比谷梨沙"なのに、"リサ=レスピリア"としてここに存在しているせいだろうか。
「リサ?やってくれるわね?」
シルヴィアの期待に満ちた目を向けられ、思考が自分の内側から目の前の姫へと移る。
しかし、本当に花婿候補と言われる王子様にバレたりはしないんだろうか。それだけが心配だった。
梨沙はごく普通の容姿。多少色が白くて肌が綺麗だと褒められることはあっても、決して美人という部類じゃないと自分では思っている。
絵本の中ではうまく入れ替わっていたけど、いざこうしてシルヴィアを目の前にすると、あまりの容姿の違いにうまくいく展開が霞んでいってしまう。
(とはいえ、これは夢だからそこまで真剣にならなくたっていいんだけど)
「リサが気にしているその黒髪、私はとても綺麗で素敵だと思うけど。私のフリをしてもらうのだから、この髪の色のウィッグを用意させたわ。だから安心して?」
にっこりと笑ってみせるシルヴィアは本当に華のある綺麗なお姫様。間近で見るとため息が漏れてしまう。
梨沙はずっと憧れていたお姫様を目の前に、かなり興奮していた。
今はまだ、この夢を見ていたい。
梨沙はシルヴィアの提案を受け入れるように、ゆっくりと頷いた。
そう自慢気に話す姫、シルヴィアが優雅にゆっくりと紅茶を飲むのを見つめる。
「もちろん最初は渋っていたけど、私の意見を聞かずに勝手に父親同士で結婚を決めてしまうだなんて横暴だもの。しかも昨日突然『明日いらっしゃるから』だなんて伝えてきて。このくらいのワガママは許してくださって当然よ。なぜ顔も名前も知らない方と結婚しなくてはならないの?!」
室内の壁紙は薄いピンク色。家具は全て白で揃えられており、大きなベッドにはレースの天蓋がかけられている。
天井には大小3つのシャンデリアが吊るしてあってキラキラ光を放っている、いかにもお姫様のお部屋。
梨沙が座っているソファも真っ白で、猫足だけが金色で装飾されている。
作戦会議と称してシルヴィアの部屋へ連れてこられた梨沙は、彼女がティーカップを置き、興奮気味に話すのを静かに聞いていた。
「パーティーは明日の昼食会からスタートして5日間。リサは私のふりをしてドレスを着て、この城にやってきた花婿候補である王子様のお相手をするの。その間、私はリサのメイド服を着て、少し離れたところからその様子を観察するわ」
本当に絵本のとおりに話が進んでいく。
「私の顔を知らない王子様は、ドレスを着てシルヴィアと名乗るリサを私だと思って、きっとみんなの前では優しく甘い言葉をかけるでしょう。でも2人きりになった途端、必要以上に横柄な態度をとるような人だったら? メイド服を着た侍女に対する態度が乱暴だったりしたら? そんな人なら絶対結婚なんてしないわ!」
シルヴィアの言うことはもっともだと思う。
いくら公爵家の姫だからといって、裏表のあるような見ず知らずの王子を花婿に迎えるのは嫌だろうと理解できる。
「明日の朝から5日間、リサには私と入れ替わってもらうから仕事はいいわ。家令のフィリップにも伝えてあるから心配しなくて大丈夫よ」
仕事をしなくていいと言われても、自分の仕事はシルヴィアの側にいて彼女に尽くすことだ。彼女は身の回りの世話をほぼリサに全て任せていた。部屋の水差しの交換や着替えひとつとってもリサがいなければ立ち往かないだろう。
そう考えて、はたと梨沙は気付く。
夢のわりに"リサ=レスピリア"の生活ぶりに詳しい自分。なんだかひとつの身体にふたつの人間が住んでいるようでおかしな感じだった。
今夢を見ているのは"日比谷梨沙"なのに、"リサ=レスピリア"としてここに存在しているせいだろうか。
「リサ?やってくれるわね?」
シルヴィアの期待に満ちた目を向けられ、思考が自分の内側から目の前の姫へと移る。
しかし、本当に花婿候補と言われる王子様にバレたりはしないんだろうか。それだけが心配だった。
梨沙はごく普通の容姿。多少色が白くて肌が綺麗だと褒められることはあっても、決して美人という部類じゃないと自分では思っている。
絵本の中ではうまく入れ替わっていたけど、いざこうしてシルヴィアを目の前にすると、あまりの容姿の違いにうまくいく展開が霞んでいってしまう。
(とはいえ、これは夢だからそこまで真剣にならなくたっていいんだけど)
「リサが気にしているその黒髪、私はとても綺麗で素敵だと思うけど。私のフリをしてもらうのだから、この髪の色のウィッグを用意させたわ。だから安心して?」
にっこりと笑ってみせるシルヴィアは本当に華のある綺麗なお姫様。間近で見るとため息が漏れてしまう。
梨沙はずっと憧れていたお姫様を目の前に、かなり興奮していた。
今はまだ、この夢を見ていたい。
梨沙はシルヴィアの提案を受け入れるように、ゆっくりと頷いた。
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