7 / 19
痣
しおりを挟む
ロランの部屋でルフレ先生が服を捲った。
「少し腫れているな」
先生が右肩の動きを確認した。
「先生。何で団長さんはロラン達を止めたんですか?」
「怪我をしそうだと察知なさったんだろう。実力差があれば、強い方が加減をしたり最小限に早く終わらせたりできるが、ロラン達は最初の一撃で相打ちになり、殿下に火がついたのだろうな。
団長が止めたということは差を感じなかったのだろう。その2人が手加減無しに戦えば大怪我もあり得る。優勝は決まったのだから あの場でそこまでする必要はない」
「ロラン」
「大丈夫だよ。向こうも痛がっているかもしれないし」
「引き分けだから膝枕ができないし、怪我してるからしてもらえないし」
「してどうするんだよ。首が痛くならないか?」
「そういう問題じゃないの。愛情表現なの」
「甘えん坊め」
「甘えん坊でいいってレオ兄様が言っていたもの」
「兄上は甘やかし過ぎなんだよ」
「伯父様だって いつまでも甘えてくれって」
「じゃあ尚更僕は甘やかしたりしない。シャルが駄目人間になっちゃうからね」
「ロランは…何でもない。お大事にね」
「シャル?」
部屋に戻ってカードに記入した。
一階に降りて使用人に渡した。
「届けて欲しいの」
「…かしこまりました」
居間に行って伯父様にくっつくことにした。
「可愛いシャルロット。剣闘会はどうだった?」
「みんな頑張っていました」
伯父様に抱きついた。
「何かあったのか?」
「ちょっと寂しいだけです」
「よしよし。うちのシャルロットは可愛いな」
3時間後の夕食後。
「お嬢様、返信です」
「ありがとう」
「誰からだ?」
レオ兄様が覗き込んだ。
「何でセドリック殿下が?」
「ちょっとお見舞いとクレームをね」
「私は明日は行けないからロランを連れて行け」
「ロランは怪我をしているし、一人で行くわ」
「駄目だ」
「では、私が行こう」
「伯父様、いいんですか?」
「たまには城に顔を出しておいてもいいだろう?」
「やった。寄り道してもいいですか?お店に寄りたいです」
「いいよ」
ロランはレオ兄様とヒソヒソ話していた。
翌日。
「お嬢様、それになさるのですか?」
「そうよ」
「もう少し華やかな方が、」
「殿下に会うのに着飾ったら何言われるか分からないから、地味目にするの」
一見貧乏令嬢風にしてもらった。でもドレスは落ち着いた高級品。
本当はメイドにワンピースを貸してと言ったのだけど、“叱られます”と皆 嫌がった。
王都のお店で買い物をして伯父様と王城へ向かった。
王城へ到着するとセドリックが外で待っていた。馬車に気が付くと停車場ギリギリまで近寄って来た。
馬車が停まりドアが開くとセドリックが手を差し伸べたが、手を取ったのは伯父様だった。
「キ、キャロン伯爵っ」
「殿下は紳士ですね。私にも手を差し伸べてくださるなんて」
「あ、まあ」
「ふふっ」
「どうせ私のことなど視界に入らなかったのでしょう?殿下とシャルロットの間に居るというのに」
「ようこそキャロン伯爵」
伯父様が馬車を降りると今度こそと手を差し伸べようとしたセドリックの前に立ちはだかるように、伯父様が手を差し伸べた。
「ありがとうございます、伯父様」
「応接間まで抱っこしようか?」
「嬉しいですけど、もう流石に此処では恥ずかしいですわ」
「そうか。では屋敷に帰ってからにしようね」
「はい」
「伯爵…俺もキャロン邸で暮らしてもいいか?」
「殿下も私に抱っこして欲しいのですか?流石に腰を痛めてしまいます」
「シャルロットより少し大きくなっただけなのに酷いな」
「シャルロットのドレスを着ることができたら検討しましょう」
私は伯父様と腕を組んで歩いた。
そして応接間に着くと先程購入した物を渡した。
「これ、俺に?」
「優勝おめでとうございます」
「シャル!嬉しいよ!」
「誰が“シャル”と呼んでいいといったのですか。
これは形式上のお祝いですので深い意味はありません」
宝剣のような作りのペーパーナイフで、セドリックの瞳の色の宝石を嵌め込んだ物だ。
本当はロランの誕生日に向けて作らせた物だった。これからロランの瞳の色の宝石を嵌め込むところだったので、変更して持って来た。
ロランには別の物を考えないと。
「凄いな。本当にペーパーナイフだ」
セドリックは手が切れないことを確認しながら嬉しそうに微笑んだ。
「本題は別です」
「話があると書いてあったな」
「ちょっと。私のロランに怪我をさせるなんて有り得ないんですけど!」
「怪我?」
「肩が腫れていたのです!」
セドリックはスッと立ち上がりジャケットを脱ぎシャツを脱ぎ始めた。
「ちょっと!」
「殿下、レディの前ですよ」
脱いだ彼の脇腹には青紫色の痣が出来ていた。
「俺だってこんなだぞ?防具付けてたのに。
あいつ、俺を殺す気だったんじゃないか?」
「ロランが申し訳ございません」
「いや、ちゃんと防具の上に攻撃したのだから仕方ない。伯爵は謝らなくていい。
シャルロット、“引き分け”だろう?」
「……痛いですか?」
「そりゃ、痛いさ。何をするにしても痛い。寝返りはうてないし、服の脱ぎ着も痛い。下に落ちた物は拾いたくないし、当面安静だ」
「……」
「そんな顔は見たくない。シャルロットは気にしなくていい」
「殿下、骨に異常はないのでしょうか」
「ポキッとは折れていない。切り開いて確認する訳にはいかないから、念のため ヒビが入っている前提での安静だ。
父上には、キャロン伯爵に標的にされるよりマシだと笑われたよ」
流石に王子殿下相手にこの怪我はまずいような…
そこに遣いの人が来た。
「キャロン伯爵、陛下がお呼びです」
「シャルロットが、」
「大丈夫だ 伯爵。シャルロットにいかがわしいことはまだしないよ」
「シャルロット、変なことをされたら分かってるね?」
「はい。握り潰すか蹴り潰すか 踏み潰します」
「じゃあ行ってくる」
伯父様が部屋を出たので サッと近寄って服を着るのを手伝った。
「こういうの いいな」
「……」
「学園も1週間休んで様子見るんだけどな」
「……」
「朝起きるときなんか結構痛いんだけどな」
「……」
「弟の後始末は姉の役目では?」
「…要求は何ですか」
「そうだなぁ。付き人でもやってもらおうかな」
「はあ?」
「最低1週間の安静だ。その後延びるかもしれないし、安静命令が解けても当然治るのには時間がかかる」
「無理ですよ。学園がありますし、私に出来ることはほとんどありません」
「じゃあ ロランを呼んで、」
「分かりました。ですが、午後の授業の無い水曜日と土日だけです。夕食までには帰ります。
あと、来週の土曜日は予定がありますので来ません」
「何の予定だ」
「ブロシェン家のお茶会です」
「俺がこんななのに行くのか?」
格上の方のお茶会に出席しますと返事をしたのに。
「じゃあ、途中で外して出席して戻って来るということでいかがですか?」
「……その日は早朝から登城して、抜けるのは3時間だけだ」
「え~」
セドリックは自分の付けていたネックレスを私の首につけた。
「少し腫れているな」
先生が右肩の動きを確認した。
「先生。何で団長さんはロラン達を止めたんですか?」
「怪我をしそうだと察知なさったんだろう。実力差があれば、強い方が加減をしたり最小限に早く終わらせたりできるが、ロラン達は最初の一撃で相打ちになり、殿下に火がついたのだろうな。
団長が止めたということは差を感じなかったのだろう。その2人が手加減無しに戦えば大怪我もあり得る。優勝は決まったのだから あの場でそこまでする必要はない」
「ロラン」
「大丈夫だよ。向こうも痛がっているかもしれないし」
「引き分けだから膝枕ができないし、怪我してるからしてもらえないし」
「してどうするんだよ。首が痛くならないか?」
「そういう問題じゃないの。愛情表現なの」
「甘えん坊め」
「甘えん坊でいいってレオ兄様が言っていたもの」
「兄上は甘やかし過ぎなんだよ」
「伯父様だって いつまでも甘えてくれって」
「じゃあ尚更僕は甘やかしたりしない。シャルが駄目人間になっちゃうからね」
「ロランは…何でもない。お大事にね」
「シャル?」
部屋に戻ってカードに記入した。
一階に降りて使用人に渡した。
「届けて欲しいの」
「…かしこまりました」
居間に行って伯父様にくっつくことにした。
「可愛いシャルロット。剣闘会はどうだった?」
「みんな頑張っていました」
伯父様に抱きついた。
「何かあったのか?」
「ちょっと寂しいだけです」
「よしよし。うちのシャルロットは可愛いな」
3時間後の夕食後。
「お嬢様、返信です」
「ありがとう」
「誰からだ?」
レオ兄様が覗き込んだ。
「何でセドリック殿下が?」
「ちょっとお見舞いとクレームをね」
「私は明日は行けないからロランを連れて行け」
「ロランは怪我をしているし、一人で行くわ」
「駄目だ」
「では、私が行こう」
「伯父様、いいんですか?」
「たまには城に顔を出しておいてもいいだろう?」
「やった。寄り道してもいいですか?お店に寄りたいです」
「いいよ」
ロランはレオ兄様とヒソヒソ話していた。
翌日。
「お嬢様、それになさるのですか?」
「そうよ」
「もう少し華やかな方が、」
「殿下に会うのに着飾ったら何言われるか分からないから、地味目にするの」
一見貧乏令嬢風にしてもらった。でもドレスは落ち着いた高級品。
本当はメイドにワンピースを貸してと言ったのだけど、“叱られます”と皆 嫌がった。
王都のお店で買い物をして伯父様と王城へ向かった。
王城へ到着するとセドリックが外で待っていた。馬車に気が付くと停車場ギリギリまで近寄って来た。
馬車が停まりドアが開くとセドリックが手を差し伸べたが、手を取ったのは伯父様だった。
「キ、キャロン伯爵っ」
「殿下は紳士ですね。私にも手を差し伸べてくださるなんて」
「あ、まあ」
「ふふっ」
「どうせ私のことなど視界に入らなかったのでしょう?殿下とシャルロットの間に居るというのに」
「ようこそキャロン伯爵」
伯父様が馬車を降りると今度こそと手を差し伸べようとしたセドリックの前に立ちはだかるように、伯父様が手を差し伸べた。
「ありがとうございます、伯父様」
「応接間まで抱っこしようか?」
「嬉しいですけど、もう流石に此処では恥ずかしいですわ」
「そうか。では屋敷に帰ってからにしようね」
「はい」
「伯爵…俺もキャロン邸で暮らしてもいいか?」
「殿下も私に抱っこして欲しいのですか?流石に腰を痛めてしまいます」
「シャルロットより少し大きくなっただけなのに酷いな」
「シャルロットのドレスを着ることができたら検討しましょう」
私は伯父様と腕を組んで歩いた。
そして応接間に着くと先程購入した物を渡した。
「これ、俺に?」
「優勝おめでとうございます」
「シャル!嬉しいよ!」
「誰が“シャル”と呼んでいいといったのですか。
これは形式上のお祝いですので深い意味はありません」
宝剣のような作りのペーパーナイフで、セドリックの瞳の色の宝石を嵌め込んだ物だ。
本当はロランの誕生日に向けて作らせた物だった。これからロランの瞳の色の宝石を嵌め込むところだったので、変更して持って来た。
ロランには別の物を考えないと。
「凄いな。本当にペーパーナイフだ」
セドリックは手が切れないことを確認しながら嬉しそうに微笑んだ。
「本題は別です」
「話があると書いてあったな」
「ちょっと。私のロランに怪我をさせるなんて有り得ないんですけど!」
「怪我?」
「肩が腫れていたのです!」
セドリックはスッと立ち上がりジャケットを脱ぎシャツを脱ぎ始めた。
「ちょっと!」
「殿下、レディの前ですよ」
脱いだ彼の脇腹には青紫色の痣が出来ていた。
「俺だってこんなだぞ?防具付けてたのに。
あいつ、俺を殺す気だったんじゃないか?」
「ロランが申し訳ございません」
「いや、ちゃんと防具の上に攻撃したのだから仕方ない。伯爵は謝らなくていい。
シャルロット、“引き分け”だろう?」
「……痛いですか?」
「そりゃ、痛いさ。何をするにしても痛い。寝返りはうてないし、服の脱ぎ着も痛い。下に落ちた物は拾いたくないし、当面安静だ」
「……」
「そんな顔は見たくない。シャルロットは気にしなくていい」
「殿下、骨に異常はないのでしょうか」
「ポキッとは折れていない。切り開いて確認する訳にはいかないから、念のため ヒビが入っている前提での安静だ。
父上には、キャロン伯爵に標的にされるよりマシだと笑われたよ」
流石に王子殿下相手にこの怪我はまずいような…
そこに遣いの人が来た。
「キャロン伯爵、陛下がお呼びです」
「シャルロットが、」
「大丈夫だ 伯爵。シャルロットにいかがわしいことはまだしないよ」
「シャルロット、変なことをされたら分かってるね?」
「はい。握り潰すか蹴り潰すか 踏み潰します」
「じゃあ行ってくる」
伯父様が部屋を出たので サッと近寄って服を着るのを手伝った。
「こういうの いいな」
「……」
「学園も1週間休んで様子見るんだけどな」
「……」
「朝起きるときなんか結構痛いんだけどな」
「……」
「弟の後始末は姉の役目では?」
「…要求は何ですか」
「そうだなぁ。付き人でもやってもらおうかな」
「はあ?」
「最低1週間の安静だ。その後延びるかもしれないし、安静命令が解けても当然治るのには時間がかかる」
「無理ですよ。学園がありますし、私に出来ることはほとんどありません」
「じゃあ ロランを呼んで、」
「分かりました。ですが、午後の授業の無い水曜日と土日だけです。夕食までには帰ります。
あと、来週の土曜日は予定がありますので来ません」
「何の予定だ」
「ブロシェン家のお茶会です」
「俺がこんななのに行くのか?」
格上の方のお茶会に出席しますと返事をしたのに。
「じゃあ、途中で外して出席して戻って来るということでいかがですか?」
「……その日は早朝から登城して、抜けるのは3時間だけだ」
「え~」
セドリックは自分の付けていたネックレスを私の首につけた。
823
お気に入りに追加
1,262
あなたにおすすめの小説
王子様、あなたの不貞を私は知っております
岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。
「私は知っております。王子様の不貞を……」
場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で?
本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。
あなたの1番になりたかった
トモ
恋愛
姉の幼馴染のサムが大好きな、ルナは、小さい頃から、いつも後を着いて行った。
姉とサムは、ルナの5歳年上。
姉のメイジェーンは相手にはしてくれなかったけど、サムはいつも優しく頭を撫でてくれた。
その手がとても心地よくて、大好きだった。
15歳になったルナは、まだサムが好き。
気持ちを伝えると気合いを入れ、いざ告白しにいくとそこには…
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
私を愛してくれない婚約者の日記を読んでしまいました〜実は溺愛されていたようです〜
侑子
恋愛
成人間近の伯爵令嬢、セレナには悩みがあった。
デビュタントの日に一目惚れした公爵令息のカインと、家同士の取り決めですぐに婚約でき、喜んでいたのもつかの間。
「こんなふうに婚約することになり残念に思っている」と、婚約初日に言われてしまい、それから三年経った今も全く彼と上手くいっていないのだ。
色々と努力を重ねてみるも、会話は事務的なことばかりで、会うのは決まって月に一度だけ。
目も合わせてくれないし、誘いはことごとく断られてしまう。
有能な騎士であるたくましい彼には、十歳も年下で体も小さめな自分は恋愛対象にならないのかもしれないと落ち込む日々だが、ある日当主に招待された彼の公爵邸で、不思議な本を発見して……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる