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2度目
超多忙
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今、シオーヌ公爵家のテラスで、小さな紳士を見つめている。
ロータルくん 8歳。
紺色の髪に濃い紫の瞳。
「はぁ~。可愛いわ」
「セリーナ、涎が垂れそうよ」
「だって」
クリっとした瞳で見上げられるとキュンとするんだもの。
「ロータルくん。好きなだけ食べて。
自由に選んでいいのよ」
「は、恥ずかしいです」
お口を拭いてあげたら、頬を染めてしまった。
「恥ずかしいことはないわ。まだまだ甘えて良い時期なのよ。午後は一緒に外出しましょうね」
「何処に行くのですか」
「王都の街並みを見ながらお買い物よ。
必要な物は呼んで買うけど、午後のお買い物は欲しい物を手に取ればいいの」
「僕、お金を持っていません」
「私が持っているから心配しないで。
買えるものに限りはあるわよ?屋敷とか言われると困っちゃうけど」
「でも…」
「あ~ ロータルくんと買い物して楽しみたいなぁ~。
いつも学園に勉強に仕事の生活だから、息抜きしたいなぁ~。
小さな紳士に手を繋いでもらって見て回りたいなぁ」
「わ、分かりました」
「うふふ。その後は王立図書館に行きましょう」
「本当ですか!」
「ええ。楽しみね」
「はい!」
「(兄様、セリーナは良い母になるわ)」
「……」
午後に四人で出掛けて買い物をした後、王立図書館に行った。
「欲しい書籍で入手可能だったら注文するから、遠慮無く言うのよ」
「はい」
その後は仕事があるので帰ろうとしたら、子犬のような目で私を見上げるから ギュッと抱きしめた。
「カークファルド邸にいるから、会いにきても良いのよ? 」
「良いのですか?」
「もちろんよ」
早速翌日の日曜日にロータルはカークファルド邸にやってきた。
「セリーナ様、子供用の馬車ですが 子供の成長は早いです。特に男の子は大きくなります。
改装を視野に入れた馬車があれば無駄になりません。
可能ならパーツを入れ替えれば12歳の子でも6歳の子でも乗せられるようにできればと思うのですが。
いつか兄が弟に譲れるように」
「譲るのを待つと下の子は なかなか自分の馬車を持てないぞ」
「そうですね、高級馬車を注文するくらい裕福なら、もう一台買いますよね」
「お父様かお母様が使った馬車をリメイクして、子供に違う形で渡せばどうかしら。
幼い女の子なら、ガゼボ代わりにお友達と使えるわ。男の子なら秘密基地みたいになるし。
花置き場にしても良いし、犬小屋にしてもいいし」
「吊り橋とかハンモックみたいにしてブランコ代わりはどうですか」
「支える柱やロープが保つか分からないな。
重さと動きで負荷がかかる」
「…ごめんなさい」
「謝らないで。こういう発想をヒントにしたり組み合わせたりして 良いものができるのよ」
「そうだぞ。馬車の中で困ったことはなかったか?」
「止まる時に不安定になります」
「子供は頭と体のバランスが大人のようになっていないから、余計重い頭のせいで投げ出されかけるのだろう」
「他にも思い出したら教えてね」
「はい」
そうやって意見を出し生まれたのが、当主に大人気となったメモリアルボックスだ。
当主が箱に手紙や宝石、懐中時計など様々の物を入れて鍵をする。
その箱を、次期当主になる子や、いずれ当主になる孫宛に購入した馬車の中に隠す。
これは馬車を組み立てていく中で潜ませるので普通は見つからない。
対象者が当主になったと発表があり次第、別の機関に預けた手紙と鍵を届けてもらい、手紙を読んだ対象者は馬車を壊して箱を受け継ぐというものだ。
壊すといっても一箇所を壊すだけ。
遺言や契約書などを作成したり、話し合いに立ち会ったり、代理人を務める法務協会がある。そこに手紙と鍵を同封した封筒を預ける。
オプションで箱を組み込む時の立ち会い、封筒を渡して馬車を壊して箱を開けて、リストにあるものが間違いなく入っているかまで見届けるプランもある。
ボックスには対象者の名と贈り主の名が刻まれているので、第三者が手にすることは違法となる。
その前に馬車を手放してしまったり廃棄したりすれば過失は持ち主。
だから、それまで馬車を保管してもらえるようにする。そのまま屋根付きの車庫に置いてもいいが、リメイクを請け負うことも可能だ。
そこで子供達の遊び場や犬小屋などに改造させるという案に繋がる。
屋外に置く時は雨対策をしっかりさせてもらう。
メモリアルボックス付き子供用高級馬車の注文も沢山来た。
馬車の購入歴のある当主宛に親書で案内を出し、その後のやり取りは内密に行う。バレたらつまらないから。
馬車とリメイクの二回お金もかかるし維持も必要な面倒な商品だ。
安全を図り、凝れば凝るほど金額は上がる。
だがそれをステイタスとして捉えた当主や、本当に子や孫との思い出にと願う当主。
敢えて跡継ぎ以外の息子や娘や孫娘に用意する当主も現れた。
歳の離れた若い妻用の馬車にメモリアルボックスを仕込んで欲しいという依頼まであった。
土日は社交が無ければ馬車事業に潰れ、平日も学園が終わった後、屋敷まで来てもらって仕様を詰め 契約する日々となった。
ロータルくん 8歳。
紺色の髪に濃い紫の瞳。
「はぁ~。可愛いわ」
「セリーナ、涎が垂れそうよ」
「だって」
クリっとした瞳で見上げられるとキュンとするんだもの。
「ロータルくん。好きなだけ食べて。
自由に選んでいいのよ」
「は、恥ずかしいです」
お口を拭いてあげたら、頬を染めてしまった。
「恥ずかしいことはないわ。まだまだ甘えて良い時期なのよ。午後は一緒に外出しましょうね」
「何処に行くのですか」
「王都の街並みを見ながらお買い物よ。
必要な物は呼んで買うけど、午後のお買い物は欲しい物を手に取ればいいの」
「僕、お金を持っていません」
「私が持っているから心配しないで。
買えるものに限りはあるわよ?屋敷とか言われると困っちゃうけど」
「でも…」
「あ~ ロータルくんと買い物して楽しみたいなぁ~。
いつも学園に勉強に仕事の生活だから、息抜きしたいなぁ~。
小さな紳士に手を繋いでもらって見て回りたいなぁ」
「わ、分かりました」
「うふふ。その後は王立図書館に行きましょう」
「本当ですか!」
「ええ。楽しみね」
「はい!」
「(兄様、セリーナは良い母になるわ)」
「……」
午後に四人で出掛けて買い物をした後、王立図書館に行った。
「欲しい書籍で入手可能だったら注文するから、遠慮無く言うのよ」
「はい」
その後は仕事があるので帰ろうとしたら、子犬のような目で私を見上げるから ギュッと抱きしめた。
「カークファルド邸にいるから、会いにきても良いのよ? 」
「良いのですか?」
「もちろんよ」
早速翌日の日曜日にロータルはカークファルド邸にやってきた。
「セリーナ様、子供用の馬車ですが 子供の成長は早いです。特に男の子は大きくなります。
改装を視野に入れた馬車があれば無駄になりません。
可能ならパーツを入れ替えれば12歳の子でも6歳の子でも乗せられるようにできればと思うのですが。
いつか兄が弟に譲れるように」
「譲るのを待つと下の子は なかなか自分の馬車を持てないぞ」
「そうですね、高級馬車を注文するくらい裕福なら、もう一台買いますよね」
「お父様かお母様が使った馬車をリメイクして、子供に違う形で渡せばどうかしら。
幼い女の子なら、ガゼボ代わりにお友達と使えるわ。男の子なら秘密基地みたいになるし。
花置き場にしても良いし、犬小屋にしてもいいし」
「吊り橋とかハンモックみたいにしてブランコ代わりはどうですか」
「支える柱やロープが保つか分からないな。
重さと動きで負荷がかかる」
「…ごめんなさい」
「謝らないで。こういう発想をヒントにしたり組み合わせたりして 良いものができるのよ」
「そうだぞ。馬車の中で困ったことはなかったか?」
「止まる時に不安定になります」
「子供は頭と体のバランスが大人のようになっていないから、余計重い頭のせいで投げ出されかけるのだろう」
「他にも思い出したら教えてね」
「はい」
そうやって意見を出し生まれたのが、当主に大人気となったメモリアルボックスだ。
当主が箱に手紙や宝石、懐中時計など様々の物を入れて鍵をする。
その箱を、次期当主になる子や、いずれ当主になる孫宛に購入した馬車の中に隠す。
これは馬車を組み立てていく中で潜ませるので普通は見つからない。
対象者が当主になったと発表があり次第、別の機関に預けた手紙と鍵を届けてもらい、手紙を読んだ対象者は馬車を壊して箱を受け継ぐというものだ。
壊すといっても一箇所を壊すだけ。
遺言や契約書などを作成したり、話し合いに立ち会ったり、代理人を務める法務協会がある。そこに手紙と鍵を同封した封筒を預ける。
オプションで箱を組み込む時の立ち会い、封筒を渡して馬車を壊して箱を開けて、リストにあるものが間違いなく入っているかまで見届けるプランもある。
ボックスには対象者の名と贈り主の名が刻まれているので、第三者が手にすることは違法となる。
その前に馬車を手放してしまったり廃棄したりすれば過失は持ち主。
だから、それまで馬車を保管してもらえるようにする。そのまま屋根付きの車庫に置いてもいいが、リメイクを請け負うことも可能だ。
そこで子供達の遊び場や犬小屋などに改造させるという案に繋がる。
屋外に置く時は雨対策をしっかりさせてもらう。
メモリアルボックス付き子供用高級馬車の注文も沢山来た。
馬車の購入歴のある当主宛に親書で案内を出し、その後のやり取りは内密に行う。バレたらつまらないから。
馬車とリメイクの二回お金もかかるし維持も必要な面倒な商品だ。
安全を図り、凝れば凝るほど金額は上がる。
だがそれをステイタスとして捉えた当主や、本当に子や孫との思い出にと願う当主。
敢えて跡継ぎ以外の息子や娘や孫娘に用意する当主も現れた。
歳の離れた若い妻用の馬車にメモリアルボックスを仕込んで欲しいという依頼まであった。
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