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ロプレスト将軍

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濃霧の中から出てきた男は背後から大きめのナイフでヨラン隊長の喉元に近付け、彼の頭頂部の髪を掴むと一気にナイフを横に引いた。

プシュッ

「コォッ……」

血飛沫が大量に降り注いだ。

よく見ると男の胸当てには見たことのある紋章があった。

何だっけ…思い出せないや。

ドサッ

男がヨラン隊長の体を横に倒して彼の服でナイフの血を拭った。

僕、死ぬんだ。
ラファエル兄上、今までありがとうございました。

「大丈夫か?」

「え?」

「ベルゼアの兵士はこんな所に女を連れ込んで犯すのか。まだ子供だろうに」

「あ…」

「血塗れにしてすまないな。怪我はないか?」

「は、はい」

「立てるか?」

手首と腰の縄を切ってくれた。

「痛っ」

「足か」

男が僕の靴と靴下を脱がせた。

「捻ったようだな…これでは歩けないな」

「大丈夫です」

「俺はでは自由に動けないからに連れて行く」

「え?」

男が僕を抱え上げた。


「何処だ!!」

「!!」

僕の名を呼ぶ聞き慣れた声の主を探すけど、声が反響していて方角が掴めない。

「お、降ろしてください」

「馬鹿。あれはおまえを犯そうとした男の仲間だ」

「ち…」

違うと言いたいけど、王太子殿下の声だと言っていい相手か分からない。

「しっかり掴まれ」

「あっ」

濃霧が薄くなりぼんやりと兄上の姿だけが見えた。
男は僕を抱えて走り出した。
兄上が追おうとするが止められたようだ。兄上が一人で来たと見せかけて他の騎士達は隠れながら歩いて来たようだ。

ありがとうございます 兄上



獣道のような場所を走った先に壁があった。
多分国境の壁だろう。それを手で触れて探し当てた場所を押すと石扉のように動いた。

通り抜けると十数人の騎馬隊が待っていた。

「将軍、そちらは?」

「ベルゼアの兵士に襲われていた」

「連れて来てしまったのですか?」

「別の兵士が迫っていたからな。足に怪我をしていて自力では逃げられない。そのまま放置したらまた襲われただろう」

「平民ですかな?…それにしてはかなりの美少女ですね」

「叔母上の城へ戻るぞ」

僕を馬に乗せた後、男も馬に跨った。
横乗りは初めてだ。男が僕をしっかり抱きしめてくれるから落ちる心配はないだろうが怖い。だけど横乗りの方がアレが痛くない。


少しして休憩が入った。川の側で火を焚き始めた。

「名前は?」

「……」

本名を言ってもいいのだろうか

「俺が怖いのか?」

「レミです。助けていただきありがとうございました」

「俺はああいったことが大嫌いなんだ」

「……」

「血を洗い流そう。あっちの岩かげで洗い流してこい」

「は、はい」

だけど…

「そうか。歩けないな」

将軍は僕を抱き上げて岩かげに向かうと装備を全部外し下着一枚になった。そして一緒に川の中に入った。

「どうせ服も血塗れだからな」

僕は服を着たまま入った。

冷たい。寒気がする。

「俺が触るわけにはいかないから自分で濯いでくれ」

やっぱりこの人は僕が女だと思っている。

「レミ?」

駄目だ…意識が薄れていく…

「役立たずで…ごめんなさ…」



【 将軍アラン・ロプレストの視点 】

「レミ? レミ!?」

腕の中で少女が脱力した。
胸元を開けて頬を付けるとかなり冷え切っていることが分かった。唇も紫色だった。

「男!?」

胸の無い女だと思ったが、脱力したレミを支えるために股間に腕を通したら膨らみが当たった。

信じられない…全く分からなかった。
声は低い女程度だったし…細くて柔らかかったし。

「どうかしましたか」

部下が様子を見に来た。

「この子が意識を失った。急いで出発の準備をしてくれ。近くの医者のいる町に向かう!」

「すぐに荷物を纏めます」

部下を追い払い 川から上がって服を全部脱がせて俺の着替えを着せた。本当に付いていた。

ネックレスチェーンに通された指輪を見た。

「は!?」

内側には“レミ”と彫ってあり、それはベルゼアの王子が与えられる指輪だった。

確か、第四王子は養子で…レミ…。
美しい王子だとは聞いていたが女に見間違えるほど美少女的な美しさだとは思わなかった。
兄王子達に虐められ あまりいい扱いを受けていないと聞いたことがある。昔潜入させた間者は“全くの戦力外”と報告していた。
手には剣の練習をした痕があった。この身体ではあまり意味がないだろうに。

あんな下級兵士に犯されそうになる程ぞんざいに扱われているなんて…酷いことをする。

“役立たずで…ごめんなさ…”

好きで王子になったわけじゃないだろうに。
カトリーヌ妃は公爵家の次男と結婚していた。つまりこの子は公爵家の血筋。なのに夫が死別したからと男児を手放すなんて…公爵家でもこの子は居場所が無かったのかもしれない。


医者のいる町に到着し レミを診せた。
部下は立ち会わせなかった。

「低体温症です。急いで温めます」

「返り血を浴びたので川に入れてしまったんだ。あと、足首も捻っている」

「すぐには動かせません。彼を預かります」

「置いていけない」

「ですが危険な状態なのです」

「分かった。
先生、この子は女ということにして、口外しないでほしい」

「かしこまりました」

「この子を動かせるようになるまで俺もここに滞在させてもらいたい」

「では部屋を用意させます」

「いや、この子の側にいる」

「…ではそのように支度をさせましょう」

次は部下の番だな。
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