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3章
22
しおりを挟む「ちゃんと、中に」
視線は逸らしたまま、アトリは囁く。
君は、とユーグレイが咎めるような声で言った。
瞬間、下から勢い良く突き上げられて仰け反る。
「ーーーーあ、あ」
背中を支えられながら、ぐいと手で腰を落とされて結合が深まった。
もう、ユーグレイも何も考えてはいないだろう。
何もかも飲み込むような熱。
脳髄まで溶けるような恍惚。
より深い快感を求めるように、激しい交合が続く。
「アトリ、ーーアトリ」
「ーーーーッ! あ、ぁあ」
切ない声で名前を呼ばれて、アトリは強請るようにユーグレイを締め付ける。
収縮した内壁がその分だけ強く擦り上げられて、息が止まるような気がした。
そんな風にされたら、堪らない。
更に強い快感を生み出すところをぐりぐりと執拗に責められ、どうしようもなくて悲鳴を上げる。
とぷ、と押し出されるように射精して、アトリは嫌々とかぶりを振った。
「あ、イ、った、イッたからぁ……! そこ、もうっ、やだって!」
ぎしぎしと鳴るベッド。
ユーグレイは獣のような瞳で、アトリを見る。
あ、やば。
腰を押さえつけていた彼の手が、熱を吐いたばかりの性器を握った。
「へ、あ?」
イッたと言ったのに。
濡れたそれはユーグレイの手で、痛いほどに絞られる。
アトリは反射的に彼の手を押さえて、身体を捩った。
じんとした痛みとそれを上回る快感。
ユーグレイはアトリの抵抗を封じるように、一際強く腰を突き上げる。
「ひっ、ぐ、出したっ、てばぁ! ユーグ! 強く、したら、キツイ、から」
「ーーすまない」
すまないって、なんだ。
いや、好きにして良いって言ったけど。
捏ね回すように鈴口を弄られる。
ひゅうひゅうと喉が鳴った。
ぱさぱさと髪を振りながら、迫り上がってきた欲求にアトリは「待て」と制止をかける。
「あ、あ、待っ! 待てって、なん、か……ッ!」
先端を嬲られる度に、出そうになる。
何をされても良いけれど、決してそれは粗相まで見せたいという意味ではない。
待って欲しい。
少しだけで良いから、止めて欲しい。
酷く卑猥な水音は、けれど大きくなるばかりで。
ユーグレイはわかっているのか、いないのか。
喰らいつくような視線で、アトリを捉えたままだ。
「は、あッ、あ゛、なんか、ぁッ」
「出して欲しい。アトリ」
ああ、もう、だめだ。
アトリはユーグレイに縋りついた。
汗で濡れた身体にぎゅうと抱きついて、啜り泣く。
きもちいい。
きもちよくて、たまらない。
だから、もう、どうでも、いい。
限界を見極めたように、ユーグレイの爪が食い込んだ。
「あ、や、ああぁーーーーッ!!」
ぷしゅ、と責苦を受けた先端から温かいものが吹き出す。
がくがくと震える身体。
信じられないほどの激烈な感覚は酷く尾を引いて、アトリは壊れたように小さな悲鳴を上げ続けた。
長い絶頂の果て。
落ちかけた意識を引き留めるように、ユーグレイは奥を暴く。
「ーーーーは、あっ、あぁ」
「アトリ、この、まま」
出していい、と何度も頷く。
アトリ、と蕩けるような声でもう一度名を呼ばれる。
「ぁ、ゆー、ぐ」
突き上げられたまま奥に叩きつけられた熱に、胎が歓喜するのがわかった。
飲み込んだところで、何にもならないと言うのに。
もっと深いところへと脈動する身体が、疎ましい。
ユーグレイはアトリの身体をきつく抱き締めて、荒く息を吐く。
容赦なく最後まで注がれて、身体から力が抜ける。
まだ甘えるような息を吐くアトリを、ユーグレイは慎重にベッドに横たえた。
僅かに出来た結合部の隙間から、どろっと性液が溢れる。
こんなに、気持ち良いなんて。
「ぁ、ご、めん……、俺」
ふわふわとした思考はすぐにでも眠りを欲していたが、アトリは何とか言葉を発した。
ユーグレイはアトリの頭を撫でながら、思い至ったように「いや」とまだ余裕のありそうな声で返事をする。
「別にどちらでも謝る必要はないが、あれは排泄とは違うから気にする必要はない」
「ん、ぇ?」
汚した、と思ったが。
やけに嬉しそうな顔をされて、それ以上問い詰めるのは悪手だろうと察する。
するするとユーグレイの手のひらが、肌の上を滑って行く。
心地良い。
徐々に整う呼吸に合わせて、意識が保てなくなって。
「アトリ」
「いっ、あぁ……?」
胸を撫でるユーグレイが、唐突にその先端を摘んだ。
ぱちりとまた焦点が合う。
指先に挟まれ色付いたそれを捏ねられて、彼の意図を察した。
「ふ、あ、まじ、かぁ……」
そう言われてみればまだ抜かれてもいないし、いつの間にか突き入れられた時と同じ硬さに戻っている。
ただ問答無用で揺さぶられないところを見ると、アトリが「もう無理」と言えばお終いにしてくれそうな気配もあった。
じゃあどうする、と自身に問うまでもない。
結局アトリは、ユーグレイが欲しいだけ与えたくて仕方ないのだ。
欲しがっても良いものを欲しがらなかった彼という人間が、満たされるまで。
この身体で、この心で良いのなら。
重い両腕を持ち上げて、アトリはユーグレイを引き寄せる。
「ん、……どうぞ」
「…………良いのか?」
「良いのかって、我慢、出来んの? これ」
アトリはユーグレイが収まったままの下腹部を撫でて見せる。
割と素直に煽られてくれたらしい彼は唇を噛んで、まだ捕らえたままの胸の頂を抓った。
ちりちりとした弱い快感に、アトリは息を乱す。
「嬉しいが、そこまで君が譲歩することはない。嫌ならそう言え、アトリ」
「譲歩、してる訳じゃない。落ちそうではあるけど、嫌でも、ない」
「………………」
向けられる碧眼は、乱れ濡れてもただ綺麗だ。
こんなにも美しいものが、こんなにも強く気高いものが、必死に手を伸ばしてくるのを見て何とも思わない訳がない。
欲しい欲しいと、焦がれるように繰り返されて嬉しくないはずがない。
アトリはユーグレイの額を撫でた。
「俺、なんか、お前が可愛くて、仕方ない。甘やかしたくて、もっと悦んで、欲しくて……、抱き締めたくて、もっと」
ほろほろと口から溢れる言葉の意味を、アトリ自身完全には理解していなかった。
とっくに思考は溶けていて、身体は次の快感を待っている。
まだ、まだ。
許される限り。
「もっと、欲しい」
降ってくる口付けを、受け入れる。
それから。
繋がったところから溶け合うような、深い絶頂を幾度も味わって。
いつ終わったのかもわからないまま、とぷりと眠りに落ちた。
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