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疑惑

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密議を終えた僕たちはシトロエヌ城に戻ってきた。

「レミ、もう少し令嬢っぽく歩けないか?」

「令嬢っぽくと言われても関わりがまるで無かったから分かりません。再婚後は母上とほとんど会うことはありませんでしたし」

「仕方ない」

アラン様は僕を子供のように抱き上げて歩いた。
なんだか恥ずかしい。みんなが僕を見てる。
ギュッとアラン様の首に腕を回してしがみついた。

会議室へ到着するとお茶と軽食が運ばれて、アラン様とシトロエヌ辺境伯と僕だけになった。

「はぁ…」

「疲れましたか?…レミ王子殿下」

「はい。この戦いがどうなるのかは 密談が大きく影響しますから」

「そうですね。今回はレミ王子殿下がこちらにいてくださって助かりました。ラファエル王太子殿下は本当に弟思いのようですね」

「僕もそう思います」

「王子殿下と呼ぶのはまずいですね。レミも“僕”じゃなくて“私”にしなさい」

「はい」

「では、レミ様とお呼びしましょう」

「あの、平民設定ですけど、辺境伯が平民に敬語って…」

「ロプレスト将軍の婚約者なら敬語でいいと思います。ですがもう少し堅苦しくないようにします」

「お願いします」

食事を食べていると辺境伯がまじまじと見て呟いた。

「本当に男なのですね」

「え?食べ方が汚いって意味ですか!?」

「そうではありません。ただ令嬢の食べ方ではありませんね」

アラン様を見ると

「…令嬢にしては一口が大きいな」

「チビチビ食べろってことですか?」

「そうだな」

「……」

「ハハッ 嫌なんだな?」

「そんな風に食べたら美味くなくなります」

「仕方ありませんね。普段は部屋食にしましょう。ですが、将軍の婚約者で一緒にいるとなると会食を避けられない可能性があります。その時はどうかチビチビとお食べください」

「分かりました」

「…念のために簡単に淑女教育をしましょう。平民出身なら出来なくて当然ですから、本当のことを言わなくても済みます」

「はい」



その日の夜

「レミ。王太子は二人の時に何か言わないか?」

「普通に話はします」

「どんな?」

「大体 双子の義理の兄達に虐められたこととか、今日は何をして過ごしたかとか」

「つまり毎日?」

「はい。僕の部屋に来て報告を聞いたり、たまに僕が兄上の部屋に行って報告します。
出陣前は将軍について勉強したことの復習と、今回の戦争の火種になった事件について話していました」

「俺の?」

「はい。簡単な経歴とか出生とか。
将軍は実力で出世した方ですので 戦闘中に将軍に出会してしまったら、僕は瞬殺でした」

「それはどうかな」

「僕は剣も駄目ですし、槍も使えません。弓は習っていませんし、非武装ですから」

「落ち着いて見れば俺はレミを斬れないが、入り乱れて戦っていたら間違えてしまったかもしれない。そうならなくて良かった。
王子だからと例外無しに戦場に出すなんて間違っている。特にレミは向かないし養子だし継承権も無いのだろう?不公平だよな」

「僕には異議を唱える権利はありません 
 
「レミ…全てが片付いたとしても残って欲しい」

「え?」
 
「ロプレストに居れば誰にも虐めさせない」

「僕は一応王子ですよ?それに選択権はありません」

「もし、許しが出たら居てくれるか?」

「アラン様の目的が分かりません。このまま女装をして縁談避けに?それとも男の姿で部下に?
どちらにしても良い案だとは思えません」

「特別な存在として居てくれないか」

「それはアラン様のためになりません。僕は必ず揉め事を引き寄せますし、邪魔になるはずです」

この後も 話は平行線だったので、疲れたから寝かせて欲しいと言って話を終わらせた。



死んだヨラン隊長の仲間6人の捜索は任せるしかない。だから火種になった事件を解決できないか考えてみることにした。
似顔絵作業だけでは僕は馬鹿になってしまう。

毎夜アラン様は僕と自慰をするので就寝時間になると勝手に勃っちゃうし、終わると優しく拭いて 抱きしめて寝るから彼が遅い夜は眠れない。
僕はどうしちゃったのだろうか。


このままではいけないと、異国籍者の出入国帳を調べていた。

オネスティアの国境の検問所を通過する時は国籍のわかる身分証が必要で、持っていないと通してもらえない。それはオネスティア国民でも王族でも国賓でも乳児でも適用される。
オネスティアでは町長に身分証発行の義務を課しているので誰でも所持できる。町長が町民に発行することは審査にもなる。自分の統括する町に住んでいる民なので顔も名も間違いないことを認定出来るから。もし領単位もしくは国に発行を任せると、申請者が本物なのか分からないので身分証が悪事に使われる可能性が出てくる。様々なデメリットを考えると町長に確認をさせて発行させることが確実でコストも抑えられるのだ。いい加減に発行して問題が起きれば町長は懲役刑を受けてしまう。

事件のあった日より三ヶ月前まで遡り 入国者と出国者の付け合わせをしていった。
ヨラン隊長達の家族を殺した犯人達はオネスティアの方へ逃げたという証言があった。それとオネスティア兵のバッジが落ちていたことでヨラン隊長は犯人はオネスティア兵だと決め付けてしまった。
オネスティア民ならこの名簿には載らない。なのに何故これを見るのか。

僕にはオネスティア兵を調べることは出来ない。
だとすると残りの二つの可能性を当たるしかない。一つはベルゼア民の仕業か、どちらでもない第三国の仕業。だからオネスティア側の異国籍者の出入国帳を調べて怪しい動きをした者がいないか確認をしていた。


これが突破口になるかは分からないが見つけた。

「辺境伯。アダモント籍の男達四人がベルゼアからオネスティアへ入った記録がありますが三ヶ月遡っても出た記録がありません。

ベルゼアからオネスティアへ入った理由は、ベルゼアへの商品の納品が完了してアダモントに帰国するため。記録によれば彼らは徒歩ではありませんから納品に三ヶ月もかかりません。オネスティアからベルゼアへ渡った記録が無いのがおかしいのです。

彼らはいつどうやってここの検問所を通らずにベルゼアへ行ったのか。オネスティアを横断することがベルゼアへ行く最短距離なのに別の国への国境検問所から 他国経由で遠回りを選んだのか。納品先の国はベルゼアだけじゃなかったから遠回りした可能性もありますが、別の可能性を考えてもう一度見直しました。

最初の事件の前日にアダモントの身分証を持つ商人が二組ずつオネスティアからベルゼアへ出ていました。理由はベルゼアへの納品です。ですが二組の計四人はベルゼアで納品を済ませオネスティアへ戻った記録が未だにありません。

別々にベルゼアへ渡り一緒に事件を起こし、四人でオネスティアへ渡りそのままアダモントへ出たのではないかと」

記録のページをアラン様と辺境伯が確認すると、二人は顔を見合わせた。

「レミ。このマークは武器所持のマークだ。道中に賊に襲われた時の応戦のため、所持は仕方ないが、武器を携帯してオネスティアへ入る時はベテランが身分証をしっかり確認する。
それにオネスティアを経由せず大回りして他国を経由しながらベルゼアに行くことはできないんだ。
右はアダモントとの国境を封鎖しているし、左のセジャール王国は疫病で、半年以上前から人の出入りを封じているから通れない。
俺とレミが通った国境の壁にあった秘密の抜け道はヨラン達が使っていた形跡から見つけただけで、争いが無ければ調べに行くことはなかっただろう。だからあそこをアダモントが使うとは思えない」

「精巧に作られた複数の身分証を使い分けて出入りした可能性がありますね。予備はしっかり隠しておいたのでしょう。
きっと事件を起こしている間に返り血が染みて汚れて使えなくなったとか。紛失したとか。一人がそうなれば全員変える可能性がありますからね。

もしかして、アダモントの国家犯罪かもしれませんね。アダモントの身分証はうちとは違って住んでいる町で発行してもらえる物ではありません。貴族や商会や兵士、城務めの者なら持っていますが一般の平民は所有していません。オネスティアに来る商人は商会の保証のもと 身分証を発行してもらえます。旅行客は持っていない者がオネスティアへ来たい場合は領主に発行してもらう必要があり、手数料も高いと聞いています。

複数枚の所持ともなれば賊の単独犯罪ではないでしょう。領主の考えだけで戦争を引き起こしたいなんてことも考え難い…」

「あ、僕…じゃなくて私、アダモントの王女とのお見合いが破談になったことがあります」

「は!?」

「え!?」

言葉を濁して説明をしたら、しっかり詳しく話せと言われて仕方なく話した。

「アダモント王の今の寵妃が産んだ第三王女はとても美しい方だと聞いていました。
王女も、僕が綺麗な王子と聞いて機嫌良くベルゼアに来てくれたのですが、僕と会った瞬間に激昂なさって。

あまりにも失礼だろうと、王女の侍女を呼んで聴取したら、美男子と聞いていたのに自分より遥かに上の美少女のような容姿の王子が現れて、夢もプライドも傷付けられたと憤慨したようなのです。
しかも王女のお気に入りで構成された護衛騎士達が僕に見惚れたらしく、それも原因になりました。

僕と結婚したら一生比べられて、引き立て役として生きていかなくてはならないなんて耐えられないと、全ての予定をキャンセルして強行帰国なさいました。

…あの、自慢とかじゃなくて…聴取結果を今話しているだけで…」

「大丈夫だレミ。アダモントの第三王女の噂は聞いているし、お会いしたこともある。ベルゼアに行くために横断した時だ。確かに綺麗な王女だったが、見合いだったとは知らなかった。レミの妻として並ぶのは強靭な精神の持ち主でないと無理だろう」

「確かに。レミ様と比べれば…瞬殺でしょうね」

「……」

「やはり、アダモントの国家犯罪でしょうな。国王まで加担しているかは分かりませんが。
王女がベルゼアからアダモントへ帰る途中に陛下に挨拶をしに寄ったのですが、うちの王太子殿下と婚約したいと言い出して、王太子殿下がその場でお断りしたと聞いております。

レミ様、以前、我が国の王太子殿下とお会いしたことを覚えていますか?」

「養子になって1年後くらいです。
ラファエル兄上について行ったらエドワード王太子殿下が馬車から降りたところで、僕を見るなり跪いて求婚なさいました。
ラファエル兄上が王子だと紹介すると、このことは誰にも言わないで欲しいと拝むように頼んで…」

アラン様と辺境伯は声は出さずとも顔が笑っていた。

「だ、駄目ですよ!口外しては!」

「言わないよ」

「言いたくても言えませんよ。
話を戻します。挨拶に寄った王女を晩餐会でもてなしたのですが、その席で王女が王太子殿下の婚約者を見て、“美しい私の方が王太子妃に相応しいわ。あなたは辞退なさい”と言い出したのです。
そこで王太子殿下が“ベルゼアで会ったんだろう?
レミの方が遥かに美しい。あのレベルだったらそのセリフも許されたかもしれないが王女では足りないな。もう一度ベルゼアへ行って 並んで鏡に映して確認するといい”と仰ったのです。
私はたまたま王都に行く用事がありましたのでシトロエヌから王都まで護衛に加わりました。ついでだと晩餐会に呼ばれたらソレですよ」

「うわぁ」

僕はエドワード王太子殿下の顔を思い出していた。
自由気ままな感じの人で、ラファエル兄上とは違うタイプだけど好感がもてたのを覚えている。

「それですよ」

「将軍、他の国境検問所に同じことをさせましょう」

「そうですね。こちらの名簿の写しを持たせて各検問所へ伝令を送りましょう」

「ベルゼアのラファエル兄上にも送りたいです」

「オネスティア内で調べてからにしましょう」

「はい」


また長く待たされそうだなと思ったけど、任務が出来てしまった。
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