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事実上の大公妃

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使用人や兵士がずらっと並び出迎えてくれている。
案内人1人いれば十分なのにな。

「グリフィス皇弟殿下」

「もう大公だよ宰相」

「どちらも正解です。お怪我は完治なさったようで安堵しました」

「ありがとう。
を紹介しよう。ミーナだ」

「!! ご挨拶が遅れました。宰相を任されております、ジェイムズ・ヨーゼンと申します。大公妃殿下にご挨拶を申し上げます。ようこそ帝国へ」

「…宰相閣下、隣国からアルネージュに移住しました 大公妃ミーナと申します」

「ミーナ」

「事実です」

「長旅で疲れていらっしゃるのですね。皇帝陛下の応接間へご案内しましょう」

廊下を歩く間も閣下は不機嫌だったが、手は繋いで離さない。フィア達を見ても素知らぬ顔でついてきた。


広くて豪華な応接間はキラキラしていた。
まるで金箔宮殿にいるようだ。

「本日のお茶はゼェーネ産の最高級茶葉を使っております。他にご入り用のものはございますか」

「サングラス」

「サ?サン…あの、もう一度お願いいたします」

「なんでもありません。いただきます」

この国も紅茶 バーブティー ジュース 果実水 お酒の世界なんだなぁ。
正直飽きた。前の世界は飲み物豊富だったなぁ。
深煎りコーヒー カフェモカ 梅昆布茶 緑茶 焙じ茶 烏龍茶 コーン茶 チョコシェイク …飲みたいなぁ。

閣下に膝の上に乗せられて撫で回されているうちに目的の人が現れた…多分。服が豪華だし 護衛の騎士さんなんか凄い高貴な感じがするからね。

閣下が 幼子を降ろすように脇の下に手を入れて私を持ち上げながら立ち上がり 私を放すと、偉い感じの人に抱きついた。

「兄上!」

「グリフィス!」

「ご心配をおかけしました」

「見せてくれ!本当に治ったのだな!良かった!」

「全てはミーナのおかげです」

この人が閣下のお兄さんで皇帝か。

「彼女が聖女ミーナ様か」

「はい。引退したから聖女と呼ばれるのを嫌がります。ミーナ、もしくは大公妃と呼んでください」

「大公妃じゃないです」

「…そうか。ミーナ。私はグリフィスの兄ガエルだ。
弟を助けてくれてありがとう」

「初めまして ミーナと申します。私も助けてもらっていますので」

「座って話そう」

3人とも座ると皇帝の前に黒い飲み物が出てきた。
この香り…

「…コーヒーだ」

「ミーナ?」

「おお!ミーナはコーヒーを知っているのか」

「はい。美味しいですよね」

「そうだろう。なのに人気が無いのだよ」

皇帝が合図を出すと私の前にもコーヒーが差し出された。

「いただきます………まっずぃ」

「「……」」

メイドや騎士さん達の顔が強張った。
もしかして不敬?不味過ぎて言葉が出ちゃった。

「オホホホホッ 素敵なお味ですわ」

「よいよい。似合わん言葉を使うな。ミーナは飲んだことがあるのか?」

「…かなり昔に」

「同じ味ではないのか?」

「まさか。これが出てきたらテーブルひっくり返します……あっ」

「「……」」

メイドさんに手を合わせて頭を下げた。“ごめん!”

「ハハッ つまり其方はもっと上手いコーヒーを飲んでいたということか」

「そうなりますね」

「淹れ方は分かるか?」

「まあ、…はい」

「ではお願いしよう」

メイドさんの側にあるワゴンの上のポットの蓋を取って覗き込んだ。

「不味いはずです」

「ん?普通じゃないか?」

「!!」

いつの間にか皇帝が側に立って一緒にポットを覗いていた。

「煎った豆を煮るのだろう?」

「違います」

「どう淹れるんだ」

「このままじゃ無理です。専用の道具が必要です」

絵に描いて伝えてみた。

「まるで違うじゃないか」

「そうですね。さっきはお湯に豆粒が浮いていて驚きました」

「ミーナのコーヒーが飲みたい」

「え~」

「褒美を取らすから」

「お金はありますから結構です」

「高品質の宝石が」

「間に合っています」

「どうしたらいい」

「……一人部屋をお願いします」

「ミーナ!」

「お前達、さっきはイチャイチャしてたじゃないか」

「たまには一人部屋で過ごしたいです」

「いいだろう」

「兄上!」

「グリフィス、帰れば一緒の部屋ということだろう?少しくらい解放してやらないと逃げられるぞ」

「っ!」

「グリフィスとは別にミーナの部屋を用意してやってくれ」

「かしこまりました」

メイドが1人部屋から出た。
やった!一人部屋!

「では、厨房へ参ります。皆様とはここでお別れです」

「何でだ。見たいぞ」

「俺は離れないからな」

料理人達が可哀想。


厨房へ行き、豆の煎る加減を教えた。

「焙煎といって、水分を飛ばして香ばしくするんです」

そして、ミルが無いので臼を使った。

「砕きます。粗挽き中挽き細挽きと…本当はもう少しありますが、目指すは中挽きで。これは好みです。それ以前にこの臼でどこまで調整できるのか……まあ、これしか道具が無いので仕方ないです」

それは任せている間にフィルター代わりを探さなくては。

ん!?

しゃがんで閣下の腿を撫で回した。

「ミっ!ミーナっ!!」

「これ、この布。こんな感じの薄めの布が欲しいです。ハンカチサイズでかまいません」

真っ赤になった閣下を無視してドリッパーの代わりになるものを探したが無い。

そこでフィアが手を挙げた。

「フィア?」

「もしかして医療塔にあるかもしれません。煎じ薬を濾すときに似た物を使っていたはずです」

「フィア、お手柄よ!」

早速持ってきてもらい、全てを揃えてコーヒーをドリップした。

「時間かかるな」

「料理は時間と手間のかかるものばかりですよ」

「……」

そして

「ミーナ!上手い!」

「これなら俺も好きだ」

「ミルクを入れたり砂糖を入れたりチョコを入れたりシナモンや蜂蜜など入れても良いですね」

「蜂蜜を持ってきてくれ」

閣下が蜂蜜を希望して、入れて飲むと喜んだ。
皇帝は一口閣下の蜂蜜コーヒーを飲んでブラックに戻った。

「今夜は妻と4人で食事をしよう。パーティは3日後だ」

パーティか…大丈夫かな。



その後は一人部屋に案内されて休憩し、時間になるとメイドさん達が身支度をしてくれた。閣下が迎えにきて皇族の食堂へ向かう。

中に入るとすごく美しい色気のあるフランス人形のような女性が皇帝の隣にいた。

「貴女がミーナ様ですね。妻のセリーヌと申します。お会いできて光栄ですわ」

「セリーヌ皇妃陛下にミーナがご挨拶を申し上げます」

「久しぶりですね、グリフィス様」

「皇子の誕生、おめでとうございます」

「ありがとうございます。元気に産まれて安心しております」

「さあ、座って食事にしよう」

食事を進めると、3人がとても美しく食べるので恥ずかしくなってきた。

「ミーナ?具合が悪いのか?」

「悪くないです」

「どうしたんだ。魚は好きだろう?」

「やっぱり私は庶民がいいです」

「どうした。誰かに虐められたのか?」

閣下が心配そうに私を見た。

「私だけ美しくないです。皆様のように美しく食べれないです」

「ミーナは子供の頃から祈らされていたんだから仕方ない。俺達のように良い教師がついて身につくまで教われなかったんだから。
よし、俺が食べさせよう」

「いや、いいです」

「いいから」

その後 閣下はせっせと私の口に料理を運んだ。

「…胸焼けしそうですわ 陛下」

「さっきなんか応接間で膝の上に乗せてイチャついていたからな。大公宮はピンク色に染まっていそうだ」

「でも良かったですわ。ミーナ様はグリフィス様の救世主ですわね」



そして夜、私は枕を抱えて廊下に出た。

「ミーナ様!?」

「フィア。閣下のお部屋はどこ?」

「行きたいのですか?」

「うん」

「では、ガウンを羽織りましょう」

ガウンを羽織り枕を抱えて廊下を歩いた。
閣下は自室。私は貴賓室なので距離があった。
顔は動かないが警備兵の目が私を追っている。

だから…指を兵士さんの顔に向けてヒョイっと上に向けた。兵士さんは上を見た。

「フィア、勝ったわ」

「ミーナ様ったら」

それを見ていた別の兵は下を向いて笑っていた。
 

そしてやっと到着して、フィアがノックしてくれた。

中から“誰だ”と不機嫌そうな声がした。

「おやすみなさい」

迷惑そうだから貴賓室に戻ることにした。

ガチャっ

「ミーナ!」

後ろから抱きしめられて持ち上げられた。

「部屋に戻ります」

「帰すわけないだろう」

バタン

そのまま閣下に襲われた。広くて知らない部屋が怖くて一緒に寝たかっただけなのに夜這いだと勘違いされた。

まあ いいか。





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