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燃える鼻毛筆

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【 ハミエルの視点 】

「おめでとう、パトリシア」

「まあ、素敵。ありがとう」

シフォーン伯爵家の次女パトリシアの誕生日。
招待されたパーティでイヤリングをプレゼントした。

俺の属性は火。魔力量は少ないが蝋燭くらいは灯せる。そして目の前のパトリシアの属性は風で彼女も魔力量は少ない。
だが、無しのセシルより何倍も良い。

「ハミエル、話があるの」

テラスまで俺の手を引いた彼女は伏目がちだった。
多分、セシルと離縁して自分を妻に据えて欲しいという話だろう。気付いていないフリをして優しく尋ねた。

「どうしたんだ?」

「私、婚約したの。前の婚約者が亡くなって3年になるから、そろそろいいんじゃないかって 亡くなった婚約者のお父様が縁談を持ってきてくださったの。それで婚約者がね、自由恋愛は嫌だというの。だからもうお付き合いはできないわ」

「…分かった」

「ごめんなさい」

彼女は会場に戻っていった。

正直、そんなのは昨日までに言えよと思った。イヤリングをもらうだけもらってさよならなんて詐欺だろう。だが返せとも言えない。

仕方なく、新しい出会いのために会場を物色することにした。

パトリシアはまだ18歳。パーティに出席している友人達も同じ年頃だ。何かしらの理由で婚約していない令嬢がいるかもしれない。もしくは婚約者と上手くいっていない令嬢がいるかも。

「お嬢さん、お一人ですか?」

「っ! 連れがいますので失礼」

慌てて離れていった。次も、さらに次の子も。

周りの人達が俺を見てヒソヒソと話している気がする。笑っている奴もいる。


「あの」

給仕が側に来て声をかけた。

「何だ」

「お鏡を確認なさった方がよろしいかと」

「は?」

「ご案内いたします」

「洗面室の場所なら知っている」

会場を出て廊下を歩き、洗面室に入ると鏡を見た。

「は!?」

両方の鼻の穴から筆のように毛が出ていた。

ハサミも何もない。引き出しには手拭き布などしか入っていない。ドアを開けても廊下にメイドはいない。こんな鼻じゃ ここから出られない。
どうしよう!どうしたらいい!……そうだ!!

ボワっ

「あっちい!!」

火魔法で鼻毛に火を付けて燃やしたが、鼻毛を燃やすなんて初めてで加減が分からず蝋燭を灯すイメージで火を付けた。鼻の穴と穴の縁と はみ出ていた毛の分の火傷を負ってしまった。鼻の穴から唇の上まで筆のような火傷が2つ出来上がってしまった。

ハンカチで顔を隠し、シフォーン邸を出て馬車に乗った。

「神殿に行ってくれ!」


神殿に到着して治してもらおうとしたが、

「時間外です」

「金なら払う!」

「残念ながら全員 魔力いっぱいに働いた後で、治療はできません」

「明日!明日の朝一番に治療してくれ!」

「予約も一杯で、命に関わる病気や怪我以外は順番を守っていただく決まりです。早くて……72日後の11時40分枠にキャンセルの空きがあります」

「信じられん!」

予約名簿を奪って見てみたが、ぎっしり埋まっていた。

「一人くらい増えても良いだろう」

「1日に使える魔力には限りがあります。枯渇してしまえば、全ての予約に影響が出てしまいます。貴方様が軽症だとしても、融通したことで大きな影響を与えてしまいます」

「骨折したわけじゃない。軽い火傷を治して欲しいだけだ!」

「失礼ですがお名前は?」

対応していた下級神官の後ろから上級神官が現れた。これで話が通じる、直ぐに治療してもらえると思ったのに…

「ハミエル・セヴリッジだ」

「セヴリッジ伯爵ですね?患者はどなたですか?」

「俺だ」

「今年一杯、セヴリッジ伯爵の治療依頼はお断りいたします。お引き取りください」

「は!?」

「ルールを曲げようとする不届者には対応致しかねます」

「俺は伯爵だぞ!」

「関係ございません。ここで引き下がらなければ永久に拒否しますよ……それは?」

上級神官が俺の顔をじっと見た。

しまった。ハンカチで隠していたのに興奮して手を下ろしてしまった!

「や、火傷だ」

「軽症ですね。屋敷に戻って契約医を呼んでください。では」

2人の神官は門さえ開けることなく、建物の中に入っていった。

クソ!



屋敷に戻り医者を呼ばせて治療を受けたが…

「火傷としては軽症の方ではありますが、火傷のあとが少し残るかもしれません」

「なっ!方法は無いのか!」

「直ぐに魔法で治せるなら」

「ら、来年に魔法で治せるか?」

「古い傷は無理です。王家お抱えの魔法使いでも光魔法には限度があります」

「知り合いに光魔法の使い手はいないか」

「神殿に行けば、」

「神殿は駄目なんだ!」

「発現し成人した光の魔法使いは神殿に集められます。例外として、一番魔力量の多い者は国王のお側に、後は諍いの多い国境を守る辺境伯が囲い込みますので、神殿に依頼をする他はありません」

「なら未成年なら家にいるのだろう?何処だ!何処にいる!」

「未成年に魔法で治療させるのは重罪です。教えた私も罰を受けます!この話は聞かなかったことに。
薬はこちらです。1日三回塗ってください。鼻水で流れた場合も塗り直してください。では失礼します」

逃げるように帰ってしまった。


鏡を見て絶望感に襲われた。

「俺の顔が…美しい顔が…」



完治まで部屋から出られなかったが、火傷のあとは残らなかった。


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