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秘匿夜会
しおりを挟む年頃の俺にも息抜きが必要だった。
娼館に行こうかと執事ロバートに相談したら別の選択肢を教えてもらった。
馬車に揺られ夜の郊外へ。
林道に入り数分で目的地へ到着した。
館の窓を見ると暗い部屋、薄暗い部屋、明るい部屋と様々な客達がいることが分かる。
この館は秘匿夜会を行うために作られた建物で、一階は夜会、二階三階は客室になっている。
審査の必要な会員制。予約が必要だ。
「いらっしゃいませ」
玄関の前の警備に会員証を提示した。
「ようこそご主人様」
警備はドアを開けた。
一晩の参加人数は決められており、それ以上は会員だろうと受け付けない。
一夜過ごしたら二晩予約は出来ない。予約をすっぽかせば1ヶ月会員資格の停止という処分を受ける。
部屋に限りがあるからだ。
エントランスに入るとシンプルなドレスを着て仮面を付けたマダムが出迎えた。
「いらっしゃいませ。
仮面をお選びください」
マダムの助手が2色2種類の仮面を持ってきた。
ハーフマスクを選べばキスはお断り、アイマスクを選べばキスも歓迎。
赤い仮面は激しい情交、黒い仮面は一般的な情交を希望している意思表示だ。
俺は黒いハーフマスクを手に取った。
「今夜はお部屋をお使いですか?」
「そのつもりです、マダム」
「素敵な一夜となるよう祈っております」
「ありがとうございます」
客は彼女達に横柄な態度を取りがちだ。だが俺は敬意を払う。彼女がオーナーなのか雇われ店長なのか分からないが仕事を全うする彼女達をぞんざいに扱うなんてことはできない。
仮面を付けて会場に入ると酒を飲みながら相手を物色する者達と、一先ず踊って楽しむ者達で別れていた。
意外と赤い仮面を付けた女が多い。
年齢層は若い女から俺の母より歳上だと分かる女までいる。きっと夫に相手にしてもらえないか満足できないのだろう。
この館の果実酒は美味い。今夜は苺だった。
周囲の様子を見ながら飲んでいると、後ろのドアから女が入って来た。
彼女は青いハーフマスクを着けていた。
青はゲスト。審査を通った希望者本人が実際に参加して拒絶感の程度を見るための試験をしている証だ。
やっぱり不特定の相手と寝るのは嫌だと感じるかもしれない。黒の仮面を着けた者も赤い仮面を着けた者も、青い仮面を着けたゲストを誘うときは、いざ挿入というときにやっぱり止めたいと言う可能性があることを承知しなくてはならない。すぐに止めないと永久追放とペナルティを課せられる。
青のマスクの者が部屋を使うときには続き部屋で見張りが立つ。続き部屋へのドアは無い。
俺は発散しに来ただけだから青い仮面の彼女を無視して黒い仮面の女の物色を続けた。
コツン
青い仮面の女は私の横に並び立ちすくんでいた。
「あの、すみません。待っていれば声を掛けられるのですか」
近くには俺しかいない。仕方なく返事をした。
「…積極的に声を掛けた方がいいと思います」
何故なら彼女はとても若そうだし細かったが胸が貧しかった。それに青い仮面だからだ。
勇気を出したのか、誘いに行ったみたいだ。
興味本位で観察していたが三人目に声を掛けたところで戻って来た。
「あの、何故断られるのでしょう」
胸が足りないとは言えない。
「青い仮面のせいかもしれませんね」
「どうしてですか?」
「ここに来る客の目的はセックスで、恋人を探しに来たわけではありません。
つまり今夜目的が果たせなければまた数日後になってしまいます。
青い仮面のあなたを相手にして、部屋に行き準備を進めて興奮しきっているのに、土壇場であなたがノーと言えば無駄になります。
つまり男達は確実に目的を遂げたいのです。
ですが、中にはゲストを好む男もいます。諦めずに輪の中に入っては?」
「ありがとうございます」
彼女は歩き出したが、ピタッと止まり戻って来た。
「あの…」
「俺もそろそろ向こうで探さないと。失礼」
「待ってください」
「何ですか」
「貴方のお相手は私では駄目ですか?」
「……俺も目的を遂げたい男なので青い仮面は遠慮したい」
「お、お約束します。絶対に途中で止めてと言いません」
正直面倒だと思った。
「もう一回、輪の中に入ってみたらどうですか?」
「そんなこと言って、その隙に他の女性と消えるのでは?」
察しがいいな。
ふと彼女の手を見るとドレスを握りしめていた。
「分かりました。ダンスは踊りますか?」
「いえ」
「では部屋へ行きましょう」
彼女に腕を差し出すとそっと手を添えてきた。
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