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2度目

入学

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講堂で入学式を行なっている今、私の横にはイザベラが座っている。

「(それでね、今度、)」

「(イザベラ、静かに聞いていないと先生に怒られるわよ)」

「(じゃあ、式の後に時間ちょうだい)」

「(分かったわ)」

一年生の入学式は式が終われば解散だ。
此処には二、三年生はいない。
但し、生徒会だけは式の補助で登校している。

フレデリク殿下もジュスト従兄様にいさまもいて、令嬢達は集中できていないようだ。

そして今回はレミ様を補助員に勧誘しなかったらしい。


「以上。

この後は男爵家と一般の生徒は残るように」

え?

「セリーナ、行こう」

「あ、うん」

そのまま私達は外のベンチで少し話をしていた。

「早く終わったから遊びに来てよ」

「今日は商談があるから駄目なの」

「え~。何処で?」

「カークファルド邸よ」

「ついて行こうかな」

「お客様が来るのよ?」

「じゃあ、また今度ね」


今日は特別仕様の馬車の打ち合わせだ。
二組のお客様との予定を組んである。




カークファルド邸に着くと兄様と一緒にお客様を迎えて、要望を聞いた。

聞き出しながら提案をすることを繰り返し、細部まで決めたところでお帰りいただく。
仕様書にして、後日 契約書を交わすのだ。



二組目が案内された。

「!!」

約束は子爵家のはずだったのにレミ様が一緒に現れた。

「ヒスラー子爵。ようこそカークファルド邸へ」

「宜しく頼みます」

「あの、お連れ様は、」

「レイノルズ家のレミ殿です。実は彼がこちらの馬車を薦めてくれましてね」

「左様でございますか」

「お久しぶりです、セリーナ嬢」

「ご無沙汰しております」

「ヒスラー子爵、早速ご要望をお伺いします」

兄様が一緒で良かった。


そして二時間ほど経ち、話がまとまった。

「仕様書が仕上がりましたら契約書と一緒にお届けします。王都の屋敷であればお届けに上がります」

「王都にいるから宜しくお願いします」

外までお見送りをすると先に子爵が馬車に乗って帰った。

「セリーナ嬢。デビュータントのパートナーを申し込みたい」

「約束がありますの」

「…シオーヌ公爵と上手くいっているってこと?」

「上手くいってもいかなくても、レイノルズ伯爵令息とご縁を結ぶことはございません」

「交流もしていないのに断るのはシオーヌ公爵のことがあるからではなく、私だからなのか」

「おモテになるのですから、私にこだわる必要はございませんわ」

「先ずは友人になりたい。ゆっくり学園でも交流しよう」

「それは、」

「では、失礼します」

言い逃げのように馬車に乗って帰ってしまった。

「本当に絵本から出てきたような美男子だな。

門前払いだし、高級木材の提案も断ったから、こんな手に出たのだな。
かなりの執着だ。学園でも気をつけるんだぞ」

「はい」




私だけ王城に戻って明日からの授業の支度をした。

そしてフレデリク殿下が訪ねてきた。

「本題の前にさ、ちょっと教えてよ」

はぁ。

「何ですか」

「雑になってきたな」

「気のせいです」

「マキア子爵夫人が囲っている愛人の居場所は?」

「分かるわけがありません」

「……愛人が詐欺の証拠を持ってるはずなんだよ。二人で騙して、夫人の屋敷には無かったんだから」

「夫人を見張ればいいじゃないですか」

「家宅捜査の後だから警戒して外出しないんだよ」

「なら、噂を流せばいいのです。
夫人の愛人が若くて可愛い金髪の娘と逢引きしていると」

「何故 金髪?」

「夫人のご両親もご兄弟も金髪で、夫人だけブラウンの髪でした。母が言っていました。夫人は金髪の女性に当たりが強いと。
愛人が金髪の若い子に手を出すのは許せないはずです」

「やってみるよ。

次は、」

コンコンコンコン

ノックの相手はジュスト従兄様だった。

「何でフレデリクが此処に?」

「ちょ、ちょっと説明をしに」

「一緒に聞こう」

チラッと手元を見るとフレデリク殿下の手にはまだ書類がある。聞きたいことがまだあるのね。

「今日、副学園長から、男爵家と平民の生徒に細かく学園の校則やルールを説明し、誓約書に署名させたんだ。

原則 婚約者以外の異性に触れるのは厳禁。
触れられるのは授業として教師から指示があったその場限りの時間だけ。
もしくは危険回避のためのみ。
具体的には階段で落ちかけた人を助けるためとか、怪我をして応急処置をするためとか。

呼び方も家名にさん付け。
クラス内に同じ家名が複数いる場合を除く。

上級生や下級生のいる階に行ってはならない。

婚約者のいる異性に私的に声をかけるときは二人きりにならず、自分と同性の者を付き添わせる。

他にもあるが、説明をすると例の女が険しい顔をして意義を唱えた。

“おかしい” って」

「どう答えたのですか」

「おかしくないと答えたよ。

“君は貴族か?” と聞いたら“そうだ” と答えたから貴族として基本だと教えた。

“猥りに異性に触れるのは貴族社会では嫌悪されるし、婚約者のいる異性相手は御法度だ。

学年の違うクラスへ行くことは学業とは関係無いし、呼び方も当たり前の礼儀だ。
平等を自分の勝手な理屈に当てはめるな。与えられる教育と施設利用のみ平等と捉えるように。

これが理解できないなら入学を取り消して、屋敷に戻り淑女教育をやり直せ。

校則やルールを守らなければ退学を言い渡す”

と言ったら悔しそうだったな。
やはり彼女は男漁りに入学したようなものだな」

「ああ、あの令嬢か。
男漁りに来ていたとしたら引っかかる令息もいるだろうな」

「お好みですか?」

「違うよ、セリーナ」

「クラスもセリーナとは違うから安心してくれ。
セリーナは生徒会に入ってくれるだろう?」

「いえ、私は事業がありますから」

「生徒会は身を守る術の一つだ。やっておこう」

「分かりましたわ」

「だが熱を出されたら困るから、大して仕事は振らないよ」

「他の方に悪いです」

「それは話をつけてある。
機嫌の悪い大国の第一王子の矛先になりたいかと聞いたら、皆笑顔で賛成してくれたよ」

つまり、生贄扱いで採用したことにしたのね。

「俺の扱いが酷いな」

「そんなことないよ」

「そんなことありません」

「なんか仲良くないか?」

「「友人ですから」」

「……」

「それよりご報告が…」

レミ様が来たことを報告した?

「客と一緒に!?」

「考えたな。協力と同時に会う機会を得たのだな。
まさか“レミ・レイノルズと同伴ですか” なんて確認できないし、考えたものだ」

「それで、何か言われたのか」

「デビュータントのパートナーの話と、シオーヌ公爵との進展の確認といったところでしょうか」

「あの公爵か」

「デビュータントは公爵と約束してたんだっけ」

「そうです」

「は!?」

「ジュストが来る前の話だから仕方ない」

「断れないのか」

「頼んでおいて断るなんて出来ません」

二人とも、名前で呼び合うくらいに仲良くなったのね。

「なら、卒業パーティのパートナーは俺だ」

「その約束は無理があります。

従兄にい様に婚約者ができるでしょうし、私にもできるかもしれません。

私の時には従兄にい様は帰国していますし」

「俺の卒業パーティで双方婚約者が居なければいいのだな?」

「ま、まあ、そうです」

「ではそのときは私のパートナーとして出てもらおう」

「分かりました。従兄にい様の卒業パーティだけですよ」

「茶会やデビュー後の夜会もパートナーとして行くから」

「駄目ですよ。従兄様は王族なのですから」

「セリーナ。先ずはジュストと呼んでくれ」

「従兄様では駄目ですか?」

「駄目だ」

「分かりました」

「王宮主催ならどうだ」

「……」

「そんなに俺は魅力が無いのか」

「そうではなくて、それだけジュスト様をパートナーにしたらグラシアン様が、」

「大丈夫。公爵にはイザベラがいるから」

そうだ。イザベラも婚約者がいなかったわ。

「そうですね」

「フレデリク、パーティやらないのか」

「歓迎パーティは断ったじゃないか」

「そうだった。他は?」

「二ヶ月後だな」

「それだ。セリーナ、ドレスを作ろう」

「ジュスト。残念だが、二ヶ月後のパーティは成人していないと出られない」

「チッ」

「聞いた?舌打ちしたぞ」

「酷いわ」

「酷いよね」

「すまない」

「じゃあデビュー後のために今からドレスを」

「あるものを着ますから」

「嫌だ」

嫌だ?

「明日から3人で通学か」

「嫌です。そんな恐ろしい目立ち方をしたくありません」

「二、三年生にも新しい校則や注意事項が今日配られたからね」

「はい」

「つまり、君と接触しようとするなら登下校時と昼休みだよ」

「あっ」

「私達と一緒じゃないと駄目だよね?」

「…宜しくお願いします」


こうして、針の筵な登下校が始まった。


















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