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ハヴィエルへの報告
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ハヴィエルの執務室の扉をノックするとハヴィエルが扉をあけた。既に人払いがなされていた。
「ミーシェは?」
「後で呼びます。その前に別の相談があります」
「好きなところに掛けてくれ」
ハヴィエルは用意された果実水を注いでライアンの前に置いた。
「卒業パーティのパートナーにイザベル・バネットを誘いました」
「隣の子爵令嬢か」
「はい」
「そして、その時に婚姻の申込みをするか悩んでいます」
「ライアンは彼女が好きなのか?」
「謙虚で、サルト家にとって害がないかと」
「ふむ、」
「そしてサルト男爵の後継ですが、どうお考えですか」
「というと?」
「シーナに婿をとらせて継がせたいなら私は職を探します。
また、次期男爵なのか平民になるのか、イザベルに申し込む際にはっきりさせておくべきだと思います。
お考えを聞かせていただけますか」
「前から言っているようにライアンのやりたい道を歩んでいいんだ」
「後を継ぐと言っても?」
「そうだよ」
「血が繋がっていないのに?」
「実子と書かれていただろう?」
「陛下が判を捺せば実子と書かれます」
「ライアンは私の息子だ。
私には息子が一人、娘が二人。
誰がなんと言おうと変わらない。
私の父も同じ気持ちだ」
「私もミーシェも、血が繋がらなくとも深い愛情で育ててくださり、実子が産まれても分け隔てなく愛情をくださる父上に感謝しています。
だからこそ、私が決めたくないのです」
「ライアン、次期サルト男爵は君だ。
シーナは嫁に行きたければ嫁げばいい。
審査は厳しくなるがな。
場合によってはこのまま屋敷に残るかもしれない。
その時は最低限の面倒をみてやってくれ」
「シーナは私達の大切な妹です。お任せください」
「それで、ミーシェのパートナーは?」
「エヴァンです」
「そうか」
「ただし、まだ難ありです」
ライアンはこれまでのことを説明した。
「まだ今のエヴァンにはミーシェを任せられません。本人にもそう伝えました」
「確かに、エヴァンにとってもう時間がないな。こうなるとミーシェの気持ち次第なんだろうな」
「それと、ミーシェを含めた話し合いが終わったら少しだけ私にまた時間をください。
次の話を説明しないと出来ない話なのです」
「分かった。
では、ミーシェを呼んでくれ」
ライアンはスッと立ち上がり、扉を開けると指笛を鳴らした。
そして何事も無かったかのようにソファに座った。
ちょっと待つと扉をノックしミーシェが入室した。
「ライアン、ミーシェは犬じゃないぞ?」
「手っ取り早いので」
「ミーシェ、座りなさい」
双子はテオドール・サックス侯爵が接触してきて、どんな話をしたのか事細かに報告した。
「それは困ったな」
「私は追い詰め過ぎたのでしょうか」
「結果的にはそうかもしれないが必然だったことだ。
しかし、その養子の子は不憫だな」
「お母様がお父様と恋愛結婚したように、彼の方も出会いがあればいいのに」
「ミーシェには恋愛結婚に見えるのか?」
「えっ!?違うのですか!?」
「私はアネットを愛して何度も結婚を申し込んだ。だがアネットはいつもノーと言った。
アネットは根負けしただけかもしれない。
まだ彼を愛しているんじゃないのか。
当初はそれでもいいとプロポーズしたが、目が見えるようになって益々不安になった。
いつ捨てられてもおかしくないって」
「お父様、お母様は間違いなくお父様が好きですよ?
お父様の目がほとんど見えていなかった時もお母様は嬉しそうにお父様を見つめていましたから。
お母様は絶対お父様の外見も好きになったはずです」
「そうか」
「そうですよ。だから安心してイチャイチャしてください」
「日中、健全にお願いします」
「ライアン……」
「さて、どうしましょう」
「サックス侯爵に諦めてもらうしかない。
会いたいということなら年に一度、ゲラン領の何処かで内密に会うとかくらいしか思いつかない。
それは二人の気持ち次第だし、逆効果になる恐れだってある。
前ゲラン伯爵と前サックス侯爵にも相談が必要だな」
そう言うとハヴィエルは呼び鈴を鳴らし、メイドにアーノルドを呼ばせた。
「アーノルド、相談なんだが、テオドール・サックス侯爵に知られることなく前侯爵に手紙が届くようにできないか」
「特殊配達人を使えば確実です。ただ知られることなくとなると長期戦に突入する可能性もあります。
別居していれば楽ですが」
「特殊配達人?」
「ミーシェ、特殊配達人とは頼まれた人が責任を持って指定された人に渡し、受領署名をもらって依頼主に報告するまでを一人で担う職業なんだ。
だから場所や難易度によって普通の郵便の何十倍、何百倍も依頼料がかかる。距離が遠ければ宿代なども負担するし、相手に渡せる状況を待つ場合も滞在費を負担するんだ。
今回は金貨数枚かもしれないな」
「まずは前侯爵が何処に住んでいるか確かめないと」
「それはゲラン家のお祖父様がご存知じゃないかしら」
「そうだな。手紙を出すか」
ひとまず話を終えてまたハヴィエルとライアンの二人きりになった。
「可能性としての話で相談をします。
そうなった時では時間がないからです」
「仮定として話してくれ」
「もし、エヴァンがプロポーズをしてミーシェが了承した場合、ミーシェをサックス家に養女に出してから嫁がせるという選択肢があるかもと思ったのです。
ミーシェなら容姿が母似ですから侯爵とは一見親子には見えません。
ですがサックス家の後妻が王宮の茶会でやらかしていますし、母上との接点が出来てしまいます」
「ミーシェは?」
「話していません。
エヴァンが、現国王が健在なので場合によってはシオン殿下の次はエヴァンの子に飛ぶかもと」
「国王陛下にお伺いをたてなければならないな。だが今の状態では動けない。
もし縁が繋がった場合、サックス侯爵家では駄目だとなったら別の家門にお願いをしなくてはならない」
「エヴァンの側近に決まったワッツ公爵家はどうですか」
「うちがそう言っても所詮男爵家だ。公爵家から断られる可能性は高いかもな」
「ミーシェは?」
「後で呼びます。その前に別の相談があります」
「好きなところに掛けてくれ」
ハヴィエルは用意された果実水を注いでライアンの前に置いた。
「卒業パーティのパートナーにイザベル・バネットを誘いました」
「隣の子爵令嬢か」
「はい」
「そして、その時に婚姻の申込みをするか悩んでいます」
「ライアンは彼女が好きなのか?」
「謙虚で、サルト家にとって害がないかと」
「ふむ、」
「そしてサルト男爵の後継ですが、どうお考えですか」
「というと?」
「シーナに婿をとらせて継がせたいなら私は職を探します。
また、次期男爵なのか平民になるのか、イザベルに申し込む際にはっきりさせておくべきだと思います。
お考えを聞かせていただけますか」
「前から言っているようにライアンのやりたい道を歩んでいいんだ」
「後を継ぐと言っても?」
「そうだよ」
「血が繋がっていないのに?」
「実子と書かれていただろう?」
「陛下が判を捺せば実子と書かれます」
「ライアンは私の息子だ。
私には息子が一人、娘が二人。
誰がなんと言おうと変わらない。
私の父も同じ気持ちだ」
「私もミーシェも、血が繋がらなくとも深い愛情で育ててくださり、実子が産まれても分け隔てなく愛情をくださる父上に感謝しています。
だからこそ、私が決めたくないのです」
「ライアン、次期サルト男爵は君だ。
シーナは嫁に行きたければ嫁げばいい。
審査は厳しくなるがな。
場合によってはこのまま屋敷に残るかもしれない。
その時は最低限の面倒をみてやってくれ」
「シーナは私達の大切な妹です。お任せください」
「それで、ミーシェのパートナーは?」
「エヴァンです」
「そうか」
「ただし、まだ難ありです」
ライアンはこれまでのことを説明した。
「まだ今のエヴァンにはミーシェを任せられません。本人にもそう伝えました」
「確かに、エヴァンにとってもう時間がないな。こうなるとミーシェの気持ち次第なんだろうな」
「それと、ミーシェを含めた話し合いが終わったら少しだけ私にまた時間をください。
次の話を説明しないと出来ない話なのです」
「分かった。
では、ミーシェを呼んでくれ」
ライアンはスッと立ち上がり、扉を開けると指笛を鳴らした。
そして何事も無かったかのようにソファに座った。
ちょっと待つと扉をノックしミーシェが入室した。
「ライアン、ミーシェは犬じゃないぞ?」
「手っ取り早いので」
「ミーシェ、座りなさい」
双子はテオドール・サックス侯爵が接触してきて、どんな話をしたのか事細かに報告した。
「それは困ったな」
「私は追い詰め過ぎたのでしょうか」
「結果的にはそうかもしれないが必然だったことだ。
しかし、その養子の子は不憫だな」
「お母様がお父様と恋愛結婚したように、彼の方も出会いがあればいいのに」
「ミーシェには恋愛結婚に見えるのか?」
「えっ!?違うのですか!?」
「私はアネットを愛して何度も結婚を申し込んだ。だがアネットはいつもノーと言った。
アネットは根負けしただけかもしれない。
まだ彼を愛しているんじゃないのか。
当初はそれでもいいとプロポーズしたが、目が見えるようになって益々不安になった。
いつ捨てられてもおかしくないって」
「お父様、お母様は間違いなくお父様が好きですよ?
お父様の目がほとんど見えていなかった時もお母様は嬉しそうにお父様を見つめていましたから。
お母様は絶対お父様の外見も好きになったはずです」
「そうか」
「そうですよ。だから安心してイチャイチャしてください」
「日中、健全にお願いします」
「ライアン……」
「さて、どうしましょう」
「サックス侯爵に諦めてもらうしかない。
会いたいということなら年に一度、ゲラン領の何処かで内密に会うとかくらいしか思いつかない。
それは二人の気持ち次第だし、逆効果になる恐れだってある。
前ゲラン伯爵と前サックス侯爵にも相談が必要だな」
そう言うとハヴィエルは呼び鈴を鳴らし、メイドにアーノルドを呼ばせた。
「アーノルド、相談なんだが、テオドール・サックス侯爵に知られることなく前侯爵に手紙が届くようにできないか」
「特殊配達人を使えば確実です。ただ知られることなくとなると長期戦に突入する可能性もあります。
別居していれば楽ですが」
「特殊配達人?」
「ミーシェ、特殊配達人とは頼まれた人が責任を持って指定された人に渡し、受領署名をもらって依頼主に報告するまでを一人で担う職業なんだ。
だから場所や難易度によって普通の郵便の何十倍、何百倍も依頼料がかかる。距離が遠ければ宿代なども負担するし、相手に渡せる状況を待つ場合も滞在費を負担するんだ。
今回は金貨数枚かもしれないな」
「まずは前侯爵が何処に住んでいるか確かめないと」
「それはゲラン家のお祖父様がご存知じゃないかしら」
「そうだな。手紙を出すか」
ひとまず話を終えてまたハヴィエルとライアンの二人きりになった。
「可能性としての話で相談をします。
そうなった時では時間がないからです」
「仮定として話してくれ」
「もし、エヴァンがプロポーズをしてミーシェが了承した場合、ミーシェをサックス家に養女に出してから嫁がせるという選択肢があるかもと思ったのです。
ミーシェなら容姿が母似ですから侯爵とは一見親子には見えません。
ですがサックス家の後妻が王宮の茶会でやらかしていますし、母上との接点が出来てしまいます」
「ミーシェは?」
「話していません。
エヴァンが、現国王が健在なので場合によってはシオン殿下の次はエヴァンの子に飛ぶかもと」
「国王陛下にお伺いをたてなければならないな。だが今の状態では動けない。
もし縁が繋がった場合、サックス侯爵家では駄目だとなったら別の家門にお願いをしなくてはならない」
「エヴァンの側近に決まったワッツ公爵家はどうですか」
「うちがそう言っても所詮男爵家だ。公爵家から断られる可能性は高いかもな」
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