16 / 173
国王夫妻
しおりを挟む【 国王の視点 】
今夜の催しには参加せず、晩餐を終えて王妃と酒を嗜んでした。
「陛下、王女殿下が至急会いたいといらしています」
「通してくれ」
現れたのは泣き腫らした王女だった。
慌てて駆け寄り抱きしめると泣き崩れた。
こんなことは今まで一度もなかったというのにどうしたことか。妻を見ても困惑しているので知らないようだ。
落ち着かせ、理由を聞くととんでもないことが分かった。
「宰相はまだいるか!いたら呼んでくれ!」
宰相に今の時点で判明していることを伝えてゲラン伯爵家に早馬を出した。
「ステファニー、彼等には話したのか」
「これからです。
その前に完治するまで接近禁止を命じて欲しいのです。私のせいで申し訳ありません!」
「アネット嬢に会ってからにする」
妻と共に医務室へ行くと祈るように手を握るヒューゼル隊長がいた。
彼は立ち上がると跪く。
「申し訳ございません」
「アネット嬢の確認をしに来た。医師を呼んでくれ」
「ハッ!」
アネット嬢を見ると絞首の痕跡がある。鬱血と点状出血も。
これは会わせられない。
医師からの説明に目を覆う。
刺されてもいるのか……。
妻は血の気が引いている。
「陛下」
「発言を許す」
「令嬢が完治するまで休みをいただきたくお願い申し上げます」
「隊長が何故」
「私が油断をしました。
せめて、訪問者を阻む盾をさせてください」
「……よかろう。休みではなく任務とする。もうひとりつけろ」
「副隊長のバーンズを指名したいのですが」
「では、その間、第二の副隊長に第三の隊長代理を任せる。其方達はアネット嬢の専属護衛として完治まで付き添え」
「感謝いたします」
王妃が倒れそうなので部屋にさがらせ、ステファニーと共にシオン殿下の元へ向かった。
部屋に入ると礼をとろうとする2人を制して座らせた。
「ステファニー、説明してくれ」
「…あの鎧の騎士はアネットです」
「「 は!? 」」
「アネットなの!」
娘が泣き出すとバルギル公爵令息は蒼白になり立ち上がった。
「アネットは何処ですか!」
「座ってくれ」
「アネットに会わせてください!」
「座れ!」
「っ!」
「オードリック…国王陛下の御前だ。頼むから座ってくれ」
令息が座ると娘にも声をかけた。
「ステファニー、お前が今することは泣くことではない」
カップを持って来させて冷めた茶を注いで飲ませた。
「説明するんだ」
「はい、お父様」
アネット嬢が何故騎士に変装したのか経緯を話した。
「素行調査…」
「どうしても第一印象が拭いきれないアネットは気持ちが動かなかった。
それに一目惚れなど信用できないと言っていたわ。どうせまた誰かに一目惚れするのだろうと。
せめて夜会での様子を見させて第一印象を変えられたらと計画をしたの」
「まだ意識は戻っていないから目覚めないと何とも言えない。
脇腹の刺し傷は浅いが縫合は必要だった。運が悪くなければそのまま塞がるだろう。
……其方達にも誰にもアネットが完治するまで会わせない」
「「 陛下! 」」
「絞首の痕跡がしっかりと顔や首に出ている。鬱血と点状出血もあって令嬢なら見られたくないと思うことは間違いない。
よって、接近禁止を言い渡す。これは王命だ」
バルギル公爵令息は頭を抱えて項垂れてしまった。
「其方達が滞在中に再会は叶わない。数日で治るものではない。
事故だから、そのまま期日に帰国してくれ」
「残ります」
「駄目だ。
縁談中だったな。一旦断るかたちをとらせてもらう。これから伯爵夫妻が登城するだろうから、面会後に落ち着いたら尋ねてみるが私と同じことを言うだろう」
「何でこんなことに…」
娘と部屋を出て応接室で伯爵夫妻を待つ。
「ステファニー、脇腹の傷は残るだろう」
「はい」
「心の傷も残るかもしれない」
「……はい」
「だからといって余計なことはするな。悪手の場合もある」
「私はアネットが大好きなのです。男に生まれていれば娶りたいと悪魔に願うほどに」
「お前がやるべきことは、アネット嬢を癒すことだ。優しく寄り添うだけでいい。企むな」
「はい」
到着した夫妻に説明し謝罪した後面会させた。ヒューゼル隊長も跪いて謝罪をした。
倒れそうになる夫人を支えながら伯爵は悲痛な顔をしていた。
「叔父様、叔母様、ごめんなさい」
「アネットの為にしてくださったことです。ただ運が悪かった」
「私が難色を示すアネットの気持ちを汲んでいれば…」
「ゲラン伯爵、縁談は一旦断ってよろしいか。もし、婚約させたいのなら完治してから改めてもらった方がいいと思ったのだが」
「お願いします。改めてこちらからも手紙を出します」
せめて外見の症状が完治するまで王宮で預かること。我々以外会わせないよう専属騎士をおくことを了承してもらった。
この姿で移動して見られたら噂の的になってしまうからだ。
再度、王子と公爵令息の部屋に行き、伯爵夫妻から縁談の断りがあったことを告げた。
翌朝報告が上がった。
夜中に目を覚ましたアネット嬢は取り乱したようだ。喉には違和感があるが声は出るし視力も聴力も問題なさそうだと言うことだった。
156
お気に入りに追加
1,316
あなたにおすすめの小説
決めたのはあなたでしょう?
みおな
恋愛
ずっと好きだった人がいた。
だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。
どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。
なのに、今さら好きなのは私だと?
捨てたのはあなたでしょう。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】些細な呪いを夫にかけ続けている妻です
ユユ
ファンタジー
シャルム王国を含むこの世界は魔法の世界。
幼少期あたりに覚醒することがほとんどで、
一属性で少しの魔力を持つ人が大半。
稀に魔力量の大きな人や
複数属性持ちの人が現れる。
私はゼロだった。発現無し。
政略結婚だった夫は私を蔑み
浮気を繰り返す。
だから私は夫に些細な仕返しを
することにした。
* 作り話です
* 少しだけ大人表現あり
* 完結保証付き
* 3万5千字程度
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます
ユユ
ファンタジー
“美少女だね”
“可愛いね”
“天使みたい”
知ってる。そう言われ続けてきたから。
だけど…
“なんだコレは。
こんなモノを私は妻にしなければならないのか”
召喚(誘拐)された世界では平凡だった。
私は言われた言葉を忘れたりはしない。
* さらっとファンタジー系程度
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
【完結】王命婚により月に一度閨事を受け入れる妻になっていました
ユユ
恋愛
目覚めたら、貴族を題材にした
漫画のような世界だった。
まさか、死んで別世界の人になるって
いうやつですか?
はい?夫がいる!?
異性と付き合ったことのない私に!?
え?王命婚姻?子を産め!?
異性と交際したことも
エッチをしたこともなく、
ひたすら庶民レストランで働いていた
私に貴族の妻は無理なので
さっさと子を産んで
自由になろうと思います。
* 作り話です
* 5万字未満
* 完結保証付き
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる