【完結】求婚はほどほどに

ユユ

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たとえ勝算がなくても

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ダンスを終えると次の組と入れ替わり、飲み物を飲みに向かった。

「成人パーティのエスコートはロランか?」

「今のところはそうなります」

「俺はそのパーティには参加できないから、ロランの側を離れないようにな」

「はい」

「酒は我慢して、屋敷に帰ってから飲むんだぞ」

「レオ兄様も同じことを言っていました」

「キャロン伯爵が付き添うならレオナルドは留守番になるだろうから心配なんだろう。女の子は特に」

「……」

「何だ?」

「何でもありません」

うっかりじっと見つめてしまった。
だって、いつもの空気の読めないアホっぽいセドリックじゃないから違和感がある。歳上の男って感じがする。

「困ったな。チャンスのような気もするが、今日は口説かないと決めているからな」

「チャンスではありません。気のせいです」

「そうか?いつもと眼差しが違ったんだけどな」

「殿下の思い込みです」

「昔みたいに“セドリック”と呼んでくれ」

「それは難しそうです」


新入生が一通り踊り終えると、セドリックは私を伯父様の元へ送り届け、他の新入生の令嬢の相手をし始めた。

王子が踊ってくれると知った令嬢達は彼に群がった。

どうするのかな。あの人数は大変だろうに。

「シャルロット。私と踊ってくれないか」

「喜んで」

伯父様の手を取りダンスを踊り、その後はレオナルド兄様、ロラン、ユリス公子とも踊ってダンスは終わりにした。
セドリックはギリギリまで1年生の令嬢と踊っていた。



それ以降もセドリックは登校時の馬車乗降場や、学生食堂で接触してきた。私も慣れて、適当にあしらった。

2ヶ月後、休みの日に学園生の剣闘会が開かれた。
学園生の希望者と剣術の授業を選択した生徒で行われた。防具を付け 研いでいない剣を使っていたが怪我をしないわけではない。この日ばかりは医師が3人待機していた。

1年生は観戦は必須。後は出場者の家族と国王陛下と騎士団の上層部、後は抽選で決まった出場者以外の2、3年生が観戦していた。

「ロラン、寄りかかっていい?」

「嫌だ」

「ケチ」

「何がケチだ。昨日もデザートを譲ってあげたよね」

「うん。ありがとう」


会場に到着すると王宮騎士が待っていた。

「シャルロット・ウィルソン様、ロラン・キャロン様、席へご案内いたします」

「え?…はい」

何故私達にだけ?


ついて行くと王族席の側だった。

「あの、此処ですか?」

「はい。セドリック殿下がよく見えるようにと、こちらの席をご用意いたしました」

確かにいくら段差があるとはいえ、一般席で男の人が前に座ると、私の背では見難くなってしまう。特別席なら前の席との間隔が広い。しかも1番前だった。
ちょっと場違いな気もしたが座ることにした。

飲み物まで用意してくれた。

「なかなか良い席だし飲み物も出してくれて待遇がいいわね」

「そうだね」

「私の妃になったら いつもそんな待遇だぞ」

振り返るとセドリック殿下がすぐ側に立っていた。

「え~。一般席に行こうかしらぁ」

「そう言うな。良い子だから大人しく座っていてくれ。
ロランは何で剣術の授業を選択しなかったんだ?」

「キャロンの男は元近衞騎士が剣術の指導をしてくれますので十分です。敢えて学園で初歩に付き合う気はありません」

「そんな容姿かおをして言うことがまた何とも強気だな。だが俺には勝てないだろうがな」

「ちょっと。私のロランを挑発しないでください」

「少し牽制をしただけだ」

「牽制?ロランに?歳上なのにですか」

「僕はいいですよ、殿下が優勝したら相手になっても」

「ロラン!」

「では、優勝後に軽く模擬戦をやろう」

「僕のグローブと練習用の剣を誰かに取りに行かせてもらえませんか。シャルを独りにできませんので」

「手配しておく」

「セドリック殿下!」

間に入ろうとするもロランに止められた。

「で、何を賭けるんですか?」

「知っているクセに」

「二言は無いですね?」

「無いな。じゃあ、ゆっくり見物していてくれ」

殿下が立ち去った。

「ロラ…」

詰め寄ろうと思ったのに言葉が出なくなってしまった。明らかにロランの気が昂っていたからだ。

ロランの手を握ると、ロランも握り返した。

「大丈夫。元々持っていないものを彼が奪いたがっているだけだから負けても問題ない」

久しぶりにロランが私を抱きしめて頭にキスをしてくれた。

「でも、体格差もあるわ。まだ私達の年代の歳の差は不利よ」

「それを踏まえた鍛錬を元近衞騎士ルフレ先生に教わってきたんだ。負けても凄かったと思わせてみせるよ」

「私の大事なロランに怪我させたら その分無視してやるわ!」

「ははっ それを聞いていたら殿下も模擬戦なんて言わなかっただろうな」

「ロランが強くなくたって大好きよ」

「……僕達は家族だ。当然だろう」

私を抱きしめるロランの腕に少し力が入った。
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