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「何故ですか?」

ラファエル兄上は僕を隣に座らせると説明を続けた。

「うちの国境のある領地で領民が襲われる事件が三度あって、生き残った被害者が、犯人達はオネスティアの方へ逃げて行ったと言うんだ。
オネスティアでも同じことが起こっていてうちのせいだと非難している。
2週間前には民家に押し入られて留守番をしていた10歳の息子は直ぐに殺され、13歳と8歳の娘が犯された。8歳の娘は最中に死亡、13歳の娘は2日間苦しんで死んだ。
買い物に出ていた母親に被害は無かった。だが長女が息を引き取ると首を吊った。 
父親は家の中に落ちていたバッジを拾い、仲間を扇動しているんだ」

「父親は何者ですか」

「国境の検問所の隊長だ」

「なるほど…」

「ディミトリーとベルトランを行かせて丸くおさめさせるようにと王命が出た」

「兄上達にできますか?」

「折衝は外交室の担当が行う」

「何だか嫌な予感がします」

「私もだ。開戦となれば最終的に私が出ていくことになる。
レミも17歳だ。王子は17歳になると戦地に赴き何かしらの役割を担う。レミを連れて行ったとしても前に出して戦わせたりすることはない。
開戦後に連れて行くより、今回の交渉に双子と一緒に行かせる方が安全なのだが、双子が信用できない。レミがついて行くことによって双子が余計なことをしかねないと判断した。
だから私が出陣するときに連れて行く。レミは私が守る。いいね?」

「はい、兄上」

「いい子だ」



数日後、第二王子ディミトリーと第三王子ベルトランはオネスティアとの国境に向けて出発した。



【 ディミトリーの視点 】

およそ300人の兵士と国交室のホルム副室長とキエヌ補佐官を連れてオネスティア王国との国境に向かった。

今まではラファエル兄上に私達のどちらかがついて行った。だから指示通りに動けば良かった。
だが今回は私とベルトランが戦争回避のために動かなくてはならない。

「ディミトリー、あれ」

国境のある領地に入るとディミトリーが国境方面の空を指差した。あちらこちらで煙が上がっていたのだ。

「ベルトラン、開戦してるぞ」

「っ!」

部下に警戒の笛を吹かせると、単なる移動のための行列から、戦闘の陣を取り、副室長と補佐を後方中央へ退がらせて守りの陣も組ませた。

「ベルトラン、いつでも剣を抜けるようにしておけ。近距離戦になる。味方や味方の馬を斬るなよ」

「わかってるよ」

此処で迷いが出てしまった。いくつも煙が立ち上る中に突っ込むべきなのか、それとも迂回して辺境伯の城に行き、辺境軍と合流できるようにするべきなのか。

「町民です!」

町民達が急いで纏めた荷物を背負って逃げていた。

「状況を知る者がいないか探せ」

だが、詳しいことは知らないで逃げてきた者ばかりだった。

「この者達は火の手が上がっている場所から離れた所に住んでいて、立ち上る煙が増えてきたのを見て自発的に逃げているそうです。
オネスティアと揉めていることは知っているので、攻めてきたと判断したようですが、見てはいないようです」

「ベルトラン、20名を連れて迂回して辺境伯の城へ行け。辺境伯と合流して我らがここから火の手が上がっている方角へ向かったと知らせてくれ。
タイミングが合えば挟みこめる。急げ」

「分かった」

「任せたぞ」

「第三隊一班ついて来い!」

ベルトランは騎士達を連れて迂回路へ向かった。

「よし!我らは戦火に飛び込むぞ!」

だけど、この判断が間違いの元だった。


煙の立ち上る町に着くと慌てて逃げ出している町民はいるが敵の姿がない。まだ国境から離れているからか。だが実際にあちらこちらで燃えているのだ。

「どうやら攻め込まれたというより放火といった感じで、火の手が無いはずの場所から出火しています。襲われたりして怪我をした者もおらず、盗みなどもないようです」

「第四隊は消火を手伝え。第三隊二班は町長を探せ」

しばらくして町長を探し出せた。

「町長、異常事態でいいのだよな?」

「はい、これまでこの様な事はございませんでした。
最初は火事だと思ったのですが次々と火の手が上がり、放火だと判断しました。
オネスティア兵などおりませんし、人への被害がありませんので、火に気を付けるように指示は出しましたが避難指示は出しておりません」

「怪しい者を見た者は?」

「今のところはおりません」


煙の色が変わり、収まってきた。鎮火に成功したようだ。

「町長、我らは辺境軍と合流するために移動する。
鎮火はしたみたいだが、再燃に気を付けてくれ。
出来るだけ水を汲み、瓶や桶に貯めて また火が出たときに備えるように。念のためだ。
今夜くらいは各家庭で寝ずの番を1人置くといい」

「ありがとうございました。お気を付けて」

町長は直ぐ戻って行った。


そして辺境伯の城へ到着したが、

「ベルトラン王子殿下ですか?いらしていませんが」

おかしい。大した迂回路ではないから、町で足を止めていた私達より早く着くはずだ。

「西側の迂回路からこちらに向かわせたのです」

「迎えを送りましょう」


その後は、互いに報告をし合い、オネスティアの工作員の仕業かもしれないと非常警戒を続けることに決めた。

「お疲れでしょう。少しお休みください」

「では少しだけ、」

「大変です!!」

辺境兵が大慌てで部屋に乱入した。

「どうした」

「西側の迂回路へ回った王宮騎士の一隊が全滅しておりました!ベルトラン王子殿下と思われる遺体も…」

「確かか」

「王宮騎士団の制服を着用しておりますし、馬の鞍にもその印が。そして、服の違う方が一人、髪は茶色。瞳の色は分かりません」

「分からない?」

「お顔の損傷が激しくて…右手に王子の指輪を確認しました。“ベルトラン”と彫ってありました」

この目で確かめなければ到底受け入れられない。
ベルトランが死んだなんて…。

「辺境伯、現場まで案内を借りたい」

「私も参ります」








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